《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第42話 帰宅
現時刻午後十二時一分。
私達は特に何事も無くこのアパートに帰ってくることが出來た。むしろ警戒など全くする必要などなかったくらいだ。しかしそこは命令に従順な臆助君が黙っちゃいない。結局臆助くんは山くんの言う通り全方向をキョロキョロと顔を忙しなくかしながら帰ってきてしまった。
アパートから外出し帰宅するのに今日ほど疲れた日はない。満創痍とまでは言い過ぎだが、とにかすそれに匹敵するくらい疲労が溜まっている。思い返してみれば一昨日からんな事が起こり過ぎている。一子高生の端くれである私ではも思考もとうに限界なのだ。
「山くん……、大丈夫かなぁ。本人はああ言っていたけど心配だよ……」
「海野さんは心の底から本當に優しい人ッスね。あの人は何度もこういう修羅場をくぐり抜けてきて、最早こんな仕事、奇鬼さんにとっては修羅場とは言えないくらいハードルの低い仕事ッス。お言葉ッスが、奇鬼さんを心配する事は余計な神経使うだけッスよ?」
彼が一今まで今回以上に難易度の高い依頼を幾つしてきたかは解らないけれど、やはり彼にも失敗という事くらいはある筈だ。その時が今日起こってしまうかもしれないのだ。杞憂な事だとは思いつつもやはり心配してしまうものだ。
「だから心配していても仕方がないッスよ? 今俺っちたちは奇鬼さんが無事に帰ってくるのを祈りながら待つ事しか出來ないッス。俺達の今回の仕事は終わったんですし……」
「それは違うよ臆助くん」
「へ?」
「ほら、遠足ってさ『家に帰るまでが遠足』ってよく言うでしょ? だから今回の仕事はまだ終わってないよ。私と臆助くん……そして山くん三人が初めてあの部屋に帰って今回の皆の作戦が終了だと思うの。どうかな?」
これはある種謝罪みたいなものだ。そうでも言わないと、その場に殘された山くんに申し訳が立たないと思ったからだ。まあ本人に言った訳ではないので、謝罪も何もないのだけれど。
「おお……。そうッスね……確かにそうッスね! 遠足が終わって學校に帰ってきても、それって遠足終わった事にならないッスもんね! 遠足の事も、今回の事も一緒で! 今回の事も、遠足の事も……一緒ッスよね 」
「…………、うん! そうだよ!」
「おお! 済まないッス海野さん! 俺っちが間違ってたッスぅ! 俺達は奇鬼さんの帰ってくるのを待つのも仕事のだったとは! 解ったッス……俺っち、奇鬼さんが帰ってくるまで一切気を抜かないッス 」
一瞬彼が何を言っているのか理解出來ず取り敢えず返事をしてみたのだけれど、彼が私の言う事を理解してくれたのであればそれでいい。自己満足(山くん曰く他者満足らしいが)を得られたのでそれでいい。
「はあ……。ていうか久し振りに働いたんで腹が減ったッス~……」
「気を抜かない宣言したばかりなのにいきなり気の抜けちゃったじだね……」
「何言ってんスか海野さん? 『腹が減っては何とやら』って言うじゃないッスかぁ!」
「『戦が出來ぬ』だよ。確かにそうだね。お腹が空いてちゃ抜きたくなくても抜けちゃうからね。取り敢えず一旦山くんの部屋に戻ろっか?」
と、私と臆助君は階段を上り山くんの部屋へ向かった。しかしその途中である事に気が付いた。
「あっ! そう言えば山くんの部屋の鍵って何処なんだろう? まさか彼が持ってるんじゃ……」
「んん? いや諦めるのはまだ早いッス。もしかしたらこのケースにれていたかも」
「そんな都合よくっている訳――」
「あったッス!」
「あったのぉ 」
いや、よく思い返してみれば彼が一昨日私をこの部屋に招いた時に片手で用にケースからこの鍵を出していたじゃないか。どうやら彼は持ちは基本この四次元ケース(勝手ながらこのケースはこう呼ばせていただくことにする)の中にれているようだ。
それにしてもガスマスクの時もそうだったけれど彼はこの何でも収納出來る四次元ケースの中から必要なを瞬時に取り出すことが出來ている。山くんと一緒に仕事する時に毎回渡されるので使い慣れているからだろうか?
