《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第48話 金の力
「話は今日を含めて三日前に遡る。単刀直に言えば俺は困っていた。主に金銭的な問題で。
俺の家はとてもじゃないがかなりの貧乏だ。學費を払うだけで一杯、その日暮しも當たり前。俺はそんな苦しい狀況をしでも楽にする為に、の頃から続けていた空手でこの高校にスポーツ推薦したんだ。自慢っぽく聞こえてしまうかもしれないが実力はかなりある方だと自負していた。そして悲願が通じたのか、俺は四髙高校に推薦學することが出來、授業料などを半額免除してもらう事が出來て、しかも強豪校の一員の仲間りを果たす事まで出來たんだ。……ここまでは、三日前にも話したよな?」
「ええ……」
「だが、授業料は半額免除されても尚家庭の狀況は苦しいまま。しかもあの空手部に毎月部費を払わなくてはならない事を部してから知り、部できた喜びよりも部費を払わなくてはならないという絶に襲われた……!
だが…それでも今日まで続けてきた事を途中で投げ出すわけにはいかないと思った俺はこの事を両親には緒にし、今まで貯めてきたお年玉やら何やらを掻き集め三年間の今日までの部費は何とか払うことが出來た。しかし五月分の部費を払う金はもうどこにも無かった。中學の頃の同級生の所を訪ねては斷られを繰り返し、巡り巡って辿り著いたのがお前らの元だった」
「………」
「藁にも縋る思いだったよ。お前か山田のどちらかに金を借りれればそれでいいんだと思っていたら、そしたら鈴木の野郎……金なんていくらでもくれてやるって言ったじゃないか!
最初は半信半疑だったよ。そんな上手い話がある訳がないと思った。けど俺は心のどこかで期待してたんだな、あいつの話が本當なら、これで俺は部活を最後まで辭める事なく引退が出來るんだと。そんな皮算用を俺はワクワクしながらこの三日間を過ごした。
そして運命の日である今日…本當は明日貰う筈のお金がまさかの今日用意してあった! しかもかなりの大金! その時俺は思ったよ。
鈴木の言っていた事は本當だったと! 本當に部費を払うだけの金を俺に恵んでくれたんだと 」
「………」
「嗚呼……これで俺は助かったんだ。俺は本當にこれから部活を続けることが出來、家族も助ける事が出來るんだと。お前らと別れた直後はそう思っていたんだけどな」
すると彼の表は一変、熱く語っていたと思ったら急に冷めた険しい表になり、遂には涙目を浮かべだしてしまった。しかし彼は涙を流すまいと振り払うに顔を拭うと、再び語り始めるのだった。ここからが最重要にして最肝要だ。私も最後まで黙って聞こう。
「俺さぁ、このバッグの中を確認した時に見えた大量の札束の事思い出したら、何だかこう……凄い勿ない事を俺は今からしようとしてんじゃないかと思い始めてしまってな」
「え……、勿ない事、それって……どういう……」
「もうわざわざ言わなくても解るだろ? この金を! 部費として消費しちまう事を! 勿ない事だと思い始めてしまったんだよぉ 」
え、えぇ……? な、何……それ……。
自分の好きな事を続けられる事が出來ると言うのに。部費を払う事で続けられると言うのに、それを……勿ない……ですって……
「俺は最後まで悩んだよ。この金の本當の使い道はどうするべきなんだと。お前らに話したように素直に部費として消費するか、それともこれは自分の好きなように——のために使うべきかを」
「そんなの決まってるじゃない! 部費として使うべきだよ! それ一択じゃない!」
「一択だと ふざけるな! 俺がこの數分でどれだけ悩み苦しんだかも知らないくせに一択だとか解り切った事みたいに口にするんじゃない!」
辺りには私と頭金君のび聲だけが木霊していた。傍から見ればとんだ近所迷だったが、今の私達にはそんな事などどうでもよかった。彼は私達に対抗する為に、私は彼に正気に戻ってもらう為に、必死だったのだから。
「じゃあ教えて頂戴! あなたが悩みに悩んだ結果、どういう答えに至ったのかを!」
