《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く 六
二日かけて、僕たちは周辺の似たような村をあらかた助けた。
これはテオサルの警備ギルドのギルド長に、村人を救出したことと今後について話し合った時に頼まれた依頼で、他に生き延びた冒険者がいないかどうか探すついでに行っている。
村はどこも似たような狀況で、たまに魔に襲われているところもあった。數人を殘して壊滅していたなんてところもある。
うぬぼれでも何でもなく、僕らがいなければ全滅していただろう。
王國騎士団は、いったい何をしてるんだ? そりゃあ、民を守るために戦いに行くというのが間違ってるとは言わない。むしろ英雄的行だろう。
でも、その前にやることがあるんじゃないのか?
人的被害を考えたら、都市を防しつつ村々の人を避難させて、それから攻勢に出るってのがベストなはずだ。
まずは守りからって孔明さんも言ってたし。ちなみに小生は関羽が大好きでござるっ!!
住む家が無いそうなので、テオサル部にり口を持つ地下シェルター的なをノームに造らせて、助けた人たちにってもらった。
そしてようやく一息ついた僕たちは酒場にいる。
円卓を囲んだ僕たちは、冷やっこいルービー(正式名稱。ビールもどき)とレグープ酒(葡萄もどきの酒)を煽り、ピグミートパイ(豚型魔、ピグを使用)やサラダを食い散らかしていた。
ちなみに僕はレオンジジュース。いや、ルービーとかあんな苦いもの飲むやつの気が知れない。未年の飲酒はいけません、絶対。
「ぷはーーっ! いいことした後の酒はサイコーだねぇ!」
十九歳のリュカ姉が、中年オヤジよろしく豪快にルービーを飲み干した。
「リュカ姉はいつでもサイコーって言ってないか?」
落ち込んだ時は~、めでたい時は~。
レグープ酒を真剣に見つめるワユンをちらと見て、リュカ姉が意地悪そうにニヤリとする。
「そんなことよりオーワ。ワユンちゃんとはいつ知り合ったのさ? ヨナちゃんがいながら別の子、それもこんなかわいい子にまで手を出すとは、君はなかなかのたらしだねぇ~」
「ちっ、違っ」
僕がリュカ姉に絡まれている対面では、カリファがワユンに酒を薦めていた。
カリファは見かけによらず世話焼きなのだ。
「んくっんくっ……はーー。これおいしいです」
「そお? よかった。店員さーん、レグープ追加ー」
僕の対面でワユンの世話を焼いていたカリファが、酒を頼んでこちらに顔を向ける。
「んで、なになにおチビ、ガールフレンド二人もいるっての? 生意気~」
「だから違うって……」
突如、肩に手を回された。あぁ、このごつごつしたじは……。
「おい糞ガキ、ガキにしちゃやるじゃねえか。飲めコラ」
「僕は未年です。というか酒臭い!」
「んくんく……ふはぁー。ぽかぽかしておいしいです」
デカマルコさんウザ絡みモード。いつの間にそんなに飲んだんだよあんた。
ワユンの『おいしいです連呼』が遠くに聞こえる。
リュカ姉がずいと近づいてきた。
「で、どこまでいったんだい?」
「それは男同士でする話だよリュカ姉!」
「俺の酒が飲めねえってのか!」
「うぷっ!? がぼっがはっ!!」
リュカ姉に突っ込みをれた瞬間、マルコにジョッキを突っ込まれた。いや、苦っ? まずっ? つーか苦しいっ!!
「マルコストップ」
「あんだとリュカ?」
「ごぼぼ……」
リュカ姉がそのジョッキを離そうと摑むと、負けじとマルコが力をれる。
リュカ姉、助けてくれるのはいいけど、抜き差しされると服がべちゃべちゃになって余計に辛いんですけど。
「牛(うしちち)! あんたマルコとなにイチャイチャやってんのよ!」
びながら、カリファがこっちに來た。
「いや、どう考えても違くない?」
「いいからその手を離しなさい~っ!」
「んごほっ!?」
やめて!! 僕の(ジョッキの)ために爭わないで!!
