《異能があれば幸せとか言ったヤツ誰ですか??》起床
「んぅ……ふぁぁ……」
ベッドの上、間抜けな聲をらしていたのは塚田コウジだった。
昨日、初の出撃で溜まった疲れをシャワーで洗い流した後、けるように眠りに落ちてしまったのだ。そこで、異変に気づいた。
コウジは1人部屋である。しかし、何者かの気配があるのだ。警戒しながらダイニングを覗く。
そこには小柄な人影が見けられた。
するとその人影は、振り返りながらこう言った。
「遅いわよ。早く支度すませなさい」
振り返り、面を確認して理解した。炎のような赤い瞳。肩までびたブラウンのツインテール。
「城嶺……!?」
彼の名前は城嶺ヒカリ。危機に瀕していたコウジを救った人であり、昨日コウジが救った人だ。
「城嶺…っ!な、なんでお前がここに……?」
眉を寄せながら、ヒカリに尋ねる。
「見てわかんない?」
ヒカリはそう言いながら、自分の手元に視線を落とした。
その手元には包丁が握られており、ヒカリの背後にはまな板と、等間隔で刻まれただし巻き玉子があった。そして、その隣には二つの弁當箱が見えた。
「……えっ?」
コウジの頭の中で様々な仮説が頭を巡った。
もしかして、今までの習慣が強く浸しすぎて、亡き母親の分まで作ってしまったのか?
だが、答えはヒカリの口から告げられた。
「コレ、アンタの分よ。口に合うかは知らないけど」
ヒカリはそう言うと、慣れた手つきでだし巻き玉子を弁當箱に盛り付け、蓋をし、箸箱を乗せ、ランチバックにそれをれた。
そして、それをコウジへと差し出した。
「あ、ありがとう……」
戸いながらも謝の意を述べ、その弁當をけ取ろうとする。
だが、ヒカリの手からランチバッグが離れなかった。否、彼が強くそれを握り、話そうとしないのだ。
「あの……城嶺?」
コウジが聞くと、ヒカリは靜かに答えた。
「アンタさっき、アタシのこと『お前』って呼んだでしょ。昨日も」
「あっ……。ごめん」
そう。彼は『お前』と呼ばれることをとことん嫌うのだ。
「いいわ。許す。でも、今度からは……その…」
ヒカリが口籠る。そしてし間を置き、続けた。
「『ヒカリ』……って呼んでよ…」
顔を赤くしながら、照れ臭そうに。その様を見て、コウジは微笑んだ。
「わかった。ありがとな、ヒカリ」
「う、うん…」
「俺のことも、『コウジ』で良いよ」
「ふふっ。よろしくね、コウジ」
ヒカリは眩しい笑顔で、そう言った。と、そこでコウジのケータイ電話から黒電話のような音が響いた。
しかしそれは、著信音ではない。
目覚まし機能のアラーム音だ。
「やべっ!もうこんな時間か!急がねえと!」
慌てて著替えを始める。
それを見ていたヒカリは、
「じゃ、アタシは先にいってるね」
とだけ殘し、ヒラヒラと手を振りながら家を出てしまった。
「えっ、ちょっと。待ってよ…ねええええ!!」
コウジのびは、淋しく自分の鼓に返るのみだった。
三十分後、教室には肩で息をするコウジと、それを笑う真紅の髪の年、平佐名レンタがいた。
「いやー、危なかったね。塚田くん」
「ああ、ホントにな」
あの後、支度選手権で自己ベストを塗り替えたコウジは、既の事で遅刻を免れたのだった。
靴下の裏表を逆で履いた時は絶したな…。
そんなことを考えていると、背後から聲がかけられた。
「塚田、城嶺。昨日の事で話がある」
毅然とした聲で名前を呼んだのは、長い黒髪を後頭部で一つに結えた長の。鵞糜がびサナエである。
サナエは、ヒカリとコウジの2人の顔を見やると、手招きをして、ついて來るように促した。
コウジとヒカリは、お互いに目を合わせると、どちらからともなくサナエの背を追った。
そして、同時に察していた。
恐らくは、出撃でコウジが勝手に拠點の変更を頼んだことだろう。
サナエは教室前の廊下へ出ると、すぐに足を止めた。
続いて二人も足を止める。すると、サナエは二人に向き直り────。
「すまなかった!!」
謝罪した。『え?』
その予想外な行に、二人は困のを示す。
「か、顔をあげて!なんで謝るの!謝るのはアタシたちよ!」
「いや、こうせねば我の気がすまんのだ」
「な、なんでだ……?」
コウジは首を傾げながらサナエに問うた。
「浜曷先生から話は聞いた。城嶺の母上が亡くなったそうだな。そんなことも知らず、無神経な指示を出してしまった。私の落ち度だ。すまない」
「い、いいのよ。私の未さが招いたことだし、お願いだから顔をあげて?」
「そうだ。それに、拠點の変更を頼んだのは俺だ。俺が責められるべきなんだ」
頭を上げないサナエを、コウジとヒカリが宥める。
すると、サナエは顔を上げ、二人に微笑んだ。
「ありがとう。寛大なんだな」
「いや、コレで鵞糜を責める奴がいたら、ソイツは本當に頭がおかしいぞ…」
額に汗をにじませながらコウジが言った。
「まあとにかく、あなたには迷をかけたわ。何か手伝えることがあったら、いつでも呼び出してくれて良いから」
ヒカリがそう言うと、サナエが「それなら……」
と話を切り出した。が。
「はーい。授業始めるぞー、席に著けー」
と、理教諭が教壇の上で言った。
殘念ながら、話はまた後になりそうだ。
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