《マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで》顔出しNGが起こす災難 2
「いやー、焦ったなー」
 誰もいない廊下でつい聲が出てしまった。 先程それだけすごい事が起きたのだ。
 用を足し終わり、トイレから出たときにの子にぶつかったと思ったら、俺の顔を見るなり泣き出してその場に座り込んだと思ったら、最後におらしをしてしまったのだ。
 ある好きな人たちに言わせれば一種の“ご褒”とも言えるだろうが、流石に目の前で起こり、さらに原因が俺にあるとなると罪悪しか湧いてこなかった。
 それに俺の顔を見て泣き出したということは、間違いなく今被っているこのお面が原因だろうからな…  これまでずっと使い続けていたムンクのびのようなお面はだいぶガタがきていて修理に出したのだが、代わりにと水戸さんが用意してくれたのが、この見るのも恐ろしいホッケーマスクを被った殺人鬼のお面だった。
 あの有名な『31日の月曜日』という映畫の殺人鬼の顔そのままのお面で、なんでも撮影に使用したのレプリカらしく、やけに巧に作られていた。
 特にホッケーマスクの下の焼きただれたの部分とか、目の周りの管が浮き出ているじなんかがすごくリアルでまるで本と見間違えるほどだった。
 試しにと、自分でお面を被って鏡を見たが、これが自分だったと思うより先に、鏡に映った殺人鬼に普通にビックリして腰を抜かしそうになったほどだった。
 そんなお面を怖いのが苦手な人が見れば、軽く腰を抜かすことくらい用意に想像できたのに、俺はそれよりも自分の顔を出さないようにする事を優先してしまっていた。  その結果、どこの誰かもわからない可いの子に癡態を曬させてしまう結果になったのだ。
「でも、さすがに不味かったかなー… 」
 その場の咄嗟の思いつきで、その子の全に水を掛けておらしを誤魔化すことには功したが、きっと心に傷を負ってしまったに違いない。
  本當に悪いことをしてしまった…
 その後、その場に駆けつけてくれたスタッフたちには、クリーニング代の請求やその他何かあれば、『ガップレのユウ』まで連絡をしてしいと頼んだから、そのマネージャーなり事務所を通して連絡が來るだろう。
 その時に誠心誠意しっかり謝ろう。
 その前に水戸さんにも前もって話して置かないと… 
「戻りましたー… 」
 ガップレの控え室のドアを開け中にると、メンバー全員と水戸さんがすでに生放送に向けて準備を進めているところだった。
 「やけに長いトイレだったな、大丈夫か?」
 と、まず心配してくれたのは真純で、イヤホンを外しながら俺に話しかけてくる。
「いや、別のことでちょっとな… 」「ん?」
 真純の前で止まることなく答えると、俺は真っ直ぐ水戸さんの元へ向かい勢いよく頭を下げた。
「水戸さんごめんなさい!」
 そのままの姿勢で先程トイレ前で起こった出來事を、彼がおらししたことは省いて説明した。
 話し終える頃にはメンバー全員も俺の話を聞いていて、男子メンバーは落ち込んでいる俺を見ながら、手で口を押さえて必死に笑い出すのを堪えている。
 歩と水戸さんは薄な 男陣とは違い、俺の話をちゃんと聞いてくれていた。  やっぱりこの2人なら分かってくれると思ってたよ!!
「ふむふむ、それで簡単にまとめると、ユウくんがトイレからなぜかバケツに水をれて出てきて、そのの子と出會い頭にぶつかってしまって、その拍子にバケツの水を全部そのの子に掛けてしまった… ということでいいのよね?」「….はい」
 水戸さんに話をまとめられて気付いたが、突っ込み所が満載過ぎだよな。
「やっぱり… おかしい?」
 そう尋ねてみると、その場にいた全員が一斉に大きく頷いた。
「ですよね~… 」
《バン!!》
 という大きな音と同時に控え室のドアが開かれると、そこにはサイドポニーで髪のをまとめて派手な裝にを包んだの子が、凄い形相でこちらに睨みを利かせて立っていた。
「ユウってやつはどこだ!? 出て來い!」
  その場にいた全員がポカーンとしている中、その子は構い無しに控え室の中にってきて、一人一人の顔を睨みつけるように見回している。 
 「あの~… ユウってやつは俺ですけど… 」「お前か! さっき、うちのキアラに手を出したのは!!」
「「「え゛ッ!!?」」」
 大変だ…! この子が何を言っているのかさっぱり分からない…!
 “助けて”という願いを込めて、隣の歩と水戸さんを見るが、2人は何故か凄い形相でこちらを睨んでいた。
 真純はやれやれといった表で、義也はすっごく面白そうという顔をしていて、翔ちゃんはゲームしてる。
 このままでは俺の命が危ない…!!
 まずは目の前のこのの子が何を言いたいのかちゃんと聞こう! もしかしたら勘違いか、人違いかも知れない!
「お… 落ち著いて話し合おう、ね?」
 そう提案して、まずは彼を落ち著かせようと試みる。
 しかし、次に彼から出た言葉は、耳を疑うような衝撃の言葉だった。
「お前がうちのキアラに… その…トイレで… エッ、エッチなことをしたんだろッ!?」
《ズドーーーン!!!》
 その場に雷が落ちたような衝撃が起こり、全員がフリーズする。
 え゛ぇーッ!!? 無意識にエッチなことしちゃったの、 俺?
