《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第39話 両敗
「な、何スか二人共? 改まった雰囲気で……」
「臆助くん! 私たち二人の不要な爭いの所為で、臆助くんに大変不快且つ憾を抱かせてしまった事、深く反省しております。私達からしても、あまりに突然で唐突な出來事だった為、形だけの謝罪となってしまいました。重ね重ねお詫び申し上げます」
「…………」
「これからは二人――いえ、三人共に助け合い、違える時も、食い違う時も、譲り合う心を忘れず、最後まで共に協力し合う事を誓います。短い間でしたが最後に一言…今回の件、本當に申し訳なく思っている所存です。心より反省しております」
「…………」
言い終わると私は深々と頭を下げて謝罪した。そう、最初に私と臆助くんは山くんに、次に山くんは私に、そして臆助ぬんは私に対してそれぞれ謝ったのだ。しかし、このやり方だと六通りの謝り方が出來るのだけれど、まだあと二通りのやり方が終わっていなかったのだ。
もう態々話さずとも解るけれど、私(正確には謝ったのだけれど、もっとちゃんとした形で謝りたかったから)と山くんが臆助くんに対して謝っていなかったのだ。
こんな不公平な話があるかと思った私は、無理を承知で景浦君に一緒に謝るよう頼み込んだのだ。すると彼は意外にも嫌々ではあったけれど私の意見を承諾してくれたのだ。私が先程やる気の問題だと言ったのはそういう意味だ。
彼が嫌々ながらも臆助くんに謝る事を認めてくれたという事は、なからず彼にも臆助くんに対して謝ろうと言う気持ちがあったという事だ。
素晴らしい事だとは思わないだろうか? あのプライドの高い山くんが、先程謝るのはに合わない(などと言っておいて私にお詫びをしたのだ。謝っているのと同義ではないか)と言った山くんが、共に臆助くんに謝ろうと承諾してくれたのだ。嫌々である事なんて関係ない……彼がそんな気持ちを僅かでも心の底に持っていてくれた事、私はそれだけで十分嬉しかったのだ。
彼は言葉遣いはぞんざいなのに、まるで振る舞いは紳士のように真摯だ……などと思ったりもした。思っただけ。言葉にはしていない。
「頭を上げてしいッス……海野さん、奇鬼さん」
暫く頭を下げたままでいると、臆助君が悲しそうにそう言ってきたので、私は顔を上げた。そして自然と臆助君の顔が目にり、窺う事になる。
そしてその顔は――數十秒前までのキョトンとした表から一変、涙でぐずぐずに濡れた顔で呆然と立ち盡くす臆助君がいた。涙の量が尋常じゃない……下瞼に溢れた涙が目目頭両端と真ん中の三方向から流れ落ち、両頬を伝い、最終到達地點の顎に著き地面に落ちた所が大きな染みを作っていた。
「うう……まさか……! あの奇鬼さんが……俺に対して……、ちゃんと頭を下げて謝ってくれるなんて……! 奇鬼さんと出會って三年――こんな事は初めてッスよ……!」
と、臆助君は両腕で涙を拭いながら尚も涙聲でそう言ってきた。そこまで景浦君に頭を下げられたことが衝撃的だったのだろうか……。
「阿呆。こんな事で泣く奴があるか。謝るのはに合わぬとは言ったが……私にだってたまにはプライドを捨てて謝る時くらいある。良いか臆助、よく聞くのだ」
すると山くんは臆助くんの元へと近づき、自分の長よりも高い位置にある臆助君の肩に手を置き、改まった表をしているであろう後姿で、こう語り始めた。
「臆助……この世には私のように心の底から悪い奴と、あの委員長のように心の底から善い奴の二種類の心を持った人間がいるんだ。ここで一つ質問しよう……臆助、果たしてその人間は本當に――本當に心の底から悪い事しか考えていないと思うか? 後者も同様、本當に心の底から善い事しか考えていないと思うか?」
「え……?」
「斷言しよう。それは絶対に有り得ない。前者の場合、幾ら心がどす黒い闇に染まっている悪黨であろうと、その片隅にはほんの僅かではあるにしろ、『善』の心があるのだ。後者もまた然り。だから私も悪いと思った時は、相手にちゃんと謝るし反省だってするんだ。あの委員長だってよくペコペコおじぎ草のように頭を垂れて謝っているが、心の底ではどんな悪態を付いているのか解ったものじゃない」 
「…………」