の言ってみたい言葉ランキング上位に食い込むであろうセリフが思わず浮かんだけど、何これ全然うれしくない。むしろ死ぬほどキツイ。
「「あっ!」」
「ごっ?」
突如、ジョッキが僕の顔面に突っ込んだ。チン(顎)ではなく前歯にクリーンヒット。きっとリュカ姉の手が、ジョッキからすっぽ抜けちゃったんだろう。
歯、痛い――あぁ、天井が――。
僕は凄まじい音を立てて、後頭部を床に強打した。
気を取り直して。
「わ、私のせいじゃないわよ?」
「あっはっは、すげー転んだね!」
「弱な奴め」
「マルコ、あんた絶対殺しますから」
しどろもどろになりながらも強気なカリファと、愉快そうに笑うリュカ姉、そして毒を吐くマルコ。誰か一人くらい心配しろや。そして謝れ。
ん? そういえばワユンは?
「んくんくんく……」
視線の先では、親の仇とでも言わんばかりにレグープ酒と格闘するワユンがいた。その周りに散するは無數の空ジョッキ。ワユン無雙だ。
「おおっ! 飲めるじゃねえかメスガキ!」
「マルコ、殺しますよマジで?」
メスガキ? ワユンに対してなんてこと言うんだこいつ。
「あっはっは! ワユンちゃんは酒豪だねぇっ!」
「ね、ねぇ、大丈夫なのあれ……?」
リュカ姉が笑い、カリファが心配する。
ワユンのほっぺ、まっかっかでっぽい――じゃない!
「わ、ワユン、その辺でやめといたほうが……」
「ぷへらぁーーーーっ!」
靜止虛しく、ワユンは気持ちよさそうに飲み干した。
「ひくっく……」
「わ、ワユン……?」
「くっく……おーわ、しゃん……?」
ぼーっと虛空を見つめていたワユンの目に、突如が宿る。そしてよたよたと、機を迂回して傍に來た。
「オーワしゃん!!」
「え? あ、はい?」
え、何この剣幕?
「皆しゃんとばかり楽しくやってれ私は放置れすか!? 私はお邪魔蟲れすかぁっ!?」
「え? いや、そんなことは……」
ヤバい、焦點合ってない。そして近い、怖い。
「そりゃ~久しぶりの再會れすよ、浮かれるのもいいれすよ? でも私もれてくらさいよ!」
「ご、ごめん、寂しかったよね?」
「寂しくなんてないれすよ! 私ずっと一人れしたからー? 慣れれますからー?」
「わ、ワユン?」
急にトーンが下がってきた。まぶたが降りてきている。
「だから邪魔なときは言ってくらさいよ? そしらら絶対不快にはさせませんから……邪魔しませんから……らから……」
「ワユン?」
どさりともたれかかってきて、すぐにすぅすぅと寢息を立て始めた。
「おーい……寢ちゃった」
「その子、事があるみたいね?」
カリファがし眉を寄せて、心配そうに言ってくる。
「えぇ、まぁ……実際的な部分はほぼ解決したんですけどね、やっぱ心の方は……」
不快にさせませんから、邪魔しませんから、か。
お酒に酔うと、心のタガがし緩くなるって聞くけど、それが本當だとしたら、今の言葉はワユンの心の聲ということになる。
ちょっとまずいのかもしれない。でも普段隠してるってことは、克服しようとはしてるみたいだし、大丈夫なのか?
リュカ姉が、髪をガシガシ掻き毟る。
「まったく君は、そういう子ばっか捕まえるよね」
「べ、別に捕まえるとか……」
「ま、冗談抜きで、私たちがいなかった間のこと教えてよ」
そういえば、リュカ姉たちのことは大聞いたけど、こっちのことは言ってなかったな。
僕は息を吸って気持ちを切り替え、ワユンとの出會いから説明を始めた。
「――――というわけです」
説明が終わると、周りの喧騒から切り離されたように、靜寂が訪れた。
そしてマルコはジョッキを一気に飲み干して、ズダァンッと、機に叩きつけた。
「くそがっ!! あの野郎また――」
「落ち著きな!!」
マルコの怒聲とリュカ姉の鋭い聲がぶつかる。
マルコが目をひん剝いて立ち上がった。
「てめえリュカ!! この期に及んでまだあいつの肩を持つって言うのか!? あぁ!?」
対するリュカ姉は、座ったまま顔一つ変えずにマルコを睨んでいる。
「肩を持つとかじゃない。けど、あいつの気持ちも――」
「二度目だぞ!!」
「何度でもだよ。大切だから」
睨みあう二人の間には、火花が散っているようだった。
いったい何が起きてるんだ? そりゃ、エーミールとマルコが知り合いっぽかったのはわかるけど、なぜここまで怒るんだ?
