《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第41話 〜森の中〜
結局ボス部屋で一泊した俺達はようやく魔法陣の前に立った。
夜も、この魔法陣がどこへ行くためのものなのか、知らないらしい。
ただ、この迷宮が剣の修行に向かないと知った今、この迷宮に居続ける理由もない。
八十層というキリがいいのか悪いのか分からないような所で終わるのは、納得がいかないが、まあ仕方がないだろう。
どこへ向かうのか分からないがまあどこへでも行ってやる。
変で子貓サイズとなった夜が俺の肩にのり、アメリアはしっかりと俺の手を握る。
もし離れ離れになったら、俺と夜は互いの場所が分かるが、アメリアは分からない。
どこへ行ってもアメリアのことを見つけ出す自信はあるが、用心に越したことはないだろう。
「準備はいいか?」
「大丈夫。」
『いつでも良いぞ。』
左からはわくわくしているような弾んだ聲が、耳元からは渋めの聲が響く。
一人でも平気だが、こういう時に返事があるっていうのも、案外悪くないものだ。
「よし、出発!」
俺達は青く輝く魔法陣に足を踏みれる。
魔法陣は輝きを増し、目を開けてられないくらい強くった。
反的に目を閉じると、足が地面から浮き、しの浮遊が襲ってきた後で再びどこかの地面に著地する。
こちらの世界に召喚された時も確かこんなじだった。
違う點があるとすれば、目を開けると前回は建の中だったが今回は森の中に出た事だろうか。
「⋯ここはどこだ?」
「⋯⋯!?」
『アメリア嬢?』
し周りを見渡して、とりあえず木しかないことを確認していると、アメリアが突然何かを見つけたように顔を顰めた。
夜が訝しげにアメリアの名前を呼ぶ。
ポーカーフェイスというか、無表というか、いつも表をあまり変えないアメリアが珍しく揺していた。
ある一點で目が固定されている。
その目線を辿ると、木々の隙間から、一際大きな⋯と言うか、有り得ないほど巨大な木が見えた。
遠近が狂いそうなほど巨大なその木は薄くっており、まだ葉すら出ていない幹の途中に雲がかかっている。
かなり離れているであろうに、全を視界に収めることができない。
想像を絶する大きさだ。
一樹齢何億年なのだろうか。
夜もその木に気づき、理由はきっと別だが、同じように顔を顰めた。
そして、低くく。
『神聖樹⋯エルフ族の領土か。』
「神聖樹ってあの木がか?」
「そう。あれこそ、エルフ族の誇り。何に変えても守るべきもの。」
言葉とは裏腹に、忌々しそうにその木を見つめるアメリア。
俺は何かを言いかけて口を噤んだ。
自分でも何が言いたかったのかはよく分からない。
だが、神聖樹とアメリアとの間に何かをじたのは確かだ。
そして、俺はアメリアを地面に押し倒した。
「!?」
「あっぶねぇな。」
『良い反応だ、主殿。』
夜が呑気な聲を上げる。
それを黙殺し、アメリアが赤面しているのを橫目で見ながら、俺はし離れた地面に突き刺さった矢を抜いた。
鏃がし濡れており、毒が塗られているのが分かる。
暗殺者として、王城の蔵書室にあった毒の図鑑のようなものは全て読破し、完全に頭の中にっているのだが、その毒が何の毒かは分からなかった。
きっとエルフ族が獨自に作っている毒なのだろう。
し遅れてアメリアが、俺が手に持っている矢と鏃の毒に気づく。
「それは⋯。」
「ぴったりお前のを狙って飛んできた。お前って一応は王族だったよな?そうは見えないけど。」
危ないので矢を影魔法に喰わせて、周りを警戒しつつ空気を和らげるように俺が言うと、アメリアは虛ろな瞳で俺を見返し、笑った。
「私は嫌われ者。私の居場所はここにはない。」
その表を見て、がズキリと痛んだ。
最近やっと笑顔が増えてきたのに、一気に出會ったばかりの頃に戻った気がする。
そしてそれは、気の所為ではないだろう。
「⋯なら、こっちが反撃してもお前の名譽が傷つく訳じゃないって事だよな?」
