《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode5 蒼い遙
次の日。昨日の放課後は曲決めと軽い練習だった。演奏する曲は4曲だそうだ。他の人たちは個人で練習をしていたが、俺は亜実とマンツーマンのスパルタ練習だった。なんとなく理屈は分かったが、曲の最初しか弾けない。っていうかFコードってどうやればできんの、あれ。やろうとすると毎回指攣りそうになるしもう心折れそうなんだけど。しかも、それを見た亜実が『惜しい!もうちょっとだよ!』とかフォローしてくれたと思ったら、すっごい小さい聲で『そんなのもできないの?』って言ってきたりして怖かったです。
俺は放課後の練習だけでは本番に間に合わないので、亜実に言われ通りに授業中もずっとコードの練習をしている。授業中はほぼコード練習をしているせいか、2曲目の終わりぐらいまで覚えられた。このまま行けばもしかしたら行けるんじゃね?
そして放課後、教室で昨日のメンバーで2曲目まで合わせて練習している。俺以外のメンバーは、もう大全部弾けるらしい。経験者にしてもペース早すぎないですか、俺完全にお荷じゃないですかそうですか。言い忘れていたが、ボーカルは亜実、と俺になった。俺は歌は下手でないがそこまで上手くもない。これも亜実の仕業だ。『歌は私と海七渡に任せて!』じゃねーよ。何勝手に決めてんだよ。俺はギターの演奏だけで手一杯なのに、またそうやって無理難題を押し付ける。でも、やんなかったら何されるかわからないし。選択肢は殘されてないんですねこれが。
「This is my own judgement!! got noting to say!」
「兄ちゃんうるさい!!こっちまで聴こえてる!」
「ご、ごめん…」
自室で歌の練習をしてみたがダメだ。防音じゃないし、近所迷になっちまう。明日、カラオケでも行って練習するか……。
水曜日。ギターの方は3曲目まで完璧に弾けるようになった。人間努力すれば何でもできるんだな。ただ、歌の方がダメダメで結局放課後、カラオケに行くことにした。亜実に伝えると、『なら私も練習したいから行く!』と言って、2人でいくことになってしまった。細かいところまで分析されて、『ここは半音高く歌って』とか『そこは頭をもっと強く!』とか言われそうで嫌なんだけど。
〈 カラオケBonBon 〉
高校から徒歩5分ほどにあるカラオケ店で、うちの生徒がよくお世話になっている場所だ。俺もたまに來る。もちろん友達とだからな。ほんとだよ!ボクウソツカナイカラ。とりあえず手続きを済ませ、部屋にる。
るとすぐに、カラオケボックス特有のタバコなのか何なのか分からないとりあえず臭い匂いを纏った空気が俺達を襲った。ほんとこの匂い苦手なんだよな。
「さて」
「とりあえず、どれれる?」
「そうね……ならWANOMAの[いっしょに]ね」
「りょーかい」
「あーあどれだけか〜こがつら〜くて〜」
「くら〜くて〜」
「〜〜〜〜〜♪」「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
「ふぅ……」
「結構上手いじゃない」
「そうか?そりゃありがとさん」
「この調子ならいけそうね」
「ならもうちょい頑張るかな」
こんなじで俺達は文化祭で歌う4曲を何周もした。
歌う亜実の姿は可憐で、歌聲は山の雪解け水が川に一滴落ちるようなき通った聲だった。逆に、俺が歌ってるときは、合いの手やハモリをれたりしてかわい……じゃなくて心の底から楽しそうだった。正直、俺もすごい楽しかった。
木曜日。演奏も歌もほぼほぼ完璧に仕上がってきて、後は土曜日の本番を待つだけの狀態だ。まさか3日で全部完璧にするとは自分でもびっくりだわ。もしかしたら才能あったのかもな。いや、あいつが用意してくれた個人練習メニューのおかげなのかもしれない。そう考えたら、ほんとにあいつは凄い奴だ。
「よし!今日はこのぐらいで終わりにしよう!あとは明日軽く練習して本番!」
「そうだね!」
「海七渡、お前すごいな!この短期間で4曲も」
「いや、亜実のおかげだよ」
「何だよ〜ラブラブしやがってこの〜」
「そんなんじゃないって痛い痛い痛い!首!首キマってるから!!」
