《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第32話 災いは口から

臆助くんと二人きりになり、何だか気まずい雰囲気が漂う。

「いやぁ……、何て言うか……そのぉ……また二人きりになっちまったッスねぇ」

「そ、そうだね……。さっきは景浦君が浴室にいた訳だし、今度こそ本當に二人きりだね。エヘヘヘヘ……」

「アハハハハハハ……」

「………………」

「………………」

どうしよう! 會話が続かない! 凄く気まずい! さっきの事もあったのでなるべく彼とは一緒にいるのはやはり居たたまれない。でもここで部屋を出て行くのは明らかに不自然だ。あなたとは一緒にいたくないと言っているようなものだ。そのような失禮で彼を傷付けるようなことは出來ない。何を話そうかな……。

今時の小學生は何が流行っているのだろう。六年前に私は卒業したけれど流行と言うのは日々移り変わるものだ。そんな一昔前と言っても過言ではない流行の話をしても付いていけない気がする。

「あの! 海野さん!」

「 な、何? 臆助くん?」

何を話そうかと試行錯誤していたら彼が仕掛けてきた。安心したと同時に先を越されてしまったと言う悔しいという気持ちも湧き上がってきた。私の方がお姉さんなのに年下である臆助君に気を遣われて話し掛けられるなんて実にけない。

「ちょっと訊きたいことがあるッス。海野さんはご存知ッスか? 奇鬼さんの素顔」

「え? それはどういう意味? 彼の正という事? それとも本當の意味での素顔って事? 前者だったらまあ平たく言えば、犯罪者ってことになるのかな。後者だったらその質問に答えることは出來ないなぁ。彼の素顔見たことないもの」

「やっぱそうッスか……。ここだけの話、俺っち、奇鬼さんとは小三の時に出會ったッス。その時も今みたいなあんな黒っぽい恰好をしていて、何度かお顔を拝見したいと思いあのフードと帽子を取ってみようと試みたんスけど、結果は全て空振り……悉く往なされたッス。あの人と出會って約三年。そんな俺っちでさえもあそこまでして顔を見られたくないなんてよっぽど深い事があるんスよ。一何だと思われるッスか海野さん?」

「私も気にはなっていた。けど臆助くわ。人には知られたくないの一つや二つはあるだよ。あなただってそうでしょ? 私だってそう。彼にだって知られたくない事もあるよ。私も彼の顔を見たくて一度はあの帽子とフードを取ろうとしたんだ。けど駄目だった。それで、そのたった一度の事で解ったんだ。この事に関してはもうれないでおこうってね。だからもうその話は終わりにしよう? 彼が可哀想だよ」

「わ、解りましたッス……。じゃあ、この話は終わりにするッス」

「あと……臆助君、私も訊きたいことがあるというか、言いたいことがあるの」

「何スか?」

「今もそうだけれど、さっきはごめんね。私あんなこと言われたの初めてだったから。つい的になっちゃって……。酷いこと言っちゃったよね」

「そんな事ねぇッス! 俺は全然気にしちゃいねぇッスよ!」

「本當に? こんなけない私を許しくれるの? 臆助君、優しいんだね」

「何を仰るんスか。言い過ぎかも知れないッスけど、海野さんにそんな顔して謝られたらどんな酷いことでも許してしまうッス。それにあんなの奇鬼さんの毒のある説教に比べたら圧倒的にマシっす!」

「フフフ、それは確かに。彼って本當に容赦ないからね。臆助くんみたいな子供相手にも、私みたいなの子にも悪い意味で平等だからね」

「いやいやいや、でもそれが奇鬼さんにとっては表現の裏返しなのかも知れないッス。こんな事言ったら怒られるッスけど、あの人素直じゃないッスから」

「うん解る! 彼って本當に素直じゃない! 本當の事殆ど話したことないもの」

「そうなんスよ~! 今までんな話聞かされて來たッスけど、どれが本當の話なのか未だに解んないッス。いや、もしかしたら……全部出鱈目の可能もあり得るッス!」

「アハハハハ……!」

「アッハハハ……はッ 」

臆助君と景浦君の話をしていてお互いに共しあい、笑いあっていたら臆助君の顔が急に顔面蒼白になり、を激しく震いさせて「海野さん……、後ろ……!」と言われたので、後ろを振り返る。そこには恐怖と絶の眼差しがあった。