「決まってるだろ? この金をわざわざやらなくてもいい部活の為に使うのは惜しいんでな。
自分の為に使う事に決めたのさ! 部活だって辭めるつもりだ。だから俺はさっき立ち寄ったコンビニでに付けていた要らなくなったジャージをゴミ箱に捨てたのさ!」
「えぇ…… 」
そういう事だったのか。彼がこの短時間で早著替えを実行できた理由は。恐らく今のその服はジャージの下に著ていたのだ。ジャージをぎ捨てれば今のような格好になる。
「やらなくてもいい……部活? へぇ~……あなたにとって小さなの頃から続けていた事ってその程度のものだったんだぁ……?」
「何とでも言うがいい。俺はもう決めたんだよ。部活辭めて、この大金は俺の好きなように使おうってな!」
「本當にそれでいいと思っているの 私や山田くんはあなたが困っていたから……! 切実に頼み込むから……! あなたを助けたい一心で、お金を工面したんだよ……? そんなのあんまりだよ、酷いよ……。最低だよ、頭金くん……」
「そんなの知った事じゃないね。それにこの金はもはや俺のものだ。どう使おうが俺の勝手だ! お前らに俺の金の使い方をとやかく言われる筋合いなどない!」
「うう……ううぅ…… 」
「いやぁ、そう考えたら金の力って怖いよなぁ~。だってさぁ、長年続けてきた事をどうでもよく考えさせられてしまう程の影響力をもってるんだからさぁ……。ああ怖い怖い! 怖すぎる 金ってホント怖え~~~~ 」
嗚呼、臆助君の言った通りだ。お金の力は……とても怖い……。人の心が、頭金くんの続けていた事が、目の前の大金によって、全て買収されてしまったのだ……。
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い! ああ! こんな大金を持ってる俺怖過ぎる! 今すぐにしでも使ってなくしないと神がどうにかなりそうだ よし これから中學の頃の友達って豪遊だ 」
「ま、待って、頭金君……! 考え直して……!」
「悪いな海野さん。せっかく貰った金だ。ありがたくぜぇ~んぶ一円殘らず使わせてもらうぜ? ほらぁ、こいつらの「早く贅沢に豪勢にパァーッと使ってくれよぉ~」って頼み込む聲が聞こえるぜぇ? なんつってなぁ ハハハハハハハハハハ 」
もう目の前にいるのは、頭金くんじゃない……。金という名の怨霊に憑りつかれ亡者と化した梟雄だ。人の人格さえも破壊してしまう恐ろしき恩恵。
それが——金。
そしてその金を與えたのが他の誰でもない——私。
彼の心を狂わせ、人格を破壊してしまったのは、私なのだ。
あの時臆助くんの言う事を素直に聞きれていれば、生意気に先輩風吹かせて後輩である臆助くんを引っ張らなければ、この事態は避けられた筈だ。
私はいつもそうだ…。これが正しいと決めた選択がいつも間違っている。そして決まって後悔するのだ。後から気付き、後から悔やみ、後から反省するのだ。
今度からは気を付けよう。次からはこのような事が無いようにしようと思っていても、それでも繰り返してしまうなんて、何て學習能力のない無知な存在なのだ……!
ごめんなさい臆助君……そしてごめんなさい、山くん……。
私は助手としても、委員長としても、友達としても失格だよ。立派に務めを果たしたと勝手に思い込み、勝手に友達のピンチを救ったと思い、その結果がこれだよ。
ごめんなさい、ごめんない、ごめんなさい、ごめんなさ―――
「よく謝るだなアンタは。今度は一どんな悪い事をしたのだ?」
「……… 」
え 無意識のうちに聲に出ていた というか、この聲は……!
私は聲の主を確認しようと後ろを振り向いた。するとそこには―――
「事は大把握している。何故泣く必要がある? まだ間に合うというのに」
「山くん!」
そこにいたのは、フードと帽子のから見える鋭い眼を輝かせ、歩道で力なく座り込む私を怪訝そうに睨めつける山くんがそこに居たのだ。數十分前までベッドに突っ伏して再起不能狀態に陥っていたあの彼がだ。
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