そんなやり取りをして、ドラム擔當の岡田はガハハと笑って帰っていった。岡田、頼れる兄貴分ってじでかっこいいんだよな。進○の巨○のラ○ナーみたいだあいつ。そういえば、部活行かなきゃ。ここ最近曲の練習で一回も部活行けてなかったし、他のサッカー部の奴らは皆出しの準備をして部活もやってたんだもんな。多分スタメンはキツいけど練習ぐらい出なきゃな。そう思って俺は部室へ向かった。
練習著に著替えてグラウンドにり、キーパーの後輩に聲をかけた。
「ごめん!今日まで一緒に練習できなくて」
「全然ダイジョブですよ!海七渡先輩、ライブやるんですよね!俺、楽しみにしてます!」
「おう!それじゃあ始めるか」
「はい!」
軽く會話をして、俺達は練習を始めた。
心なしか俺に視線が集まってる気がするが、気のせいか。
俺達がキーパーの練習をしていると、橫からボールが飛んできた。そのボールが、俺の背中に勢い良くぶつかった。ぶつかった衝撃と驚きで俺は聲を上げた。
「痛っ!」
「あ〜〜、ごめ〜〜ん。ダイジョブだった〜?」
「う、うん。へーきへーき」
そう言って俺は転がっているボールを返した。
後ろでボールをぶつけた奴とそのグループの奴らが俺を見てクスクス笑っている。何だあいつら?何笑ってんだ?
「海七渡先輩、大丈夫ですか?」
「あー、大丈夫大丈夫。」
と言って軽く手を挙げといたが、フィールドの選手とキーパーの練習する位置は真逆だからボールが飛んでくることはまずない。ましてや、向きが違う。このときは深く考えないでいた。
金曜日。昨日と同様、全曲を4,5回通して、完璧に演奏することができたので、練習は終わりとなった。今は先生をえたクラス全員で円陣を組んでいる。実は、演奏側は知らなかったのだが、演奏しない他のクラスメイトは、演奏メンバーのうちわを作ったり、合いの手を練習したりしていたらしい。しかも、それを仕切っていたのが海 友梨乃だったらしいのだ。それを聞いて、俺は心が暖かくなった。
そして今、海 友梨乃が全員分のお揃いのミサンガを配っている。これを一人で作ったらしい。それをけ取った亜実は涙を流していた。それが心からの涙なのか、もしくは偽の涙なのかは分からないが、今はこのを皆で共有したい。円陣を組んだ狀態で、亜実が言葉を紡ぐ。
「皆、今日までついてきてくれてありがとう!文化祭、絶対功させよう!!」
「「「おーーーーーー!!!!!」」」
クラスが一丸となって、一つの目標に向けてひた走る。これが俺の求めたていた青春なのだろうか。答えは分からないが、きっとそうなのだろう。そう、きっと。
やってきた土曜日。文化祭當日。高校は、生徒だけでなく、保護者や他校の生徒などが大勢いて、賑わっている。俺達のライブは午後1時からなので調整も考えて、とりあえず12時までは自由時間だ。さーて何から回るかな〜。
「海七渡っ」
「うおっ!」
「そんな驚くことないでしょ〜」
「何だよ、何か用か?」
「お店、一緒に回ろ?」
「えー…」
「えー…って何よ!えー…って!」
「だってめんどくさいし」
実際はそこまでめんどくさくないけど、斷る言い訳が特にないからな。ん?ならなんで斷ろうとしてんだ?俺。
「私が回りたいの!だめ?」
出たよ上目遣い。でも慣れてきたから全く効かない。
「分かったよ、一緒に回るか」
「ほんと!やった!」
別に上目遣いにやられたわけじゃないし。子供っぽいとこもかわいいな、とか思ってないし。思ってないし。
適當にぶらぶら回っていたら、もうそろそろという時間だった。途中、お化け屋敷に行ったとき、出てきたお化けに怖がって抱きついてくるみたいな展開もあって俺的には大満足であります。
「亜実、そろそろ」
「ほんとだ!じゃあ行こっか」
「おう」
俺達は最終調整のため、教室へ向かった。そこには、既にドラム擔當の岡田とベース擔當の、えーっとそういえば名前聞いてなかったな。確か亜実が遙ちゃんって呼んでたような。
「お〜、海七渡!どうだ、楽しんでるか!」
「おう、岡田も楽しんでそうだな」
「あったりめーよ!」
そう言って、分厚い板をトンと拳で叩いた。
「それじゃあ始めよう!」
亜実の呼びかけで、俺達は本番前の最終調整を始めた。うん、大丈夫。いつも通り弾けてるし、聲もしっかり出てる。この調子で本番も功させてやる!亜実!俺がお前の彼氏としてどれだけ長したか見せてやる!
