《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第7話 〜サラン団長〜
目が合った、黒裝束の年が気配を消してどこかへ行くのを、私はじっと見ていた。
どうやら彼の仲間達も彼のことに気づいていないらしく、目の前を通り過ぎても目で追うことはない。
私も、片方の瞳でしか見えていない。
たまたま目が合っただけなのだが、面白そうな年である。
「ジール君、ちょっとここは任せましたよ。訓練容は私たちがしているものの五分の一でいいでしょう」
「え、ちょっと団長!?」
副団長のジール君に全てを投げて、私は年のあとを追う。
そのうちジール君はストレスで禿げるかもしれませんね。
まあ、禿げたら休暇をあげましょうか。
さて、私の勘が正しければ、彼は気配隠蔽のスキルレベルが高いだけで気配察知のスキルレベルはあまり高くないはずだ。
最も、気配隠蔽のスキルレベルが高すぎて、それだけで無敵狀態なのだが……。
「やぁ、どこへ行くつもりだい?」
前方に回り込んで姿を現すと、年は驚いて足を止めた。
その瞳には強い警戒のが浮かんでいる。
なるほど、この子は彼らと違うところはここかな。
「……驚いたな。あんた、俺の姿が見えるのか?」
心底驚いたという表の彼に年相応の反応が見えて、しホッとした。
この年だけやけに大人びていたから、これでスルーされたらどうしようかと思っていたのだ。
「恐らく気づいたのは私だけだよ。私はしばかり特殊な目を持っていてね」
トンッと右目を指す。
私の右目は、年の姿をハッキリと捉えていた。
年は観念したように両手をあげる。
「なるほどね、この世界には魔眼持ちがいる訳だ。……えーっと、サラン団長だっけ?煮るなり焼くなり好きにしていいよ」
私はし驚いた。
魔眼のことを知っている者が居るとは思わなかったからだ。
いや、彼らの世界には魔法がないと聞いた。
では何故魔眼のことを知っているのだろうか。
私の魔眼は、昔魔王と戦って傷ついた右目が進化したものなのだが、普通の人には、左目には映さないとものを映すようになった。
それが、の溫の変化をとして見ているのだと気づいたのは、訓練をする前とした後で団員のが、かなり変わったからだっただろうか。
訓練が始まる前は青系統だった団員達のが、訓練が始まって溫が上がっていくのと同じくが赤系統に変わっていくのだ。
他の、先天的な魔眼持ちは遙か彼方までを見通したり、の価値をとで判別する者もいる。
私の魔眼は地味な方だろう。
まあこれでも隠系のを隠すスキルは大見破れる。
魔眼はエクストラスキル扱いとなっていて、普通のスキルなら大丈夫だ。
たとえ暗殺者であろうとを隠すのは普通のスキルだろうから彼も例にれなかったらしい。
「煮て焼くなんて騒ですねぇ。もうちょっと穏やかな話をしましょうよ」
この年はとても興味深い。
私の魔眼の反則技はともかく、訓練を積んだ団員達の目を掻い潛る、ごく自然なスキル起技は目を見張るものがある。
魔法のない世界から來て、誰からも教えられていない狀態にも関わらずだ。
とにかく、彼とはこれからも縁がありそうだ。
仲良くしていて損は無いだろう。
「どこに行くつもりだったんですか?別に訓練に戻れとは言わないから、言ってごらん?」
仕草通り、すっかり観念したのか、年は素直に答えてくれた。
どうやら、蔵書室に行きたかったらしい。
確か、勇者達は出り止にされているんだったか。
王様達も酷なことをする。
この子達に今最も大切なものは報だろうに。
「何を知りたいんです?」
聞くと、この世界の常識が知りたいそうだ。
私は笑みを深くした。
なるほど、確かに彼らは違う世界から連れてこられた異端者。
この世界のことについては全くの無知と言っていい。
知りたくなるのも必然だろう。
むしろ、蔵書室出り止令を素直にけ取った他の者達がおかしい。
やはり、この子は他の子とどこが違う。
「ふむ……。君、気配隠蔽のスキルレベルはいくつだい?」
「MAX。最高のスキルレベルがいくつなのかは知らないが、ステータスにはMAXとかいてある」
MAXか。
スキルレベルの上限はLv.10。
それ以上はMAXと表示され、どれほど上がっているのかも、そもそも、上達しているのかも分からない。
私でさえ、戦闘系のスキル、剣がLv.9で最高なのだ。
スキルレベルをMAXまで至らせたのは私が知っている中でも二人目だ。
「他のスキルは?」
「……大がLv.1。向こうの世界で出番の無かったスキルだよ」
向こうの世界のことも是非とも聞きたいが、その前にまず確認する事がある。
「君、職業は暗殺者でしょう?暗殺は習得していないのですか?」
「あるっちゃあるが、どうやってスキルレベルを上げれば良いのか分からない」
「……良ければ、私が教えてあげましょう」
年は私の善意に心底嫌そうな顔をした。
いい判斷だ。
知らない土地ではタダほど高い商売はない。
……と、知り合いの商人が言っていた。
「君は蔵書室にりたいそうだが、あの部屋には大した本はないよ。魔法やこの世界、スキルの事について書いてある本が置かれているのは王様の書斎だけですし」
「……ああ、あそこか。ならば尚更問題ない。忍び込めばいい」
「ちなみに、そこにも常識が書かれてある本はないですね」
私がそう言うと、年はさして殘念そうにも見えない顔でそうかと言った。
そもそも、常識など書かれた本はない。
常識とは赤ん坊の頃からしずつ教えてもらうものであり、読んで理解するものではないからだ。
「……はぁ。見返りは?」
「理解力があって何よりですよ。見返りは、君たちがいた世界のことを教えてしい。これでも私は知識に飢えていましてね。昔から家の中にある本を片っ端から読んだりしていたんです」
「分かった」
渉立の証に、年と握手をする。
そのまま私はブンブンと手を振った。
年は想像通り、心底嫌そうな顔でしかし手は離さない。
しばらくブンブンと遊んで、年がそろそろ怒りそうなところでやめた。
他人の顔を伺うのはとても得意だ。
「そう言えば、暗殺のスキルレベルを上げるとどうなんだ?」
「私の目にも捉えられないように溫を調節したり、気配だけじゃなくて足音に足跡、とりあえず自分の痕跡を全て消し去る事ができるらしいですよ」
「へえ、じゃあ一刻も早くあんたに察知されないように頑張って上げよ」
ボソッと呟く年に、私は微笑んだ。
実は、剣士や魔法師よりも怖いのが暗殺者である。
いつ殺されるかも分からないし、プロになると相手に死んだ事を悟らせないことも出來るという。
ある意味最強なのだ。
勇者などは真っ向からぶつかってはいけないが、暗殺者はむしろ真っ向からぶつからないといけない。
もし、もし彼があの王様や王の本を知ったのなら、託してもいいかもしれない。
私がずっと考えている、この國をより良くする方法を。
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