《裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚》357話

まだ日が昇り始めたばかりの薄暗い森の中で、セリナとラスケルが互いに雙剣を構えて向かい合っている。

早朝に戦闘訓練にちょうどいい場所に移し、朝食前にセリナとラスケル戦と俺とカリンパーティー戦を1回は出來そうということで、最初に戦う2人が距離をあけて向かい合い、他は離れたところで観戦し、審判を任された俺だけしセリナたちに近い位置に立っている。

ここに移する途中で獣人族のの試練とやらがなんなのかをセリナに聞いたんだが、基本は普通の模擬戦らしい。ただ、求される側が戦闘できるとは限らないから代理を立てることがあるんだが、求ける気がある場合は弱い代理を立てたり、本人が戦う場合でも明らかに手加減したりするらしい。そもそも何がなんでも嫌ならの試練を申し込まれた時に斷るから、れた時點で多は脈があるってことらしい。つまりセリナも嫌ではなかったんだろうな。それなのにボコる気満々なのが意味わからんけど。

対戦するのが代理じゃなく求けた本人の場合、申し込んだ側は相手に傷を與えることなく勝利して強さを見せつけるらしいんだが、その説明を聞いただけでラスケルが可哀想になった。

圧倒的な力量差を見せつけて勝つ予定の相手から完全なる敗北を味わうことになるとか…どんまい。

「準備はいいか?」

「「はい。」」

返事を聞いてあらためて2人を見た。

構え方に若干の違いはあるが、2人ともし長めの短剣の二刀流だ。これはどう考えてもラスケルはセリナの影響をけて練習したんだろう。俺が大剣以外も使えるようになった方がいいっていったときは頑なに拒否ってたクセに……いやまぁいいんだけどさ。

大剣じゃセリナのきに全く反応できずに終わるだろうけど、これなら多は耐えられるかもな。

「始め。」

俺が聲をかけると2人が互いに距離を詰めた。

しセリナの方が速いが、ラスケルに合わせているのか全く本気の速度ではない。

いつもならセリナだけで一瞬で詰められる距離を互いに近づいてるのに1秒以上かかるとか、もしかして手加減してるのか?と思ったところで、ラスケルが左の短剣を自の前、やや右寄りの位置に引き寄せた。たぶん外に払うように左手で攻撃後に右手で追撃とか考えていたんだろうが、左手を正面に寄せたせいで左側が空いた。その瞬間、急加速したセリナがラスケルの懐にった。

急に距離を詰められたラスケルは視線がわずかにいたっぽいが全く反応できず、勢いを乗せたセリナの右フックを左脇腹にモロにくらって吹っ飛んだ。

毆って終わりにするつもりがないらしいセリナは勢を即座に戻しながら加速してラスケルを追い、まだ宙に浮いているラスケルの右肩に踵落としをして地面に叩きつけた。

白目を剝いて泡を吹いて仰向けに倒れているラスケルにセリナは歩いて近づき、右足で押さえつけるようにを踏みつけ、屈みながら短剣をクロスしてラスケルの首に添えた。

思った以上に手加減なしだったんだが、殺してねぇよな?

さっきの踵落としはセリナの全重を乗せたとかいうレベルじゃない威力だったし、そんな威力で叩きつけられたラスケルは地面にしめり込んでるっぽいんだが大丈夫なのか?

まぁセリナが慌ててないから生きてはいるんだろうけど。

そういやカリンですら子どもに石で毆られても痛くなかったとかいってたな。じゃあ、カリンより強くなってるラスケルならこのくらいは問題ないか。一応代わりの加護付きの指も渡してあるしな。

「そこまでだ。」

俺が聲をかけたことでセリナは立ち上がって短剣をしまい、俺に近づいてきた。

「どうだった?」

ニコッと笑いながらセリナが質問してきたが、どう見てもやり過ぎじゃねぇか?