時刻は12:59。俺達の出番は次だ。司會の聲が聞こえる。
「1年1組のお二人ありがとうございました〜!いやー、1年生でコントは気合ってますね〜!それじゃあ次行きましょう!」
「はーい!次は2年8組の方達がライブをするそうです!ステージ前に來たい方、どんどん前に來てくださ〜い!」
司會の言葉を合図に、集まっている人は皆ステージ下に集まっている。
「それでは登場していただきましょう、2年8組の皆さんでーす!」
「よし!行こう!」
「「おう!」」「うん!」
亜実の掛け聲に応え、ステージへ上がる。思えば、何かを発表するのにステージに上がるのは初めてかもしれない。とりあえず俺は、ギターをスピーカーにつなぎ音を調節、ギターのチューニングを始める。場を繋ぐために、亜実がフリートークをしている。チューニングが終わった俺達は、亜実に視線で合図する。亜実は俺を見てゆっくり頷いて微笑んだ。俺も、それに笑って返す。
「えー、約5日間という短い練習期間でしたが、なんとか完させることができました。それでは聴いてください、TWO o'CLOCKで[完全掌握Dreamer]」
「「「「「イェェェェェェイ!!!!」」」」」
「〜〜〜〜♪」
やばい、楽しい。歌うのってこんなに楽しかったっけ?そろそろサビが來る、俺と亜実のハモリだ。
「「This is my own judgement! Got nothing to say!」」
「もしも、他に〜、なに〜か思いつきゃ速攻言うさ」
「「完全掌握Dreamer!が僕の名〜さ!」」
「Willsay it !」
「「「「「「Will say it!」」」」」」
「あればあるで聞くが今は」「「Hold on!」」
「「「「「フゥゥーーーー!!」」」」」
そして2曲目、3曲目が終わり、最終曲………。
「殘念ながら!次で、最後の曲になってしまいます!!」
「「「「「えーーーーーー!!!」」」」」
「でも、最後にこの曲で皆で盛り上がりましょう!それでは聴いてください!God Nose …」
この曲はドラムの岡田で始まり、次に俺のギターだ。この曲のギターが一番難しくて何度もやり直したんだよな。頼む、神様。今だけは楽しませてくれ。
「〜♪♪♪〜♪♪〜♪♪♪♪♪〜〜〜♪♪♪♪〜」
「「「「「オオオーー!!!」」」」」
よし!完璧だ。うはー、張した。
この歌のボーカルは亜実オンリーだから、俺はギターに専念できる。
「か〜わいた〜、心で駆け〜抜〜ける〜」
「〜♪♪♪〜〜♪♪」「♪〜♪♪〜〜♪」
「わ〜たし、つ〜いていく〜よ、ど〜んなつら〜い世界の闇の!なっか〜でさえき〜っと〜あなたはか〜が〜やいて!」
そして、ラスサビが終わりギターの俺の見せ場が來た。
「〜♪♪〜〜〜♪♪♪」「〜〜♪〜♪♪♪〜」
ここも、なんとか乗り切り、クライマックスだ。
「ありがとうございました〜!!まだまだ文化祭終わりじゃないのでこのあとのダンス部の発表とかみ見てってくださ〜い!!今日はほんとにありがとーーーう!!!」
「「「「「イェェェェェェイ!!!!」」」」」
亜実の締めの言葉が終わると今までで一番の歓聲が返ってきた。
「子のボーカルかっこかわいい!」「ギターの男の人かっこいい!」「ドラムの人ゴリラ!!」「ベースもかっこよかったよー!」
皆様々な想をんでいる。おい、岡田に対しての想ヒドすぎだろ。せめてドラムについての想を言え。
そんなこんなで、俺達の文化祭ライブは大功で幕を閉じた。去年の文化祭は特に何もしてないから覚えてないが、今年の文化祭は俺の心の奧底にずっしりと重みをじたまま殘り続け、一生忘れることはないだろう。皆で切磋琢磨し、この文化祭を一世風靡した。これが青春なのだろうか。こんな最高のを教えてくれた坂木 亜実、いや、ショートヘア王が、俺は大嫌いだ!
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