顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く39

リュカ姉はアプサラスに運ばせ、マルコに連れられて階下に降りると、そこには巨大な育館のような空間が広がっていた。

避難してきた人がたくさんいて、育館と同じようにいくつか扉があり、その先へ通路がびている。

どこか懐かしい、近代的な造りだ。

いや、むしろ前衛的かもしれない。

外の文化水準を明らかに逸している。

あまりの大きさ、そしてかつて見慣れていたはずなのに、どこか現実味の薄い景に言葉がうまく出てこない。

「これは……?」

「防空壕だ。こっちに怪我人がいる」

僕がつぶやくと、マルコは言葉なにそう返して先へ進む。

どこか様子がおかしいな。

マルコはぶっきらぼうだけど、それでも説明はしっかりとしてくれるのに。

一番手前の、白くらかな材質の通路に出た。さらに進むと、先の部屋より幾分小さな部屋がある。

「こ、これは……」

さっきと同じ言葉が出たけれど、意味するところは全く違った。

腕を失った人。

腹部にをあけられてた人。

焼けただれていて、もはや原形すらとどめていない人。

そこには、地獄のような景が広がっていた。

所々でハイ・ピクシーが治癒魔法をかけているけれど、完治させるには力が足りていないようだ。

「頼む、治してやってくれ」

そういうマルコは無表だが、拳からは握りすぎてが出ている。

悔しいというが、発散されていた。

詳しく見るため見渡すと、中に見覚えのある顔がいくつかあった。

そして、カリファの姿も、あった。

「――――っ!!」

    確かに、カリファだが・・・。

あまりにむごくて、見ていられない。

「怪我人以外は、こちらに來てください」

部屋の中に聲をかけ、ピクシーたちを引き揚げさせる。

治癒魔法使いの一人がこちらを睨みつけ、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「何をバカのことを言ってるんだ!! 今は何にも置いて、一人でも多くの――」

「黙ってこいつの指示に従えっ!!」

マルコの凄まじい怒號が、それをかき消した。

アプサラスに命じて、魔法使いたちを外へ運ぶ。

「一刻を爭うんだぞ!!」

自由を奪われた治癒魔法使いたちの怒號を無視して、部屋全に治癒魔法のオーラを広げる。

これだけの數を一度に治癒するのは、無駄が多い。

ただでさえ、空間に霧散してしまう魔力が多くなるのに加え、個々で怪我の箇所も重癥度も違うせいだ。

軽癥患者にも重癥患者と同じだけの魔力を消費しなければならない。

はっきり言って、今僕がやろうとしていることは、愚かな行為だと思う。

治癒魔法使いの魔力は、下手すれば命と同等の価値になるのだから。

けど、それは僕以外がやる場合に限る。

治癒魔法発

魔力を湯水のように注ぎ込み、効率度外視の最高効果を求めた。

治癒魔法が発した瞬間、後ろの魔法使いたちからは怒號が止んだ。

    誰かの発した呟きが、ひどく大きく聞こえる。

「し、信じられん、こんな魔力……死ぬ気なのか?」

もちろんそんなつもりはない。

確かに膨大な魔力消費だけど、この程度なら何の苦もなかった。

ほんのし前までの僕には、こんなことはできなかったはずだ。

できたとしても、魔力の枯渇でぶっ倒れていただろう。

貿易都市で使った治癒魔法の數十倍ほども魔力を注いでいるのだから。

一分ほどで、全員の傷を治した。

続々と起き上がると、信じられないというように自分のを確認している。

「あんがとな、助かったぜ」

珍しくマルコがまじめな顔でそう言った。

「あぁいや、その、いいっですって、そんなの」

この人に紳士な態度とられると、調子狂うんだよ。

マルコはこちらを見ると、こっ恥ずかしそうに顔を背けて後頭部を掻く。

「人が珍しく禮言ってんじゃねぇか。素直にけ取りやがれ、アホ」

「そういうのいいですから。似合わなすぎます。それよりカリファのとこ行ったほうがいいんじゃないですか?」

「言われなくてもそうさせてもらうぜ。かわいくねぇクソガキだ」

マルコはぶーたれながらも、カリファのもとへ行った。

マルコの足元には、手から流れたが點々と垂れていた。

マルコが最後まで殘って戦ってたのは、悔しかったからなんだろうな。

マルコはカリファだけじゃなく、みんなを治してくれと言った。

きっとマルコは、同じ場所で戦ってるってだけで、仲間だと思ってるんだろう。

この前の時も、マルコは一人だけ大けがしていた。

オークキングとの戦いの時だって、なんだかんだ一番ボロボロになってたし。

マルコは暴だけど、仕事中に命令に背くような人じゃない。

仕事に関しては人一倍まじめで、判斷力も経験もある。

普段なら、あんな無謀な戦いはしないはずなんだ。

集団戦になれば、誰よりも先陣切って、最も危険なところで戦い続ける。

そういう風に戦えるのがかっこいいと思えた。

もしかしたら、今日僕が慣れない接近戦を挑んだのは、マルコに発されたからかもしれないな。

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