「きゃあああぁ 」

「ほう? 私が忙しなく準備を進めているというのに隨分楽しそうにのうのうと座談を繰り広げているじゃないか?」

「あややや、奇鬼さん! おおおお早いお帰りッスね! 首尾はどうだったんスか?」

「うむ、業者に話を付けてきて明日には調達できそうだ。準備と言えばこれくらいか」

「そ、そうッスか。それは良かったッス! 海野さんもいいいいつまでそうしてるつもりッスか? ささ、手を貸すんで起きてくださいッス」

「あ、ありがとう臆助君。助かったよ。ねえ、山くん? 準備も大済んじゃったし、これからどうする? 夕食を取るにしてもまだ早いし、どどどどうする?」

明らかに私たち二人は呂律が回っていなかった。その様子を口元一つかさず佇む山くん。そしていつもとは違う妙に優しげで穏やかな聲でこう言ってきた。

「う~んそうだな。取り敢えずお前たちがどんな話で盛り上がっていたのかを訊きたいところだな。私のにも教えてくれないか? 決して怒ったりしないからさ」

「決して怒ったりしない人は決して怒ったりしないとは言わないと思うのだけれど?」

「ほう? そうとは限らないぞ? 奇跡が起きて俺が聖母の如き慈悲を発して赦してくれるかも知れないぞ? あんたともあろうお方が決めつけはよくないな海野學級委員長」

「奇跡が起きなければ許してもらえないのであれば私は素直に怒られるよ……」

「そうか、ならこのような事、隠しても仕方ないから本當の事を言おう。実は俺は業者に電話をしていただけなので一分もあればここに帰ってこれたんだよ。そして本當に一分ぐらいで帰ってこれたので扉を開けようとしたら、お前達の楽しそうな談笑が聞こえてきたので、五分くらい聞き耳を立てていたのだ」

「え……。じゃあ、俺たちの會話全部筒抜けだったって事ッスか……?」

「そういう事だな。じゃあ、ここで質問を変えよう。私は今猛烈に、激烈に、痛烈に、気分が悪い。そこで今から大きな聲を出してこのストレスを発散したいと思ってるのだ。その大聲をお前達に思い切りぶつけてみたいのだが、その許可を貰いたい。よろしいかな?」

遠まわしにこう尋ねてきたけれど結局はこういう事になるのだ。彼の事だから解っていた。自分達が悪いのだけれど彼のこういうやり方には卑怯ささえじる。

「あなたの気が済むのであればそれでいいよ。臆助君もそれでいいよね?」

「えッ うう……わ、解ったッス……! どっちみちああなった奇鬼さんは止めることが出來ねぇッスから……」

「本當にいいのか? では心置きなく大聲を上げさせてもらうが、あまりの大音聲に鼓が破れてしまうかもしれん。それを覚悟した上で許可を出したのだろうな?」

「実際にその聲を至近距離でけ止めたのだから誇張されていることは解っているよ。私が心配なのはアパートの隣人さんに迷が掛かるかどうかだけ。その時は山くんが謝ってよね」

「そうか、そうなってしまった場合は私が直々に九十度直角に深々と頭を下げて謝りに行こう。ではあんまり引っ張っていてもしょうがない。では行くぞ! やるぞ! するぞ!」

「結局引っ張てるじゃないッスか! 一思いに、そして人想いにやってしいッス 」

「済まん。では改めて……ゴホン……! …………」

「…………」「…………」

「ウラァァァァァァァッッッ 」

「 」「 」

彼は深呼吸一つせずノーモーションで怒鳴り聲を上げた。そして私はこの時油斷していた。気付いていなかった。あの時、あの場所で彼のあの大聲を至近距離でも耐えることが出來たのは教室が広かったからだ。どういう事がと言うと、例えばプールが目の前にあったとする、これが言うなれば部屋の大きさだ。そこに人が飛び込む、それによって生じる波が音の大きさとする。

プールでは思いっきり人などが飛び込んで波を大きくしても波紋は綺麗に広がっていく。水面が十分に広い場合には、例えその人が白臣塔並みに大きくても、波紋の広がりにはれが生じにくいからだ。

だが、このプールが浴槽だった場合、同じような人が飛び込み(浴槽に飛び込んでる人なんていないと思うけれど)、同じような波を起こしたらどうなるだろう。浴槽の水面は大きくれてしまい、挙句お湯が溢れてしまうだろう。