俺はニヤリと笑って暗を仕舞う場所から小さな魔石を取り出した。
重さを確かめてから、矢が飛んできた方向に軽く放る。
まあ、放ると言っても俺の覚であって、実際はかなりのスピードで飛んでいくのだが。
しして、魔石が何かに命中した音と、その何かが木の上から落下した鈍い音が立て続けに響いた。
俺は気配隠蔽と暗殺のスキルを併用してその何かに近づく。
夜にアメリアの事を念話で頼んだのであちらは大丈夫だろう。
俺は木が集していて刀が振りにくいため、數ない暗のうちの一つを取り出した。
し離れた所で逃走しようとしていたエルフの男に音もなく忍び寄り、その首筋にそれを突きつける。
「なっ!?」
「くな。けばお前の首がと永遠におさらばする事になるぞ。」
逃げようとをよじるエルフの男の耳元でそう囁けば、ピタリときが止まる。
今の得では、刃渡り的に首を刎ねることなど出來ないのだが、恐怖のせいで男にそんな判斷能力は殘っていなかった。
男の戦意がなくなったところで、夜に念話を送り、しして夜に案されたアメリアが現れる。
アメリアを見た瞬間に、きはしなかったものの男の殺気が膨れ上がったのをじた。
アメリアはその殺気を真正面からけ止めて、し悲しそうな顔をする。
「⋯リアム・グラジオラス。」
「アメリア・ローズクォーツ。よくも神聖樹の前に再び姿を現せたな。」
どうやら知り合いだったらしい。
俺が元の暗を強く押し當てると、ようやく男はアメリアに向けていた殺気をしまった。
「もうじきここにキリカ様をはじめとするエルフ族鋭達が集まる!このに與する貴様もここで終いっ!!!?」
とりあえず、うるさいので男を気絶させた。
人質になるかもしれないので殺しはしない。
そもそも、喋るのを許可した覚えはなかったので殺しても良かったのだが。
俺はかなり遠くからすごいスピードで近づいてくる気配に眉を顰め、夜を見下ろす。
「夜、でかくなって俺達を乗せろ。」
『主殿は貓使いが荒いな。⋯まあ、アメリア嬢の一大事とあらば仕方あるまい。このスキルも、そうホイホイ使えるものではないのだが。』
ぶつくさと言いながらも、夜は木々の間を通り抜けられるかつ三人乗せることが出來る大きさに変し、屈んだ。
俺は夜の背中に男を暴に押し上げ、自分もる。
そしてじっと何かを考えているアメリアに手を差し出した。
「何してんだ、逃げるぞ。」
「森の中でエルフ族から逃げるなんて不可能。いつか捕まる。キャッ!?」
首を振るアメリアに、俺はイライラして強引に抱き上げた。
アメリアは可らしい悲鳴を上げて俺の首にしがみつく。
本來の夜の大きさよりは小さいと言っても、かなりの高さだ。
驚いたのだろう。
こんな時に考えることではないかもしれないが、橫抱きのため、著度が半端ない。
つまり、々と凄いのだ。
「逃げねぇよ。ここじゃあ刀が振りにくいから広い場所に移するだけだ。アメリア、案しろ。自分とこの領土くらい道案できるだろ?」
「⋯でも、」
「いいから、案しろ。広い場所にさえ出られたら俺がなんとかする。」
言い募るアメリアに、俺はそう命令した。
アメリアは今にも泣きそうに顔をくしゃっと歪めて、神聖樹の方向を指し示した。
「あっちに、神聖樹関連の祭りを行う時に使われる大きな広場がある。」
「夜。」
『分かっておるわ。』
夜は立ち上がり、アメリアが指した方向に弾丸のように飛び出す。
そのスピードは、後ろから追ってきている気配たちに負けずとも劣らない。
まあ、こちらはしがみつくことと男を支えることで一杯なのだが。
『主殿、もうしで広い場所に出るぞ。』
鼻をひくつかせながら、走り出して十分後くらいに夜がそう言った。
「⋯ああ、分かった。」
俺は背中にある刀の柄をし握る。
例えエルフ族がアメリアを憎んでいても、俺だけはアメリアの味方だよ。
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