《裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚》360話
朝食を取っていた場所からしだけ歩いて周りを見ると、他のやつらが小走りで離れていったようで、既にそれなりに距離が取れていたから足を止めた。
ここなら木に火が燃え移る心配もそこまでないだろうし、魔法が変な方向に飛んでいっても気づいて避けてもらえる程度にはスペースが取れてるから大丈夫そうだ。
「……あ、あの、わたしも近接戦闘の練習ですか?」
視線をリッシーに戻したら、恐る恐るといった様子で質問された。
まぁさっきの戦闘後に俺が教えるっていえばそう思うのも仕方ねぇか。
「最終的には近接戦闘の練習もさせるかもしれないが、リッシーはさっきのじなら今のところは問題なさそうだし、今日は魔法の練習をする予定だ。といっても、俺はほとんど魔法を使わねぇから教えることがあるかは微妙なんだがな。」
魔法を教えられるほどの知識がないのは事実だから苦笑いで答えたら、なぜかリッシーが目を輝かせて距離をつめてきた。
「それなら!聞きたいことがあるんですが!」
急に意味がわからず反的に半歩下がったら、さらに1歩近づいてきたリッシーが顔を寄せてきた。
さすがに會話する距離には近すぎるから、リッシーの肩に手を置き、軽く押して距離を取らせた。
「魔法を……?」
「質問には答えるから無駄に近づいてくんな。」
話し始めたところで俺に止められたことに首を傾げたリッシーだったが、俺の言葉で自分が興していることに気づいたようで、顔を赤くしてキョロキョロと忙しなく視線を彷徨わせた。
「あ、ご、ごめんなさい!えっと、凄く聞きたいことがあって、気になると変な行をとってしまうんです…き、気持ち悪かったですよね。ハハッハ……ごめんなさい。」
悲しげに笑ったリッシーが最終的に俯いた。
緒不安定かよ?というか、けっきょく質問はいいのか?
「べつに気持ち悪いとかじゃなくて近すぎると話しづらいってだけだから、そこまで気にされると…逆になんかすまん。」
「え?…あ、いえ!ごめんなさい!私が悪いんです!私なんかに近づかれたら不快になるって考えればわかることなのに気をつけられなくてごめんなさい!えっと、このくらいの距離なら大丈夫ですか?」
リッシーは引き腰で1歩下がって伺うように上目遣いで確認してきた。
これはリッシーなりの冗談……ではないんだろうな。
まぁ実させた方が早いか。
俺はリッシーの確認には答えずに2歩近づくと、リッシーは驚いたように1歩下がった。
俺がもう1歩近づくと、リッシーは泣きそうな顔で2歩下がった。
最後に大で1歩近づくと、リッシーは2歩下がろうとして餅をついた。
「俺は気持ち悪いか?」
「…え?……き、気持ち悪くはないです!怖いです……。」
………………。
「……これでわかったろ。べつに距離を空けたい理由は気持ち悪いからとは限らねぇって。俺は単純に戦闘以外で他人に近寄られるのがあまり好きじゃねぇってだけだが、リッシーみたいに相手が怖いからとか、異に近寄られるのが恥ずかしいとかの理由もあるからな。べつに卑屈になる必要はねぇよ。実際リッシーは見た目は気持ち悪いどころかいい部類だろうし。」
まぁこの世界の普通がそもそもわりと男っぽいから、俺の覚で褒められても嬉しかねぇだろうがな。
むしろ不細工なやつの方がこの世界では珍しいし。
「え?……あ、いえ、お、お世辭でもありがとうございます。」
リッシーが立ち上がってケツの土を払ってから、俺に頭を下げてきた。
お世辭をいったつもりはねぇし、お禮をいわれるほどの褒め言葉でもないんだが、これ以上この話を続ける必要もねぇからいいか。
「まぁそんなことはどうでもいいんだよ。それで、何が聞きたいんだ?」
「そ、そうです!リキさんって魔法を使う時に詠唱してませんでしたよね!?」
こいつは本當に魔法が好きなのか、今話していたことを忘れたようにまた近づいてきやがった。
もう話が進まねえから諦めるか。
「基本的に戦闘中は詠唱する時間がねぇからな。」
「そういうことではないのですが……もしかして、ジョブが魔王だと詠唱が必要なくなるんですか?」
「いや、詠唱破棄は普通にスキルだよ。リッシーもSPが余ってるなら取ればいいんじゃねぇか?」
「……え?………………え???」
なんで二段階で首を傾げたんだ?
こんなことで思考回路はショート寸前ってやつか?
