《雪が降る世界》第54話 〜秋桜〜
「俺らも修學旅行だなー。行ったことあるか?沖縄。」
「ねぇよ。そんな金あったらこんなに苦労してない。」
「俺は何回も行ったことある。小さい頃に。」
「春瀬…。悲しくなるから黙っててくれ。」
なんやかんやいろいろあって忘れていたが俺らも行く予定。沖縄、か。暑そうだな。
「俺何するか全く聞いてないけど…。」
あぁそうか、時夏は來たばかりだし。
「後でプリントやるよ。てか七海は行けるのか?」
「さぁ、どうだろうね。行けるんじゃない?わりと近場だから。」
沖縄は近所だと…?これが世界クオリティ…。飛行機とかどうすんだ。
「まぁ七海いなかったら楽しくないもんな。ちょっと安心。」
「別に…こまとか時夏いるじゃねぇか。」
「いやー、やっぱ弓道ズとして?」
「何それ。」
「それにさ、七海あの辺詳しそうじゃん?」
「ガイドさんがいるだろうが。」
「沖縄弁なんてわかんねー。」
「標準語喋るから。なめすぎ。」
「七海は方言分かる?」
「…まぁそれなりに。」
「はいさい!!」
「それ當たり前じゃね?」
うん…俺でも知ってる。どんまいとしか言えないな。七海の言語能力には目を瞑ろう。北海道から沖縄まで知ってるっぽい。
「そんなことより、後のプレゼンの心配したらどうだ?俺は春瀬とやるけど。」
あぁ…ほんとだ。これじゃ必然的に俺は加と時夏じゃん。今だけ文転したい。
グループは基本自由だから選択は結構重要。なのに…。
「加お前シャキッとしろよ。」
「そんなのレタスに言ってよ。」
…?何故レタス?え、あ、あー…噓でしょ。
「いやだから…。なんて言えばいいんだ?んー…。気を引き締めろ。」
合ってる?シャキッとするってそういう事だよな?まさか高校生相手に悩まされるとは。
「こまだって迷子になんないでよね!」
「1度もなったことないしそれはこっちのセリフだ。」
「くっそ…。スマホがあれば俺はどこでも迷わないからな!」
「そりゃだって小學生でも分かるくらいじゃん?どんまい。」
うるさい加はおいといて…。
「あ、俺進路の先生に呼ばれてるんだった。ちょっと行ってくるわ。」
「おけー。」
何故呼ばれたかはよく分からないがまぁ多分、進學か、就職…いや継続のどっちかを聞かれるんだろう。親にきちんと相談しといてって言われた気もしなくもない。
「何ですか?」
「何ですか?じゃなくてねぇ。君の將來だよ?もっと真面目に考えないと。君以外もうだいたい決まってるから。先生みんな心配してるよ。で、ちゃんと言った?」
「いやー無理ですねー。親は…。ただいろいろ調べましたよ。…でも、俺は…。」
「資料請求とかしたのか?」
「いえ、特に明確な大學はないのでまだです。」
…時夏は、日本の大學に進學するんだろうか。それはそれでいいが…。
今先生に話して大丈夫か…?
「…俺は、両親を連れて故國に帰ろうと思っています。それができなくとも、両親が戻れれば、大學なんてどこだっていいんです。」
卒業と同時に七海はいなくなる。春瀬もいつかはフランスに。加は、俺がどうしようと応援してくれるだろう。それなら、俺は全力で、父さんや母さんに幸せを運びたい。今にしみてじている、家族の幸せを。
「ほぉー…。君ほどの優秀な生徒が大學目指していないか…。意外だな。」
「別に…今まで大學目當てで勉強してた訳じゃありませんから。お金なくて、學費なんて払えたもんじゃないですよ。奨學金狙いです。」
「それで全國2位とかなるかねー。面白い子もいるんだな…。海外行ってそのあとは?」
「現地の大學行けたら行こうかなって。でも一応モデルできそうなのでたいして不安はありません。」
「現地の大學って?何の學部?」
「…醫學部、です。」
「また日本でも難しいのに…。なんで醫者?」
「ありきたりな理由です。俺は病院で亡くなる人を、ずっと見てきました。小さい子から高齢者まで…。その人たちの治療法はまだ見つかってないんです。だから、必要なことは、余命をしでもばすことと、心のケアだと思ってて。」
「じゃあ治療法見つけられる仕事したらいいんじゃない?」
「それも考えました。でも、七海に言われたんです。研究所で地道にやってるより、現場で患者を笑わせてあげる方が、お前の価値が余るほど出るよって。実際、俺がお見舞いに行っていた部屋の子は、行くだけで喜んでくれました。きっと、この見た目だからでしょうけど。」
「そうか…。なるほどね。分かった、海外の醫學部のことも調べてみるよ。」
「ほんとですか?」
「學校じゃないと得られない報もなくないからね。頑張れ。」
結構時間かかったな…。さすがにみんな待ちくたびれてるだろう。
「あ、やっと來た。早く帰ろ。」
「ごめんごめん。」
「この週末さ、俺植園行くんだけど一緒に行かない?」
春瀬からのおいはあまりにも唐突だった。…急にどうしたんだ。
「え、でもそれ家族で行くやつだろ?」
「俺が行ってみたかったとこでね。みんな來てくれることを前提に。」
「家族は?」
「送り迎えだけ頼んだ。使用人に。」
…!すげぇ…。可哀想な使用人だ。
「それにしても急過ぎないか?」
「んー…あと2年しないうちにみんなバラバラになるから、いろんなところ行って、幸せになりたいなー…なんて。」
意外にちゃんと考えてんだ。いつも能天気なのに。
「賛!!」
「…まぁいいかもな。」
「仕方ねぇなー。」
「え、ちょっと待って俺途中參戦みたいなポジションなんだけど。」
「時夏もだから。5人で行こ!」
「七海はいい心理療法的なやつになってんじゃないの?」
「…俺はこの時間が何よりもいい治療法だと思ってる。」
…なんでそうさらっと言えるかな?
「よかったー!」
「寫真撮ろうぜ!」
「わっ、ちょっと待てって、引っ張るなゴリラ。」
「いくよー!」
今日のフォルダを見返すと、びっくりする量の寫真があった。我ながら恥ずかしい。
でもこの中の七海は…。
「これアルバムにしたら面白そうだね。作ってみよっかな。」
「それいいね。こまの盜撮アルバム作ろ。」
「…????今なんて?ちょっと七海?」
「なんてって…。こまの寫真をしっかり殘そうかと。」
「やめて時夏にして。」
「時夏のはゴリラが作るから。」
くっそ…。俺も七海盜撮すれば良かった。やられた。
「ほら見てよこのこま。絶対學校でも事務所でも見れないよ。可い。」
「やめて!!」
なんでこんなに場所変わってんのにやることはいつも通りなんだ…!ふざけんなよ…!
「いいだろ?減るもんないし。あ、これSNS載せるとか止だからな。」
「分かってるって。」
寫真の中の七海は、新しい何かを知った子どものような、純粋な笑顔を浮かべていた。
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