《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第39話 〜夜〜
 
「次の階層に行く階段がない。」
「・・・・・・は?」
ひとしきりブラックキャットをもふもふして満足した後、次の階層に進もうとした時にアメリアがそう言った。
俺は目を細めてボス部屋をぐるっと見回す。
殺風景な大きな部屋に、扉が一つ。
その扉はる時に使用した扉だ。
しかも、こちらからは開くことができない。
確かに、これまであったはずの下へ向かう階段がなかった。
『もしかしなくても、俺のせいだろうな。』
ブラックキャットはを震わせて大きな欠をした後、そう呟いた。
二人分の冷たい視線が突き刺さる。
その視線は、どういうことかきちんと説明しろと言っていた。
『ボス部屋なのだから、ボスであった俺が生きていることを迷宮が許すはずもない。』
自嘲気味にふっと笑い、ブラックキャットは靜かにその金の瞳を伏せた。
『だから殺せと言ったのだ。ここで死したいのか?やはり、魔族以外の種族と魔は相容れぬものなのだ。』
悲しそうに呟くブラックキャットに俺は地面を見て解決策を考えた。
このまま引き下がるのは癪だ。
「確かに、お前を殺すことが一番簡単だろうな。」
「でも、諦めるのはまだ早い。」
アメリアの聲に、俺とブラックキャットは顔を上げる。
アメリアはじっとブラックキャットを見つめた。
金と赤が差する。
『手があると言うのか?』
「・・・・・・アキラが名前を付ければいい。」
「名前?」
名前をつけることにどんな意味があるというのだろうか。
首を傾げる俺を他所に、アメリアとブラックキャットは頷きあっている。
『なるほど、それならば俺はここのボスではなくなり、この部屋から出られるというわけなのだな!』
「きっとうまくいく。それに、変で小さくなれば、見た目はただの黒貓。人前に出ても誰も不思議に思わない。」
『なるほどなるほど、では早速そこの男!俺に名前を付けろ!』
「まてまて、ちゃんと説明しろよ。」
今にも飛びかかってきそうなブラックキャットに、俺は慌てた。
一応、ブラックキャットはドラゴンよりも小さいが、俺達よりは大きい。
け止められる自信はあるが、迫力が凄いのだ。
『お前が俺の主となれば良いのだ。』
「省略しすぎだ。」
確かに俺がどこからか來たのかは言っていないが、今の説明では普通の人も分からないだろう。
興して話にならないブラックキャットをおいて、俺はアメリアの方を向いた。
アメリアもし興しているのか、頬がし赤くなっていた。
だが、ブラックキャットよりはましだ。
「魔をれるのは魔族だけ。でも、數百年に一度は魔と繋がりを持ってしまう人がいるの。私が生まれるよりも、もっとも前からあることだけど。」
アメリアはそこで一息ついた。
「魔に名前を付けることを考え出したのは初代勇者様。名前をつけることで、人と魔の間に本當の意味での繋がりを持たせた。」
また、初代勇者の名が出てきた。
この初代勇者だけ、ずっと前の人のはずなのに、やけに々と殘っているな。
「本當の意味での繋がりとは何だ。」
「まず、名付けた者は魔がどこに行ってもその位置を特定することが出來る。」
ほう、確かに便利だな。
はぐれることがなくなる。
だが、逆に魔の自由がなくなることを意味しているんじゃ・・・。
「あとは、二人共『念話』という魔法を覚える。」
「それって、口に出さなくても會話ができるやつか?」
「私は使ったことないけど、多分それ。」
かなり大盤振る舞いだな。
ブラックキャットは話すことが出來るからいいが、普通の魔は話すことができない。
そのための措置だろう。
と言うか、なんでこいつは喋れるんだ?
「繋がりはお互いの合意なしにできない。脅迫して無理やりするのもダメ。」
『だが、一度繋がると両者合意のもと繋がりを切らなければ死ぬ時までずっと一緒だ。』
「・・・・・・死ぬ時まで?」
そうだとブラックキャットは頷く。
心做しか、その顔がにやけているようにじた。
「繋がりを持った狀態でどちらか一方が死ぬと、もう一方も死ぬ。そういう契約。」
「そりゃ凄いな。」
一生分の傷跡が殘るとか、ずっと痛みが続くよりは斷然マシだ。
俺は、死ぬより痛みの方が嫌だな。
アメリアの心配そうな視線をじたが、俺は平気だ。
確かに死ぬのは怖いがアメリアがそばにいてくれる限り、俺が死ぬことは有り得ないからな。
『・・・普通の人は、今の説明を聞くと怯んだりやめたりするものだが・・・。本當に人か?』
「いや、もう俺は立派な化けや怪の域にってるよ。」
『そうでないともう一度勝負を挑むところだ。』
くつくつとの奧で笑うブラックキャットに、俺は笑みを返した。
そして、同時に表を引き締める。
「じゃあ、手を重ねて。」
アメリアの聲に、俺はまだくことができないブラックキャットの前まで行って、その大きな前足に自分の手を重ねた。
「アキラ、名前を。」
俺は頷いて、その金の目と目を合わせた。
言うべきセリフは、何となくわかる気がする。
「俺の名前は織田晶。お前の主となる者だ。お前に名前を授けよう。」
『新たなる主、オダアキラ。俺はお前と共に、どこまでも行くぞ。どちらかが死ぬ、その時までずっと一緒だ。』
「お前の名前は・・・夜よる。そのしい、夜空のようなにちなんで名付けた。」
『ヨル・・・良い名だ。今より俺の名はヨルとなり、お前に仕えることを誓おう。』
「よろしくな、夜。」
俺達を白いが包み込み、暖かく包み込んだ。
俺と夜の間に目に見えない何かが繋がったのをじる。
これが繋がりと言うやつか。
アメリアが一歩前に出て俺の上から手を重ねた。
白いはいつの間にか消えている。
「私からもよろしく、ヨル。」
「こちらこそ、頼んだぞアメリア嬢。」
「うん。その額の紋章も、似合ってる。アキラも、その腕の紋章素敵。」
アメリアの言葉に、視線を自分の腕に移してギョッとした。
両腕に黒い紋章が刻まれている。
そして、それと同じ柄の白い紋章が夜の額にもあった。
「それは繋がりの唯一目に見える証のようなもの。」
『これで晴れて一緒に行けるな、主殿。』
「お前の主は魔王だろうが。」
『第二の主と言うやつだ。細かいことは気にするな。』
大雑把だなぁ。
部屋の隅に視線を移すと、今までなかった魔法陣が青くっていた。
どこか、こちらの世界に來る原因となったあの魔法陣と似ているような気がする。
「お前の予測通り、次へ続く道が開いたな。」
「でも、まだヨルがけない。」
『変は大量の魔力を使う上に死にはしないが、致命傷を負うと二、三日はけなくなる。』
致命傷を負わせたのは俺だけどな。
俺はとりあえず非常用に持っていた食料を広げた。
「ここは安全地帯だ。ゆっくりして行こうぜ。その間、俺の話を聞いてくれよ。」
「うん、私の話も。」
たくさん話せば、それだけ仲良くなれるはずだ。
きっとな。
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