《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode0/Episode10 幸あれ
「「亜実、誕生日おめでとう!!」」
「うわー!ありがとー!」
その日は、私の3歳の誕生日。お父さんもお母さんもケーキやプレゼントを用意して祝ってくれた。
「ほら、ろうそく消しなさい」
「一回で消せるかな〜?」
「やってみる!」
そう意気込んで、思いっきり蝋燭に息を吹きかけた。
「凄いじゃないか!一回で消えたぞ!」
「亜実は凄いわね!」
「そうでしょ〜!」
「さっケーキ食べましょ!」
「プレゼントも凄いの用意してるからな〜」
「えー!何だろう!」
「開けてごらん」
「うわ〜!」
中には、ネックレスがっていた。3歳の自分には大人染みていて、でも子供の頃って、妙に大人っぽく著飾りたくなるものだよね。その時の私は喜びを発させていた。このネックレスは、お父さんとお母さんとお揃いのものだった。リボンの形をしたそのネックレスは、や人との絆を結ぶという意味が込められていると、あとになって知った。
一週間が経った。私はいつも通り保育園で絵本を読んでいた。親は共働きだったから、私はいつも一人で過ごしていた。別に一人が好きなわけではなかったと思う。ただ、無理してほかの人と関わる必要もないと無意識的に考えていたのかもしれない。周りの子たちは、外で砂遊びをしたり、お絵かきをしたりしている。園で私だけが孤立している…………わけではなく、私以外にも、もう一人、一人で本を読んでいる男の子がいた。名前はわからないけど、私と一緒で、いつも一人。このときの私は何か魔が差して、その男の子に聲をかけた。
「ねぇ」
「…………」
「ねぇってば!」
「………………」
「無視しないでよ!」
「………俺に話しかけてるの?」
「そうだよ。いつも一人だけど、誰かと遊ばないの?」
「……お前に言われたくない」
「そ、そうだけど……。あ!なら一緒に遊ばない?」
「………何で遊ぶかによる」
「ん〜とそうだなぁ〜、お砂遊びとか「皆使ってるから空いてないじゃん」
「む、確かに」
「外で遊ぶのは無理でしょ」
「そうだね〜。それより、名前教えてよ!友達の証!」
「別に教えなくてもいいでしょ。めんどくさいし」
「なにそれ!ならわたしも教えないから!」
「別に知りたいないなんて言ってないし」
「む〜!」
なにこの男の子!とその時は思っていたけど、私はそんなやり取りを心の何処どこかで楽しんでいたのかもしれない。普段は殆ど他の子と喋ることはなかったからか、この子と友達になりたい、そんな風に思っていたのだろう。そんなもの葉いっこないのに。
「亜実ちゃん。お母さんがお迎えに來たよ〜」
「あ、お母さん!」
「亜実、とりあえずついてきて」
「どうしたの?そんな急いで」
「いいから早く」
私はお母さんと一緒に病院へ向かった。病室にはいり、目の前のベットに橫たわっていたのは、お父さんだった。癌がん、とお醫者さんは言っていた。実は何ヶ月も前から癌は見つかっていたらしい。でももうその時には、ステージ4、全に転移する可能がある狀態、つまりは助かる可能は低いということだった。お父さんはそれをお母さんにすぐ伝えたらしい。それで二人で話し合って、私には言わないことにしたのだ。3歳のの子には、決してけ止め切れない現実だからだろう。私はただ、「お父さん、早く起きてよ」としか言えなかった。どうせ疲れて寢ているだけだろう、3歳の私には、そんな安直な考えしか思い浮かばなかった。お母さんが隣で涙を流しながらお父さんの手を摑んでいるというのに。部屋には、親戚のおじさんや祖父母もいた。
「お父さんはただ寢てるだけなのに、何でこんなに人がいっぱいいるの?」
でもその言葉には誰も返事をしてくれない。帰ってくるのは、一定のリズムを保っている機械音と、皆の苦蟲を噛み潰したような顔だけだ。
やがて、一定のリズムだった機械音が、リズムを失った。
