《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第8話 依頼完了
次の日、私はいつもの時間に起床し、いつもの時間に朝食を食べ、いつもと同じように支度をし、いつもの時間に家を出て、そしていつものように學校へ登校した。
けれどその日はいつもと違うことがあった(齟齬そごが生じるので訂正すると、いつものようになるようになった筈のことである)。
それは、先生の朝のホームルームでの一言だった。
「ええ、昨日転校した山田だが、昨日の夕方頃連絡があって、誤って紫外線を浴びてしまい治療のためニ、三日欠席をするそうだ。非常に心配だ。皆も彼のことを労わるように」
そう、山田くんが學校を欠席したのだ。
夕方頃——きっと私と別れた後に先生に電話でそう伝えたのだろう。
だが私は彼のその行を不審に思った。
何故なら私は昨日彼から持病など持っていないと直接聞いており、噓だと発覚しているからだ。
十中八九、治療のための欠席というのはデタラメだろう。なら、彼はどうして欠席をしたのだろう?
でも、そんなこと考えたところで答えなど出ない。家庭の事で急用でも出來たんだと思っておこう。
そう決めつけて、私はいつものように學業に勤しんだ。
そしていつものように學校が終わり、私は先生から今日渡された授業のプリントやホームルームで渡された連絡用のプリントを山田くんに屆けるように頼まれた。
しかし私は彼の自宅の場所は分からない。なので、攜帯に殘っている履歴から彼に電話を掛けた。
しかし電話は繋がらず、留守電になってしまった。何度掛けても彼は一向に出る気配などなかった。
それ以上は迷になると思い、仕方なく留守電に配られたプリントは私が責任を持って預かる旨を伝えた。
それからというもの彼は、本當に二、三日學校に來なかった。正確に言えば、三日間。
そして依然、彼から連絡は一切ない。
私のクラスではその話題で持ちきりだ。かたやそれが原因で転校を繰り返しているんじゃないかとか、本當はずる休みなんじゃないかとか、々な噂が飛びっていた。
私も気になっている。彼の持病が噓と知っているだけに尚更である。
一度は彼を見直したりもしたけれど、どうやらまた疑わなければならないようだ。
放課後、私は彼にまた無視をされることを承知の上で、彼に電話を掛けてみることを決めた。
攜帯を手に取り、履歴畫面から番號を力しようとしたその時、電話が著信音を鳴らした。
相手はなんと山田くんからだった。見計らったようなタイミングだったので私は狼狽ろうばいしてしまった。
落としそうになりながらも、私は電話に出た。
「うむ、待たせたな。アンタのおみ通りになったかどうかは拝見してからのお楽しみだ。三日前の空き地に來い、なるべく早くな」
「え、ちょ、ちょっと——」
ブツッ!
相変わらず、用件を言うだけ言ってさっさと電話を切ってしまった。
み通り? 何のことだろう……。
…………あ。もしかして、三日前に私が適當に流したあの依頼のこと? ということは、病気で休んでいる訳でも、家庭の事でもなく、私の依頼のために學校を休んでまでアクセサリーを選んでくれていたってこと?
私は、な、なんて事を……! 彼に謝らなきゃ……。
許してもらえないかもしれないけれど、彼には誠意をもって謝罪しなければならない。
私の下らない依頼なんかのために勉強する時間を割いてまで一生懸命探してくれていたなんて。
先ほどまで彼を疑っていたのに、私はもう彼を見直してしまっている。これ以上私の気持ちを弄ばないでほしい。
最近どこかへ移する時、何かを考えているうちに目的地に到著しているのことも多くなっている気がする。
例のごとく気が付いたら目的地に到著している訳なのだけれど。
そこには、空き地の塀にもたれ掛かり腕組みをして待つ彼がいた。表は分からないけれど、不機嫌になっているのはトントンしている指のきを見れば明らかだった。
「遅いぞ。私は待つのが嫌いなのだ。電話を切ってからアンタがここに到著するまで十二分が経過している。私の世話をしてくれるのであれば、私の格くらい理解していただけるか? 委員長さん」
三日ぶりに聞いた毒舌も清々しい。そんなに長い間彼と會っていなかった訳ではないのだけれど、そんな風にじてしまうほど私は彼に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
——早く彼に謝らなければ……。
わたしはそう思い、彼が立っている空き地の隅まで向かい、頭を下げて謝った。が、
「ごめんなさい!」「済まなかったな」
それと同時に彼も謝ってきたのだ。
「え、どうしてあなたが謝るの?」
「ああ、本來なら二日もあれば完遂させられる行程だったのだが、計畫やら移やらに時間が掛かってしまい今日になってしまった。それに対する詫びだ。あとそのセリフ、そのまま綺麗なリボンでラッピングしたプレゼントボックスにれてお返ししよう。
アンタこそ何故謝る? 私は忠実に依頼を遂行してきたのだ。謝られるような過ちはしてないぞ?」
「ええっと……、それは……」
私は彼に謝罪の意を込めて逐一説明をした。
私がした依頼はただの悪ふざけだと。本気にしていなかったのだと。
「何……! それでは私はアンタに試されていたということなのか? むう……、甘く見られたものだ」
「ごめんなさい。別にあなたを試した訳じゃないのだけれど……」
「アメリカまで行ったのは……とんだ骨折り損だったということか」
私は耳を疑った。いま彼は何と言った?
——アメリカ……?
それがもし本當だとしたら、彼はこの三日間アメリカに行っていたということ? 日本からアメリカまでなくとも片道半日くらいは掛かる。
私のアクセサリーを買うためだけにわざわざアメリカまで行ったの?
私はますます罪悪に駆られた。往復路で合計一日を費やし、殘りの二日間でアクセサリーを探していたのだ。
彼の行力には恐れったが、まさかそこまでしてくれていたなんて。こんなことなら依頼なんてないから、こんなふざけた事は止めなさいと注意しておけば良かった。
「何で私のためにそこまでしたの? アクセサリーショップなんて、そこら辺にあったのに……」
「何を言っている? まさかアンタ、私がアクセサリーを買ってきたと思っているのか? そんな金をドブに捨てるような事、する訳がないだろう」
いや、アメリカへ行くための移費の方がよっぽど掛かっている気がする。むしろ前者の方が安上がりで済んだのでは?
その前に、またしても彼は聞き捨てならない事を口走った。
「えっ? 買ってきたんじゃないの?」
「買う訳ないだろう。それではアメリカまで赴いた意味がない。とにかく、私は依頼を遂行した。コレをアンタが後はどうしようが、煮るなり焼くなり好きにするといい」
と言いながら彼は足元に置いてあったジュラルミンケースに手をかけ、手がギリギリるくらいに開け、しばらくごそごそと何かを手探りで探した後、「あったあった」とその探しを取り出した。
「け取るがいい。骨折り損だと言ったが、疲れたのは飛行機での移くらいで、後は依頼というのも烏滸おこがましいほど容易いものだった」
片手でそれを抱えながら言う彼だったが、そのような扱いがとてつもなく雑で恐れすらじるほどだった。
彼の手に握られていたのは、並みの寶石店ではまずお目にかかれないであろう——極大のダイヤモンドだった。
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