《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第50話 団円

現時刻十八時三十四分。が落ちて、遠くの方で民家の燈りがぽつぽつと燈り始めていたそんな時間の事……、金の亡者と化した頭金くんの奇行を止める為、突如として現れた山くんが彼の元へと向かいそして戻ってきたのだが、とんでもない爪跡を殘してきたのだ。

「おい奇鬼、勘弁してちょうだいよ! 一俺は今日何人の怪我人を手當てしなきゃならないんだ 」

「ひゃ~……! ここここここの人、生きてんスかぁ…… 俺っちよりも凄いケガッスよぉ……?」

山くん、何がどうしてこうなったのか説明してちょうだい! そもそも頭金君生きてるの?」

「お前ら落ち著け。蟲の息ではあるが生きてる。あと、こいつがこうなったのには理由がある。委員長……アンタも十分解っている筈だ。だから私は分からず屋であるこいつにし教育してやったのだ」

いやいやいや! 一どんな技を繰り出せばこれ程までに満創痍になるのだ ノーロープ有刺鉄線デスマッチ後の選手でもここまで酷い有様にはならない。頭金くんもしは抵抗したのだろうけど見たところ山くんには傷一つ付いていいない訳だし。

ああ! 明日どうやって先生に話したらいいんだろう!

でも、山くんも頭金くんの急な心変わりを赦す事が出來なかったのだ。私に出來なかった事を彼が代わりとなり果たしてくれたのだ。むしろ私は咎めるよりお禮を言う立場だろう。

まあ、このやり方で頭金くんの心がまた真面に戻るのかどうかはまた別だけれど。

「ぐ、むう…… 」

「あ、山くん! 頭金くんが……!」

「何 おい、漸く気が付いたかこの下衆め!」

と、ボコボコにされながらも意識を取り戻した頭金くんに対して、片手に持っていたボストンバッグを離す事無く、片手で彼の倉に摑み彼をそのまま持ち上げたのだ! 重差的にも頭金くんの方が重いはずなのだが、彼は軽々と持ち上げた。重力の概念は一何処へ。

「うううぐぅ……! 頼ム……。お、オ……オれが悪がっダ……! 許じでぐでぇ~……!」

「今更命乞いしても無駄だ。お前はとんでもない違反を犯したんだからな」

違反? まあ違反と言えば違反か。山くんは頭金くんが部活を続けられる為に犯罪を犯してまで(未だに釈然としないけど)お金を工面したのに、その部活を辭めて自分の好きなように使うと言い出したのだから、それは彼もこれだけの剣幕で怒るだろう。

「さあ、今からでもまだ猶予はあるぞ! さっさと依頼料を払うのだ!」

「…………は……?」

「何がこの金は全部使わせてもらうだと? どうせお前には依頼料を払えるだけの蓄えなど家にないのだろう? だったら私が工面してきたその金の中から払え!」

い、依頼料……? 山くんは頭金くんに部活を続けるよう説得しに行ったんじゃなくて、依頼料を払わなかったことに対して怒っていた?

「わ、ワがりまジダ……。は……払いバず……! だがらボう、やめて下ザい……」

「フン! 最初から素直にそう言っていれば、かすり傷だけで済んだものを」

馬鹿め! と吐き捨てるように言うと彼は片手をパッと離し頭金くんを解放した。

というか素直でいても、それでも傷は負う事になるんだ、彼の事だからかすり傷でも危なっかしい。いや、そんな事よりも山くんに々訊きたい事が!

山くん。あなた一どうしてこの場所が解ったの?」

「こんな事もあろうかと、あのボストンバッグにGPSと盜聴を仕込んでおいたのだ。だからお前らの居る場所は勿論、會話まで全て筒抜けだ」

そうか、だから彼は臆助くんが怪我をしている事が解り、白臣さんを連れてきて(元々エイミーさんが呼んだのでこれは偶然だ)治療をさせ、頭金くんの急変も直ちに察知出來た訳だ。だが、察知出來ていただけに問題なのだ。それについても言及してみよう。

「だったら尚更だよ。だって山くん私達の會話の一部始終聞いてたんでしょ?」

「ああ。何だったらあの遣り取りを今から私が演じ切ってやろうか? 一人三役でな」

「その必要はないしあなたの演技力に今は興味ないです。さて、じゃあ本題にろうかな。あなたは私達の會話を聞いていたと。じゃあ山くん、あなたに質問です。あなたは、頭金くんに部活を続けてもらう為に、説得しに行ったのですか?」

「いいえ全く?」

凄く憎たらしい口調、口元をしながら言われた。むぅ、憎々しい。

「じゃあもう一つ質問。あなたは頭金くんが依頼料を払おうとしなかっただけでなく、自分の好きなように使おうとしたから彼に暴力をふるったのですか?」

「前者は合っているが後者は間違いだ。というか、アンタはさっきから何が言いたいのだ?」

「え、だって山くん、頭金くんが部活を続けられるようにお金を工面したんでしょ? なのに彼はその部活を辭めて自分の好きなように使おうとしたんだよ? それに関してはどう思う?」