「SPで取れる中にあるはずだから別にそんな特別なことじゃねぇよ。SPは種族や才能で取れるものが変わったりするらしいが、リッシーはそんだけ魔法が使えんだから、さすがに取れると思うぞ。ただ、詠唱破棄を取るとスキルの魔法の詠唱文がわからなくなるから、アレンジを加えるとかできなくなるし、そもそもスキルで持ってる魔法にしか使えないから、スキル以外の魔法を主に使う場合は意味ないけどな。あとはMPが足りない狀態で詠唱破棄で魔法を使うとPPを消費したうえで魔法が発しないし、下手したら死ぬ危険があるって話だから、その辺のデメリットを理解したうえで取れよ。」
「え?あ、ごめんなさい。ちょっとわからない言葉があったのでわたしが勘違いしているだけかもしれないんですが、スキルで覚えた魔法ならわたしでも詠唱をせずに使えるようになるってことですか?」
わからない言葉ってのがどの部分かわからねぇけど、1番気にするべきデメリットは理解してるのか?
「あぁ。だが、MP殘量を把握せずに魔法を使うと死ぬ可能があるってことは忘れるなよ。あと、詠唱しなくても使えるんじゃなくてスキルの魔法は詠唱なしでしか使えなくなるって方が正しいな。いや、詠唱文と魔力の込め方を覚えていれば使えないことはねぇか。」
「そんなのは欠點にもなりません!わたしが聞きたいのは、なんでそんなに凄いことを簡単にわたしに教えてくれるんですか?」
普段はオドオドしてるくせにずいぶん力強い目を向けてくるんだな。
ちょうどいい高さにあるリッシーの頭に手を置き、軽くでた。
「朝食のときにいっただろ?気が変わったって。リッシーたちと関わっちまったから、死なれたら気分悪いからな。だからカリンパーティーには強くなってもらわなきゃならねぇし、無理やりにでも強くするつもりだ。なくともこれからも冒険者を続けたとして、よっぽど運が悪くなければ死なない程度にはな。だから、こんなスキルなんてのはたいしたもんじゃねぇんだよ。一般的には知られてないらしいが、そもそも俺はかなり初期に気づいたようなスキルだから凄さもイマイチわからねぇしな。ただ、アリアは隠したがっていたから、無闇に広められるのは困るけどさ。だから教わることについては気にすんな。」
もう一度軽く頭をでてから手を離した。
高さがちょうど良かったからアリアたちにやる覚で頭をでて誤魔化しちまったが、リッシーって何歳だっけか?
「會ったばかりなのにわたしのことも心配してくれるんですね。……ありがとうございます。」
リッシーが微笑んでお禮をいってきたところで、橫からコートを引っ張られた。
「リキ様、訓練始めなくていいの?」
イーラにいわれて周りを見ると、俺ら以外の全員が既に訓練を始めていた。
たしかに無駄に話が長引いちまったな。
「そうだな。」
イーラの頭をてきとうにでてリッシーに向き直ると、なぜか困った顔をしていた。
「あ、あの、やっぱり『詠唱破棄』はないみたいです。」
「ん?あぁ、悪い。スキル名は『詠唱省略』だ。順番としてはたしか『詠唱短文化』、『詠唱半減』、『詠唱省略』の順で取れたはずだ。」
「順?」
そこで首を傾げられる意味がわからないんだが。
他のやつならまだしも魔法を使っているリッシーがわからないってことはないと思うんだけどな。
「上級魔法を取るときと同じだよ。あれは初級魔法と中級魔法を全部取らなきゃスキルを取得出來ないだろ?」
「確かにそうですね!中級魔法と上級魔法はスキルで取らずに使うものだけ詠唱文で覚えていたので、スキル取得後に上位スキルが取れるようになるってことが頭から抜けてしまっていたのかもしれません。それに『詠唱短文化』自は知られていましたが、それなら自分で詠唱文をめた方がいいというのがガンザーラでの常識になっていたので、その先のスキルがあるかもなんて考えが浮かびませんでした。魔法を學ぶ者として固定観念に囚われていたなんて本當に恥ずかしいです……。」