「どうだったって……武なしでもかなり強くなってんだなとは思ったな。」

「本當?それにゃら良かった。や意図的にゃPPの使い方の練習をしたかいがあったってことだね。」

ステータスアップの魔法を使ったわけでもないのに毆ってから踵落としまでのきが速すぎんだろって思ったら、PPを過剰消費しての技だったのか。

俺が本當に凄えと思ってるのが伝わったからかセリナはだいぶ上機嫌のようだが、そこまで本気を出してラスケルを叩きのめすって……。

「そこまでするほどラスケルが嫌だったのか?」

「そんにゃことにゃいよ?むしろ奴隷とわかってての試練を申し込まれたのはし嬉しかったくらいだよ。でも、奴隷の私にの試練を申し込むのにリキ様に話を通してにゃいのはダメだと思うんだよね。リキ様は優しいから私の好きにさせてくれたけど、場合によっては主を通さずこんにゃことやったら強い代理を立てられて殺されてもおかしくにゃかったんだよ?だから、リキ様の優しさに甘えるようにゃことをした罰だよ。」

「そ、そうか。」

俺としては奴隷解放はしてやれないが、互いに興味があるなら付き合ってもいいと思ったんだけどな。どうやらセリナ的にラスケルの行が許せなかったらしい。気持ち的には嬉しかったっていうから脈はあるのかもしれないが、ラスケルは考えが甘かったな。

というかラスケルを放置しちまったけど大丈夫か?と思ったら、カリンがちゃんと回復させていたみたいだ。橫山とピリカールとリッシーはまだドン引きした顔で固まってるのに既にけてるカリンはちゃんと自の役割を理解してて偉いな。パトラもカリンと一緒にラスケルの側に移していたようで、回復魔法をけたラスケルの意識の有無を確かめていた。

とりあえずラスケルが無事なことを確認出來て安心したのか、パトラは俺らの方に引き攣った笑顔を向けてきた。

そういやラスケルがセリナに告白する前にパトラと話していたから、獣人のの試練のことを知っていたのかもな。それでセリナがすんなりけたから、この結果は予想外だったんだろう。気があるからけたと思ったってのはあるだろうが、セリナは手加減する気がないっていったのに勘違いしたままだったのはカリンパーティーのメンバーが見ただけで相手の力量がわかるわけではないからだろう。

まぁ俺だって観察眼のおかげでなんとなくわかるってだけだから偉そうなことはいえないんだがな。

「この後は朝食の前に俺とカリンパーティーの模擬戦をやるつもりだったんだが、ラスケ……カリン、どうする?先に飯食うか?」

「……やらせてください。お願いします。」

さすがにラスケルに問いかけるのは可哀想かと思ってカリンに聞いたんだが、ラスケルが立ち上がりながら答え、頭を下げてきた。

自信満々で挑んで瞬殺されたのにすぐに切り替えられるとか、神がタフだな。

ちゃんと切り替えて真面目に取り組もうとしてるし、負けたことは認めても諦めるつもりはないってことか?

悲しさを紛らわせるために強くなることだけを考えようとしてるって可能もあるが……そうだとしても前向きに努力出來るやつは嫌いじゃねぇな。

「じゃあカリンパーティーはさっきラスケルが立っていたあたりに移しろ。準備が終わったら始めるぞ。この1回はカリンパーティーの実力が見たいから、橫山は見學してくれ。」

カリンパーティーに聲をかけてから俺はセリナがいたあたりに移し始めたら、セリナがラスケルの方に小走りで近づいていった。

さすがにやり過ぎたから心配になったのか?

