《雪が降る世界》第43話 〜二度目の春〜
七海が待されてることを俺は知った。気づかなかったんだ。飄々としているあいつを見ると。改めて、俺の観察力のなさに落膽する。
警察に七海を引っ張って行こうと思ったが…。もちろん七海に俺なんかが力で勝てるわけがなくて。結局、行けなかった。
「なんで…?」
「お前だって知ってるだろ?父さんは最高峰の醫者だから。今まで、誰も、信じてくれることはなかった。もう諦めたんだよ。父さんは自分のような存在を作りたがってる。」
七海に聞かされたことを、信じられずにいた。
時夏を見つけるために。作家を捨てた。
…でも、そんなこと、あっちゃいけねぇだろ。
七海先生に、説得するにはそれが一番だったと。それが、何を意味するか。
「お前は誰だよ。」
やっぱり七海は無雙の天才だった。
「…ただの、人形。」
「なぁ…お前が、教えてくれたじゃん。人間は、自由で平等なんだよって。」
「…ここで憲法出すか?」
「出す。」
「俺が、文系に行ったのは。」
「うん。」
「父さんへの反抗心からだった。どうしても醫者にはなりたくなくてさ。」
「うん。」
「でも文系でもなれないことはないじゃん?今もまだ押し付けられてる。言った記憶があるんだが…。俺は、欠陥品の埋め合わせだって。」
「…確かに言ってたな。」
「本當は、兄さんがなるはずだった。でも父さんは平凡な兄さんを直ぐに諦めた。
それから、姉さんも駄目だったんだ。」
「それで七海が?」
「まぁ、ざっくり言うとな。」
「なんだ…。そういうことか…。
でもさ、俺にも4割位の責任があるだろ?」
「さぁどうだろうな。」
「まかしとけ。」
「は?」
ちゃんと寫真撮ったし。今のも録音したし。もうちょっと証拠がないと信じてもらえないだろうけど。本人が行っても駄目だったんだし。
俺的にはあんだけ傷があったら大丈夫かなって思うが…。さすが最高峰。いろんな意味でめんどくさい。
何よりも、大人の勝手で縛り付けられてる七海が、可哀想で。俺は、親の手から普通に離れて呑気に生きてきたのに。同じ世界にいるとは思えない。
「桜ってさ、散るところが綺麗だって言われてきたんだよな…。」
唐突に呟く七海。何を言いたいのか、俺には分からない。
「急にどうした?」
「いや…。またこの季節が、戻ってきたんだなって思ったら、気分悪くなる。」
「綺麗とか掠ってもねえ…!」
「やっぱ外國人ののこまにはわかんないかー。」
ニホンソダチデス…。
「何が?」
「散る時の儚さって…なんか、死のイメージが、俺の中にある。」
「へぇ…。難しいな。って、ん?」
それは、つまるところ、死にそうだってことか?合ってる?
エリートが考えることなんざわかんねぇよ…。
「頭なんかより、の方がよっぽど正直だ…。」
「何?」
「俺ね、澪とか瑠璃さん見て…。こまは理解できないだろうが、いいなって、思ったんだよ。」
そんな。え?
「自分の最期が、生まれた時から決められているのは。焦ることなんかない。」
「ありえねぇ…!」
「だから言ったろ?理解できないって。の方がよっぽど正直だって。
…でも、聞いてくれて、ありがと。ひとつだけ、お願いしていいか?」
「なんだよ。」
七海の、瑠璃達に対する思いを聞いて若干イラついて。いつもより、トーンが下がってしまう。
「直ぐに…救急車…呼んでくれ…。」
「?!」
そう言って、七海は倒れてかなくなった。
病み上がりに連れ出したから?ストレスに耐えられなかったから?
救急車と加達を呼び、その場に座り込む。公園の土で汚れた七海の顔を拭き、わになった痣を見た。
助けを求めたその時は、俺が俺じゃなくなるかもしれない、七海はいつかそう言って。
このことを言っていたんじゃないと心から祈る。ここまで予言出來たら最強だよな。
連れ添い的なじで車にった。
突然過ぎて容が全く頭にらない。
それからのことは、本當に空覚えで。
ただ願った。
「もう死なせたくない…。」
去年の今頃出會った人とは思えないほど、変わり果ててしまっていた。
また楽しく弓をひけるように、隣を走れるように──
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