《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第31話 作戦會議
現在時刻は午後十二時半。朝から々な事が起こっているけれど、時間の進みが何故か今日は極端に遅い気がする。買い出しに行って帰ってきた時も大して時間が掛かっていなかったし(買い出しに向かったコンビニエンスストアが近かったというのもあったと思うけれど)。矢の如しという言葉も形無しと言ったじか。
取り敢えず私は近所にあるコンビニエンスストアにて無難にミックスサンドとカフェオレを三人分買ってきた。臆助くんは本當に喜んで味しそうにサンドイッチを頬張っていた。影山くんは包帯で無造作にぐるぐる巻きになった片手を使い一応食べてはくれたけれど「次からはレタスサンドと珈琲を所する」と言ってきた。何でもいいと言ったくせに……。
晝食を食べ終えた後、彼は早速現像した寫真と寶石店の見取り図らしきを機の上に広げ、聲高々にこう宣言した。
「よし、腹ごしらえもそこそこに、サンドイッチだけに三度(サンド)目の正直だ。これより、寶石店強盜の作戦會議を開始する!」
「…………」「…………」
「さて……早速プランをだな……」
「ちょっと待って! 勝手に先に進もうとしているけれど何なの今の一言?」
「海野さん、放っておいてあげましょうよ。奇鬼さんはこの張した空気を和ませる為にわざと慣れないダジャレを言ったんスよ。でも空振りだったみたいッスが……」
「うう……それも一理あるね。でも私がサンドイッチ買って來なかったらあんなダジャレ言えなかった訳だから多分咄嗟に考えたんでしょうね。面白いと思って……」
「お前ら……、ヒソヒソと話しているつもりだと思うが全部聞こえているからな……」
その後臆助君と二人揃ってお叱りをけた。何故私達怒られなければならないのか意味不明だったけれど取り敢えず彼のほとぼりが収まるまでジッと彼の説教を聞き続けた。
「ゴホンッ ︎ さあ……プランは大きく分けて……二つだ! 派手にやるか、かにやるかだ!」
一つ大きな咳払いをする彼は怒りすぎたのか疲れているようにも見えた。し休んだ方がいいじにも見えたけれどもうこれ以上會議を中斷させるようなことは出來ない。それこそ本當に日が暮れてしまう。
「因みに私は、かにやることをお勧めしよう。理由は単純、派手にするのは嫌いだからだ。そもそも三人で馬鹿みたいに強行突破するなど以ての外。無勢もいいところだ」
「俺っちもその方がいいッス! だって俺っちパソコンの事以外はてんで駄目なんで……。これではせっかくお呼び頂いたのに足手まといになっちまうッス」
「これで二対零だな。もう訊くまでもないと思うが、あんたはどちらを取るんだ?」
多數決で決まった事が絶対に正しいとは限らないけれど、今回の場合は確かに影山くんの言う通り、たった三人で、しかも未年が真正面から強盜をするなんて市に虎を放つようなものだ。それ以前にその方法だと私が四ページに掛けて行った盜撮の一部始終が全て無駄になってしまう。それだけは勘弁してほしい。
「う~ん、私も後者かな。派手にやっちゃうと顔を隠してたとしても聲紋か何かでいつかはバレると思うし、しでも警察の捜査が難航しそうな隠行にしたほうがいいと思うよ」
「フン……、あんた、これから犯罪を犯すと言うのに隨分と適切な判斷を下すじゃないか。助手としてはいいかもしれんが、委員長としての立場はどうなるのだろうな?」
「ここは學校じゃなくて影山くんの部屋でしょ? だから今はクラスの長たる委員長じゃなくてあなたの助手。ご理解頂けた?」
ムウ……、と不服ながらも彼は私の意見を聞きれたように低く唸った。
「では、満場一致で作戦の方は隠にやるという事でいいか? 異議の申し立ては今からなら聞いてやってもいいぞ? 但し、聞くだけだ」
「異議無しッス!」
「右に同じだよ」
「ウム……、次は準備するものだな。隠にやることが決まった以上、この寫真が必要になってくるだろう。念のため撮っておいて良かった」
そう言い彼はアタッシュケースからもう一枚寫真を取り出した。恐らく私を先に帰らせた後に撮ったと思われる。その寫真は何処かの建の屋上の給気設備が寫っていた。
「こいつはあの寶石店の屋上にあった給気設備だ。委員長が撮ってきた寫真に寫っている給気口に繋がっているのさ。これらが、今回の作戦を功させる鍵となってくる」
「この寫真のやつがッスか? う~ん奇鬼さん、自分にも解るように説明してほしいッス」
「こんなのも解らないのか? 委員長、あんただったら解る筈だろう? 説明してやれ」
「え ︎」
なんというタイミングでスルーパスを渡してくるのだ彼は。私はオフサイドトラップを回避するを持ってなどいないというのに。しかし渡されたボールは何とかしてゴールしなければならない。私は何となく、こうだろうなと言うじで臆助くんに説明を始めた。
「例えば臆助くん。隠に事を進めるには大前提として人に見つかってしまっては意味がないの。ここまでは解る?」
「うんうん、それでそれで?」
「でも今回の場合、私が行った時の店はそれほど広くはなかった。店員さんに見つからずに店に侵すると言うのは絶対に無理なの、でも見つからずに這りたい。そういう時はどうしたらいいと思う?」
「う~ん……、いやぁ解んないッス…。店員が店の中にいなければ何て思ったッスがまさかそんな訳――」
「その通りだよ! でも店員さんが全員居ないなんて事はあり得ないから、正確に言えば店員さんがその時どういう狀態であるか、だね。例えば全員――眠っちゃってるとか」
