《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く22
帰ってきてすぐ、僕たちは教會を訪れた。
巨大なドラゴンの肝の一部を見せると、神父さんは、そろそろだと思っていたと、驚くこともなくそう言ってほほ笑んだ。
儀式の準備と、肝から『聖水』なるものを作り出すのに二日ほど時間がかかるとのことで、僕たちは神父さんに頭を下げ教會を後にし、冒険者ギルドでハンナさんに報告をし、リュカ姉たちからリタさんを引き取り、宿舎へ帰った。
今、ヨナの部屋に集まって、ヨナに出來事を報告している。
ヨナは途中、アドラー伯たちに対してとんでもない暴言を吐いたこと以外、靜かに話を聞いてくれた。
「――――ってところかな。時間かかって、本當にごめん」
謝ると、ヨナは靜かにほほ笑んだ。
「いえ。出かける前に一言言ってくれてもよかったのにとは思いましたが、急事態でしたし。心配はしましたが、皆さんが無事で何よりでした」
「あぁいや、そういうことじゃなくて……いや、そのこともだけど……」
ドラゴンの肝を手にれるのにこんなに時間がかかって申し訳ない、という意味で謝ったのに、ヨナは肝についてほとんど反応すらしなかった。
「ようやく、呪いが解けるんだよ?」
「あぁ、そうでしたね」
思い出したように、ヨナはついでとばかりにそう言った。
あまりうれしそうには見えない。いや、うれしいんだろうけど、実がわかないのか?
いや、そうじゃないか。
ヨナは、そういう子だ。
話を終え、僕はじっと黙り込んでいたリタさんのほうを向く。
リタさんからは、冷たいものをじていた。
雰囲気がまるで別人のようだ。
極力気に障らないよう、努めていつも通りを裝うことにした。
「さて、長くなってしまいすみません。リタさんはこれから、どうします?」
「どうしますって、どういうことですか?」
返ってきた聲は、氷柱を想わせて冷たく、思わずしり込みしてしまう。
この怒気は、混しているからか?
それは當たり前か。今まで従順に仕えてきた相手に捨てられ、死にそうになったのだから。
ゆっくり、慎重にいこう。
「い、いやその、リタさんはもう自由なわけですし……」
「自由?」
めったに表の変わらないリタさんの左眉が、明らかに吊り上がる。
しまった。
聲と表から、明らかに琴線にれてしまったのだとじた。
リタさんが続ける。
「命を救ってくださったことには、謝します。
けれど、その點だけです。
ずっと思っておりましたが、あなたは勘違いをしておられます。今ので確信しました。
私は、決して不幸だったわけではありません」
決して大きな聲で怒鳴られているわけじゃない。
けれど、それ以上の圧力で、僕は凍り付いたようにけなくなった。
「幸せでさえあったのです。
アドラー様にお仕えすることは、奴隷からすれば最高の職です。
決してお人柄が優れているわけではありません。はっきり愚かでさえあります。好で、幾十人もの、私と同じような奴隷を所有しておりました。
だからこそ、一人當たりの仕事は軽く、それでいて食住は最高クラスのモノが保証されています。若いうちはびを売っておけばいい。単純なお人ですから、慣れれば至極容易なことです。
年老いても、貴族は世間を気にします。
捨てられたり、売り払われることなどほとんどなく、奧にり、新人の教育係、あるいはご子息の目付としての地位を得、お付の者までつくようになるのです」
生きるのに全く事欠かない。
リタさんは、そのことを熱心に訴えていた。
まるで、どこかの宗教について語ってるみたいだ。信じていたものが崩れるのは苦しい。その苦しみから逃れるため、無意識に、盲目的に信仰する。
それがどれだけ不幸なことであっても、幸せだと思い込んでいれば、幸せなんだ。
なぜか、なんとなくイライラした。
「でもそんなの、ただ生きているだけでしょう? 一生お屋敷の中で、自由がない」
「これだから、ガキは……」
初めて汚い言葉を吐いたリタさんの目は、隠すことなく僕を蔑んでいた。
僕の考えが読まれていて、そのうえで蔑んでいることが、はっきりと伝わってきた。
「ただ生きることがどれだけ困難なことか、あなたにはわからないでしょう。あなたには想像もつかないでしょうが、ただの人でさえ、そうなのです。
ならばそれが奴隷なら? ただ生きることは奇跡でしょう。
そして、私がそこに辿り著けたことがどれほどの幸運か、辿り著くまでにどのような思いをして、何を犠牲にしてきたか、説明しても無駄でしょう。
決して、憐れまれる対象に、私はありません。
そこまで落ちぶれてはいません。
ましてや、助け出したなどと、自由を與えてやったなどと。それは完璧な侮辱です。
ただ、私は幸せだった。
あなたが來て、すべて崩壊しましたが」
憎悪があった。
「あなたさえ來なければ、私は永遠に平穏な楽園で一生暮らしていたでしょう。アドラー様は、愚かで醜い男でしたが、それでも何年もお世話をしていれば、もわきます。なくともあなたよりはマシなお方でした。
これからどうするか、でしたか?
