《顔の僕は異世界でがんばる》狡猾な冒険者 9
直後、が思い切り引っ張られた
視界が暗くなり、すぐが戻る。
とはいえ景は絵ののように溶け、事態が摑めない。
――な、何が起きて……?
パニックに陥りかけてすぐ、
「うぇっ!!」
靜止すると同時に、慣力をけてが折れそうになり、いてしまう。
けれどその慘めを代償に、僕は急速に平靜を取り戻していく。
敵からの攻撃を、ワイバーンが右へスライドすることで躱したってことか。
腰の痛みに耐えつつ、改めて斜め前方、敵を睨む。
--牛の獣人? いや、違う。魔人。牛魔人か?
四足歩行の獣たちが湯水のように現出する中心で、それは悠然と立っている。
二足歩行。
そして、まるでおもちゃを得た子供のようにうれしそうな顔――よく知る、僕と言う獲を見つけた時のクズ野郎どもの表だ。
一つ違うのは、あれが人間じゃないことくらいか。
遠目であるにもかかわらず、一瞬たりとも、人間かと疑うことは無かった。
決して猛牛のような雰囲気があるからとか、頭に太い二本の角があるからとか、およそ人間離れした巨漢であるからとか、そういう理由じゃない。
獣人がいる。角が生えた人間だって、何度か見かけることはあった。
それに巨漢とは言え、人間の範疇を超えるほどのものじゃない。
にもかかわらず、あれが別種だと思ったのは、やつの発する異様な威圧だった。
――魔人だ!
直と言っていい。
けどパッと見ただけで、人間とは異質だと、あれは危険だと確信した。
牛魔人は笑う。
「ガハハハッ!! 釣れた釣れたぜ、活きのいい人間がよぉ!! ったくまどろっこしぃのは嫌いだったが、さすがレパルド將軍、策士だぜ」
ガタイ通り、野太く野蠻な聲だ。おかげでこっちまで屆いてきた。
將軍?
けれど生じた疑問は、それ以上の衝撃によって、一瞬でかき消される。
「おい人間、降りてこいよ!! こいつらを助けに來たんだろう!?」
背後からまるでのように取り出し、掲げられたのは、目的の二人だった。気絶しているのか、首を摑まれて、だらりと力なく吊るされている。
人質、二人。しかもあの二人には、悪いイメージを持ってはいない。ましてや、任務の対象だ。
こちらの不利がすぐにわかった。
歯噛みして、けれどここは言いなりになるしかない。
ゆっくりと降下していく。
すると、地上に多く殘っていたバッファローたちが、場所を譲るように避けていった。
できたスペースは、まるで刑場だ。
罪人は僕、処刑人は牛魔人、そして周りを囲むバッファローたちが観客。
僕以外すべて異世界の生だというのに、この景はよく見たものだった。
バッファローたちが、これから行われる楽しいショーを今か今かと待ちわびている。そんな非現実的な景。
鼻息が嘲笑に、唸り聲がヤジに聞こえる。
久しく聞かなかったセンサーがけたたましく鳴り響き、聞こえるはずのない侮蔑の言葉が八方から聞こえてくる。
『マジきもい』『ねぇ、あいつって……』
「はっ……はっ……」
落ち著け、落ち著くんだ。
あの時とは違う。僕はげられる側じゃない。ただの牛ども相手に何怖がってるんだよ!
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ」
言い聞かせる。ここはあの世界とは違うと。もう僕はいじめられてなんかないと。
地面に足がつき、
「おいおいどうした? ビビっちまったのか?」
聲をかけられ、ハッとする。
そうだ、やらなきゃいけないことがある。
二人を助けること。今はそれだけに集中するんだ。
顔を上げて、一杯睨みつける。
「ふ、二人を離せっ! 卑怯だぞ、お前らは人質とらないと戦えないのかよ!」
「人質、だぁ? ちげえよ、こいつらはお前らをおびき出すための餌に過ぎねぇ」
「それを人質だって……」
反論は、より大きな聲でかき消される。
「こいつらには手出ししねぇよ。お前を逃がさないために置いておくだけだ。俺はただお前と毆り合いたいだけだぜ?」
言って、二人を地面に下ろす。
――いまだ!
