《僕の前世が魔でしかも不死鳥だった件》エピローグ
全てが丸くおさまったというには、あまりにも派手な幕引きだったような気もする。
なくとも翌日にニュースになるくらいには近所迷極まりない発を起こしてしまった。
これで良かったのかと問われれば、我ながら同意しかねるかもしれない。
結局のところ、力で天使を黙らせたようなものだ。
脅しと何も変わらない。
ちなみに僕がこの方法を思い付いたのは、小學四年のときに絡んできたあのデカブツの橫暴な態度からだ。
まさかこんなところで役に立つとは、本當に人生とは分からないものだな。
「おはようございます、先輩」
「姫剎か、おはよう」
朝の學校で、僕は星河姫剎と挨拶をわす。
あの夜を越えて、僕と姫剎は普通の學校生活に戻っていた。
僕が姫剎に手を出すようなら容赦しないと言ったこともあり、日本にいる天使たちの間で僕たちは討伐対象から外れたそうだ。
その報を教えてくれたのは、なんと優希姫の両親だった。
どうやら二人は初対面のときから僕が不死鳥であることと、この現代の天使たちでは手に負える存在ではないことを見抜いていたらしく、要監察の形をとっていたらしい。
現代の地球という世界には神は実在しておらず、天使の數も世界中からかき集めても千人に満たないという話だ。
到底、僕に対抗できる勢力が揃うとは思えないな。
それと赤城夫妻はこうも言っていた―――自分たちは天使である以上、元が神に當たる僕とは敵対したくない。
いずれ優希姫にもそう伝えるつもりだったらしい。
正直、話の分かる人たちで本當に助かったと思う。
そして、その優希姫だが。
「赤城先輩、今日も學校お休みですかね?」
「さあ、どうかな……」
優希姫はあの日から一週間、ずっと學校を休んでいた。
「やっぱり、私がいるからでしょうか。赤城先輩、魔のこと凄く嫌いしてる様子でしたし」
「それを言うなら僕も同じだが、まあそんなことはないだろ。今はまだ、いろいろと心の整理も必要なんだよ。本當に、今回は辛い思いをしたからな」
複雑に絡み合った糸。
どうにか解いてはみたものの、やはり疲労のは殘る。
「まあ、そのうち出てくるだろ」
「はい……」
そう言って姫剎と分かれてった教室。
その日もまた、最後まで優希姫の姿はなかった。
夜。
僕は以前と同じように、不死鳥の姿で大空を散歩するようになっていた。
この不死鳥の姿に、力に、救われた。
あんなことになって、本當に自分たちの運命を呪ったが、今ではこれで良かったように思う。
この力に絶して、この力に救われた。
僅かな繋がりを守ることが出來たんだから。
早いもので、明日にはもう三年の卒業式だ。
あのお姫様はいつになったら學校に出てくるのやら。
でもまあ、心配はしていない。
なぜなら……………、
バサッ、と翼が羽ばたかせた音が聞こえた。
僕じゃない。
僕の真橫、いつの間にか並ぶように飛んでいた天使の翼だ。
「こんばんは、優希姫……」
そう、赤城優希姫だった。
「こんばんは、夕月。相変わらず深夜の徘徊とは不良っぽいねぇ~~」
微笑を浮かべながら軽口を叩く彼は、あの日を境にし大人びたような気がする。落ち著いたというか、そんな雰囲気だ。
だからといって距離が遠くなることはなく、むしろ近くなったような気がしていた。いつも隣にいた彼だが、最近ではどこか寄り添うように近づいてくるからだ。
それと、毎度の夜の散歩も見ての通りし趣向が変わった。
夜に空の散歩をする僕を地上から見つけては、天使モードで自分も空に上がってきて一緒に飛ぶ。
まさか誰かと一緒に空を飛ぶとは、前世の世界でも思わなかったな。
「學校にも來ず夜出歩いてる優希姫の方がよっぽど不良染みてるだろ」
「アハハ、そうかもね」
こいつ、笑ってるし。
大人びてもこの屈託の無い笑顔は変わらないらしい。
「さっさと學校出てきたらどうだ? まだ僕たちのことを気にしてるのか」
「まっさかぁ~、もう気にしても仕方がないでしょ? 夕月が力盡くで全部黙らせちゃったんだし、夕月に勝てる存在はこの世にいないも同然だしね」
「まあ、な」
「おまけにお父さんもお母さんも夕月のこと始めから知ってて手を出さないようにしていたって言うし、もう何が何だか分からなくなっちゃったよ」
「実際、先週はいろんなことがありすぎたからな。僕もかなり混してたし、迷ったり後悔したり自己嫌悪になったり、言い出したら切りがないくらい頭の中がグチャグチャだったよ」
「うん……それは、よく分かるよ……」
「どうにかして優希姫を、姫剎を、この日常を繋ぎ止めたいって必死で、苦しくて、生まれて始めて涙まで流した」
「……………」
「でも諦められないから、足掻いて足掻いて、どうにか立ち上がって、優希姫のところまで行ったんだ」
地上に見えるあの城に。
僕と優希姫は旋回すると、高度を下げ、あの夜と同じようにその場所に立った。
僕が不死鳥の姿を解くと、優希姫も天使から人間の姿に戻った。
「ここしかないって思った。優希姫との全部に決著をつけるには、優希姫との繋がりを留めるには、始めて君と話したここしかないって………」
「そう、だね。ここは、私たちの始まりの場所だもんね………」
「ああ、だから繋ぎ止めれた。あの天使たちに囲まれたとき、優希姫の辛そうな表を見て、僕は絶対にあの日々を取り戻そうって、思えたんだ」
だから今、僕たちはここに並んで立っていられる。
「うん。私はあのとき、もうダメかと思って、今にも壊れちゃいそうで、怖かった。失いたくなかったから、ずっと一緒にいたかったから、終わりそうになったときも本當に凄く、怖かった」
優希姫の目に涙がたまっている。
今でもまだリアルにじる、あの苦しさはそれほどのものだった。
「ありがとう、夕月。本當にありがとう……」
「禮を言われることはしてないよ。僕が誰よりもそうしたかったんだから」
「ううん、私が心から願ってたものを守ってくれた。助けてくれた。繋ぎ止めてくれた。生きていてくれた。この場所に來てくれた」
本丸の前の桜の木を背に、優希姫は涙と笑みが混じった表で謝の言葉を繋ぐ。
「傍にいてくれて、隣にいてくれてありがとう、夕月……」
その笑顔に呼応するように、桜の木々が花を開かせて、
「大好き……」
その言葉と共に、花びらがしく輝く。
願わくば、こんな日々をずっと、いつまでもと、僕の心に思い描くように。
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