リッシーは悲しげに俯いているが、今まで魔法使いの國に住んでるやつが誰も使えてないんだから、そこで生まれた子どもが詠唱破棄は普通はできないものと思ってもおかしくないとは思うけどな。
「過去のことを悔やんでも仕方ねぇだろ。リッシーは今使えるようになれるんだから、これから使いこなせばいいじゃねぇか。」
「そうですね!…………取れました!ありがとうございます!試してみてもいいですか?」
「あぁ。とりあえず俺に向かって何か魔法を使ってみてくれ。」
『ファイヤーボール』
いったあとに急に俺に向かって撃てといっても躊躇されるかと思ったが、リッシーはし距離を取ってからとくに躊躇することなく杖を俺に向けて魔法名を口にした。
杖の先からは人の顔ほどの炎の塊が生まれ、俺に向かって飛んできた。
見たじ當たってもし火傷する程度ですみそうだから、避けずに試しに目の前にきた火の玉を叩き落とすように上から叩いたら、ほとんどなくかき消えた。
水や土ならまた違うんだろうが、魔法はやっぱり理とは違うんだな。まぁ理で対処出來るみたいだから大した問題ではなさそうだが。
「…………え?」
「そういえばリッシーにも一応確認しておきたいんだが、SPで取れる中に『思念発』ってあるか?」
「え?いや、今なにしたんですか!?」
人の質問に対して質問で返してきやがった。
しかも俺の質問と関係ない質問かよ。
「ファイヤーボールを叩き落とそうと思ったんだが、思ったより脆かったからかき消えただけだ。とくに何かをしたわけじゃねぇよ。」
「手のきがほとんど見えなかったんですけど……。」
「ファイヤーボールのせいで見えづらかっただけだろ。そんなことより『思念発』はあるか?」
「そんなこと……あ、いえ、ごめんなさい!えっと………………なさそうです…。」
「やっぱり『思念発』はエルフだけが取得出來るスキルなのか?それとも他に條件があるのか……いや、ありがとな。」
「いえ、お役に立てずすみません。でも、魔法関係ならエルフしか取れないスキルがあってもおかしくはないですね。魔法が得意な種族ですから。」
リッシーが取得できるなら取得條件を推測出來るかもと期待したがダメだったか。まぁ俺はあんまり魔法を使わないから『詠唱省略』で十分なんだけどな。ただ、アリアやソフィアは取れるならとった方が便利だろうと思ったが、エルフ以外で取れる可能は低そうだ。
他のスキルは鑑定対策をしてからの方がいいだろうし、そろそろ訓練を始めようと思ったが、どんなことをやるか全く考えてねぇんだよな……。
「リッシーは何か教えてほしいこととかあるか?」
かなり漠然とした質問をしちまったせいで、リッシーが目をパチクリとさせて首を傾げた。その後わずかに俯いて何かを考え始めたかと思ったら、思いついたように顔を上げた。
「リキさんがよく使う魔法ってありますか?もしくはこれは取っておいた方がいいっていう魔法があったら教えてほしいです!」
よく使う魔法っていったら急回避に『超級魔法:雷』を使ってる気がするが、超級魔法シリーズはまだアリアも覚えていないっぽいから、教えるべきではないか?だが、カリンとラスケルの前では既に使った魔法だから気にする必要はない気もするな。
……まぁ魔法の存在が知られるくらいは問題ないだろう。
「魔法で俺がよく使うっていえるくらいの頻度で使ってるのは『超級魔法:雷』と『上級魔法:泥』と『上級魔法:電』と『上級魔法:磁力』と『上級魔法:風』と『中級魔法:電』かな?ちなみに超級魔法は知ってるか?」
「聞いたことはあります。あと、本で見たこともありますが、使ってる人も所持している人も見たことないです。リキさんは持っているんですか?」
よく使うっていってるのに持ってないわけないだろ。聞き取れなかったのか?
