《雪が降る世界》第58話 〜月の答え〜
昨日は思い出したくないほど大変な日だった。おかげで七海がロビーにおりてこない。
「遅かったな。おはよう。」
「すまん…。食がなくてさ。」
「今日も大変なことになりそうだわ。
とりあえず出よっか。」
殘りは2日。その間は割と自由なんだが…。
問題はプレゼンなんだよな…。文系達と一緒に行くのは楽しそうだけど容がダダかぶりしそう。いや確実にかぶる。
「春瀬達はどんなじにすんの?」
「えーと…七海いるからどこでも対応できると思って…。」
「あ、店とか繁華街には行かねぇんだ。」
「そりゃそうでしょ。また資料館の時みたいになったら嫌。」
「…そうだね。」
まぁもともと予定にはれてないしなんとかなるか。
俺は一応下調べしたものの、海ネタしか見つけられなかった。それは加も同じようで。
「理系ポンコツだなぁ…。」
「うるせー。時夏は?」
「うーん…こんなこと言うのも変だと思うけど…。」
「お、何?」
「アイス食べたいです…。」
「へ?」
アイス…?何故。
「暑いのか?」
「えっ、いやそれもあるんだけど、コンビニのやつしか食べたことないから…。」
「田舎…。」
「んー…じゃあもうし経ってから行こうか。」
やっぱり理系ポンコツだ…。
「まずどこ行く?」
「あの辺の森っぽい所。」
「今テキトーに言ったよな?」
「大丈夫七海いるから。」
うん…。確かにな?
すごい…異世界みたい…。
「珍しいとかいねーかなー。」
「ゴリラいるとなー。」
「俺のせい?!」
「そういえば沖縄ってキジムナー有名だよね。見えない?」
「あれ妖怪だろ?俺は霊しか見えねぇ。そんなことより、蛇気をつけろよ?」
「はーい。」
…俺らだけでって大丈夫だったのか?
先生達、生徒みんな街に行ってると思ってるからこっち誰も居ない。
「この木…バカでかい…。」
「全員乗っても折れなさそうだな。」
…。例えがおかしい。
「これなんて言うんだ?」
「…デイゴ。」
「へぇー…。加登ってみてよ。」
「ん?わかった。」
「どうしてこうなった。」
「やば、景最高。」
「ちょっと、雙子そっちの枝に並んで。」
移がどんだけ大変だと思ってんだ。木登りなんて初験なんだが。それが修學旅行。しかも高校の。勘弁してほしい。
「海バックにして…。うん、いいじ。」
「みんなろーよ。加カメラ持って。」
「え、俺っていいよね?」
「れ。」
なんか寫真を事ある毎に撮っていくうちに、七海がらかくなってる気がする。場所のおかげか?
てかこんなとこに登って大丈夫だったのか。…。これどうやって降りるんだ?
「そろそろ移しよ。」
「あぁ…。」
加春瀬時夏は何の躊躇もなく飛び降りた。え?うそじゃん。こんな高い所からジャンプして無事なの?七海どうすんの?
「加、下でキャッチしてくれ。」
「え、七海も飛ぶのか?」
「なわけあるか。ゆっくり行く。」
これをゆっくり行くとか無理なんだが。
「ほらこまも早く來いよー。」
「えぇ…避けるとかなしだぞ。」
「さすがに怪我するから心配すんなチビ。」
「んぐ…!黙れゴリラ。」
「置いてくぞー。」
「え、待って待って待って!」
あ、やべ、足引っかかったーーーーー!
「何してんの?!大丈夫か?!」
「…なんとか。痛…。」
「足、捻ってないか?」
「大丈夫。」
「まさか枝の凸凹につまづくなんて…。こま最高。」
「やめて。」
「アニメかよ。」
「違います。置いてくとか言うから。」
「いやー置いてくわけないじゃんこんな人。ピュアだなー。」
なにそれ…。一言余計…。
「璃久って運神経いいんじゃないの?リレーびっくりした。」
「んー…そうでもないかなー。走るのは得意だがそれ以外は。護くらい?」
「え、こまそんなこと出來たのか。」
「練習はしてもいざその時になるとガッチガチになってあんま意味ないんだよね。」
「あー…確かに…すげぇ分かる…。でも冷靜になってダッシュして逃げるよね。」
「そうそう。だから俊足なんだろうな。」
「うわ、モデルしかわかんねぇ話だ。」
「は?何言ってんだ小學生から変わってねぇ。」
「えぐい…。」
俺は七海程じゃないけどな?