「これ返すね。」

セリナは何かをラスケルに渡した。

よく見えなかったけど、たぶん昨日渡されていた指だろう。

ラスケルは悔しそうな顔で指け取った。

しばらくその指を眺めてから握りしめ、真剣な顔でセリナを見た。

「強くなってからまた挑みたいと思う。セリナが人するまでには必ず。」

「諦めてにゃいんだね。いいよ。そのときに私にまだ相手がいにゃかったらけてあげる。でも、今度は先にちゃんとリキ様の許可をもらわにゃきゃダメだよ?リキ様は優しいから何もいわにゃいけど、私はリキ様の奴隷にゃんだから。」

ラスケルはし驚いた顔をしてから申し訳なさそうな顔をした。

「そうだね。僕の考えが足りないせいで困らせてごめん。リキさん、勝手なことをしてしまってごめんなさい。」

ラスケルはセリナに謝った後、俺には頭を下げて謝罪してきた。

べつに俺としては當人同士が納得してるんなら好きにすればいいと思ってたけどな。奴隷解放する気はないがは好きにすればいいって前からいってたと思うし。

「べつにそれはいいんだが、もしラスケルが勝ってたらどうするつもりだったんだ?俺はセリナをパーティーから外す気はないから、ラスケルがここに住むことにしたとしても俺の都合でセリナを連れ回すことになるし、ラスケルもカリンたちと一緒に冒険者を続けるつもりならほとんど會えない狀態になってたと思うんだが。それでも良かったじか?」

「そ、それは貯めたお金で買い取って奴隷から解放しようと思っていました……。」

「悪いが、いくら金を積まれてもセリナを売る気はねぇぞ?も結婚も好きにすればいいとは思ってるが、2人が結婚したとしても必要な時にはセリナを連れて行くことになるから妊娠させられるのは困るし、その辺を考慮した生活を送ってもらうことになるな。」

「…え……。」

俺の答えが予想外だったのか、ラスケルが固まった。

普通に考えてセリナを売るメリットがねぇのになんで俺が売ると思ってたんだ?俺が善人にでも見えてたのか?だとしたらラスケルの目は節だな。

「そもそも今のセリナの価値は相當なもんだと思うが、いくら用意したんだ?」

「戦ったことでセリナの価値が高いだろうというのはにしみてじました。奴隷の相場を調べて余裕をもって金貨5枚を用意していたんですけど、お金ももっと貯めなきゃですね。」

だから売らねぇっていってんのに聞いてねぇのか?

だが、今使い続けてる『気配察知』がもっと上手く使えるようになればセリナの知能力に頼らずにすむようになるかもしれないし、もし俺の知能力がセリナに並ぶようになった後にセリナがむなら、ラスケルに売ってやってもいいかもしれないな。もちろん金額次第だが。

「なんの技能も持ってなかったセリナで金貨5枚だったな。しかもオークションにかける前に奴隷商の厚意で最低価格で売ってもらってその値段だから、今のセリナだといくらになるんだろうな?ラスケルがいくら貯めてくるのかを楽しみにしておくよ。」

ラスケルの顔がしだけ引き攣った。

「強くなるよりお金を貯める方が大変そうですね。でも、可能がある限りは頑張ります。」

冒険者は強くなれば勝手に金も貯まるようになるイメージなんだが、強くなるより大変なほど貯めるっていくら払ってくれる気なんだろうな。実際に売るかはべつとして、ラスケルがセリナにどれだけの金額をつけるのかはちょっと楽しみだ。

用は済んだといわんばかりに急に立ち去ったセリナの顔がチラッと見えたが、凄い微妙な顔をしていた。

あれは照れてるのか?それとも嬉しさが顔に出ないように誤魔化そうとしたのか?逆にラスケルのしつこさがちょっと嫌だった……ってのは違う気がするな。

案外セリナは悪い気はしてないのかもな。

「準備できました!あとはラスケルくんの準備が終わればいつでも大丈夫です!」

セリナを目で追っていたら、カリンが聲をかけてきた。俺がラスケルに視線を戻したら、急げという意味だと思ったのか、ラスケルが慌ててカリンたちのところに走っていった。

そういやセリナに審判を頼もうと思ってたんだった。……まぁいいか。負けるつもりはないし、審判も俺がすればいいや。

「じゃあ好きなタイミングで攻めてこい。そっちの誰かの足が地面から離れたら模擬戦開始だ。かずに先に強化魔法をかけてから始めてもいいぞ。たださすがに投擲武や攻撃魔法は飛ばした瞬間に模擬戦開始とするがな。」

