三秒ほどの呼び出し音の後、その聲は聞こえてきた。

「もしもし。うむ、早速依頼か？」

落ち著いた低めの聲だった。聲から判斷するに20代くらいの男か。

「あなたですか？　このり紙をしたのは？」

相手の問いに答えず、私は問い質した。

「ああ、そうだ。私以外に誰がいるというのだ？」

相手はあっさりと白狀した。私は更に問い質す。

「ここがり紙止の場所だと分かった上でこんなことをしているのですか？　だとしたら何が目的なんですか？」

「フッ……。そのような細微なこと、気にするな。重要なのは、アンタが私に電話をしてきたことだ」

——何を訳の分からないことを……。

私が電話をしたことが重要？　話を逸らされた気がしてならない。

そう思う私などお構いなしに男は話を続ける。

「とにかく、今は電話で長くは話せない。詳しい話は落ち合ってから話そう。三丁目にある駅まで來ることは可能か？」

「え……。ええ、別に大丈——」

「そうか、なら早く來い。あそこでも長居は出來ないからな」

私が言い切る前にそれだけ言って向こうから電話を切った。

文句を言う暇さえ與えてはくれなかった。しかし、彼と會う約束が出來た。そこで面と向かって彼に忠告しよう。

私は駅へ向かおうとした——とその時、私のスマホが著信音を鳴らしながら揺れだした。

非通知だった。

けど電話の相手はあの人だろう。私は躊躇わず電話に出た。

「私としたことが聞き忘れたことがあった。アンタの外見の特徴を教えろ。見つけたら聲を掛けよう」

それは私もうっかりしていた。相手の姿も分からないで駅へと向かうところだった。

私は自分の特徴を簡単に伝えた。

「ふむ、長い黒髪に丸い縁の眼鏡……、そして今は四高高校の制服を著ている……と。分かった」

そう言い相手は電話を切った。

私は待ち合わせにおいて相手を待たせるのは嫌いだ。

急いで駅へと向かった。

しかし何か引っかかる。電話越しに聞こえてきたあの聲——どこかで聞いた気がしてならなかった。

いや、考えても仕方がない。今は駅へ赴くことが先決だ。

程なくして私は駅前に著いた。

彼が指定した駅は、この時間だというのに全く人の気配がない寂しい無人駅だった。

このような場所で待ち合わせるなら別に私の特徴を聞かなくても良かったのでは？

「ふん。ようやく來たか、アンタだな？」

と、突然後ろから話しかけられた。きっと私をここまで呼びつけた電話の主だろう。

私は振り返った。

「あ……！　あなたは！」

「ふむ。やはりアンタだったか……」

彼の容姿を見た途端、引っかかりが解消した。

目の前にいたのは今朝、私たちのクラスを一瞬にして気疎い雰囲気に支配した黒づくめの転校生。

山田くんだったのだ。