「えぇー? 眠ってる? そんなの有り得ないッス! 仕事をほったらかして居眠りしてしまうなんて!」
「ううん、そんな事無いの。ここで山くんが言っていたこの給気設備と給気口が鍵になってくるの。店員さんはその時に眠りたくて眠っている訳じゃないの。もしもの話だけれど、誰かに眠らされたとしたらどうする?」
「眠りたくて眠ったんじゃない? 眠らされた? どういう事ッスか?」
「あの給気設備に例えば……睡眠ガス? を投げれたとするじゃない? するとその噴き出たガスは何処へ行くと思う?」
「ああ! それは解るッス! 勿論給気口から店にり込んで――ん? ま、まさか 」
「そう! そのまさかだよ。給気設備からダクトを伝って出口である給気口にそのガスが出てくる。そのガスを吸ってしまった店員さんはみんな急激な眠気に襲われて、眠ってしまうの。その間は店は完全に手薄となって泥棒に這ってくださいと言っているようなもの。見事、誰にも見つかることなく店に侵できるってことだよ」
「る程~! そういう事だったんスね! スゲェ解りやすかったッス 」
「…………」
流石にこの説は突拍子過ぎたのだろうか。山くんが呆れても言えないと言うじで佇んでいる。臆助くんは納得してくれたみたいだけれど、これは飽くまで臆助くんを納得させるための詭弁だ。作戦と言うのも烏滸がましい程の稚な策だ。
「おい……アンタ……」
「な、何……?」
山くんが聲をどんよりとした低い聲で私に喋り掛けてきた。
嗚呼、きっと「あんたに尋ねた俺が馬鹿だったよ。殘念だ」などと言う罵聲にも似た言葉を言われるのだろう、と思ったら、山くんは急にを悪寒がしたかの如く震いをして戦慄いた聲でこう言った。
「怖いなアンタ……。何故私がしようとしている作戦を完璧に言えたんだ……! しかもまるで解らない問題があるところを生徒に尋ねられて解りやすく解説している教師の如く! 挙句の果てには答えを敢えて教えずに臆助に正解へと導かせた……。この俺も思わず聞きってしまったぞ。侮ってはいけないとは常々思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった……!」
「えぇぇ ︎」
予想だにしなかった。あの山くんが、毒舌家の彼が、私を褒め稱えるどころかそれを通り越して恐怖すらじている。両腕でを締め付けるように抱いている。そんな彼の姿は宛ら蛇に睨まれた蛙のような狀態だった。
「全員が方法を把握しているならばもう一々作戦を繰り返す必要はなさそうだな。最後に作戦決行の當日の大まかな流れと役割分擔を決める。まず臆助、お前はあの寶石店の警備システムをハッキングして警報機が作しないようにしろ。俺が見たところによるとあの警報機――店員がボタンを押して作するものであると同時に火事などが起こった時に煙に反応するようになっている。そしてその警報は警察署や消防署に直接送られるようになっているとも見た。店員が睡眠ガスで眠ってしまうので前者での作は省かれるが、催涙ガスの煙に反応する可能がある。頼んだぞ臆助」
「アイアイサーッス! でも止めておける時間は限られるッス。どれくらい止めておけばいいッスかね?」
「私だったら十秒から三十秒もあれば十分だ。それ以上止めておけると言うのなら尚良いがな」
「お安い用ッス! 大船どころか宇宙戦艦に乗ったつもりでいて下さいッス!」
「フッ……、頼もしい限りだな。但し時間制限がある以上ハッキングするのにもタイミングが重要だ。そこで委員長、あんたにはここで重要な役割を與えよう。あんたには屋上に上がってもらい催眠ガスを給気設備のファンに向かって投げ込んでもらいたい」
「え? それだけでいいの?」
「それだけとは何だ? 重要なと言った筈だろう。催眠ガスは私が用意するが、勿論そんなに多くの催眠ガスが手にる訳ではない。數が限られるのだ。もしもだ、一つしか手することが出來なかった場合、その一投に今回の作戦の全てが掛かっているのだぞ? 見てみろ、この寫真に寫っているファンを。それほど大きくはない。直徑二メートルと言ったところか? 失敗してみよ、全てが水の泡だ」
「た、畳みかけるようにプレッシャーが掛かるようなこと言わないでよ……」
「なるべく私も出來るだけ仕れるつもりだが、大した期待はするな。ま、そんな先の心配は今しても仕方ない。作戦の流れに戻るぞ。
そして給気設備のファンに見事催眠ガスを乗せることが出來た場合あんたは臆助に知らせろ。そうすれば瞬く間に臆助がハッキングを開始してくれる。ここまで滯りなく作戦通りにいけば店には催眠ガスの煙が充満しているが、警報は鳴っていない狀態になる。監視カメラの方は放っておいても問題ない。煙が部屋に充満していれば、映るも映らんだろう。その間に私が店へと侵し時間が許す限り沢山の寶石を盜む! そして警報のハッキングが切れる前に皆バラバラに逃げ果せる。その後何処か適當な場所で落ち合おう。これが今回の作戦の全貌だ」
「凄いッス。正に完全犯罪。警察の人達の難しい顔が目に浮かぶようッス……」
「本當に功するのかしら。こんな大掛かりな作戦……不安になってきたよ」
「作戦が決まっただけなのに不安がってどうする。失敗したらしたでその時は考えるのだ。何よりまずは準備だ。私は出掛ける。お前らは特にかなくてもいい、ここで待機してろ」
「了解ッス!」
「気を付けてね」
彼は頷く代わりに「フッ……」と鼻で笑って返事をして部屋を出て行った。
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