《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く49
    なんだ?
數が多い?
不自然にれのない足音。
金屬がこすれ合う音も聞こえる。
つまり、全を鎧で覆っているということだ。
冒険者のものじゃない。
ワユンも違和に気づいたようで、口のほうを向いた。
耳としっぽが立ち上がっている。
警戒している証拠だ。
ということは、敵なのか?
ワユンは五も鋭いが、何より敵意や悪意に敏だ。
いや、人のに敏というか、第六に近いものを持っている。
たぶん生來そういう才能を持っていて、さらにいころから長い期間人の顔を窺って生きてきたからについたんだろう。
高い共能力。
をじることができるように見える。
それは僕にないものだ。
僕のはいじめられる予くらいにしか働かない。
とにかく、だからワユンの反応は間違わない。
――敵。
だとしたら、外にいる冒険者は?
エリクは?
シャドウとバンシーを召喚し、マルコのほうを向く。
「どうした」
「敵が來ました。外が心配です。シャドウとバンシーをつけるので、裏口から様子を見てきてください」
「おい、どういう――」
「詳しいことはわかりませんが、もしも外で敵が暴れてるようなら町の人を頼みます」
マルコと目が合った。
戦いの音は聞こえていない。
外ではまだ戦闘が行われていないということ。
本隊はこちらだろう。
そして、冒険者が何もしないで素通りさせたということは、敵が人間であるということを示している。
いずれにせよ、地上は無事だと思う。
けれどそれは想像に過ぎない。
冒険者をまとめて、かつ保護もする。
大変な仕事だけどマルコなら問題ないだろう。
それに、エリクも外にいるしな。
なからず責任はじているだろうし、適任はマルコだ。
カリファとリュカ姉にはここにいる人たちの保護を任せたい。
納得してくれたのか、マルコはすぐに踵を返した。
「わかった。気をつけろよ」
「待ってください」
呼び止めたのはリタさんだった。
真剣な顔でマルコを見ている。
「私も行きます。……保護者ですから」
外が危険かもしれないということは、流れでじ取っているはずだ。
マルコは數秒にらみつけ、『ついてこい』とだけ言って走り出した。
リタさんはワユンにの子を預け、それについていく。
防空壕には抜け道がいくつかある。
部屋も多くあり、道も多く、防空壕というよりは地下にある小さな町に近い。
それでいて、空気がこもらないようにだとか、容易には崩れないようにだとか、様々な工夫が凝らしてあるようで、すごく快適だ。
よく考えると、やっぱりおかしいような。
これがどのくらいすごいのかはわからないけれど、外の建に比べていくらなんでもオーバーテクノロジーじゃないか?
まぁ魔法とかあるし、そんなに大したことじゃないのかもしれないけど。
「オーワ、何が起きてるの?」
「あぁ、ごめんリュカ姉」
っと、ぼぉっとしてる暇はないんだ。
すでに足音は迫っていた。
「敵が來たみたいだ。ワユンとカリファはその子を連れて、町の人たちを離れたところに導してくれ」
言いながらハイ・ピクシーを召喚して<増><群化>する。
ワユンが手をばすと、の子がしがみついてきた。
「やっ! おにーちゃんと一緒にいる!」
小さなから震えが伝わってくる。
いろいろ起きて混してるのだろうか。
いや、違う。
この子は何度も魔に襲われて、大切な人を失ったんだ。
なんども怖い思いをした。
だから無意識的に一番安心できるところから離れたくないんだ。
ワユンが僕から引きはがそうと手をかけると、の子はその手を振り払ってしまう。
ワユンは腰を落とし、の子に目線の高さを合わせた。
「おにーちゃんの邪魔しちゃだめですよ」
「こんなところでなにをしている、人族の敵」
ワユンの優しい聲と対照的な敵意に満ちた聲が同時に耳へ屆いた。
敵意は背後、正面り口の方向から。
    振り返る――
――ラインハルト。
鋭くこちらを睨みつけ、挑戦的な笑みを浮かべている。
王宮を守っているはずの、人族最大戦力の一人が、なぜこんなところに?
その後ろからはぞろぞろと鎧にを固めた兵士たちが出てきた。
鋭たちなのだろう。
一人一人のつきと言い目つきと言い、普通じゃない。
人族の敵という聲に、町の人たちがざわめく。
町の人たちの視線が集まるのをじながら、睨み返す。
「それはこっちのセリフだ。王都の守りはどうした? 魔人たちが迫っているんだろう?」
「ふん、犯罪者に教えることなど何もない。捕らえろ!!」
ラインハルトの怒聲に兵士たちがきはじめる。
「待ちな!! 私たちはこのオーワに救われたんだ!! 勝手は許さないよ!!」
リュカ姉が怒鳴り聲をあげ、大剣を抜いた。
カリファも魔法の構えをとる。
鋭であるはずの兵士たちが、いや鋭であるがゆえに二人の実力を見極めたのか、きを止める。
ラインハルトが眉を潛めた。
「なんだと?」
「あんたら王都の兵たちが見捨てたこの町を救ったのは、この子だって言ってんだよ! 人族の敵? この子は英雄だ!! みんな、そうだろう!?」
リュカ姉の言葉に、王國兵に対して怖がっていた町の人が徐々に賛同の聲を上げていく。
大きな閉鎖空間に響き渡る発したような聲は、すべて僕の味方だった。
なんか、ちょっと照れくさいな。
顔が熱くなるのと同時に、の奧で優しい熱が発生する。
突如、場違いな笑い聲が響いた。
「くっははは!! そうかそうか、貴様ら國賊を擁護するか。そりゃあいい、手間が省けたわ!!」
何が愉快なのか、ラインハルトは顔を片手で覆い馬鹿笑いをしている。
手間が省けた? 何を言っている?
