《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第35話 寢語
視界がかなりぼやけている。
當たり前か、私は恥ずかしながら浴室で寢落ちしてしまって眼鏡も掛けていないのだから。
手で拭ってみると手に冷たいが當たる。水だと思ったけれど何か違う。私はそのを嘗めてみた。塩っぱい……涙だったのだ。
そう言えばここは何処なのだろう。真っ暗で解らない……。いや、視界の右隅の方に淡いが見えていたけれどそれでもまだ暗い。一つ解ることはここが浴室などではなかったという事。何かに橫たわっている覚があった。この覚は憶えている。そう山くんのベッドの上だ。
そう思った瞬間私はまるで寢坊をした子供のようにを勢いよく起こした。顔が紅したように、も熱を持ち熱くなってきた。
「うお! 何だ、アンタ起きたのか 」
ソファの方を振り向くと、電気スタンドのぼんやりとした燈りと眼鏡を付けていないせいで僅かしか視認できないけれどそこにはソファに腰掛けている山くんと、その隣では臆助くんがソファにもたれ掛かるようにいびきをかいて寢ていた。相當びっくりしたようであられもない姿のまま靜止していた。
「かかかか景浦君 かかか帰ってたんだねぇ! おおおおおお帰りなさいっ!」
「いやいやいや、流石に帰ってるだろう。もう夜中の十二時だぞ……」
「あの……ところで山くん。々尋ねておきたいことがあるのだけれど、取り敢えず一番重要で一番訊かなければならない事を一番目に訊くけれどいいかな? ……また……見たの…?」
「いや、臆助を迎えに行って帰ってきてあんたがまだ風呂にってるもんだからよぉ……今回も暫く待ったんだ。そしたらある事に気付いたんだ。バスタオルをランドリーに置きっぱなしだったって事に。急いで取りに行って浴室をノックしたけれどやはり返事が無かった。ドアを開けようとしたが、鍵が掛かってやがったからドアの鍵を解いて中に這ってみたらあんたが逆上せてたんだよ。だからあんたにまた毆られるのを覚悟で素っのままあんたを抱えて出して介抱してやったんだよ」
妙に余所余所しく彼は事を説明してくれた。彼の話を聞く限りは今回は彼に助けられたようだ。を今度は諸に見られてしまったけれど今回は大目に見ておこう。
「そうだったんだ。迷かけちゃったみたいだね。ありがとう」
「本當に大変だったよ。あんたをそのまま出したらな、臆助には刺激が強すぎたのかあいつ鼻噴き出しやがって……、辺り一面の海だったよ。おであんたと臆助両方の介抱しなきゃならなくなった。まったく」
「あらあら、それは大変だったね。でもし殘念なじだなぁ。だって山くんはそのぉ……私の――? 見ても何ともなかったんだよね?」
あれ? 何を言っているんだ私は?
「あぁ? 當たり前だろう。言った筈だ、アンタの貧相なに興味などない。微塵のも湧かぬ」
そこまでハッキリと斷言されるとは。私自はこの系はあまり好きではないのだけれど、世間的に見ればかなりのモデル型であるという事は自負している。
それを真っ向から否定されてしまうなんて。彼の好みは本當に未知數だ。違う意味で私の予想を一歩でも二歩でも上回ってくる。すぐそこにあるアイディアしか浮かばない私にとっては羨ましくじるものだ。
「ところであんた、眠っている時に隨分うなされていたな。怖い夢でも見てたのか?」
「うん、凄く怖い夢だった。けれど凄く嬉しい夢でもあったんだ。でも何でだろう……。とても印象深い夢だった筈なのに、どんな容なのかは全く憶えていないんだ」
「夢なんてそんなもんだ。例え濃く憶えていようともいつかは忘れてしまう、儚く虛しく散ってゆくものだ」
「そんな事無いよ」
「ん?」
「確かに夢は儚いかもしれない、虛しいかもしれない。けれど何度だって見ることが出來る。誰でも見ることが出來る……創ることが出來るんだよ。人間って悲しい生きだよね。例え葉わないと解っていてもその夢をひたすら追い続けるんだから。でもそんな人を見てると応援したくなるんだよね。必死に葉えようと直向きに努力している姿が格好良くて……、凄く……憧れるんだ。夢の力は偉大だよ。自分自に力を與えてくれるのは勿論、周りの人達にも良かれ悪かれ影響を與えてくれる。素晴らしいと思わない? だから儚くてもいいよ……散ってしまっても構わない。またその夢を……追いかけられる日がまた來るのだから」