僕のため? ってわけじゃなさそうだし。
混する僕をよそに、二人の口論は続いていく。
「大切だからなんだっつうんだ!? 仲間を裏切ってもいいって言うのか!? 俺たちだって一度壊滅しかけたんだぞ!? 今回に至っては、オーワが死にかけてんだ!!」
「でも生きてる、でしょう?」
「そういう問題じゃねえだろうが!!」
「そういう問題だよ。あいつが不意を突いたんだ。殺し損ねるわけがない。あいつのとりうる最大限の譲歩だったってこと」
マルコはリュカ姉に摑みかからん勢いだ。
周りもそろそろ、このテーブルに注目し始めている。
「ふ、二人とも、とりあえず……」
「譲歩だぁ!? バカ言ってんじゃねえよ!! ダチに槍ぶっ刺してそのを拉致ることのどこが譲歩だ!! イカれてんじゃねえか!?」
「イカれてんだよ。私もエーミールも。でもあいつはまだ、戻れる可能がある」
「開き直ってんじゃねえ!! 戻れるっつうなら、俺がもう一度ぶん毆って――」
「そんなんじゃ戻れないよ。それで戻れるくらいなら、あの時すでに戻ってたはずだろう?」
「あれじゃ足りなかったって言ってんだ!! 一回死なすくらいのつもりでやりゃあ今度こそ――」
「ダメだね。戻るにはエミーリアを助け出すしかない」
激高するマルコと、靜かに反論を繰り返すリュカ姉は、もはや周りの聲をけ付けていないらしい。
酔ってるっていうのもあるだろう。
リュカ姉はあれで周りが見える方なのに、今は全然だ。
一人じゃ止められない。
助けを求めてカリファの方を向くと、彼も複雑そうな顔をしていた。
マルコはさらにを乗り出す。
「てめぇ……悟ったみたいなこと言いやがって……気に食わねえんだよ!!」
「別に悟ってるわけじゃない。でもあんたよりは、あいつの気持ちがわかるって言ってんだ」
「あんだと!? 何様だてめぇ!!」
「唯一の親を守れなかった思いは、あんたにはわからない」
カリファとマルコが、同時に息を呑んだ。
一瞬、靜寂が降りる。
直後、弾かれたようにマルコがリュカ姉に毆りかかった。
その拳を、リュカ姉は摑み取る。
「マルコッ!!」
カリファの懇願するような聲が飛んだ。
マルコとリュカは薄していた。
「……てめぇらだけが辛かったんじゃねえ」
「知ってるよ。でも違う」
「てめぇらとは家族同然だった。リュナンもエミーリアも、俺やカリファにとって弟妹だったんだ」
「でも本當じゃない。一緒に過ごした年數も、も、違う」
至近距離で睨みあう二人の聲はずっと抑えられたものになっていたが、先よりも刃を思わせて、鋭い。
「……気にいらねえんだよ、その不幸面が」
「なら見なければいいじゃん。私は別に、気にいられなくたって構わないからさ」
マルコの手が緩んだ。殺気が薄れ、その顔で何かが揺れた。
「……いつから、そうなっちまったんだ。もう、戻れないのかよ」
「あんたらがそれをんでる風だったから、普段はあの頃みたいにふるまってるじゃん。それじゃダメなの? むしろ態度とか違うのあんたらだろう?」
「……違うんだよ」
マルコの落膽は、表にこそかすかにしか出ていないが、なぜか強く伝わってきた。
――とその時、酒場のり口の方で怒鳴り聲がした。
「見つけたぞ小僧!!」
金ぴか裝備をに纏った張飛もどきとその取り巻きたちのご登場である。
騎士サマ……なんて間の悪い連中なんだ……。
草魔法師クロエの二度目の人生
6/10カドカワBOOKSより二巻発売!コミカライズ好評連載中! 四大魔法(火、風、水、土)こそが至高という世界で、魔法適性が〈草魔法〉だったクロエは家族や婚約者にすら疎まれ、虐げられ、恩師からも裏切られて獄死した……はずなのに気がつけば五歳の自分に時が戻っていた。 前世と同じ轍を踏まぬよう、早速今世でも自分を切り捨てた親から逃げて、〈草魔法〉で生きていくために、前世と全く違う人生を歩もうともがいているうちに、優しい仲間やドラゴンと出會う、苦労人クロエの物語。 山あり谷あり鬱展開ありです。のんびり更新。カクヨムにも掲載。 無斷転載、無斷翻訳禁止です。
8 121【書籍化&コミカライズ】創成魔法の再現者 ~『魔法が使えない』と実家を追放された天才少年、魔女の弟子となり正しい方法で全ての魔法を極めます。貴方の魔法は、こうやって使うんですよ?~