笑い聲が止み――
――目が剣呑なを帯びた。
「離れてください!!」「粛清しろ!!」
僕の聲とラインハルトの聲は同時に響いた。
兵が一糸れず一斉に飛び出し、し遅れて町の人たちが我先にと逃げ出す。
カリファも町の人を守るため、それに合わせて下がる。
リュカ姉は戦闘態勢を取り、ワユンは必死での子を説得している。
けれど、の子はいまだ離れてくれない。
このままではワユンもろとも巻き込んでしまいそうだ。
   時間がない!
   一瞬の逡巡。
――しょうがない。
    いずれ、話すことだ。
最終決戦を、王の力抜きで戦うことなんてできない。
    無意識に食いしばられた歯が削れる音が口腔で響いた。
    恐ろしい力だ。人を思うようにれるなんて。みんなは、ワユンはこんな力を使う僕のことを、どう思うだろうかーー
     脳裏に、青ざめ、怯えながらこちらを見下ろす大人達の姿が過った。が抉られるような不快が発生する。
でも、やらなくては!!
王の力、発。
とたんに兵士たちのきが完全に止まった。
瞬き一つ許さない。
リュカ姉たちは混しているようだが、ワユンだけはこちらを見上げてきた。
    目をそらしたくなる。やってしまった。でも、必要なことなんだ。
「オーワさん?」
「ごめん、後で話すよ」
ワユンにそう返し、ラインハルトを睨みつける。
    敵のことだけを考えろ。
    まずは報収集だ。
やつだけは話すことを許した。
ラインハルトは笑っていた。
「くくっ、そうか。これが報告にあった謎の力か」
「黙って僕が聞いたことだけに答えろ。
お前らは何しにここへ來たんだ」
「……王をお連れした。ここへ避難していただくためにだ」
突然口がきけなくなり、と思えば口が勝手にく。
ラインハルトの眉がゆがんだ。
「避難? ここも魔に襲われていたことは知っているだろうが」
「この防空壕は古來より王族専用のものだ。神の技により造られている。破られることはないだろうと確信していた。
襲われていたとして、魔ごとき私たちの手にかかれば何の問題もない。ある程度は冒険者が間引いてくれているだろう。
まさか、完全に駆除したとは思わなかったが」
「さっきの、手間が省けたっていうのは――?」
ラインハルトが再び笑みを浮かべる。
「どうして知られたのかは知らんが、ここは王専用の、いわば最高機の一つだ。偉大なる祖先が殘してくださった、高貴な族のための施設。貴様ら下等な混ざりたちに許された場所ではない。なにより、王が敵を前に避難したなどと、他に知られるわけにはいかない。王はこの戦爭で英雄となるのだからな。
それに、備蓄もそれほど余裕があるわけではない。最低限戦える冒険者と安婦を殘して、後は消すつもりだった。當然、戦爭が終われば皆殺しにするが。
そこのどもは特にいい。せいぜい使い潰してやろう」
整った顔に下種な笑みが浮かんでいる。
あえてリュカ姉たちを指したのは、僕への挑発のつもりか、それともこれがやつの本なのかはわからない。
    どちらにしろ、気に食わないな。
「王が真っ先に避難するとは。まぁらしいといえばらしいのか。
だけどあんたまで來る必要はないだろう? 仮にも人の中で最も強い部類のあんたが。
魔人の強さを考えればそんな余裕ないはずだ」
「馬鹿が。王がすべてだ。ならば王をお守りするための戦力はいくらあっても足りん」
どうやら僕の『命令』に慣れてきたみたいだな。
なるほど、答えの中に含まれる無駄口や罵聲は制できないのか。
まぁそんなことどうでもいい。
ラインハルトはそれにと続ける。
「我々が魔族に負けるなど、萬に一つも有りえん」
なんだこの自信は?
つい最近ヨナ一人相手に壊滅寸前だったじゃないか。
今回はさらに多くの魔人が攻めて來るんだぞ?
「くく、困しているようだな。どういうことだって顔しているぞ」
「……どういうことだ? 教えろ」
僕の言葉に、ラインハルトの口が大きくゆがんだ。
目はかせないから口角だけが吊り上がり、異様だ。
――敵意。
だが、何ができる?
やつの部下も手足もすべて封じた――
「オーワさん!!」「こういうことだ!!」
――ワユンの悲鳴とラインハルトの怒號は同時に起きた。
直後、何かがはじけた音と強烈なに襲われた。
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