何? 今の例え? とても冗談で言っているようには聞こえなかった……常日頃から思っていた事を丁度良い機會だから話の流れで言ってやろう的な聲の調子だったので私はついつい山くん達の話に橫槍をれかけたけれど、思い留まった。
こんなことを考えてしまっている時點で彼の言う通りだと思い、このまま行を起こせば彼の思う壺だとじたからだ。なんだか彼に自分の心の奧底を見かされていたようにじ、私はがあったらりたくなるほどの恥心と、自らに対する嫌悪を覚えた。
「奇鬼さん……! 俺っちは信じていたッス……。あなたはやっぱり……悪い人じゃないって……! いや、あなたは本當は善い人ッス! あなたは表面上では悪者を演じているだけで本當は海野さんに負けないくらい寛大な心を持った優しいお人なんス!」
「フッ……それは違うな臆助、お前は私のを買い被り過ぎている。私はっからの悪者であり、悪黨であり、悪人であり――咎人なのだ。だがそう言われてみれば、私自もまた例外なく、完全な悪になり切れてはいない――否、なることは出來ないのかも知れないな」
そんな私を余所に未だ山くんと臆助くん二人きりの世界は展開されている。けれど……。
悪人は、完全な悪になり切れない——善人もまた然り。
彼は本當に私と同じ高校一年生の十五歳なのだろうか? まるで人生経験富なご老人の説教のような含蓄のある言葉だった。
彼はこの十五年間、一どれ程の人生の道程を歩んできたのだろうか。気にはなるところだけれど今はまだやるべきことがある。早く二人を現実へと引き戻さなければ……!
「山くん、ありがとう。これでみんなお互いに謝り合う事が出來たね。さ、臆助くん涙を拭いて、私達がやらなければならないことやっちゃお?」
あまり気は進まないけれど……。
「おお、そうだったな。気が付けばもうすぐ十一時を回りそうだ。全く、元はと言えばあんたが余計な事を言わなければ、臆助のアレで終わっていたものを……」
「みんなが公平に納得できる形で全てを終わらせないとスッキリしないでしょ? あのまま終わらせていたら、勇気を出して行を起こした臆助くんに失禮だし可哀想だよ」
「海野さん……、お心遣い、謝するッス」
「臆助、騙されるなよ……。さっき俺が言った事を忘れた訳じゃないだろう? こいつは善く見られたいが為に雄弁詭弁を語り、心の中ではほくそ笑んでいるに違いない……!」
「あなたの含蓄あるお言葉を否定するつもりじゃないけれど、私はあなたが予想するような事は微塵も思っていないよ? 確かに私だって完全な善人とは言えないかもしれないけれど、なくとも……、善く見られようとは思っていない。ただ、これが正しい選択だった。間違いなかったのだという――自己満足を得たいだけ」
「…………」
自己満足……か、我ながらなんと自己中心的な発言だろうか。これが彼の言う、『悪人は完全な悪にはなり切れず、善人もまた然り』か……。
すると山くんはニッと口角をつり上げて笑い、
「フフッ……自己満足? あんたの場合それを言うのならば他者満足であろう? 他人を喜ばせる事が大好きな……偽善者さん」
「?」
予想を裏切られたと言うかなんというか……気を付けていたと言うのに計らずもすっかり彼の思う壺に嵌ってしまったと思った時に掛けられた言葉がそれだった。
寡聞淺學且つ淺薄愚劣のであるので解りやすく解説していただきたいものだ。
「あんたは自他共に認めるっからの善人だよ。これからも……そして今から、そのやり過ぎた優しさで、他者満足を得るがいいさ」
他者満足――私が今まで生きてきて初めて聞いた語だった。私がしている事は――自己満足ではなく他者満足? 自分が満足するのではなく、他人が満足する満足……?
考えた事もない……否、考えるまでもなく普段通りに行っていた、他人に対する私の気遣い、優しさ、思い遣りが、全て――他者満足……?
考えても解らない……とても杞憂だとは思うけれど、彼の言葉の真意は解らないままだけれど、とにかく彼が言いたいことは「あんたはあんたのままでいろ」という事だろう。
「それでは余談もそこそこに……作戦を実行する!」
と、答えのない問題を解いていたら、景浦君が半ば強制的に回答終了の合図を発した。
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