「ワイバーンッ!!」
同時に、僕はんだ。
まるで弾丸のようにワイバーンは二人めがけて飛んでいく。
「ガハハッ!! 出でよ『ホーンギガント』!!」
牛魔人の前方に巨大な魔方陣が浮き上がり――
次の瞬間、そこには山があった。
「なっ!?」
いや、山じゃない。
二足歩行の、牛の巨人だ。あまりにも大きすぎて錯覚してしまった。
赤褐のをしたそれは、牛の顔を持つくせに、は人間のものだ。
ミノタウロスが巨大化しているような、そんな化け。
縦にも橫にも巨大なそいつは、ワイバーンを捉えるべく両腕を広げる――
「來いっ『ゴーレム』!!」
反的に、次の一手を繰り出した。
かろうじてワイバーンはその魔手を逃れているが、あの巨に組み付かれたら、ただでは済まないだろう。
巨には巨で対抗するしかない。
「出でよ『ホーン・ヴァリアント』」
ほぼ同時に、牛魔人も召喚魔法を唱えた。
現出。
數瞬早く姿を現したゴーレムめがけ突進してきたのは、またしても牛の巨人だ。
けれど先ほどの奴とは違いは引き締まっていて、両手には山賊刀が握られている。
先ほどの奴が盾だとすれば、こいつは槍。
そんなイメージが脳裏を過る。
やばい、速い。これじゃあゴーレムがただのサンドバックにされてしまう。
ゴーレムの弱點は、圧倒的に鈍いことだ。
対して牛の戦士は、その巨に関わらず軽やかにく。
予想は的中した。
反撃も許されず、すなく切り刻まれていく。
ワイバーンも逃げるので一杯のようだ。
牛魔人が笑い聲をあげた。
「召喚魔法ってのは魔人の専売特許だぜ? 人間にしちゃあ使いこなせてるようだが、所詮そこが限界だろうよ」
――まだだ。
ワイバーンに指示を出し、満巨人に対して王の力を発する。
王の力。これは自分の能力以下の生を問答無用で支配下に置くことが出來る、ジョーカーだ。対象は、敵の使い魔だろうと、奴隷だろうと構わない。
絶対の力と言える。
発すれば、他人の意思や狀況、その一切が無視される。
能力以下というのは、単純な戦闘能力だけでなく、魔力、思考能力、神力、その他すべての能力が加味されている。
そしてそこには、使い魔たちの能力も加わる。
全使い魔を併せた能力は、おそらくあれ一よりは大きいだろう。
――発、功。
満巨人は、その格に合わない速度で反転しーー巨拳を牛魔人めがけて振り落とした。
驚愕の聲をあげた魔人は、けれども寸でのところで回避に功していた。
けれど、その隙にワイバーンは見事二人を救出する。
「よくやった!! ワイバーン!!」
思わず喝采してしまう。
よし、あとはさっさとおさらばするだけだ。
ワイバーンは僕を捕まえると、再び上昇する。
「待ちやがれ!!」
すぐ後ろから怒聲が響いてきた。
嫌に決まってるだろうが。あんな筋と毆り合うとか、正気じゃない。
「逃げんのかこの野郎!!」
よく聞く負け犬の遠吠えが下から屆いた。
え? 違うよ、ちゃんと後始末はしていきますよ?
ただし上空から一方的にだけど。
上昇する間に使い魔たちを一斉に呼び戻し、命令する。
『ウィルムはパンサーとゴーレムと一緒に巨人戦士の相手をしてくれ。殘りは上空から、ワイバーンと一緒にあの満巨人の助太刀。牛魔人が召喚魔法唱えられないように、徹底的にやれ』
命令はイメージとして、一瞬で全員に伝えられた。
即座に散會。
ウィルムは地面の戦士めがけて降下し、殘りは魔法を放つ。
アプサラスは湖の力を使い、港町<ミスナー>の時と同様の攻撃を始める。ピクシーもがんばって魔法を放つ。
なんか、二人の魔法の威力が上がっているような気がする……気のせいだろうか。
し疑問に思ったけど、まずはやつをボコすのが先だな。
牛魔人にも、対空中用の攻撃手段はある。
初弾の、あの黒い何かだ。
でも、力ずくではなく、人質を使って僕を地上へ降りさせたのは、きっと対空中はあまり得意じゃないからだろう。
たとえあの魔法がきても、これだけ距離があれば対処できるし。
ある程度のところでワイバーンも攻撃に參加し、地上はますます混沌を呈する。もはや硝煙のせいでどこで何が起きているのかもわからない。
ワイバーンの攻撃法は二通りある。
一つは火を噴くこと。二つ目は火魔法で火の玉を放つこと。
特に二つ目の火の玉の威力が、やばい。火魔法レベル三とは比べにならないから、たぶんレベル五相當だろうか。いや、レベル五のカリファのそれより破壊力がある。
數分経過した。
魔力が盡きたピクシーとアプサラス、それにおそらく戦士にやられたパンサーを召喚し直し、いまだに撃を続けている。
だって、生きてたら嫌じゃん? 怖いし。
やるなら徹底的にだ。骨一つ殘さないつもりで、撃つ、撃つ、撃つ。
気分は世界大戦。
そしてさらに數分が経過し、ワイバーンが限界になったところで、いったん砲撃を中斷した。
僕の魔力も心もとなくなってきている。
頼む、死んでてくれ。
祈るような気持ちで硝煙が晴れるのを待った。
「……おぉ……」
晴れた先にあったのは、かつてしかった湖畔の殘骸。
湖は干上がり、森は一部が欠損。大小のクレーターで地面は月面のようにだらけになっていた。いや、月面がどんなじか知らないけどさ。
當然、牛の巨人は二とも姿を消し、牛魔人の姿もない。
戦爭がどれだけ悲慘なものか、その一端を垣間見た気がした。
戦爭って、怖いんだなぁ(小並)。
「じゃあ帰ろうか」
妖に運んでもらい、二人と一緒にワイバーンの背中に移して、治癒魔法をかけながら帰路についた。
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