「え?リキさんはパーティーじゃないんですか?」

カリンが不思議そうな顔で聞いてきたが、カリンパーティーで2番目に強いだろうラスケルがセリナ1人に瞬殺されてるのにカリンパーティーが5人集まったからってウチのパーティーと勝負になると思ってるのか?

というか、アリアやテンコの補助のない素の俺1人相手でも勝てないと思うんだが。

「最初からいってただろ?俺とカリンパーティーでだって。」

「てっきりリキさんのパーティーと私たちでって意味だと思ってました。」

「それじゃあ勝負にすらならないからカリンパーティーの実力がわからねぇだろうしな。」

「……。」

「不満ならとりあえず俺1人には勝ってみろ。代わりの加護は持ってるから殺す気でこいよ。俺は『威圧』は使わんが殺す気でいくし。魔族を相手にしてると思えばそっちにとってもいい練習だろ。」

カリンたちには代わりの加護付きの指を渡してあるから、問題はないはずだ。

「……わかりました。」

カリンは意識を切り替えたように真面目な顔になり、顔だけパーティーメンバーへ向けた。

「先にバフかけるからみんなはまだかないでね。バフをかけた後はピリカが1人で前衛、ラスくんとパトラは最初の時間稼ぎの後はリキさんの邪魔をしつつ隙があったらどんどん狙っていって。リッシーはいつもと同じく私と後衛ね。」

パーティーへの指示はカリンが出してるのか。ちょっと意外だな。あと、戦闘時は仲間の呼び方を変えてるようだが、なんで普段からそう呼ばないんだ?あえて戦闘時と普段で意識を切り替えるためか?

俺が疑問に思っていた間にカリンが詠唱をして複數の魔法を仲間にかけていた。

どんな効果があるのかはわからんが、けっこうな種類の魔法を覚えてるんだな。思った以上にバフをかけられてるんだが、大丈夫か?まだ見たじではなんとかなりそうではあるが、負ける可能も出てきた気がする。

さっきのセリナを見て、流石に可哀想だからPPの過剰消費での攻撃とかはやめといてやろうと思ってたが、俺はステータスアップ系の魔法を使わないんだから、そこまでハンデをつけてやる必要はなさそうだな。スキルとPPは使いたくなったら使うとしよう。べつにカリンの魔法の量を見て心配になったからではない。

「遊撃!」

カリンが指示を出した瞬間、ラスケルが近づいてきて、パトラが構えていた弓を放ってから移を始めた。

ラスケルはセリナほど速くないようで、矢の方が先に俺のところまで飛んできた。矢の強度を確かめるために避けながら手で払って弾き、普通の弓矢なのを確認してから俺もラスケルに近づいた。

どうやら今回は大剣を使うつもりのようで、背中の大剣を引き抜いた勢いのまま斬りかかってきた。用なきではあるが、速度はそこまででもない。大剣が振り下ろされる前に加速して懐にり、ラスケルに一撃れようとしたら、視界の外に移していたパトラから矢が時間差で3本飛んできた。

パトラからしたら死角からの攻撃のつもりなのかもしれないが、『気配察知』でわかっていたからラスケルへの攻撃を中斷してして避けた。

避けることを優先したため思ったより余裕があったから、なんとなく3本目の矢だけ弾いてラスケル側に飛ばそうとしてみたんだが、普通に失敗した。さすがに狙った方に弾くのは無理があったな。次に余裕があったら弾くんではなく、勢いを殺さないように摑んで向きを変える方が良さそうだ。