この現実をけれるには、私はまだすぎた。死の実というものは、子供にはじづらいから。お父さんが眠ってから、し経って、私はやっとお父さんが死んだという現実を理解した。泣いた。わんわん泣いた。涙が枯れても、ただひたすら聲をあげ続けた。なんでいなくなったの、とお父さんに訴えるように。
3歳で父の死を経験した私は、同年代の子よりも、大分大人らしくなってしまった。以前よりも他人と関わらなくなった。友達になれると思っていたあの男の子も、私から離れていった。「もう話しかけないから」と私が言ったら、その男の子は、「………あっそ」とだけ言ったっきりだった。あのときの私は傷心しきっていて、他人と関わる余裕など無かった。お母さんが夜まで帰ってこない日もしょっちゅうあった。寂しさは特にじなかった。お母さんだけに任せっきりで何もできない自分の無力さを悔やむばかりだった。3歳の子供がそんなことを考えることは普通ない。でも私にはそれが普通だった。
私の4歳の誕生日。お母さんから大きなクマのぬいぐるみをもらった。「お母さんがいなくて寂しいときは、これを持ってなさい」と言われた。別に寂しくなんてないのに。私がお母さんに、「無理しないでね」と言ったら「だいじょぶだいじょぶ!母さんこう見えて力あるんだぞ〜」と言っていた。
私が5歳になって、母は死んだ。
噓じゃないか。あの言葉は噓だったんじゃないか。悲しさもじたが、信じていたのに、裏切れたという気持ちが強かった。いや、私が裏切られるようなこどもだったんだ。私が悪い。全部。お母さんに無理をさせ過ぎたのも、私なんだ。ならもう、誰にも無理させない。一人で生きていけるぐらい強くならなきゃ。そのために私は強くなろうと決心した。保育園を卒園するとき、私はあの男の子に謝りに行った。
「久しぶりだね」
「……話しかけないんじゃなかったのか」
「あのときは……ごめんね。勢いで言っちゃったんだ……」
「……あっそ」
「もう小學生だね」
「そうだな」
「私、強くなりたいんだ。そのためには何でもするって決めたの」
「あっそ」
「さっきからあっそ、とそうだなしか言ってないじゃん!なんでそう思ったの?とかないの?!」
「興味ないからそれしか言うことないし。まぁ、頑張れば」
「言われなくても頑張るけどね。ありがと!バイバイ!」
この會話が最後だった。私はこのあと叔父の家で暮らし、小學校へ上がり、たくさんの習い事やスポーツをこなして、中學でも凄い績を殘して、高校へ進學する。別に一番になりたいわけじゃなくて……ただ強くなりたかった。でも強くなるには結局一番になるしかなくて……。その時の私は一心不そのままだったと思う。《強くなる》という曖昧模糊あいまいもことした目標に向けてひたすら走り続けて約9年。高校へ進學してもその気持ちは変わらなかった。でも、『何か新しいことを始めてみるのはどうか』と叔父に言われたから、バレーボールを始めた。小、中學校ではバレーボールはやったことがなかったから、最初は右も左も分からなかった。でも、畫を見て研究したり自主練習をしたりして、1年生の夏にはレギュラーとして試合に出ることができた。私は初めて、"楽しさ"をじることができた。今までは全てをこなすことだけを考えていたけど、バレーボールはとても楽しくて、虜になっていた。
バレーボールに出會っていなかったら、今の私はないと言ってもいいかもね。
「そういや気になってたんだけどさ」
「ん?」
「そのネックレスいつも著けてるけど、大事なものなのか?」
「うん………お父さんとお母さんとお揃いのネックレスなんだ」
「そうか……それは大切なものだな。そうだ、このあと、ららぽ行かないか?買いたいものあってさ」
「別にいいけど、それなら私も夏服買おうっかな。気になってるのもあったし」
「なら行くか」
ジリジリと熱の線を照りつける太の下を、二人で歩く。
それにしても、昨日の夜は々と疲れた。親父が帰ってきて面倒なことになったんだよな。
「………………親父?」