「これ寶石みたい…!!」
「120円とかギャグじゃん。」
「東京だったら400円とるだろうな。」
休憩に、森を出て近くの小さいお店にった。ここは學生やお年寄りによく來られるらしい。
南國みたいなじで東京組もそれなりにテンション上がってたが時夏はもう異次元だそうだ。
あ、これくらい人がなくても俺と七海のことは知ってるみたいで、おじいさんとかおばあさんにめちゃくちゃ話しかけられた。理解不能。ただただ笑うくらいしか出來なかった。七海も聞き取れるけどあまり口に出したくないと。俺らに聞かれるのが嫌なのか?
「次どこ行く?」
「スキューバダイビングとかやってみたいけど七海が無理だし他の人がいそうだし何より時間かかりそうだしな…。」
「ちょっと聞いてみるか。」
さっきまで標準語だった七海が急に異國語話し出した。おじいさんに。…地元なら、的なやつ。
「夜に海來るとなんかいいらしい。」
「なんで?」
「ムーンロードがすっごく綺麗なんだってさ。」
「月?」
「月が…真っ直ぐ海に反するんだろうな。俺も見たことない。」
「じゃあ夜はそれ見るとして…。他は?」
「この辺でよく散歩してるくらい。」
「ふーん…。ご一緒出來ませんかって聞いてみてよ。」
「えっ。こま散歩したいのか?」
「せっかくだし。だって有名な観地とか場って他のクラスメイトが行きそうじゃん?」
「まぁ…そうだな…。わかった。」
「わっ、あの花真っ赤…!」
「ハイビスカス。」
時夏にとってどこまで異次元なんだろうか…。俺でも知ってるぞ。
「え、どうしよう…。」
…急に東京戻ってきた…。
「このおじいさんがお晝ご飯家で食べるかって。」
やべぇ、七海相當気にられてる。
「俺らはいいけど…厚かましいな…。」
「さすが田舎。」
「…お願いしよっか。」
そんなこんなで、沖縄っぽい民家にお邪魔した。風通しが良くて気持ちいい。
その家には訳あっておじいさんとおばあさんと、孫が1人の3人で暮らしているらしい。時夏みたいなじ。平日ってこともあり孫は學校。
「わぁ…!昨日のと全然違う。」
「これ何て言うんだ?」
「さぁ…俺は料理とか詳しくないから…。」
「七海にも知らないものがあったなんて…!」
「そりゃあるよ。…でも、興味がない、わけじゃない。これからいろいろ見てみるつもり。」
「じゃあラッキーだったな。」
「うん…。」
「あ、でもこれ七海食えるか?」
「多分大丈夫。」
七海は何を基準に拒否するのか謎。俺や時夏のは大丈夫で母親のは無理。ホテルのもアウトだった。
「うん…味しい。」
「意味不明…。」
それから東京のことやこの島のことをゆるく喋ってるうちに孫が帰ってきた。
「ただいま…えっ?えっ?」
まぁ…そうなるな…。俺もここまで話し込むとは思ってなかったわ。
「えーと…お邪魔してます…。」
「璃久?七海君?弟?何、夢でも見てるのかな…。」
「あれ、方言じゃない。」
「えと、私、最近こっちに移住して…。おじいちゃん何してるの?!」
「あぁ、たまたま行った店で知り合ってお晝ご飯どう?って言われたから來た、だけなんだが…焦りすぎじゃないか?」
當たり前だろ俺もお前も雑誌でしか見れないんだからここの人には…。
「だ、だって…ファンですから…。」
「あ、そうなんだ。ありがとう。こまサインくらいしてあげなよ。」
「お前もな?
…今は見てわかるだろうけど普通の高校生だから…。修學旅行で來たんですよ。世話になりました。」
「こ、こちらこそ、おじいちゃんの相手してもらって…。大変でしたよね…。」
「いや別にそんなことは。人が多いところには行けないもので。助かりました。…どうぞ。」
「あ、ありがとうございます…!2年生なんですね。」
「えぇ…。」
「わ、私も來年2年生です!東京に行くんです!」
「へぇー、じゃあその時はお禮しないといけないね、こま。」
「お前もな?」
絶対流出しない條件でまさかのLINE換になってしまった。…いいけど。可かったし。
「こまがあんなに素直にのるとは思ってなかった。」
「ほっとけ。」
「まー、こまのタイプの子だったよねー。」
「なっ…!」
「茶髪派でしょ?あと、ちょっと間抜け。…王道。」
「いいだろーがよ。」
しだけ、瑠璃に似ていた。だからかもしれない。きっと、まだ求めてるんだよな…。我ながら粘著質だ。
「瑠璃さん…どう思うだろうね。」
「…は?」
「こまがずっと自分のこと好きで他の人見てないって知ったら。」
「…さぁな。」
時々七海は核心を突いてくる。さらっと。
「ほんとわかりやすいよ。」
「何が。」
「こまの?」
「…そんなに顔に出てるか?」
「うん。」
ポーカーフェイスの練習しようかな…。
時夏にもそれっぽいこと言われた気もするし。
夜って出てもいいんだっけ…。そんな遠くに行かなければ…。
「雨じゃなくてよかった。」
「そうだね…。」
それもだけどもっと別の心配あるだろ。
…夜の海、か。
「やっぱ暑いな。」
「ほんとにな。滅多に半袖なんて著ないのに。」
…?