「んじゃ、早速開けるッスね」
と臆助くんが鍵を差し込み回し、ドアノブに手を掛けドアを開けようとしたのだが、
「あれ? おかしいッスねぇ……。ドアが開かないッス」
「え? ちょっと待って。鍵を開けた筈なのに開かないなんて確かにおかしい……。って事はもしかしてこの部屋の鍵って今までずっと開けっ放しだったって事 」
「え! でも海野さん! 俺っち奇鬼さんがこの部屋にちゃんと鍵を掛けているのを今朝見たッスよ! だからこの部屋の鍵は俺っちが開ける今の今までちゃんと掛かっていた筈ッス!」
「やだ……。臆助くん怖い事言わないでよ……!」
だが臆助くんが噓を吐くなんて思えない。彼の言っている事は本當だろう。そもそも用心深い山くんの事だ。鍵を掛け忘れて何処かへ外出するなど天地が逆転するくらい有り得ない事だ。間違いなくこの部屋の鍵は今の今まで掛かっていたのだ。では何故鍵は開いていたのか? 考えたくはないが考えられる事は一つしかない。
「まさか……」
「空き巣……ッスかぁ……?」
決めつけるのは早計かもしれないが好きな空き巣もいたものだ。これで一何度目の説明になるだろうか……、この部屋には本當に人が住んでいるのかと問いたくなる程生活が全くもって無いのだ。這られたとしても盜まれるようななど無いから心配ないと思うけれど、そこでもお得意の杞憂スキルを発させる私である。
「臆助くん。空き巣かどうかはまだ解らないけれど、先ずは部屋の様子を確認しない?」
「マ……マジッスか……? でも、確かにこのまま立ち往生してても仕方ないッスもんね。ちょっと怖いッスけど、俺ったも男ッス! 海野さんに何かあっては遅いッス、何かが起こる前に俺が護ってあげるッス!」
「……! ありがとう、臆助君」
などと格好いい男らしい言葉を掛けてくれた彼だけれど、ケースを盾にするように前に抱え持ち、足元は小刻みに震えていた。『は正直』という言葉はどうやら的な意味だけで用いられる言葉ではないようだ。
「んじゃ……開けるッスよ……」
「うん……」
そう言うと臆助くんは再度鍵に鍵を差し込み回し、ドアノブを數十秒前の軽いじとは違いゆっくりと恐る恐る回そうとするのだが……手の震えに加え手汗もびっしょりとかいているのか中々回す事が出來ないでいた。最早回すどころか握る事さえ難しいくらいだろう。
「臆助君……私が開けようか……?」
「いやいや……海野さん。ここは俺っちに任せて下さいッス! ドアを開けて、中の様子を確認する。たったこれだけの事ッス。こんなの下手したら稚園児でも出來るッスよ……」
と言いながらもやはりドアノブを握ることが出來ず手汗でツルツルとり手の震えは増すばかり、彼自も相當焦りそんな自分がけなく怒りが込み上げてきているのかその手つきは々暴にも見えるようになってきた。
「お、臆助君! 大丈夫だよ! 焦らなくてもいいからゆっくり落ち著いて!」
「く、くそぉ……! 俺っちは男らしくないッス……。ただドアを開けるだけの行為がこんなにも怖くて、海野さんにも気を遣われるなんて! 俺っちはホントにけない男ッスぅ…… 」
と、臆助君が必死にドアノブを回そうと雑に扱っていると、
「ちょっとさっきから何なのですか 」
「うわあああぁぁ ︎」「 ︎」
その怒聲と共に向こう側から勢いよく押し出すようなじでドアが開かれた。その勢いに負け私は臆助君共々その場で不恰好に倒れ込んでしまった。餅をついてしまい痛くなった部をりながらドアの方を見上げると、そこには、不機嫌そうに頬を膨らませて仁王立ちしているのだが、その態度に不相応な程綺麗なメイド服をに付けた可らしい印象のがいたのだ。
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