余計なことを考えていたら、遅れてラスケルが斬りかかってきた。

ラスケルの大剣は振るごとに止めないでごと回転させて遠心力をのせながら次の攻撃に繋げてるみたいだが、空振ったあとは背中を向けてくるから隙だらけだ。だが、その隙を突こうと毆る勢になった瞬間にパトラからの邪魔がる。

避けるのは簡単だが、避けるとラスケルに攻撃しづらくなるところを狙ってるっぽいな。だからといって矢を弾いたり破壊したりすると一手遅れるからラスケルの大剣を避けきれるか怪しいタイミングになる。

べつにガントレットでラスケルの大剣をけることは出來るとは思うんだが、あれだけ最初に魔法をかけていたから出來るだけ回避した方がいい気がするんだよな。下手したらガードした腕ごと切られる可能もあるから、念のためけるのは避けるべきだろう。

先にパトラを殺すかとターゲットを変えて移したら、ラスケルの方に向かっていたピリカールが方向転換して、俺とパトラの間に大盾を構えて割り込んできた。

ピリカールのきはラスケルやパトラよりもさらに遅いみたいだから、ピリカールが俺のもとに辿り著く前にカリンたちが狙われないようにラスケルとパトラで引きつけてたじか。だとしたら相手の思い通りにいちまってたみたいだな。まぁそのうえで打ち破ればいいだけだ。

大盾を毆ろうと構えたところでピリカールのにいるパトラが移したのが『気配察知』でわかり、弓矢でまた邪魔をされないように俺もし位置をずらした。そのせいで盾のど真ん中に真正面から毆ることは出來なかったが、ピリカールくらいなら盾の端でも吹っ飛ばせるだろうと思いながら毆りかかったら、予想外に力を流された。

まさか大盾でタイミングを合わせて力を抜いてズラされるなんて思っていなかったから、完全に重心を持っていかれた。なんとか踏ん張って勢を立て直そうとしたときには真後ろに大剣を振りかぶったラスケルが迫っていた。

転がりでもしない限り避けるのは無理だが、転がったらその先に矢を構えたパトラがいるし、詠唱を終えて待機してるリッシーも気になる。だから、咄嗟に『一撃の極み』を右腕に纏わせ、PPを過剰消費しながら無理やりを捻って振り向きながら、ラスケルの大剣に合わせて毆りかかった。

これなら大剣に何かしらの魔法がかかって強化されていて俺のガントレット以上の強度になっていたとしても俺の被害は右腕とガントレットだけで済む。本音をいえばガントレットが壊れるのは困るが余裕こいておいて負けるよりはいいだろう。

即座にそこまで考えて犠牲覚悟の行だったんだが、なんの問題もなくラスケルの大剣を砕くことが出來た。

たいして溜められなかった『一撃の極み』で壊せたのは予想外だったから一瞬止まっちまったが、ラスケルは俺以上に驚いて固まっていた。

気を取り直してすぐに追撃しようとラスケルの方に一歩近づくために片足を上げた瞬間、視界の端から大盾が迫ってきた。

咄嗟にに力をれたから痛みはたいしてなかったが、地面に片足しかついていなかったせいで踏ん張れなかったからか、もしくはピリカールのスキルの力なのか、2メートルほど吹っ飛ばされた。

思ってた以上にピリカールの戦闘技能が高いな。

『アースニードル』

かすかに聞こえたリッシーの聲に反応して、即座に両腕をクロスして顔を守った。その瞬間、著地予定の地面から棘が複數生えてきた。しかも1本1本が思いの外細かったから腕の隙間から顔に刺さらないようにと意識したせいで、注意が疎かになったにモロに當たって弾かれるように地面を転がされた。

チェインメイルを貫くことはなかったから問題なかったが、このコンボは兇悪だな。さすがに空中じゃ移出來ねぇし。

すぐに飛び起き、パトラから放たれた3本の矢を避けつつ、ラスケルの方へ向かった。

せっかく大剣を破壊出來たんだから、先に倒すべきだろう。

ラスケルは俺が近づいてきたことに慌てたじで、2本の短剣を投げつけてきた。だが、それはさすがに悪手だろ。

見たところ大剣を失ったラスケルの武はこの2本の短剣しかないみたいなのに投げるとか、素手で戦うつもりなのか?