「あー!!七海が腕出してる!」
「うるさい。張り付いて気持ち悪かったんだよ…。」
「うっわぁ、超綺麗。」
「お前をどこにやったんだ??」
「生まれつき。…加の馬鹿。」
「えっなんでっ?」
「加はデリカシーを叩き込まないとなー。」
「えぇ…?そんな子には言わないけどよ…。」
「そうじゃなくてさ…。もういいや。」
「えー気になるー。」
「…加には言いたくねぇ。」
「酷くない?」
「何、俺の悩みでも聞きたいのか変態。」
「めっちゃ聞きたい。七海でもそんなのあるんだ。」
「黙れ。」
「で、なになに?」
「…。もうしだけ、男の子っぽくなりたかった。」
あー…加が長で筋マンでガッチリしてるから…。喧嘩売ってんのかな?
「?形だからいいんじゃね?」
「良かったら別に悩んでない。」
「なんでゴリラに近づきたいんだ?」
「それは…さすがに言えない…。キモイから…。」
「へぇー?じゃあそういうことにしとくわ。海見えてきたし。」
あ、ほんとだ。こんなに近かったかな。
「月って…どう思う?」
「思考的には?」
「なんでもいい。イメージの話。」
七海の言葉は霊力があるようにじるほど重いことがある。何を思ったらそうなるのか、俺にはまだわからない。
「異世界!」
「人?」
「幽霊…。」
「こまは?」
「そうだな…。うーん…。大切な人、とか…かな。七海は?」
「ううん、俺も大事な人だよ。」
「急にどうした?普通にムーンロード綺麗なのに。」
「いや、これ見て…エピソードがいっぱい浮かんだから、お前らはどう思うか、気になっただけ。」
エピソード…?もしかして。
「七海小説書くのか?!」
「…書く。」
「どんな?!」
「言っただろ、いっぱい浮かんだって。そのうち教えるさ。」
気になって仕方がない。いいじゃん親友にくらい教えてくれても。期待するからな!
寫真には上手く寫せなかった。スマホしかなかったから仕方ないが。…ネットより迫力があって明るくて。これ、どうにかして殘せないものか。
「璃久?何してるの?」
ホテルに帰って先生に軽く注意され部屋に戻ってすぐ、デザインノートを取り出した。記憶が鮮明なうちに。
「ムーンロードの絵、書こうと思って。」
も完璧にれた。時計を見るともう日付けは変わっていて隣に時夏が寢ていた。
久しぶりに、絵を…こんなに熱中して描いたかも。楽しい。
だが明日もあるしいい加減寢ないと堪える。てか予定決めてねぇ。
あ、LINEで聞いてみればいいじゃん…。
魔力ゼロの最強魔術師〜やはりお前らの魔術理論は間違っているんだが?〜【書籍化決定】
※ルビ大量に間違っていたようで、誤字報告ありがとうございます。 ◆TOブックス様より10月9日発売しました! ◆コミカライズも始まりした! ◆書籍化に伴いタイトル変更しました! 舊タイトル→魔力ゼロなんだが、この世界で知られている魔術理論が根本的に間違っていることに気がついた俺にはどうやら関係ないようです。 アベルは魔術師になりたかった。 そんなアベルは7歳のとき「魔力ゼロだから魔術師になれない」と言われ絶望する。 ショックを受けたアベルは引きこもりになった。 そのおかげでアベルは実家を追放される。 それでもアベルは好きな魔術の研究を続けていた。 そして気がついてしまう。 「あれ? この世界で知られている魔術理論、根本的に間違ってね?」ってことに。 そして魔術の真理に気がついたアベルは、最強へと至る――。 ◆日間シャンル別ランキング1位
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