「ただいま〜っと、おい海七渡!またデカくなったんじゃねーのか?もうそろそろ俺も抜かれちまうかな〜」
「帰ってくるなら連絡してくれれば良いのに……。急だったからなんにも用意してねーぞ?」
「いいっていいって!でも驚いただろ!サプライズだ!!ワハハハハハ!」
「まあ何にせよ、おかえり」
「ああ、ただいま。家のこと任せっきりで悪いな」
「別にいいって。親父の方が大変だったんだろ?アメリカの商談」
「まーな。一応契約は立したから當分はゆっくりできそうだ」
「お疲れ様です、社長殿」
「社長呼びはあんまし好きじゃねーんだよな〜」
これが俺の父、荒井晶あきら。日本に支社を置く一流會社の社長を務めている。長は180前後でツリ目、顔は俺が言うのもアレだが凄いイケてる。外見だけなら20代と言われてもバレないだろう。仕事中はいつもオールバックで、ワイルドな男前社長……みたいなじで、會社の社員からも人気の呼び聲が高いらしいが、家では普通の父親だ。何故會社の父を知っているかというと、俺もたまに手伝うことがあるからだ。あと母さんは父さんの會社の部長だし。出會いももちろん仕事場だった。出會ったときの親父は普通の平社員だったらしいが、『もし俺が社長になったら、付き合ってください』と言われて、付き合い始めたと言っていた。なんでも、親父のアプローチがしつこくて、面倒くさくなった母さんが、『なら社長にでもなってからにしてくれない?』と言ったら、本當に有言実行してしまったのだとか。最初は嫌々だった母さんも、親父の男らしいところや優しさに惹かれていき、結婚………となったらしい。マズイ、話が逸れたな。というわけで久々に親父が帰ってきたわけだが、俺は自分が大きな弾を抱えていることに今更気づいた。
「ん?お嬢ちゃん誰だ?」
「あっ!やっべ!」
亜実を忘れていた。親父が帰ってきたことで頭が一杯だったが、亜実が家にいたんだった。家に二人きりだったことを指摘されたら、どうしようもないぞ。心焦りながら、亜実に助けの視線を送るが、時既に遅し。
「お、もしかして、海七渡の彼氏とかか〜?」
「はじめまして。海七渡さんとお付き合いをさせて頂いてる坂木 亜実と申します。海七渡さんから事は聞いております。アメリカに出張に行かれていたとのことですが」
俺は亜実のセリフを脳で処理するのに5秒ぐらいかかってしまった。こいつ今付き合ってる言った?何言ってんの?What do you say?びっくりしすぎておもわず英語になっちゃったよおい。こいつはどうするつもりなんだ。多分、この狀況を説明するには一番手っ取り早い方法なんだろうけど、あいつはいいのか。
にしてもあいつは凄いな。初めての親父にも怖じしないし、會話の主導権を完全に握っている。親父からしたら、出鼻を挫かれた気分だろう。
「お、おう。やっぱりそうか。にしても人だな〜、亜実さん、だっけ、またどうしてこんな地味男と?」
「おい、誰が地味男だコラ」
「海七渡さん……いや、海七渡は素晴らしい人だと思います。人の痛みが分かるし、そして何より優しい。いつもスマートでかっこよくて、かと思ったら意外とドジなところもあったりして可くて。私は彼に何度も助けてもらいましたし、そんなところに惹かれました」
「そうか。こいつはこう見えて傷つきやすい格たちでな。俺に似て目つきも悪いからこいつの優しい所はあんまり人に気づいてもらえなくてさ。でも、亜実さんはそこに気づいてくれた。それだけで、こいつを十分助けてくれてるよ。ほんと、ありがとな」
親父はそう言って、頭を深々と下げて言った。
「こんな出來損ないだけど、これからも側にいてやってくれかな?」
「もちろんです。ずっと側にいます」
「……もうそのへんにしといくれないか?」
さすがにもう耐えられない。恥ずかしすぎて悶え死にそうだ。いつもと違う真剣な親父を見たのもそうだけど、最後の亜実のセリフってほぼプロポーズじゃねーか!てかプロポーズ以前に告白の返事はOKってことになっちゃうけどいいのか?!もうやめて!俺のライフはとっくにゼロよ!