「い~や? 別に何とも思ってないが?」

「え……」

「あのな、まだ理解してないようだからよく聞け委員長。こいつが金をしがった理由は何だ? 確か『部活を続けたかったから』だよな?」

「ええ……」

「だが、それはただの金が必要である事の『理由』に過ぎないだろ? 部活を続けるにはこいつには金が必要だった訳だ。それしか解決策がなかったからだ。

だがいざ金を渡したらどうだ、態度を急変させ部活を辭めると言い出し、自分の為に使うと言い出した。だがそれがどうした? それも結局は、金がしかった『理由』になるだろ? とどのつまり、こいつの『目的』は金がしかったんだ! 『理由』なんてどうでもいい。そんなのそいつの自由だろ? 部活を続けたければこの手にれた大金で部費を払えばいいし、その部活を辭めて自分の好きなように使えばいいんだ。そいつのその後の事なんて知ったことではない。金がしいという『目的』がある以上、それを葉えてやるのが私はの仕事だ! 金がしい訳——『理由』なんて幾らでも言い換えられるではないか」

「…………」

そして彼は、私の元へ近付き、顔を目いっぱい私の額に帽子の鍔が當たるくらい近付け、

「いいか? 部活を辭める辭めないはこいつの問題であって、アンタの問題ではないだろう? だから私にとって、こいつが金を手にれた事によってその後どう行しようがなんにも問題にならないのだ……。問題なのは、こいつが依頼料を払わずにこの場を去ろうとしたことだ。他人の事に干渉しようとしてるんじゃない。この偽善者め……!」

「!」

以上だ。と締め括ると、彼は顔を離し頭金くんの方へ向き直った。

「さあ頭金! これから依頼料の渉をするとしようか? ゆっくりと時間を掛けてな!」

何故だろう、凄いモヤモヤする……。お金お金、依頼料依頼料。

なぁんだ、結局は彼も、お金がしいだけなんだ。

みんな考える事は一緒なんだな。

白臣さんも然り、頭金君も然り、臆助君はそうでないと信じたいけれど、そしてもしかしたら私自もお金がしかったから、彼の依頼の手伝いをしていたに過ぎないのかも知れないなぁ。

あ~あ、そう考えたら、人間って、悲しい生きだね、山くん。

「仕方ないよ眼鏡っ子ちゃん。君の気持ちも解るけど、奇鬼はああいう男だ。結局あいつ自も金がしいから、依頼を遂行しているだけに過ぎないんだ」

「それを知っているからこそ、俺っちも今まであの方に付いていけていく事が出來ているッス。実を言うと、俺っちもし納得いかないッスが、怒らせると怖いッスからねぇ……」

私よりも付き合いの長い彼らがそう言っているのだ。どうやら彼の依頼をす上での目的は、お金が手にるからないか、それが全てらしい。

それで良いのだろうか。ううん、良い訳ない……、良い訳、ないじゃない……。

けど、何も言い返せない。彼の言い分は正論だからだ。

言い返せないと言うか言う返すまでも無く、私の負けなのだ。偽善者と罵られても仕方がない。

確かによくよく考えてみればそうではないか。家庭が裕福で無く學費を払うだけで一杯、そのせいで部活を続けられないのは、頭金くんの問題だ。私達はそれにしばかりの力添えをしたに過ぎない。言い方は気にらないけれど、全くの無関係なのだ。

仕方のない事だけど、この話はもう既に、私が山くんと知り合う以前から、正當化されてしまっていたのだ。認めざるを得ないだろう。彼の意見を、私の敗北を。

「ええ? ぞ……ぞんダに? が……勘弁じでくデよ~! 俺の金だぞ……!」

「男のくせにうじうじ言うんじゃない! 臆助を傷付けた分も勘定にっているのだ!」

「ぢくじょぉ~……! お、俺の……金がぁ……!」

「あとお前、明日は學校ある訳だが、今日の事は絶対にチクるなよ? チクったら……」

「びえぇ~! 解りまジダ! 言いまゼんがら! もういダいのは嫌だぁぁぁ!」

などと考え込んでいる間に、あちらの方でも話し合いが終わったようだ。歩道の上で泣き崩れる頭金くんを置いて山くんがボストンバッグを片手にこちらに戻ってきた。

「話は済んだぞ。ええっと……? 確か私が盜んだ寶石を全部売っ払って得た金額の合計が確か、端數を切って計算すると占めて五千萬円だったから、俺達の取り分は四千萬円だ」

「ご、五千萬……?」

バッグにっていたお金の的な數字を今初めて知った。五千萬円だって?