「超級魔法を全て取得して得られるのが魔王のジョブだからな。だが、超級魔法については気づいたらSPで取れるようになっていたから、取得條件はわからん。上級魔法を全て取った時はまだ取れなかったしな。」
「え?超級魔法ってSPで取れるんですか?しかも超級魔法は複數あって、全て取ると王級ジョブが手にるんですか?……あの、もしかしてなんですが、魔導師になる方法も知っていたりしますか?」
ん?その辺の話ってアリアがいろんなところの代表的なやつらに教えていなかったっけか?けっきょくあいつらは匿することにしたのか?いや、カリンパーティーは旅してここについたばかりだから、まだ報を得られていないだけって可能もあるな。
「知っているが、その辺の話はあとで他のスキルを取るときにするから待っててくれ。もし魔導師になりたいんだとしても、魔法使いや魔師のレベルは上げておいた方がいいらしいからな。んで、俺がよく使う魔法についてに戻すぞ。リッシーは超級魔法を持ってないから他のについてだが……まぁ験した方が早いか。」
「え?」
疑問の聲をあげるリッシーを無視して距離をとるために歩いて離れ、あらためて向き直ってもまだリッシーは首を傾げていた。
まぁ油斷していた方が磁力の魔法のかかりがいいからちょうどいいか。
『上級魔法:泥』
リッシーを中心に半徑2メートルほどの地面を泥に変えるとリッシーは間の抜けた顔を浮かべてバランスを崩した。
『上級魔法:磁力』
『上級魔法:風』
魔力をかなり込めた磁力で引っ張ったんだが、思いの外持ち上がってくれなくて地面で引きずることになりそうだったから、咄嗟にリッシーと地面との間に強風を発生させて浮かせた。
リッシーは驚きつつも抵抗しようとしてるっぽいが、空中では無駄に足掻くことしかできないようで俺になされるがままだ。
目の前にきたリッシーの首を摑もうと右手を上げた。
摑む寸前でさすがに練習なのに首は可哀想かと考え直し、急遽ローブのぐらを摑むことにしたせいで衝撃を殺しきれなかった。
「うぐっ…」
『中級魔法:電』
俺の拳とリッシーの骨がぶつかった瞬間にリッシーが苦しそうに聲をらしたが、無視して電気を使ってきを封じた。
『中級魔法:電』は前に冒険者ギルドで絡んできたおっさんで練習したから、焦がさずきだけ封じることも出來るようになってるはずだ。
「けるか?」
「…ぅ……ぁぇ…ぁ…。」
何かをいおうとしてるようだが、口もまともにいていないし、聲もほとんど発せていないから何いってるか全くわからん。
もう十分だろう。
魔法を解除し、ゆっくりと地面に立たせ、1人で立てるのを確認してからぐらから手を離した。
『ハイヒール』
麻痺とかにはなってなさそうだから、これで問題ないだろう。
「まぁこんなじだ。」
「……中級魔法って水と以外にも使い道があったんですね。上級魔法も磁力は引き寄せるだけのために魔力を使うなんて無駄だと思っていましたし、泥なんて何に使うんだろうと思ってましたけど、それらの魔法だけで何も出來ずにされるがままになるなんて驚きました。しかもリキさんは魔法発後は一歩もいてないんですね…。『詠唱省略』がある前提なのかもしれませんが、こんな組み合わせを思いつくなんて凄いです。最強のFランクといわれるのにも納得しました。」
最後の方はリッシーの獨り言っぽいが、Fランクで最強とかなんの自慢にもならねぇから、納得されても困るんだが。
「今回は組み合わせて拘束する流れを作ってみたが、俺は魔法の組み合わせを咄嗟に考えられるほど使い込んでねぇから、実際は最初から急回避や相手の隙を作るときに使う魔法としてあらかじめ決めておいて使えそうなときに使ってるだけだがな。でもリッシーはその場で適した魔法を選べるっぽいし、魔法の組み合わせを意識するのもアリだろう。」
「組み合わせですか…。今のリキさんの魔法を験して『中級魔法:電』はMPの消費量に対して効果が絶大だなって思ったんですけど、素手じゃないと使えないって考えると私が利用するのは難しそうです。……上級魔法の磁力や泥は私でも使い所がありそうですし、今まで使えないと思っていた他の魔法にも使い道がありそうな気がするので、いろいろ試してみようと思います。」
「『中級魔法:電』はたぶんその杖にも纏わせられるぞ。といっても杖も素手も近接戦闘に慣れてなければ大差ないか。」
「そうなんですか!?武にも纏わせられるならいろんな使い道があると思います!」
その杖はリッシーの格にしては大きいかもしれないが、そこまで素手と変わらないと思うのは俺が素手の方が得意だからか?