にしても親父があんなこと言うなんて。もっとふざけたこと言うかと思ってたけど、なんかホッとしたな。
「兄ちゃんと亜実さんは結婚するの?」
「「ぶふっ!」」
「ば、ばか!何変なこと言ってんだ脩!」
「でも亜実さんはずっと側にいるって言ってたよ?」
「えっとそれはだな、これからの話であってー、そのー、いつかはそうなるのも良いなーとは思ってるけど、まだ気が早いというか先の話というか何というか…」
「私は結婚したいけど、海七渡は違うの?」
「はぁ?!」
こいつ!ここぞとばかりに俺をからかいやがって!でも今は反撃はできそうもない。
するとまた玄関が開く音がした。
「ただいま〜」
その気怠げな聲は母さんだった。いつもない靴が2つあることに気づいた母さんは、
「おかえり〜!あなた〜!」
「お〜!ただいま。悪いな、々仕事増やしちまって」
「いいのよ。あなたが一番大変だったんだから」
「そんなことねーよ。でも今回の商談はうまく行ったから、ゆっくりできそうだ。だからお前の仕事も當分無くなるかもな」
「それもこれもあなたのおよ」
「あのー、母さん」
「あれ?海七渡、いたの?」
「そりゃひでぇよ。ずっといたから」
「ごめんなさいね。おとうさんが帰ってきたのが嬉しくて……って、の子?」
「初めまして、海七渡さんとお付き合いをさせて頂いてる坂木 亜実と申します」
「海七渡に彼?いやーナイナイ!この子に彼なんてできるわけないわよ!何かの罰ゲー厶?」
「ねぇ、俺泣いていい?」
「結、俺も驚いたんだが………本當らしい」
「……本當なの?」
「はい。私は海七渡さんのことを大切に想っていますし、海七渡さんも大切におもっていると思います」
「そう。海七渡、あんたには勿無いぐらいのいい彼さんじゃないか。大切にしなよ!」
「言われなくてもそうするっての」
何かいいじにまとまったじになってるけど、俺に対する信頼度がゼロであることに変わりはないんだよな〜。すげー悲しい。
「そうと決まればお祝いね!あなた、々頼んじゃおう!」
「そうだな!海七渡と亜実さんのお付き合いと、俺達の仕事終了のお祝いだー!!今日は騒ぐぞ〜!!」
てなじでその夜はワイワイ騒いでいた。それでぐっすり眠ると思ったらそうでもなく。
騒ぎ終わって脩が寢たあと、俺と親父はベランダで話をしていた。1階では亜実と母さんがガールズ(?)トークをしている。?をつけた理由を言うと母さんの右ストレートが飛ぶから言わない。
ふと橫を見ると、親父がZippoで煙草に火をつけていた。
「お前も吸うか?」
「どこの世界に息子にタバコ勧める親がいるんだよ」
「それもそうだな」
そう言って、親父は口から煙を吐き出す。その煙は星が散りばめられた空に吸い込まれるように消えていった。
「煙草はいいぞ」
「急にどうした」
「まぁ聞けって。この世の中にはよ、自分の力じゃどうしようもならないことがわんさかある。理不盡かもしれねーが、それに向き合わなきゃいけなくなるときが來る、絶対にな。そういうとき、お前ならどうするよ?」
し難しい質問だな。世の中の理不盡という壁に直面したとき、どうするのか。人によっては、立ち向かったり、何かを変えたりしようとするだろう。なら俺はどうする。
數秒考えて、答は出た。
「何もしない」
「どういうことだ?」
「その理不盡に直面したとき、殆どの人はどうにかしようとすると思う。正面からぶつかっていったり、あるいは回り道して方法を練ったりして」
俺は自分の思っていることを全て吐き出した。あの煙草の煙のようにこの空には吸い込まれずに、に引っかかり続けるかもしれないけど。
「でもそれはリスキーだ。いい方に転がるかもしれないけど、理不盡は所詮理不盡だ。大悪い方に転がる。だから俺は、ただ傍観して、観察して、推測するだけ。殆どの人は理不盡そのものに変化を加えようとするけど、その理論は間違ってる。世の中は捻くれてねじ曲がってるけど、歯車が嵌ってる。その人たちは、そういう理屈を無視して、その歯車をわざわざ無理して狂わす。そう考えたら何もしないがベストでしょ?今が一番だとか言うくせに、人間は今に満足できない習があるからね。結局言ってることとやってることが矛盾することで失敗を招くことになるんじゃないの」
「フハハハハ!やっぱりお前は捻くれてるな〜!こんなにねじ曲がったやつお前ぐらいしか見たことねーよ!」
なんだよそれ。質問してきたから応えてやったのに。
「まーでもな、その答えは半分正解で半分不正解だな」
うそん。俺の中では100點の解答だと思ったんだけど。