私が背負っている借金の二分の一のお金があのバッグの中に詰まっていたというのか……!

それだけの金額にもなればあれだけ重くなる筈だ。全く持ち上げられなかったからね!

「というかなんか分け方に差があり過ぎじゃない? 頭金くんこ取り分がたったの五分の一だなんて…」

「何を言っているのだアンタは? あいつは依頼料を素直に払わなかっただけじゃなく臆助にまでケガをさせたんだ。これが妥當であろう? 素直にしておけば二千萬が手にったのに」

それでもあなたの依頼料の方が上なんだ。全く割に合わない。しかもこれは恐らく割引した値段……本當だったらこそぎ取られていたかもしれない。

「んじゃ、塔。後の事は頼んだぞ。ほらよ、そんでもってこいつは余ったんで返すぞ」

そう言い彼が懐から取り出したのは、依頼の時に使用し余ってしまった催眠ガス弾だった。それをまるで彼はただの手玉のように扱いそれを白臣さんに放り投げた。

「おいおい! 何やってんだお前! ピンが弾みで抜けたらどうするんだ!」

とか言いつつもしっかりと両手でけ止める白臣さん。背が高いのもあってか腰の辺りでキャッチをしてけ取りにくそうで、何が何でも落とすまいというようなあの戦慄するような強張った表が何とも言えず稽だった。

「はぁ……全く、面倒事はいっつも最後に俺に押し付けやがって……。ま、醫者としてケガ人を放っておく訳にもいかないし、今回は命令されてやるよ。ほら君、立てるか?」

「ず、済びバぜん……。と、ところで……あナだは……?」

「俺は白臣塔。こう見えても醫者をやらせてもらっている。ま、闇醫者だけどね。君のケガを完全に治すのは難しいかもしれないけれど、最善を盡くすつもりだから、よろしく」

「は、はぁ……。お、お願いじまズ……」

今更だけれど、頭金くんの呂律が上手く回っていない。口の中が切れて上手く喋る事が出來ないじだ。そう言えば顔も酷く腫れていた。どれだけ強い力で何度も毆ったのだ。

「ところで奇鬼、俺の取り分は? ガス弾を提供してやったんだし、まさかタダ働きって事はないよね?」

「あ? 何だ、まさかお前、ガス弾を作った程度のことで金をせしめようというのか? がめついな」

どっちが…。

「ほらよ。お前の活躍だったらこれくらいが妥當だろう?」

「え、たった五百萬? 四千萬もあんのにさ……。ホントお前の山分けの仕方自分勝手な!」

「文句言うんなら手取り零でも良いんだぞ?」

「ありがたく頂戴しよう」

納得しちゃった。いや、五百萬円がないという訳じゃないけれど、彼の分配の仕方には確かに白臣さんの言う通り仕事の歩合に合わないところがある。

彼のガス弾が無ければ作戦が失敗していたというのに。白臣さん、心の中では涙目だろう。

「ノッポ君、君も俺についてくるんだ」

「ええ! 何でッスか? 俺っちならもう大丈……って痛たたたた!」

「所詮は有り合わせので行った応急処置だし、もっと詳しく検査する必要がある。醫者の言う事は聞いた方がいいよ?」

「うう、解ったッスよ……。もうし奇鬼さん達と一緒に居たかったッスが、しょうがないッス」

「待て臆助! お前の取り分をまだ渡していない。ほら、お前の取り分だ」

といい彼は大き目のレジ袋に大量の札束をれて臆助君に渡した。恐らくこの道に來る途中にあるコンビニで貰ったものだろう。途中でお札の重みで破れないか心配だ。

「お前の取り分は頭金からの謝料も含めて——一千萬だ! お前の好きに使うがいい」

「おお! これでまた新しいパソコンが買えるッスよ これで五十二臺目ッス!」

買い過ぎ!それは買い過ぎ! そんなにいらない! ゼッタイ!

「それじゃあ海野さん、奇鬼さん! この二日間大変だったッスけど、楽しかったッス!また會う機會があれば、今度はもっとあなた達の役に立てるよう、努力するッスよ!」

「じゃあなお二人さん。特に眼鏡っ娘ちゃん、短い間だったけど、世話になったよ。依頼もいいけど學業もしっかりとせよ? でないと俺みたいになるよ?」

「臆助君! ありがとう! 私もあなたと會えて、一緒に過ごせて楽しかった! 白臣さん! あなたの事も私応援してます! あなたももっと勉強して、正式な醫者になって下さいね!」

「………」

隣で山くんは何も言わなかったが、指を二本突き立てそれを額….ではなく帽子の鍔の先に當て、直ぐにそれを離す作を行った。これが俗に言う、サヨナラのサインだろう。

そして、頭金くんを背負った白臣さんと、再診をける為に彼に付いていった臆助君は、街燈が殆どない夜の道の奧へと消えていった。

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