【オーバーラップ文庫様より2/25書籍一巻、3/25二巻発売!】「貴様は出來損ないだ、二度と我が家の敷居を跨ぐなぁ!」魔法が全ての國、とりわけ貴族だけが生まれつき持つ『血統魔法』の能力で全てが決まる王國でのこと。とある貴族の次男として生まれたエルメスは、高い魔法の才能がありながらも血統魔法を持たない『出來損ない』だと判明し、家を追放されてしまう。失意の底で殺されそうになったエルメスだったがーー「血統魔法は祝福じゃない、呪いだよ」「君は魔法に呪われていない、全ての魔法を扱える可能性を持った唯一人の魔法使いだ」そんな時に出會った『魔女』ローズに拾われ、才能を見込まれて弟子となる。そしてエルメスは知る、王國の魔法に対する価値観が全くの誤りということに。5年間の修行の後に『全ての魔法を再現する』という最強の魔法を身につけ王都に戻った彼は、かつて扱えなかったあらゆる魔法を習得する。そして國に蔓延る間違った考えを正し、魔法で苦しむ幼馴染を救い、自分を追放した血統魔法頼りの無能の立場を壊し、やがて王國の救世主として名を馳せることになる。※書籍化&コミカライズ企畫進行中です!
8 179俺だけステータスが、おかしすぎる件
この小説の主人公、瀬斗高校2年 迅水 透琉(はやみ とおる)は、クラスで、いじめを受けていただが突如現れた魔法陣によって異世界 アベルに転移してしまった。透琉のステータスは、 あれ?俺〇越えるんね!? 透琉は、アベルで自由気ままに生きて行く? ことは、出來るのか!? ん? 初投稿です。良かったら見てください! 感想やご指摘も、お待ちしてます! あ、言い忘れてましたね。 俺は飽き性です。時々やらなくなっちゃう時があります。 ストーリーも自分のしたいようにやります。 皆さんの期待を95%裏切ります。 萎える人もいるでしょう。 今までの方が良かったと思う人もいるでしょう。 なので気の長さに自信がある人なら作品を最後まで見れる...かな?
8 89なぜ俺は異世界に來てしまったのだろう?~ヘタレの勇者~
俺は學校からの帰り道、五歳ぐらいの女の子を守ろうとしそのまま死んだ。と思ったら真っ白な空間、あるいはいつか見た景色「ここは…どこだ?」 「ここは神界今からチートスキルを與える。なおクラスの人は勇者として召喚されているがお前は転生だ。」 俺は真の勇者としてクラスメイトを復讐しようとした。
8 137世界がゲーム仕様になりました
『突然ですが、世界をゲーム仕様にしました』 何の前觸れもなく世界中に突然知らされた。 何を言っているかさっぱり分からなかったが、どういうことかすぐに知る事になった。 普通に高校生活を送るはずだったのに、どうしてこんなことになるんだよ!? 學校では、そんな聲が嫌という程聞こえる。 外では、ゲームでモンスターや化け物と呼ばれる今まで存在しなかった仮想の生物が徘徊している。 やがてそれぞれのステータスが知らされ、特殊能力を持つ者、著しくステータスが低い者、逆に高い者。 ゲームらしく、勇者と呼ばれる者も存在するようになった。 そして、 ステータス=その人の価値。 そんな法則が成り立つような世界になる。 これは、そんな世界で何の特殊能力も持たない普通の高校生が大切な人と懸命に生きていく物語。 ※更新不定期です。
8 192『元SSSランクの最強暗殺者は再び無雙する』
勇者と魔王の戦い。勇者の仲間であるベルトは、魔王の一撃を受ける。 1年後、傷は癒えたが後遺癥に悩まされたベルトは追放という形で勇者パーティを後にする。 田舎に帰った彼と偶然に出會った冒険者見習いの少女メイル。 彼女の職業は聖女。 ひと目で、ベルトの後遺癥は魔王の『呪詛』が原因だと見破るとすぐさま治療を開始する。 報酬の代わりに、ベルトに冒険者復帰を勧めてくるのだが―――― ※本作は商業化に伴い、タイトルを『SSSランクの最強暗殺者 勇者パーティを追放されて、普通のおじさんに? なれませんでした。はい……』から『元SSSランクの最強暗殺者は再び無雙する』へ変更させていただきました
8 195