まぁリッシーがそれでいいならいいんだが。
「そうか。ならいろいろ試すといい。あと、訓練方法を決めたから、そろそろ始めるぞ。」
「は、はい!よ、よろしくお願いします!」
「イーラは何をすればいい?」
「テンコ、何する?」
「気持ちは嬉しいが、とりあえず2人は見學だ。」
イーラが不満気にを尖らせているのを無視してリッシーの足元に足で地面を削って線を引いた。
「俺はこれからし離れて、訓練開始とともにこの線に向かって歩いてくるから、リッシーは俺に怪我を負わせてみろ。この場に留まって魔法を撃ちまくるでもいいし、森の中に隠れて隙を伺うでもいいし、常に距離を取りながら攻撃するでもいい。俺はリッシーが移しようとどんな攻撃をしようとこの線までは歩く。そして、この線に到達したらリッシーを本気で追いかけるから、俺がリッシーを捕まえるまでに俺を怪我させたらリッシーの勝ちだ。俺が怪我する前にリッシーを捕まえて骨を折ったら俺の勝ちだ。勝負がついたら最初からやり直しで晝まで続ける。ガントレットとブーツは裝備したままにするが、チェインメイルのコートはぐから、ちゃんと隙を狙って攻撃すれば怪我させることは出來るだろうし、難しくはないだろ?もちろん代わりの加護はつけてるから殺す気できていいぞ。さっき使ったからわかるだろうが、俺は『ハイヒール』を使えるから怪我しても大丈夫だし、もし『ハイヒール』で治せなかったら神薬を使ってやるから安心しろ。何か質問はあるか?」
「…あ、あの、ルール確認の前に聞き間違いか確認したいことがあるのですが、骨を折るっていいました?」
「あぁ、捕まったら痛い思いをするって思えば必死になるだろ?それで勝てれば痛い思いをしないですむし、仮に負けて骨を折られたとしても痛みに耐がつくから損にはならねぇ。訓練としてはなかなかいい案だろ?強いていえば痛みに慣れて必死さがなくなる可能があるって問題はあるが、その時は痛みの種類を変えるから心配するな。」
普通に考えて痛い思いなんてしたくねぇだろうが、今のうちに慣れておかないと強い敵にやられて怯んだりしたら、死ぬしかなくなるからな。
こんな訓練するなんて頭おかしいと思われようとやめる気はない。
リッシーは嫌そうな顔をしたけれど、一度キツく目を瞑ってから目を開け、真剣な顔で俺を見た。気が弱そうなやつだと思っていたから無理やり始めようと思ったが、こいつは自分で覚悟を決められるんだな。
「……リキさんからの攻撃は捕まえるまではないのですか?」
「あぁ。俺からは抱きつく一択だ。もちろん頭を割っちまったら即死する危険があるから、俺が狙うのはだけだな。そうなると抱きつくために屈まなきゃならねぇし、骨を折るには力をれるためにを起こさなきゃならないから、その間に攻撃して俺に怪我させるなり怯ませて抜け出すなりが出來るぞ。」
わざわざ抱きしめて骨を折るってのは単純にハンデの意味もあるが、痛みだけだと捕まった瞬間に痛みへの覚悟を決めて諦めちまう可能があるから、抱きつかれる嫌悪からしようと最後まで抵抗してもらうためでもある。
好きでもねぇ異に抱きつかれるってのはけっこう気持ち悪いものだからな。
「……わかりました。始める前にいくつかスキルを取得してもいいですか?」
「スキルを取るくらいなら時間もかからないだろうし、好きにしろ。準備が出來たらいってくれ。そしたら向こうに50歩進んでから振り返るから、俺が完全に振り返ったら訓練開始だ。あと、リッシー自には抱きつく以外の攻撃はしないが、リッシーが飛ばした魔法や杖での攻撃に対してはガントレットとブーツでけたり破壊したりするからな。」
「わかりました。ありがとうございます。」
リッシーが準備している間にチェインメイルのコートをいで『アイテムボックス』に放り込んだ。
俺の準備はこれで終わったが、リッシーはまだスキルを選んでいるのか真剣に考え事をしているような顔をしていたから、暇つぶしになんとなく準備運を始めた。
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8 177破滅の未來を知ってしまった悪役令嬢は必死に回避しようと奮闘するが、なんか破滅が先制攻撃してくる……
突如襲い掛かる衝撃に私は前世の記憶を思い出して、今いる世界が『戀愛は破滅の後で』というゲームの世界であることを知る。 しかもそのゲームは悪役令嬢を500人破滅に追いやらないと攻略対象と結ばれないという乙女ゲームとは名ばかりのバカゲーだった。 悪役令嬢とはいったい……。 そんなゲームのラスボス的悪役令嬢のヘンリーである私は、前世の記憶を頼りに破滅を全力で回避しようと奮闘する。 が、原作ゲームをプレイしたことがないのでゲーム知識に頼って破滅回避することはできない。 でもまあ、破滅イベントまで時間はたっぷりあるんだからしっかり準備しておけば大丈夫。 そう思っていた矢先に起こった事件。その犯人に仕立て上げられてしまった。 しかも濡れ衣を晴らさなければ破滅の運命が待ち構えている。 ちょっと待ってっ! ゲームの破滅イベントが起こる前に破滅イベントが起こったんですけどっ。 ヘンリーは次々に襲い掛かる破滅イベントを乗り越えて、幸せな未來をつかみ取ることができるのか。 これは破滅回避に奮闘する悪役令嬢の物語。
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