まぁ俺としてはその方が楽に倒せるから助かるんだが。

念のためラスケルの2本の短剣にはれないように気をつけて避け、斜め後ろから飛んできた3本の矢も避けた。

さっきからパトラの矢は3本ずつしかこないから、連は3回が限界なのかもな。

パトラとピリカールと距離があることを気配で確認しつつ、ラスケルの懐にった。

『クリエイトソード』

テンパって無防備なラスケルを毆る予定だったんだが、どうやら演技だったらしい。

ラスケルは慌てることなく俺の拳を避けながら背中側に移し、さっきのリッシーの言葉の直後に突然俺の背後に現れた剣を握って斬りかかってきた。

俺は毆った勢いのまま進むように右足を前に出して前のめりになり、無理やり左足で後ろ蹴りをした。

割とヤケクソ気味な蹴りだったんだが、なんとかラスケルの持つ剣に當てることが出來たようで、ブーツが削れる覚があった。

切れ味いい分脆かったのか、それとも魔法で作ったから持続時間が短いだけなのかはわからんが、ラスケルが持ってる剣は々に砕け散って霧散した。

を完全に失ったラスケルは即座に逃げを選んだようだ。判斷はいいと思うが、逃すつもりはねぇ。もうカリンパーティーの実力はなんとなくわかったから終わらせるつもりだ。

『気纏』を使用したうえに『會心の一撃』を全に纏わせた。

PPの過剰消費で急加速してラスケルに追いつき、尾を摑んで引っ張るとラスケルは宙に投げ出されるように浮かび、尾が本から千切れた。

……すまん。

千切れた尾をてきとうに放り投げ、宙に浮いてるラスケルを地面に叩きつけるように上から毆りつけた。

すぐにピリカールに接近して足を払い、橫向きに倒れかけてるところに盾を上から押し込み地面と挾み込んだ。頭が潰れたらさすがにマズイと思ってし加減したから大丈夫なはずだ。

弓矢を放り投げて短剣に持ち替えたパトラが近づいてきたから、俺からも加速して近づき毆ろうとしたんだが、意外にもパトラが反応して避けた。ただ、反的に避けたからか避ける方向をミスったようで、パトラの額が俺の右肩に勢いよくぶつかり、力負けしたパトラが真後ろに倒れて後頭部を地面にぶつけた。

肩に當たった的にはそこで死ぬほどのダメージではなかったと思うが、後頭部が地面に當たったタイミングでもの凄い音が鳴ったから、ヘタしたら死んでるだろう。だが、地面に後頭部をぶつけた分だけなら仮に死ぬほどのダメージをけてても代わりの加護があるから問題ないはずだ。

パトラは避ける方向をミスったみたいだが、それでも拳の直撃は躱せたんだから、目では追えてたんだろうし、やっぱりこのパーティーで1番実力があるんだろうな。弓矢での邪魔もなかなかウザかったし。いい意味で。

次はカリンかと目を向けたら、カリンの後ろにいるリッシーと目が合った。それだけで顔を引き攣らせるとか失禮だろ。

「あっ…。」

『アシッドレイン』

既に詠唱を終えていたらしいリッシーが魔法名だと思う言葉を発しながら杖を振ると、水球が放線を描いて飛んできた。

べつに俺のところにくるまで待つ必要もないからとカリンに向かって進んだ瞬間、水球が割れて飛び散るように水滴が落ちてきた。

これは魔法名からしてれたらヤバいやつだろ。

『上級魔法:風』

魔力を大量に込めてアシッドレインとやらを全てカリンたちの方に吹き飛ばした。

「え?噓っ!?わ、我願う、他の理より出でし清らかなる水、我と害意を隔てる壁となせ。」

『ウォーターウォール』

判斷は意外と早いみたいだが、アシッドレインとやらを防ぐための魔法を使ったから、詠唱が必要なリッシーでは既に接近している俺にたいしてはもう魔法は使えないだろう。

まずはカリンからだなと毆りかかったら、予想外に右手をロッドで弾かれた。ちゃんと接近戦の練習もしてたんだなと心しながら、左拳でカリンの脇腹を抉るように毆り飛ばした。