 あぁぁ… 
 水戸さんもミュアも、綺麗な顔が見る見るうちに鬼の形相へと変わっていく…
「ちょっとユウ? 一どういうことなのか説明してくれるかな?」「ユウくーん? よりにもよって、まさか《kira☆kira》のメンバーに手を出すなんて、あなた… どうなるかわかってるんでしょうねぇ?」
「ぁあ… えっ、えっと…一なんのことかさっぱり、で、その… 」
「「そこに正座しなさいッ!!」」「はいーッ!!」
 控え室の冷たい床の上で、俺は今怒れる3人の前で正座をさせられている。  そして俺の頭頂部に向かって代わる代わる大聲で怒鳴りつけてくるが、それが言葉なのか何なのかが、もう途中からわからなくなってきていた。
  一つだけわかったことは、先程トイレでぶつかったの子が《kira☆kira》のキアラということらしいということだ。
 まさか、あの世界的人気を誇るアイドルに水をぶっ掛けてしまったなんて…
  もしこれが世間に知れたら、《kira☆kira》のファンに夜道で後ろから刺されても文句は言えない。  もうここは意を決して床にり付ける勢いで土下座するしかないな… と、そう覚悟を決めた時だった。
「やめてくださいッ!!」
  ふいに陣から俺を庇うかのように、小柄なが目の前に現れた。
「お、え?」
 突然の出來事でけない聲が出てしまったが、今この場にそれを気にするものは誰1人いなかった。
 なぜなら、俺を背中に隠すようにして陣に向き直ったの子が、俺にトイレでエッチなことをされたといわれている人、《kira☆kira》の『星野 キアラ』だったからだ。
「これ以上、ユウさんを悪く言うのはやめてください!!」「どうしてだよキアラ!? なんでそんなやつを庇うんだよ!?」
 これは一全どういうことだ?  キアラが俺のことを怒ったり罵ったりするならともかく、どうして俺を庇ってるんだろうか?
 キアラがなぜ俺を庇ってくれるのかというアキラの問いに、俺がウンウンと大きく頷いてキアラを見上げた。
「皆さんは誤解をしています、ユウさんは私を守ってくれたんです!!」「だってこいつはキアラに水をぶっ掛けたんだろ!?」
「それは私を守るためにしてくれたことなんです! だから、どうかこれ以上ユウさんを怒らないでくださいッ!!」
 顔を真っ赤にして必死に俺のことを庇うキアラを見て、歩と水戸さんは次第にいつもの表に戻っていく。
「本人がそこまで言うのなら、もう何も言うことはありません」「私もそちらの事務所から圧力をかけられないのであればそれでいいのだけど」
 あれ? なんか俺、助かったのか?  いまいち狀況が摑めず、ポカーンと口が開いてしまう。
 歩と水戸さんも、キアラが必死に俺を庇っているのを見て、どうやら許してくれたみたいだった。
 しかし、アキラだけは未だに睨みつけるような鋭い目線を俺に向けてきていた。
 その視線から俺を守るようにキアラが間にってくれている。
 なんていい子なんだこの子は… 天使なのか? おらし天ッ… いかんいかん、邪念が…
「キアラ、本當なんだよな?」「うん、そうだよアキラちゃん… 」
「分かった。キアラがそう言うんならこれ以上は何も言わない… 」
 何も言わないと言いつつ、俺のことを睨みつけるのはどうなんですかね〜…
「ふぅ〜… 」
 とにかく危機は去ったようだ…キアラにちゃんとお禮を言って謝っておかないと…
「キアラちゃんありがとう、それとごめんね。 さっきは酷いことをしてしまって、謝罪もできずに…」「いえ! とんでもないですッ! 私の方こそ、恥ずかしい所を見せてしまって…  それにあんな大膽な方法で助けて頂いて、本當にありがとうございました!」
 そう言って深々と頭を下げるキアラ、くっそ~… なんて可いんだ!これがトップアイドルのポテンシャルなのかッ!?
 いつだか、アイドルはテレビの前で見るくらいが丁度いいとか言ってた自分を毆ってやりたい!
 この可いさと天使さは、ハイビジョンだろうが4kだろうが伝えきれない!
 何より、近頃【絶滅危懼種】に指定されたとまで思われていた“”というものが備わったパーフェクトガール!
 近に破壊神しかいない俺にとって、この可さは反則だぞ〜!
 俺は… 俺はこんな可くて良い子に水をぶっ掛けたというのか… 許せん! 自分が許せん!
 そうだ! 何かお詫びをしなければ!
「そっ、それでもキアラちゃんに水を掛けてしまったことには変わらないから… その、良かったら何かお詫びをしたいんだけど… どうかな?」「そんな! むしろ私がユウさんに何かお禮をしないと…!」
「いや、俺のことはいいんだ! それより俺がキアラに何かお禮をしないと俺の気がすまないんだよ… だから、クリーニング代を出すとか、何か俺に出來ることならなんでもするから!」
「えっと…じゃあ、私と… その… 付き合ってくださいませんか?」
「「「え゛ぇえぇーー!!?」」
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