できることなら、さっさとここから出ていきたいですよ」
理不盡な怒りだ、と思った。ただの八つ當たりだ、とも。
なぜ、こうまで言われなければならないのか。僕はただアドラー伯から攻撃をけ、それにリタさんが犠牲にされたから、命を救ってやっただけだというのに。
犠牲にされたショックは大きいだろう。如何ともしがたい怒りがあるのもわかる。それを振り下ろす先がないことも。
……しょうがないから聞いてやるか。
そんな風に言い聞かせたが、しかし苦痛があった。涙も出そうになる。
どこか、怒りが妥當なものだと納得している証だった。
たしかに僕の中には、『救ってやった』という驕りがあった。
リタさんの本は、たぶんこっちなんだろう。
従順なメイドという仮面の裏で、自分にルールを課し、それを守ることで確固たる誇りとプライドを持ち続けていた。それによって、自分を保ってきた。
その誇りを、僕が踏みにじったというわけだ。
リタさんは畳みかけるように続けていた。
「でも、できないんですよ。生まれて二十年、一人で生きるなんて何一つ持っていません。読み書きも、何らかの技も、戦い方も知りません。
稼げないだけじゃない。この世界がどれほど汚いか、私は多なりとも知っています。それらに対して、自らを守るも持ちません。
何より、これ以上努力して、學んで、切り抜けていこうとする気力は、殘っていないのです。私のそういった活力は、ただ生きられる環境に到達するために、すべて使い潰してしまった。無理やり使ったから、気力を作り出す部分も、とうに壊れています。
自由?
あなたの言う自由は、私にとって苦痛以外の何でもないのです。思考を停止して、漫然と、ぬるま湯の中のような環境でただ生きることこそが、私にとっての最大の幸福なのです。
ですから、私にはこうするよりほかはないんです」
リタさんは、唐突に頭を下げてきた。
纏う空気が変わるのを、これほどはっきりとじたことはなかった。
「先の無禮をお許しください。これからのの振り方に不安があり、つい、我を忘れてしまったのです。二度と、このようなことは起こしません。
ですから、私を所有してください。家事全般はこなせますし、夜伽のお相手もできます。
そして、ただ生かしてください」
「黙って聞いてれば、自分勝手すぎやしませんか?」
聲を発したのは、ワユンだった。
僕は展開の急激な変化についていけず、あっけにとられていて、反応が遅れた。
リタさんが顔を上げ、無表でワユンを見る。
空気がまた変わった。
「オーワさんは命の恩人で、その上リタさんは敵の差し金だったにも関わらず、誠実に対応してたじゃないですか? それを……」
「誠実、ですか。まぁいいです。
それをおいても、だから謝罪しているではありませんか? 先の発言は本心ではありますが、八つ當たりもありました。それは私のミスでした。反省しております。申し訳ございません、と。
足りないのであれば、何度でも頭を下げましょう」
淡々と靜かに言葉を被せたリタさんに対して、珍しく、ワユンが怒っていた。
「大、やってもいないのに一人で生きられないから保護してくれって。子供じゃないんですから」
「子供ならまだ、幾らかマシだったでしょう。理解してはもらえないでしょうが、私にはもう、気力がありません」
気力がない、か。
そういえば、前の世界にいたころ、自分が何らかの神病にかかっていないか調べていた(それを理由に學校をやめられないか考えていた)ことがあって、そのときそんなような神病、いくつか見たな。
この場合は、験生が勉強頑張りすぎて、大學にってから何もする気が起きなくなるってやつが酷くなったようなものか。
人の脳の働きは、意外と簡単に、それも不可逆的に変わってしまう。
それは、今の僕にははっきりとわかっていた。
そう考えると神病は、脳という臓の障害という點で、他の病気と同格であり、かつ判別しがたい上、それ故に治しずらい、非常に厄介な病気と言える。
リタさんのそれは、言ってしまえばニートになる原因の一つだ。なんて思うけど、実際それがただ怠けたいがためにそうなのか、病気によるものなのか、判斷するのは難しいだろうな。
リタさんの言葉は、今度はワユンの琴線にれたらしく、彼はムッとしていた。
「気力気力って、なんなんですかそれは? 自分が楽したいだけ、怠けたいだけの言い訳にしか聞こえないですよ」
「理解していただけなくて結構です。
の大切な機能が破壊されてしまうほどの努力と辱め、その果てに得た生き方です。悪いことだとは思いません」
「今度ははるかに楽なはずです。それでも、もう一度頑張ろうって気にはならないんですか?」
「なりません。いや、不可能なのです。私はきっと、野たれ死ぬことになっても、頑張ることはできないでしょう」
ワユンは睨み、リタさんは涼しい顔でただ見ていた。
「ワユン、そこまでに……」
「オーワさん、ちょっといいですか?」
聲をかけると、ワユンは僕の言葉を遮って、手を引き廊下へ出た。
戸を閉め、そこからし移して、こちらを振り返る。
「どうしたんだ?」
「オーワさんは、どうするつもりですか?」
真剣な顔だった。
アドラー伯に返す、という手がないわけじゃない。『王の力』なら、その程度容易だ。
けれど、リタさんは妄信的に信じていたけど、一度捨てたのだから、後々また同じように捨てることもあるだろうし、正直安全とは言い難い。
何より、返すことができるなんて不自然すぎる。変な疑いをもたれるのは嫌だ。
それに、アドラー伯からすれば自分の汚い行為を隠したいのだから、そのまま裏で処分、なんてことも考えられた。
それを防ぐこともできるけれど、やっぱ不自然すぎる。
ってなんか結局、自分のことばかりだな。
リタさんの幸福を考えてる風で、結局自分にとっての最善を考えてしまう。
無にいやになった。
無理やりにでも、アドラー伯のもとに返そうか。
「オーワさん、お願いがあるんですけど」
悩んでいると、ワユンが口を開いた。
「あの人のことは、私に任せてもらえませんか?」
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