《高校生である私が請け負うには重過ぎる》第58話 嗤う男
「頭金くん、君はいつまで寢ているんだい。起きるんだ、早く」
「う……んん……。はっ! お、おお、おはようございます嵌村さん!」
ほっぺたをぺちぺちと、叩き起すと言うには隨分なソフトタッチで頭金くんを起床させた。
「聞いておくれ頭金くん。──あ、そうか。……山田くんが僕の依頼を快くけてくれるそうなんだよ」
「おお、それは良かったっすね!」
「何をしているんだい君は。そうと決まれば準備だよ。早く用意してくれまえ」
「お、OKっす! すぐに用意しますね……! よっいしょ……っと!」
傷だらけのに鞭を打つように腰を上げ、嵌村さんに言われるがまま頭金くんは彼が腰掛けていたデスクの引き出しから何やら取り出し始めた。
それは──
「え……! そ……それは……」
「…………」
回転式の弾倉、引鉄、撃鉄。
威圧や重厚のある黒々としたボディ。
人生で生きている上でテレビや映畫、はたまたアニメの世界でしかお目にかかれない圧倒的な兇──拳銃が薬莢と共に機の上に置かれたのだった。
「どうぞ、嵌村さん。準備は整いました」
「ありがとう頭金くん。お待たせしたね山くん。それでは始め──」
「ま、待って下さい嵌村さん!」
ここは止めにるべきところだろう。あれから依頼の容や要求などする訳でもなく、いきなり拳銃なんて出されて「さあ始めよう」なんて言われても……、
「何だ委員長。これからだと言う時に水を差すんじゃない」
どうやら狀況を飲み込めていないのはこの場で私だけのようだ。山くんの鬱陶しそうな言が語っている。
いやいや、分かってたまるものですか。一歩間違えば犯罪になりかけてたかもしれないのに。
「この拳銃は何なのですか? 銃刀法違反で厳重に取り締まられている日本でどうやってこんなを仕れる事が出來たんですか?」
問い詰めると嵌村さんは、もはや見慣れた不敵な微笑みを見せながら、薬莢を弾倉に裝填すると、撃鉄を引き、こちらに向けて──………………………………。
…………………………………………………………!?
「き、きゃああああッ!」
──パァンッ!
醫院長室に銃聲が鳴り響いた。
撃たれた。間違いなく撃たれた。
銃口はこちらに向けられていたし、嵌村さんが引鉄に指を據えていたのも見た。
私はを反的に仰け反り、撃たれたと思われる箇所を手で覆う。
しかし手に伝わってきたは、どくどくと流れ出るそれではなく、ヒラヒラとした紙っぽいだった。
「あっははははは!」
今度は嵌村さんの大笑いが部屋に響き渡った。嘲りや揶揄のりじった意地の悪い笑いだ。
改めて、ヒラヒラしたものをしっかりと目で確認したところ、それはクラッカーなどから飛び出してくる紙テープや紙吹雪だった。
「よく出來てるだろう? 安心してよ。海野さん、をもって験したからもう分かるだろうけど、こいつは玩おもちゃさ」
「………………」
「全く、アンタは本と偽の區別も付かぬのか。一度銃口を突き付けられた者の反応とは思えぬ」
一般人は銃口を突き付けられる事なんて生涯に一度もない筈だし、何よりたった一回の経験で見分けようが出來る訳がない。
そして何よりもこの人だけには一番言われたくない。心から。
「それが玩だと言うことは分かったよ。そして、これから何をするのかも」
本と見紛う拳銃にたじろいで思考が停止していたけれど、冷靜さを取り戻して考えてみれば、嵌村さんはギャンブラーだ。
嵌村さんがギャンブラーとして拳銃を用いてくる理由なんて、これくらいしかないだろう。そうだ、これから始まるのは──
「山くん、僕とロシアンルーレットで勝負だ」
引鉄に指先に掛けてクルクルと回転させながら気に微笑みかけてくる嵌村さん。
ロシアンルーレット──上記のようなリボルバー式の拳銃に一発だけ弾を裝填し、適當に弾倉を回転させてから自分の頭に向けて引鉄を引くゲームだ。
度試しや運試し、果ては自殺の手段としても扱われがちな危険な遊戯だけど、昨今ではバラエティ番組などでは、いくつか用意されたお壽司やシュークリームの中に一つだけ大量のわさびやからしをれたを仕込むという比較的安全な遊びとして派生されていたりする。
「隨分と酔狂な遊戯を嗜むのだな。それも勝負師から來る余裕というものか?」
「勝負師たるもの、常に勝利に貪であれ。挑み続け、勝負が決まるその時までふてぶてしく笑え──それが僕のモットーなんでね」
よく分からず最近どこかで聞いたような格言をキメ顔で言われたところで返答になっていないし響いてはこないけれど、これから先何が起ころうとも何の迷いもないと言っているようなのは確かだ。
「それでは始めるにあたって、ルールを説明をしよう。頭金くん、よろしくね」
「はい! 了解したっす!」
あなたがするんじゃないんだ。なんてツッコミはしない。そんな場と雰囲気でもないし。心の中だけにしよう。
「ルールだと? ロシアンルーレットのやり方なら知っている。説明など不要だ」
「そんな事言わないで。せっかく君が僕の相手になってくれるって言うのに、普段通りのルールでやってもつまらないでしょ?」
先程から思っていたのだけれど、彼は山くんの事を買い被りすぎではないだろうか。接待と言うにはやりすぎ、しかし憧れと言うには上っ面だけのような気がして矛盾が生じてしまう。不思議な対応だ。