「まずな、この世界の歯車は元々狂ってる。お前はそこから間違ってる。歯車が狂ってなきゃ、犯罪も事故も起こらねぇだろ?」
「まぁ……確かに」
「それとな、たしかに人間は今に満足できない生きだ。安寧を拒む生きだ。でもな、だからこそできることがある。現狀打破ってやつだ。だから歯車は狂いながらも回ってるんだよ。世界、ここで言う社會ってのは、常に変革を求めてる。人間がつくったものだから當然といえば當然だけどな。お前の解答は何もしない、だったっけか。それだと、何もしないと悪化してしまう問題はどうする?何か手を加えて臺無しにするよりはマシって言うのか?それって、世間じゃなんてなんて言われてるか知ってるか?"逃げ"だ」
"逃げ"。その言葉には納得したくないのに、何故か俺の腹にはストンと落ちた。実の所、その問題に関して々な手を考えて考えて考えた上で何もしないという選択肢をとっているのだが、結果的に言えば同義だ。
「分かるぜ。"逃げ"なんて言われ方は納得しないだろ?実際、お前は様々な手を加えようとして、結論の末、手を加えないことにした。そう考えたら良い判斷かもしれないが、世間では只の逃避に過ぎない。よく言われるが、世の中は結果が全て、全てが結果論だ。だから結果を殘さなきゃ、それまでのプロセスは全部切り落とされちまう。だからお前に、一つアドバイスをやる」
「アドバイス?」
親父は、いつものワイルドな雰囲気ではなく、子供っぽくくしゃりと笑って、
「やるときは、命張れ!」
「……なんだそりゃ。隨分象的だな」
何が命張れ!だよ。意味がわからんぞ。
「まあいつか分かるだろ。お前は俺より頭が回る。次期社長も余裕だな」
「勘弁してくれ。社長なんて無理だっつの」
「そうかい。お前、社でも案外人気なんだぜ?偶に手伝い來たときに誰かが見てたらしくてよ」
「別に興味ないし」
「ハッハッハ!そりゃああんな人な奧さんがいればな」
「まだ奧さんじゃねーし。んなこと言ったら、父さんも同じこと言えるんじゃねーの?」
「たしかにあいつは綺麗だよな〜。ほんと、今でも結婚できたのが夢みたいだ……って今お前、俺のこと……」
「いい加減親父呼びも反抗期みたいで嫌になってきたからな、これからはそう呼ぶことにした」
「そうかそうか。こりゃ立派な親父になりなきゃな」
もう十分立派だよ、と言おうとして口の中で抑え込んだ。思えば、父さんは小さい頃から俺の憧れだった。仕事はできるし、男としてもかっこいいし、背も高くて。だが、突然としてこんな父には絶対なりたくないと思い始めた。多分、なりたくないんじゃなくて、"なれない"と思ったからだと思う。
でも今は、俺もいつか……こんな父親になれたらなと………そう思ってる。
それで今に至る。今は電車に揺られながら、目的地のららぽを目指している。
土曜の晝間なのに案外混んでるな。寧ろ混むのかな?普段電車あんまり乗らないから分かんないわ。
【ららぽーと橫浜】。橫須賀に住む高校生なら誰しも行ったことがあるであろう高校生の聖地と言ってもいい場所だ。それは言い過ぎか。てへぺろ。
ファッションに関しては言うことないし、普通に遊びに來るにも良い所だ。
「どこから回ろっか?」
「亜実からでいいぞ。俺のはすぐ済むし」
因みに、昨日の告白の返事紛いの件に関しては、お互いれていない。どうするかな。俺から聞くべきなのか?『昨日のあれってOKってことでいいの?』なんて聞いたら、『は?』とか言われそうで怖い。ていうか言われたら絶対に死ぬ自信がある。
「なら、はいっ」
「なんだよその手?」
「人同士なら手繋ぐのは當たり前でしょ?」
「は?て、てことは昨日のアレは?」
「まぁ、一応OKってことなのかな」
そう言って、亜実は戸いながらはにかむ。その顔に、俺は自分の心臓が飛び出すような覚に陥った。
やばい、可い。今までで一番の破壊力だった。
俺、OKもらったんだよね?
え?
マジ?
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ちょっとうるさい!急に大聲出さないの!」
「い、いや、だって!OKだったのかわかんなくて」
「昨日のアレは私の本心なんだから、だから……その……」
頬を染めながら上目遣いで……
「幸せに………してよね……?」
「………………」
「あれ?海七渡?海七渡!海七渡ってば!」
こうして、俺はなんとか、あの坂木 亜実と付き合うことに功した。
ていうかこんなの毎日くらってたら早死にしちまう。かわいすぎるって〜〜〜〜!!
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