《マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで》顔を隠してるのが気に食わねえ 3
 「皆さんこんばんわ、さて今夜のミュージックスタジオは一部放送を差し替え、急生放送でお送りしています」
「ねぇ? 今まで隨分長くこの番組のMCをやって來たけど、まさかこんなことがあるなんて、ねぇ?」
 いつも飄々としている大司會者も、今回ばかりは険しい表をしていることが、黒いサングラス越しにもわかるほど、今の狀況が前代未聞だということが伺える。
 その司會者とアナウンサーの隣には、何故か俺たち《Godly Place》のメンバー5人がこれまた神妙な顔つきで立ち並んでいた。
「それではお呼びいたしましょう! 遙々アメリカから來日した、オルタナティヴロックバンド《Ex》(イクス)の皆さんですッ!!』
 アナウンサーの合図と同時にスタジオ全の照明が落とされ、數秒間の靜寂に包まれる。
 次の瞬間、恒例のBGMとは違って、これでもかと歪ませたギターのハードなリフとデスボイスの大袈裟なBGMが流れ出すと、これもまた大袈裟な真紅の照明がスタジオを覆い、その中を縦橫無盡に緑のレーザーポインターが駆け回った。
「うわ〜… 悪趣味にも程があるよ… 」
 俺の隣に立っているヨシヤも、滅多なことでは引いたりしないのに、今回ばかりは顔が引きつっている。
 それはどうやらヨシヤだけではなく、俺を含めた《Godly Place》のメンバー全員が同じことを考えているようだった。
 そんな俺たちを他所に、大歓聲をけてステージ中央の階段から4人の男がまるで自分たちの姿を見せ付けるように、ゆっくりと階段を降りて來ていた。
「ねえユウ、本當にやるの?」
 ヨシヤとは反対側にいるミュアが、俺にだけ聞こえるように耳元で話し掛けてきた。
「俺だって不本意だが、こうなったらもう俺たちにはどうしようもできないだろ?」
「だけど…!」
「「「ワッーーー!!!」」」
 俺とミュアの會話を遮るように、スタジオの歓聲が一段と大きくなる。
 見ると、既に階段を降りきった4人のの1人で、金髪でツンツン頭ののイケメンが観客に向かって両手で『もっともっと』と煽るようなジェスチャーを送っているところだった。
「あの… えっと〜… 」
 勿論、その煽り行為は予定されていなかったことで、いきなり自由に行し始める《Ex》の金髪にアナウンサーも、一どのタイミングでMCをすればいいか困っている様子だった。
 そして、金髪ツンツン頭のイケメンはしばらく煽り行為を続けると、満足したのかニヤリと笑みを浮かべた後に困しているアナウンサーからハンドマイクを奪い取り大聲で話し始めた。
「よう、ジャパニーズ!!  お前らは本當に幸せ者だぜ。何せこんなに近くで俺たち《Ex》を見られるんだからなッ!!」
「「「ワーーーーッ!!!」」」
 大ロックバンドにありがちな超上から目線のMCをけて、観客たちは一斉に湧き上がった。
「信じられない… あんなこと言われてどうして歓聲が起こるのかしら…?」
「あれはね、ヘビーやパンク、メタルとかに有りがちなパフォーマンスなんだよ」
 全く訳がわからないという顔をしたミュアからの質問に、ヨシヤが俺の隣からを乗り出すようにして答えた。
 ヨシヤの言う通り、その手のバンドのライブでは良くある観客への煽り文句だが、そのノリを知らない人達にとっては、ミュアのように疑問を持つのは當然のことなのだろう。
 俺自、そういった音楽は嫌いではないが、どうも《Ex》のようなパフォーマンスは好きになれなかった。
 しかし、こうして観客が黃い聲援で応えているということは、日本でも広くこの《Ex》というバンドと、そのノリが浸している証拠なのだろう。
「「「ワーーーッ!!!」」」
 《Ex》の金髪が一言一言喋る度に、スタジオ全がまるで水を得た魚のように大きく騒めく。
 それは今まで俺たち《Godly Place》が験したことのない、桁違いな迫力のオーディエンスだった。
「そっ、それではここでシンフォニックパンクバンド《Ex》の紹介をさせていただきたいと思います…!」
「そーだね、それがいいと思いまーす」
 何とか冷靜さを取り戻しつつあるアナウンサーが、隣にいる司會者のハンドマイクに相乗りするようにして番組を進行させる。
 今度はアナウンサーの間髪れさせない《Ex》というバンドの怒濤のバイオグラフィー紹介に突した。
《Ex》(イクス)…
 アメリカを中心に活躍するオルタナティヴロックバンド。
 Vo. Gt. レオン
 Gt. ローズ
 Ba. ジョー
 Dr. リサ
以上の4人で構される。
 向こうでは超一流しかれないと有名なレーベル付きの音楽學校出で、それぞれの楽の腕前はプロといっても謙遜ない程だ。
 そして凄いのは《Ex》の曲だ。
 有名な作曲家たちが彼らに曲を提供していることもあって、どの曲も流行やニーズをよく取りれている。
 オルタナティヴロックという人を選ぶ音楽も《Ex》にかかれば、ポップスにも負けじと劣らない大衆けする音楽になってしまう。
 現に、彼らはデビューして間も無く、ビルボードランキングで全米NO1に輝いたほどだった。
「そして… 《Ex》の結話を映像でまとめましたので、そちらをご覧くださ…「そんなもんはどうでもいい!」
 アナウンサーが続けて《Ex》のVTRを流すためのフリを話し終える直前、《Ex》のVo.レオンから待ったが掛かった。
「どうして俺たちが、わざわざアメリカから日本へ來たのか分かるか?」
「いっ… いえ… 」
 またしても打ち合わせにない言と、高圧的な態度に、アナウンサーも揺が隠しきれず、あたふたしてしまっている。
 いつもミュージックスタジオの番組外で、「よろしくお願いします」と満面の笑みで挨拶してくれるアナウンサーを、この金髪イケメンが苦しめているのだと思うと、沸々と怒りが込み上げてくる気がする。
 俺がそれとなくお面の下から威嚇線を出していると、金髪イケメンはそれに気付いたのか、こちらに不敵な笑みを見せつけながら話を続けた。
「俺たちは《Ex》はな… こいつら《Godly Place》に借りを返しに來ただけだッ!!」
「「「ウォーーーーッ!!!」」」
 
 先程まで空気のような存在だった俺たちガップレに、スポットライトがこれでもかと強く照らしつける。
 右手でを遮るようにしながら何とか見えた景は、《Ex》の発言に沸くオーディエンスと、それを背に不敵に笑うレオンの姿だった。
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