「著きましたよ」

灰がかったアパートの目の前に來て俺は可憐にそう告げる。

「ここが直斗の家？」

「そうですよ、てか、いつから“くん”付けるのやめたんですか？」

「なんか長ったらしかったから」

「そうですか」

二階に上がり1番近くの扉までやって來た。

鍵を開けカチャっと音が鳴りドアノブを捻る。

ると中からは黒いモコモコしたが「わんわん！」と吠えて駆け寄って來た。

「めるちゃんただいまー」

部屋にった可憐は、ニコニコしている。理由は我が家のアイドルが原因だろう。俺以外に懐かないという予想とは相反しめるちゃんは可憐にをスリスリし、そのめるちゃんを「かわいいわねー、初めまして〜」と言いながらでていた。し嫉妬する。

「ここでくつろいでいてください」

居間までり俺は座れと掌を機の方に向けた。

「ありがと」

俺に促された場所に可憐は座った。座ったと同時に我が家のアイドルも可憐の膝上に乗っかった。ポメラニアンとプードルの雑種のアイドルは小型犬だ。彼の華奢な膝の上でもくつろげるスペースを確保している。

「親さんはどうしてるの？」

可憐は部屋をキョロキョロしながら聞いて來た。

今日心から部屋を綺麗に保っといて良かったと思った。

「訳あって1人暮らしなんすよ」

「そう」

それ以上は聞いてこなかった。

可憐は、めるちゃんをでながら機の上に乗っているテレビのリモコンに手をつけ電源ボタンを押した。

その姿を見て遠慮しないなとか思ってしまう。

しかし、電源ボタンを何度も押しても我が家のテレビはつかない。

「あら、電源れてないのね、節約してるの？」

テレビのコンセントを探すため可憐は四つん這いになった。その姿を後ろから見ていた俺の電源はしっかりオンになっていたが引かれたくないので目を逸らした。

「まー節約ってじですけど普段あまりテレビ見ないんすよ」

「そうなの、見たいテレビあるからつけるわね」

「どうぞ」

電源をつけた可憐は再び座り直しチャンネルをポチポチと切り替えている。

今日は月曜日、もう9時はとっくに過ぎ9時45分を回っている。9時から始まるドラマを見たとしても終盤に差し掛かっているため見るとは考えられない。何を見るのだろうか。この人のことを本當に知らない俺にとってはし興味があった。しかし俺はやることがあるので脳みそを切り替えた。

「俺風呂沸かしてくるんで」

「お風呂れてくれるの？」

し驚いたように可憐がこちらを振り向く。

「ついでっすよ」

ついでというのは噓だ。いつもは水道代を節約してシャワーで済ますが今日はさすがに節約してるんでシャワーでとは言えなかった。相手が男ならそう言っていたが子となれば話が違う。

風呂を洗う。

ゴシゴシゴシ！！

學校１の人の先輩を風呂にれるのだ。腕が痛くなるほど浴槽をらかめのスポンジでった。

一通り洗いお湯を張る。

完全にれる狀態になるにはし時間がかかる。

俺はリビングに戻りキッチンに向かい冷蔵庫から何か食べれるを探した。

今日學校に忘れたお弁當が眠っていたがこれは明日學校に持って行って食べよう。

「可憐さん、そういえば何食べたいんでしたっけ？」

質問をしたっきり答えを聞いていなかったことに気づいた

「…オムライス」

下を俯きながら呟くように可憐は言った。その聲音は消えそうでとにかくもうめちゃめちゃ可い。あれだ萌えってやつだ。

しかし殘念。

「材料見るじ野菜炒めと味噌しか作れないっす」

「じゃー聞くな」

恥ずかしそうな顔をこちらに向けて來た。

食材を切ったり炒めたりしていると橫のパネルが「お風呂が沸きました」と二回繰り返して伝えて來た。

「可憐さん、お風呂ってください」

「男の子の家のお風呂なんてった後に何するかわからない」

くそ。読まれてる。

「俺シャワーにするんで」

「約束ね」

はぁ、と殘念というため息を小さく吐く俺の橫を通り可憐は風呂場に向かった。

「タオルは洗濯機の上に置いてあります」

「分かったわ」

「それと寢間著俺のやつ貸しますんで今日はそれで我慢してください」

「うん」

その橫顔はし赤くなっていた気がする。

俺のこの人に対してのイメージとしてはもうこういうのは慣れていると思っていた。學校でNo. 1の可憐はきっとお付き合いなどの経験が富だと予想していた。しかし今の表を見るとそのイメージは崩れかける。

野菜炒めと味噌が出來上がった。さすがにご飯は冷凍のを解凍して茶碗に盛り付けた。

そのタイミングで可憐が出てきた。白のラインがったジャージの上に灰のスエットを著ている。というか著させたと言った方がいいのかもしれない。そして俺はあることに気づく。

風呂にる前と後では顔が変わっていなかった。

「可憐さんって今洗面所で化粧した？」

「してないわよ、學校はすっぴんで行ってる」

「噓だろ」

整い過ぎだろ

「ホントよ、てか化粧品持ってきてないし」

可憐は家出中だ、財布を置いてきたくらいだから化粧品なんて持ってくるはずがな

い。

「それより」

「なんすか？」

下を俯き、可憐はしじろぎ消えそうな聲音で呟いた

「………著。どうしよ」

「ん？」

「下著どうしよう！」

その顔は真っ赤だった。てか俺の方こそ真っ赤になっていた。つまり今その、俺のジャージに直に著ってことだろ？そんなことがあっていいのだろうか。

「てことは直？」

「な、なわけないでしょ！さっきの履いてるわよ！」

「ですよね」

俺があからさまに肩を落とすと可憐は「殘念そうにするな！」と叱ってきた。

俺は可憐にお金を適當に渡しコンビニで買ってくることを促した。

最初は一緒に行こうとしたのだが、可憐に睨まれたのでここはシャワーを浴びて待つことにした。

可憐がコンビニに向かうために家の扉を開け、俺は夕飯にラップをかけ風呂場にった。

浴槽からもくもくと登っている湯気を見て俺はさっきまであの人がっていたのか、と頭の中で考えてしまい、ゴクリと唾を飲んだ。

「あほか。」

そんな貞臭いことはダサい。貞なのだが。

貞は心を鬼にした。

「てかシャワーじゃついでじゃねーじゃん」

文句を呟くが俺の口角は上がっていた。

それは俺が興してるとかではなく、いつもなら全て１人なのに今日は２人ということに多なりとも幸福をじていたから。