「あっと、僕としたことが。ルール説明の前に一つ大事なことをし忘れていたよ。山くん、これを」
思い出したかのようにそう言うと嵌村さんは、制服の懐から二枚のメモ用紙とペンを取り出した。
嵌村さんはそれを山くんに渡す。
「何だこれは?」
「僕たちはこれから賭け事をやるんだ。その為にはお互いに──対価が必要だろう?」
そう言うと、嵌村さんはサラサラとペンで文字を書き出した。
恐らく彼の言う対価という言葉から導き出された予想からいくと、そのメモ用紙に自分が賭ける何かを誓約として書き記すのだろう。後で言い訳が出來ないように。
そして書き終わったそのメモ用紙には、『命』と一文字書かれていた。
い、『命』……!? 嵌村さん、なんという大勝負に出たのだ。この勝負に想いを込めすぎじゃない!? 何の迷いもなく手紙を書くかのように書いていたけれど……。
「嵌村さん!? 何もそこまで……!」
「いいじゃないか。この紙に書くは何でもいい。だから僕は、これにした」
流石の頭金くんですら狼狽えている。流石は噂通りの人のようだ、本當に自分の命すらも賭け事の対価としてしか見ていないなんて。
そして一方、その文字を見た山くんは、
「なるほど、ならば私は……」
彼もまた瞬時に理解したようでペンで文字を書き始めた。そして彼が書いた文字は、
『財産』
あー……実に彼らしい……。
「これでどうだ?」
「うん、悪くないね。そんなのでいいのかな?」
「愚問だな。これ以外にないだろう」
「本當に良いんだね? 後悔しない? それじゃ僕もこれで決定しちゃうけれど後からの変更の申し出は出來ないからね? というかそこに書いた以上は──」
「ええい! しつこいぞ! 私はいいと言っている!」
それは思った。念には念を、さらにそのまた念、念の裏をかいて念を押すかのような念のれように関係ない私ですら鬱陶しさを覚えた。
「その言葉が聞けて良かった。それでは、頭金くん。このメモをこの中に」
「お、おっす」
嵌村さんからメモを渡されると、頭金くんは手のひらサイズの額縁を二つ取り出し、中にしまい込んだ。
そしてそれが寫真立てのような構造になっていたらしく、二つの額縁を二人に見えるように扇狀に並べた。
「準備完了っす。嵌村さん」
「ありがとう頭金くん。これでようやくルール説明にれるね」
「何がようやくだ。こんな事、ルール説明の後にでも出來たであろう」
言われてみれば、確かに。わざわざルール説明の前にやる程大事な作業とは思えなかった。むしろルール説明のにこの工程が組み込まれていてもおかしく……、
「ルール説明…………」
「何だね海野さん。君も気になるのかな? 嵌村式ロシアンルーレットのルール」
「え……いや」
「しょうがないね。頭金くんせっかくだ。海野さんにも説明してあげたまえ」
「え、でも……」
「海野さんはプレイヤーではない。でも彼は観客なんだ。ルールを知らないまま事のり行きを見ていたって意味が分からないだろう?」
「そ、そうっすね……まあ……」
そう言えば、先程のやり取りから頭金くんのハキハキとした態度が急に衰え始めていた。まるで何か隠し事があるかのようなまごまごした口調から読み取れる。
一方私も、かにとてつもない違和と、凄まじいほどの悪寒をじていた。
ここで言う悪寒とは、寒いとかの理的なものではなく不安や恐怖などの心理的なそのものだ。
考えようともしなかった。考えるまでもない。
しかしもしかしたら私──いや、山くんはとんでもないミスを犯してしまったのではないだろうか……!
「さあ、頭金くん。説明を」
「………………」
「なんだい? さては君、ルールを忘れてしまったのかい? はぁ、仕方ないな君は」
いつまで経っても口を開こうとしない頭金くんに痺れを切らし、ため息混じりに彼は再び懐に手をれると數ページ程の手作りの漂う冊子が二冊、取り出された。
「そ、それは……」
「こんな事もあろうかと、作っておいて良かったよ。ルールブック」
彼が持つ冊子のタイトルには、
『嵌村式ロシアンルーレットルールブック』
と書かれていた。
「何だ、この様ながあるのなら最初から渡すのだ。まどろっこしい」
と、山くんは嵌村さんの手からルールブックを無理矢理奪い取った。
「ほら、アンタの分だそうだ。さっさと読んでしまうぞ」
不躾にもう一冊のルールブックを私に渡した山くんは、さっさと自分の分のルールブックに目を通し始めた。
私自も、この冊子に目を通さなければならない。しかし──とてもギラついた視線が突き刺さり全く集中出來ないでいた。
冊子を読むふりをして前の方を一瞥すると──嵌村さんがとても嬉しそうに微笑んでいたのだ。
あえて文字で表現するなら──『嗤っていた』。
作りである筈の仮面が笑ったかのような、背筋がゾッとするような笑いだ。
その橫ではもはや手遅れだと言わんばかりに頭を抱えて項垂れる頭金くんの姿が。
それが一何を意味するのかは、理解するのに、それほど時間が掛からなかったのは、言うまでもない。
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