《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第30話 〜家族〜

『……お兄ちゃん、どこにいるの?早く帰ってきて。お願い!もうわがままも言わないし、家のお手伝いもするから!!』

『……まったく、あの人といい、私の周りの男はみんな消えちゃうんだから……ゲホッゲホッ!』

妹と母が心配そうに俺のことを探していた。

顔を見るのも隨分と久しぶりだ。

母の顔はまた更にやつれただろうか。

……ああ、帰りたい。

帰りたい。

帰るためなら、俺は手段を選ばない。

「………夢か。隨分とリアリティのある夢だったな」

「……あ!アキラ、起きた?ご飯、まだ?」

すぐ隣から聞こえるゆるい聲に、俺は思わず半眼になった。

起き上がると、アメリアがお腹を抑えて恨めしげにこちらを見ている。

「お前はシリアスクラッシャーか?」

「しりある?味しそうね」

こいつにシリアスを求めた俺が馬鹿だったよ。

俺はサラン団長が用意してくれたパンと、予備としてとっておいたを包んでいる布を取り出した。

「……アキラ、魘されてた。悪い夢でも見た?」

「いや、むしろ幸せな夢だった」

母と妹の姿を思い浮かべて、首を振った。

一ヶ月も帰っていないのだ。

ホームシックにもなる。

「そう。向こうの世界に置いてきた家族の夢でも見たの?」

「ああ」

パンをし炙り、を焼く。

アメリアは口の端からじゅるりと涎を垂らす。

……まだ生なんだが。

俺、異世界から來たことを言っただろうか。

「世界眼を使えば何でもわかる。アキラが夜、何をオカズにしていたかも……」

「おい!下らないことで目を使うなよ!」

「下らない?アキラとの距離をめるのに必要なこと」

パンにびる手を叩き落とし、をひっくり返した。

の匂いに釣られて魔が現れる。

豚の様な顔をした二足歩行の何かだ。

レベルは五十二か。

アメリアが立ち上がろうとするのを抑えて、俺は無造作に暗を投擲した。

「……アキラ、ゲット」

「そいつは味くないぞ」

「そう。食べれないは消滅するべし」

アメリアは重力魔法で魔の死骸を押しつぶした。

魔法の無駄使いだ。

魔力が無限に近い位あれば普通の行為なんだろうか。

ちゃんと暗を避けているあたり、一応は考えて行しているらしい。

でも、朝からスプラッタかよ。

まあもう慣れたが、流石に臭いがキツイな。

「……そいつを遠くに捨ることができた人には、より大きい方のをやろう」

「行ってくる」

ちょろい。

「いただきます」

「……それなに?」

「ああ、この世界には食べ謝するっていう習慣がないんだったか」

エルフ族は知識に対する執著が凄いという。

こいつが俺といるのもそういう理由からかもしれないな。

俺は食べながら日本のことを教えた。

思いのほか食いついてくる。

もちろん食べながらだが。

「神が八百萬もいるの?」

「一応、全ての萬に神が宿っていると考えられているんだよ」

そう言えば、サラン団長ともこんな話したな。

まだ數週間まえの事なのに、妙に懐かしい。

勇者はちゃんとやっているだろうか。

クラスメイト達の呪いは解けたのだろうか。

「……アキラ、アキラの家族の話、聞きたい」

「まあいいか。家は、病弱な母さんと妹が一人いる。母さんの名前は紫ゆかり。妹の名前は唯ゆいで、一個下だ」

「父親は?」

……父親。

俺は、小さい頃に一度見た広い背中を思い出して、歯をきしませた。

「俺が小六の時に失蹤した。病弱な母さんと子供の俺たちを抱えきれずに逃げ出したんだよ」

「……そう 」

それ以來、母さんは家で職を、俺は學校に緒でバイトをかけ持ちをしてどうにかこうにか家計を繋いできた。

唯だって、部活にりたかっただろうが、それを我慢してバイトをしてくれている。

食事を含め、家事は全部俺がやっていた。

ちゃんと食べれているだろうか。

俺が帰る前に、食中毒や栄養失調で家族が死んでいたらシャレにならない。

「……私も妹いるよ」

「へえ、意外だ。お前姉だったのか」

「うん。私なんかよりずっと綺麗で、何でもできて、完璧な妹」

「へぇ……」

雲行きが怪しくなってきた。

俺はじっとアメリアの赤い瞳を見つめる。

を前にするとキラキラと輝く赤も、今はくすんでいる。

「私、何も出來ないから。家事も、何でも。妹は一度見たら何でもできる」

「その妹は、が好きだったりするのか?」

「ううん。何でも食べる。スキルも、私より多いし強いし……なんで?」

やっと読めてきたような気がする。

要は、出來損ないの姉と優秀な妹がいて、親に優秀な妹だけが優遇されているってことか。

いつもいつも姉は妹と比べられて、卑屈な格になるっていうやつだな。

俺と妹はそんなことなかったな。

まあ、別の意味で特殊な家だったから、母親がそんなこと絶対に許さなかったし。

「場を和ませようとしたんだよ。とにかく、俺は“完璧”と言う言葉が嫌いだ」

アメリアが、下を向いていた顔を上げた。

「完璧ってことはこれ以上にはなれないってことだからな。人間、欠點を持っていた方が長するし、面白くともある。エルフであっても一緒だろ?……だから、もしその妹が完璧というやつなら、俺はそいつが嫌いだ」

同じ理由で、勇者も嫌いだ。

確かに欠點も多いが、それを完璧で覆い隠している。

だから俺の知る勇者は完璧の上で胡坐をかいていた。

凡人からすると、面白くともなんともない。

「……そう。じゃあ、アキラに妹は會わせられないね」

「こちらから願い下げだ。……それより、食ったら迷宮探索開始するぞ」

めるのとかは専門外な上に苦手なんだよ。

俺はアメリアの頭をでて、立ち上がった。

“夜刀神”を整備しておかないとな。

「…なんでありがと」

だから、本當に小さな謝の言葉など聞こえていない。

ないったらない。

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