つまり今この部屋ではその浴槽と同じような狀態が起こっていたのだ。あの時聞いた彼の聲とは雲泥の差、天地程の隔たりをじた。耐えられない。鋭利な刃で突き刺さすような聲。しかもこのアパートの部屋は一歩歩いただけで床が軋むほど古い。耐久度的に考えても耐えられる音量ではなかった。しかし景浦君の怒りはまだ収まらない。

「コラ委員長ォォ オラ獨活野郎 私が居ない間に好き放題言いおって 誰が素直じゃないだ 全部話が出鱈目だ 見當違いもここまで來ると清々しいなぁ そこのには前にも言ったが私は自分と金に対しては穢れを知らない子供の様に素直だ 私が話してやった話にも実話の一つや二つくらいある ︎ 人の人格を勝手に判斷しおって それ以上私の話を憶測でするのであればお前らにこれからする強盜の報酬折半してやらねぇぞ 」

「そんなの滅茶苦茶ッス 」「それは滅茶苦茶だよ 」

「黙れ! お前たちが!私に口答えできる義理か ︎」

相當頭にが上っているようだ。若干のキャラ崩壊をしてしまっている。そんな彼の子供みたいな言は目も當てられない程である。実に見苦しい。

「ハァ……ハァ……ハァ……畜生が ハァ……発散できたが……疲れた……。つーわけで、寢る」

と言い彼はベッドの上にうつ伏せで倒れ込み、そのままスヤスヤと寢息を立てながら眠りにってしまった。のび太君ですかあなたは。

それに気付いたことがある。彼は如何やら眠る時はうつ伏せになって眠るようだ。顔は枕に完全に埋もれている。顔を見られたくないが為にこの眠り方をしているのだと思うけれど、息苦しくないのだろうか? 昨晩は寢返りも一切しなかったようだし。

「ハァ……、ヤバかったッス……。本當に鼓が破れるかと思ったッスよぉ……」

「うん……、誇張なんて全くしていなかった。彼は本當のことを言っていたんだよ」

「お? 確かに! 海野さんの言う通りッス! いや、奇鬼さんの言う通りでもあるッスね! でもやっぱり何度聞いてもあの聲は慣れないしびっくりするッスよ。しかも今回のあの聲はいつもよりもより大きく聞こえたッス」

「それはそうだよ。この部屋はワンルームでしかも狹いからね」

「へ? どういう事ッスか? 海野さんと言い浦景さんと言い偶に理解が難しい事を言うッスね。俺馬鹿なんで全く解んないッスよ」

「あら、ハッキングなんて難しい事が出來るのに? ちょっと意外だなぁ」

「ちょっと前にも言ったッスが俺パソコン以外の事はてんで駄目なんス。お恥ずかしい話、學校の績だってパソコン以外の授業は全部オール一なんス」

「それはちょっと厳しいね……。小學校に留年制度が無いから良いけれど、もしあったら確実に留年だよ」

「そうッスよねぇ。擔任にも「高校に學できるか心配だ」とだいぶ先の事まで言われる始末ッス。せめて良い勉強の方法とかあるといいんスけどねぇ」

「……ねぇ臆助くん。上から目線になってしまうけれど、もし良かったら私が教えてあげようか? 一応先輩に當たる訳だし、教えられるところくらいはあるかなぁと思って」

「え? いいんスか それはありがたいッス! いやぁ、何だか俺が催促してしまったみたいで済まないッス。浦景さんも寢てしまってやる事も無くなってしまった事でスっし。じゃあ、俺ちょっと家に帰って教科書とか持って來るッスから待っててしいッス!」

「え? ちょっと待って! 家まで帰るって臆助君の住んでいるところ知らないけれど、ここに向かってくる時、片道どれくらい掛かったの?」

「う~ん、家に出た時時計は九時で、ここに著いた時には半くらいだったッスから…」

「三十分 意外と近くに住んでたんだね……。それだったら待ってられるかな……」

「じゃあ、超特急で往復してくるんで。大丈夫ッス! 晩飯までには帰って來るッス 」

そう言うと臆助くんは勢いよくドアを開いたまま自宅へと一旦帰って行った。私は開かれたドアを締め直し、することも無いので、ソファに座り込んだ。その隣のベッドではうつ伏せの狀態のまま寢返りも打たず安らかに寢息を立てて眠っている山くん。そんな彼の姿を見たら、普段の口喧しさとのギャップからか、穏やかで安心した気持ちになってみていられる。

この時時刻は午後十七時十一分。ここまでのツケが回ってきたのか、急に時間の流れが早くなった気がした。

 

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