「ホウ……、懲りもなくまた綺麗事を並べたな。そいつは私に意見をしたとけ取ってもいいのだな?」
「うん、私は自信をもって言ったよ。だって教えてくれたんだもの。もっと自分の意見に自信を持てって。あなたがそう教えてくれたんだもの!」
「は? 私はそのような事、言った憶えはないぞ? あんた何を言っている?」
あれ? 確かに。私も景浦君に直接そんな事を言われた憶えなんてない。なのに何故私は……景浦君にそう教えられたと思ったのだろう? 我ながら不可解な事を口走るものだ。
「だが、今のあんたの言葉には……何というかいつもと違い芯があり強いものをじた。眠っている間に何かあったのか。あんたの言葉はいつも詭弁を弄するも同然のものであった筈なのに今回は何故かそんなじは微塵もない。確かな自信と、信念と、信頼をじた!」
彼は私に対していつに無く、何処かで聞いたことのあるような言葉で締め括りそう絶賛した。今までんなことをそれとなく褒めてきてくれた彼だけれど、今回のは素直に喜べる。嬉しい。
「そう言えば余談だけれど、こんな夜更けにあなたが起きているなんて珍しいね。一どういう風の吹き回し?」
「明日の作戦の見直しだ。この依頼は絶対に失敗できぬからな」
そう言う彼の両手には寶石店の見取り図と作戦の流れが記されたメモ帳が広げられていた。
じっとそちらに目を向けてにらめっこ狀態の彼は、一切こちらを見る事なく、私に話しているのだ。
「余念がなく決行しようとするのはいいけれど、もう夜も遅いんだから早く寢た方がいいよ」
「その言葉、自分に言い聞かせよ。また寢坊したら今度は叩き起こすだけでは済まないぞ」
やはり彼はこちらを見る事なく話す。心なしか、私の言葉など耳にってないようにも見える。
けれど、しっかりと會話は立しているので、私の聲はきちんと聞こえてはいるようだ。
そこで私は、かに気になっていた事を、このタイミングで訊いてみることにした。
「山くん、あなた——この仕事は、辛い?」
「………………」
私の聲だけが響く。ほわんと。
私の問いに彼は答えることはなく、にらめっこを続けていた。
しかし私は何を思っていたのか、どうしても彼の答えが知りたくて、話し続けていた。
「辛い……はずだよね。まだ高校生なのに、私たちみたいな普通の高校生よりもよっぽど苦労してきてると思う。なのにあなたは本當に凄いと思う。尊敬……しちゃうくらい……」
気づくと私はベッドから離れ、彼が座ってる隣までやってきていた。
普段だったらこの距離まで近付いたら、彼は離れるか腕を凄い力で握られるのだけど、両手がふさがっているせいか彼は何もしてこなかった。
「ねえ……、山くん。私……」
まで言いかけた時、彼の顔の近くまで寄った際に、ようやく気づいた。
「すー……すー……」
——? 
寢息……?
一瞬臆助くんかなとも思ったけれど、臆助くんのいびきは若干大きく聞こえているので明らかに彼ではない。
これほどまでに近づかなければ分からないほど小さく優しい寢息は山くんの口元から聞こえてきていた。
そう——山くんは両手を掲げたまま眠りに落ちていたのだ。それも珍しくかなり深い眠りのようだ。
今日せわしなく彼はいていたので疲労が溜まっていたのだろう。本當は無理していたに違いない。
「もう……やっぱり、辛いんじゃない……」
私は辺りを見回し自分の眼鏡を探した。意外とすぐそばに置いてあり私はそれを掛けた。
そして目の前には私の制服が置いてあったので、ブレザーを彼の肩に掛けてあげる。
「お休みなさい、山くん。臆助くん。明日も早いそうだから、私も寢るね」
スタンドの電気を消し、私も再び眠りにつくのだった。
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