《『経験値12000倍』のチートを持つ俺が、200億年修行した結果……》57話 命乞い

57話

気付いた時には、頬が切れていた。

魔人の腕が、俺の頬のすぐ橫にあって、

魔人の顔が、目と鼻の先にあった。

俺の顔を覗きこんで笑っている。

俺は強い。

最強ではないが、相當なレベルの強者だ。

だから、分かる。

こいつが立つ丘は、決して妄想なんかではなく、しかも、

俺には想像もできないほど高い丘だった。

俺は、自慢の剣をポトリと落とす。

失意で握力がなくなったのは初めてだ。

「グリムアーツ『ソニックフィスト無式』 大サービスで魅せてやった訳だが、どうだい、しでも観えたかな?」

魔人は嗤う。

心底イヤなヤツだと思った。

あんなもの、

見える訳がないだろう。

頬が切れて、が流れて、それが地に落ちてから、ようやく知覚できた。

そういうレベル。

「どうした? そんな、神を見るような眼で俺を見てきて」

「そこまでの想は抱いてねぇよ……」

ハルスは、拳をおさめると、サーバンに背を向けて、三歩前に進んだ。

そして、クルリとふりかえり、サーバンの顔を見て、

「さて、それじゃあ、本番を始めようか。ここからは、死闘の時間だ」

聲に重さをじた。

ズシンとのしかかってくる威圧

酷くピリついた空気の中で、サーバンは、

「ふふ……」

と、笑った。

「どうした、サーバン。何がおかしい?」

「全力で逃げだしたとして、俺は……何秒生きられる?」

「5人いれば、二秒は生きられる。それ以下なら一秒で全員殺せる。いい報を手にれたな。分裂するなら今だぞ。同じ存在値で5人以上になれるなら、二秒以上生きられる。お得な話じゃねぇか。なぁ?」

「は、はは……」

力なく笑ってから、サーバンは、アイテムボックスに手をのばす。

そして、一冊の書を取りだした。

分厚い赤のハードカバーで、

表紙に金糸でサーバンの名前が刻まれている。

それは、

「自己紹介が遅れたな。俺は……こういう者だ」

それは、栄譽の現。

この世界における、數ない、『選ばれた者』である事を証明してくれる勲章。

――冒険者の証。

『冒険の書』

「……だろうな。そうだと思っていたよ。頭も強さも、凡夫にしては、上等すぎる。冒険者になれる。ならば、冒険者にならない理由はない。……なんで、冒険者ともあろうものが、闇社會に沈んでんのか知らねぇが、まあ、人に歴史ありってヤツなんだろう。詮索はしねぇさ。興味もねぇ」

サーバンは、冒険の書をアイテムボックスに戻して、

「――俺は、これまでの人生で、絶対に勝てないと思った存在が一人だけいる。一度も會った事はないが、噂を聞いただけでも、絶対に勝てないと確信した相手。顔を見た事すらないのに、絶対に刃向うまいと心に決めた相手」

「聞くまでもないだろうが、一応聞いてやる。それは誰だ?」

「この國の第一王子。世界最強の冒険者。完された個。神に最も近い超人……すなわち、勇者だ」

「正解だぜ。……そいつには、誰も敵わない」

『毆り合いのタイマンなら、な』と、誰にも屆かない聲で、ボソっと、つけたした。

サーバンは、続けて、

「勇者以外が相手なら、俺は、どんな狀況からでも、逃げるくらいなら、絶対にできるという自信がある。そして、冒険者としての當り前のプライドも持っている。だから、俺は、仮に、『狀況悪し』と判斷して、撤退を考えたとしても、決して、びることなく、己の力だけを信じてく。疑うことなく、全力で、そして、確実に逃げ切る。決して、命乞いなどしない。絶対に……絶対……」

「で?」

「命だけは助けてくれ。まだ死ぬ訳にはいかない。だから、どうか、見逃してくれないか」

そう言いながら、サーバンは、落としてしまった魔剣を拾い、勇者の前に放り投げた。

プライドも、剣も、全て差し出す。

だから、許してくれと、命乞いをする。

「判斷力も合格だ。本當に、なんで、お前が、ヤクザなんざやってんのかねぇ」

言いながら、ハルスは、足下の炎流を見つめる。

改めてみると、凄まじい武

この世に存在する『全ての剣』の中でも、確実にトップ20には喰い込む一品。

ありえないが、仮に、これ以上の武を隠し持っていたとしても、

これを手放す事が大きな痛手になるのは間違いない。

サーバンは続ける。

「俺はスジ者だが、冒険者だ。……々と事があって、表ではけないが、ウラでの顔はそれなりに広い。使える人間だ。見逃す価値はある。――どうだ」

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