《『経験値12000倍』のチートを持つ俺が、200億年修行した結果……》60話 二人旅

60話

「ぁ……あの……」

サーバンの姿が見えなくなってから、セイラが、

「ぁたし……わたしぃ……」

ボロボロと泣きながら、ハルスの腰にしがみついてきて、

「ぁりがとう……ありがっ……た、助けてくれて……ありがとぉ……っ」

「脳がねぇのか、この生は」

「誰も……今まで……」

「あん?」

「誰も助けてくれなかった……たすけてって……たくさん、さけんだのに……おねえちゃんを……わたしを……だれも……わたし、わたし……」

「言いたい事があるなら、最低限、まとめて喋れ。お前はアレか? 俺を怒らせる選手権、決勝出場者か? 今大會における仕上がり合についてインタビューできるほど、今の俺に余裕はねぇぞ」

「ありがとう……うぁあああ……あり、がっ……うあぁあああ」

自分にしがみついて、ワンワンと泣き出したセイラを見下ろして、

ハルスは、天を仰ぎ、右手で顔を隠し、

「……ドン引きだぜぇ。これから、この莫大な負債を抱えて生きていくのか……あまりの途方のなさに、目眩めまいがとまらねぇ」

「ありっ、がと……うわぁあああああああ―――――っ」

やかましいセイラの口を、強引に手でふさぐ。

右手でセイラの後頭部を摑み、左手で、しっかりと口を閉じ込める。

「お前が、俺の殺意を稼ぐ天才だってのは、もう充分わかったから、流石に、もう黙れ」

「――むっ――ぅ」

「今後、お前を守ってやる。共に生き、ありとあらゆる外敵から全力で守ってやる」

「っ!」

ハルスの言葉に、セイラは顔をカァアアアと真っ赤にして、目をクゥゥっと見開いた。

「いいか、これは契約だ。絶対に守ってやる。だから、頼むから、俺をイラつかせるな。謝するな、泣くな、わめくな。分かったら、頷け」

まだポロポロと涙を流しているが、セイラは、コクっと頷いた。

「契約を無視したら、俺はお前の前から消える。いいな? 手を放すぞ。その下水を下回る汚ぇ水が止まっていなかったら、わかっているな?」

手を放すと、セイラは、目と口をギュっと閉じて、自分のフトモモを必死につねっていた。

どうにか、抑えようとしているが、

ぽろ、ぽろ、

と、一瞬だけ、涙袋に水玉をつくってから、ゆっくりと垂れる。

聲も、わずかにこぼれてきている。

(まさか、この俺に、ガキのお守をする日がくるとは……神を鍛える修行とでも思わねぇとやってられねぇなぁ)

深く長いため息をついたところで、

キュ~

と腹のなる音がした。

セイラが、バっとお腹を抑える。

さきほどとは質の違う、真っ赤な顔で俯いた。

不思議と、涙が引いた。

「はわ、はわわ……ちがっ……これ――」

セイラのなど無視して、ハルスは、

「腹か……減ったな、俺も……」

言いながら、最初の一歩を踏み出した。

「まず、どっかでメシを食って、食糧を買って、それから……グロラリアのダンジョンでも行くか。ガキの裝備、どうすっかなぁ……こいつのサイズに合う裝備ってなれば、最適化の魔法がかかった魔道しかねぇ……持ってねぇんだよなぁ……ぁあ、めんどうくせぇ。もういいか、裝備なしでも。俺の『壁ランク5』を壊せるヤツなんざ、そうそういねぇし、仮に、そんなヤツに攻撃されたら、そこそこの裝備品をにつけていても意味ねぇ」

ブツブツ言いながら、路地裏を進んでいくハルスの背中を、

「っっ――ま……まっ……てっ」

慌てて追いかけるセイラ。

勇者ハルスあらため、魔人ハルス、

人生初めての二人旅スタート。

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