カリンは軽いからか2メートル宙に浮いたあとに地面を転がっていった。

こんな狀況でも次の魔法の詠唱をしていたリッシーが杖を俺に向けてきた。

何を撃つ気かは知らないが、詠唱が短かったから威力もそこまでではないはずだし、たぶん見てからでも避けられるだろうとタイミングを合わせるために集中した。

『プラレティックミスト』

まさかの範囲攻撃かよ。

これはアリアがちょいちょい使ってるやつじゃねぇか。たしか麻痺にさせる霧だったか?

『上級魔法:風』

また同じ魔法で霧を吹き飛ばした。

し霧を吸っちまったから、麻痺になる前に終わらせるために近づこうとしたら、リッシーが倒れた。

……いや、意味わからん。

強めの風ではあったが、耐えられないほどではないだろ。…………あぁ、麻痺になってんのか。自覚悟の範囲攻撃だったってわけか。

俺も霧を吸っちまったはずなんだが、しだったからか狀態異常にはなってねぇみたいだ。

手を握ったり開いたりしても違和がねぇし、吸ったと思ったのは気のせいだったのかもな。

なんか終わり方が微妙だったが、模擬戦なんだから戦闘不能の相手にトドメを刺す必要はねぇし、とりあえず終わりでいいか。

「ここまでだな。俺の勝ちだ。……アリア、治療は頼んだ。」

「…はい。」

アリアに聲をかけると小走りでこっちに向かってきたから、俺はアリアとれ替わるように見學組の方へと向かった。

ちょっとやり過ぎちまったかもしれないが、カリンパーティーにとってもいい経験になってるだろうから大丈夫なはずだ。死なずに死ぬ経験なんてそうそう出來るもんじゃないからな。

普通は代わりの加護を使わざるを得ない相手と戦うことになったら、そのまま2度殺されて人生終了になるだけだし、訓練で代わりの加護を消費するなんて付與師がいなきゃもったいなくて出來るものじゃないから、いい経験になってるはずだ。

「昨夜はあんにゃに優しくしてあげてたのに今日は容赦にゃいんだね。」

見學組のところに向かっていたら、ニヤニヤしたセリナが近づいてきて小聲で話しかけてきた。

一瞬何の話かわからなかったが、昨夜ってカリンとの話か?ってかやっぱり聞こえてんのかよ。

「訓練での不必要な手加減は誰のためにもならねぇからな。」

「そうだね。まぁ私は何も聞いてにゃいからアリアには黙っててあげるね。」

昨夜の話の方はスルーしたのに続けんのかよ。

いや、もしかしたらカリンが俺の部屋にったことは知ってても部屋の中の話までは聞こえてなかったから、それっぽいこといってカマをかけてるのか?だとしてもなんでアリアだけ名指しなんだ?むしろアリアよりイーラやニアに聞かれた方が面倒な気がするんだが。

「なんでアリア?」

「…………はぁ……にゃんでもにゃい。にゃんでもにゃいからアリアにも背中ポンポンしてあげるといいよ。もちろん私にもしてくれていいよ?」

「やっぱ聞いてんじゃねぇか。…まぁ気が向いたらな。」

距離を詰めて小聲で話し合っているのが気になったのか、イーラたちが近づいてきたから、セリナの頭を摑んで引き剝がして話を終わらせた。

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