《俺はショートヘア王が大嫌い》Episode15 それぞれの想い
次の日。
いつも通り亜実と登校して、教室へ向かう。
教室にはまだ數人しかいない。今日はし早く來たかもな。まあ好都合だ。
俺は、まあ一応亜実も、ある人を待っていた。
「お、海七渡早いじゃん。おっす」
「おう、蒼月はいつも通りだな」
そう、旅行にう2人のうちの1人、園田 蒼月だ。
「あのな……蒼月……」
「ん?」
この期に及んでヒヨってちゃ始まらん。ここは気合だ、気合。
「実はな…親が箱の溫泉旅行のチケットをくれてよ、亜実と他に誰かおうか相談しててな……よかったら一緒に行かねぇか?」
事を振り返れば、俺が全面的に悪い。
いくらもう済んだ話とはいえ、俺から、『もう終わったことだから』なんて言う資格はない。
だからこそ、それを踏まえて俺は蒼月をった。
これで蒼月に斷られても、構わない。
ただ、目を背けることだけは、したくない。
「箱か……いいね。お言葉に甘えて、お呼ばれしちゃおうかな」
「まじか?!」
よかった。なんだか、俺と蒼月の間の蟠わだかまりが、完全に取れたような気がした。
「それで、いつ行くんだ?」
「えっと、今週の土日だ」
「了解。楽しみにしてる」
俺は、後ろ席に座っている亜実にグッドポーズを送った。亜実もそれに返してくれる。
「でもいいのか?坂木と二人きりじゃなくて」
おいぃぃぃぃ!本人がいる前でそういう質問はするもんじゃねぇだろ!返答がムズいんだよ!
「ま、まあ、デートならいつでもできるしな。今回は、他の人もえてってじになったわけ」
どうだよ俺のベストアンサー!Yahoo!知恵袋に載るぐらいのベストアンサーだろこれ!
亜実に、『デート行きたくないの?!』とか言われなくて済むし、蒼月にも変に勘ぐられずに済む。
実際、俺達の馴れ初めは人には話せないからな。
「なるほどね〜。じゃあメンバーは、俺と坂木と海七渡でいいのか?」
「あー、そのことなんだが……」
蒼月をうにあたって一つ問題が生じる。
それは、もう一人のことだ。
不幸なことに、蒼月ともう一人の人は、おそらく面識がない。
要するに、蒼月ともう一人のどちらかが、『知らない人とは旅行はできない』と言ったら、片方、もしくは二人とも來なくなるだろう。
まあ、イケメンプリンスの蒼月なら斷ることはないかもしれんが、問題はあっち側だ。
々特殊な格をしてるからな。無理と言われたらこちらも強要はできまい。
「実は、もう一人ってるんだ。お前の知らない人なんだけど、ダメか?」
「いや、別にいいよ。仲良くなれるならなりたいしね」
よかった。まずは第一関門突破だ。
「それで、そのもう一人ってる人って誰?」
「ああ、それさ、今日うから、オッケー貰えたらLINEする」
「了解。ちなみにその人のこと俺、知ってる?」
「いや、多分知らないと思うぞ?先輩だし、友達ないから」
「ふ〜ん……」
放課後。俺は今図書室の扉の前にいる。
目的はもちろん、絢幸先輩をうためだ。
俺は扉をゆっくりと開けて、図書室へる。
先輩はいつも通り、奧のテーブルで問題集とにらめっこしている。もの凄いデジャブ。
「あ、荒井くんか……。昨日はお疲れ様でした」
「あー、球技大會のことですか。はい、見事全部優勝しました」
そう言って俺は力こぶを作るポーズをとった。先輩が続ける。
「荒井くんも凄かったけど、バレーボールの坂木 亜実さん、凄かったですね」
「ほんとですよ、あの威力でビンタとかされたら俺死ぬかもしれませんよ?」
「されるようなことしなければいいんじゃ……」
まあそれもそうだ。ていうか、ビンタされるようなことする気ないしな。
と、前フリはここまでにして……
俺は、話を切り出した。
「先輩……実はですね……」
「うん?」
「親から箱の溫泉旅行のチケットを貰いまして、先輩も一緒にどうかと……俺以外に亜実ともう一人いるんですけど……ダメですか?」
「私ですか?構わないけど、いいの?」
「もちろん!亜実が絢幸先輩と仲良くなりたいって言ってまして。俺も日頃お世話になってますし」
「お世話というか、荒井くんが変に絡んでくるだけですけどね……」
「まあまあ。ちなみに、今週の土日なんで」
「結構急ですね……」
すいません。期限が決まってるので。
「あ、一つ聞いていいかな?」
絢幸先輩が尋ねる。
「はい?」
「もう一人ってる人って、誰ですか?」
「えーっと、多分知らないと思うんですけど……」
これで『やっぱりナシで』なんて言われたら水の泡になってしまう。亜実にも申し訳ない。
「俺と同じクラスの…園田 蒼月って奴なんですけど……」
「えっ?!」
先輩が大きな聲を上げた。どうしたんだ?そんなに驚いて。もしかして知り合いだとか。
「先輩、知り合いなんですか?」
「はい、実は……その……」
ん?なんか妙な雰囲気だ。
「実は私が初めて話した人で……」
「え?そうなんですか?」
知らなかった。でもどういった接點だ?
「はい……。一ヶ月ぐらい前に、私が図書委員の仕事で司書さんに頼まれた本を運んでたんだけど、転んで本をばら撒いちゃって……。そのときに……そ、園田くんが助けてくれて、代わりに運んでくれたんです!私がすみませんって謝ったら……『いえいえ、こんな重い、の子に持たせられませんから』って。それから私、園田くんが気になってて……」
ははーん。なるほどね。
「先輩、そりゃですね」
「こここここここ、っ?!」
「そうですよ。一目惚れってやつです。あいつ、見た目はかっこいいし、今のエピソード通り格も完璧ですから。學校外でも人気なんですよ?」
「そ、そうなんですか……」
俺が蒼月のことを話し出したら、先輩は落ち込んだようにそう言った。
「どうしたんです?」
「いや、その……私、誰かを好きになったこととか初めてで……。でも、そんな凄い人なら彼とか絶対いるし……」
あーそういうこと。
「安心してください。あいつ今フリーですから」
なんでも、何故かいろんな子から告白されても、全て斷ってるらしい。理由は教えてくれなかった。
好きなやつでもいるのだろうか。
いやいかんいかん。あくまで可能の話だ。そんなこと言ったらまた先輩が落ち込んじまう。
今俺がするべきことは、先輩のを応援することだ。
「ほんとっ?!」
「はい、本人から聞いたことありますから」
「よ、よかった……」
あれ、先輩?これ完全にする乙になってるよね?
いやー、蒼月のイケメンパワーはここでも発揮されているのか。あっぱれあっぱれ。
にしても先輩にとってこれは絶好のチャンス。
なんてったって、好きな人と旅行に行けるわけだから。距離をめるには最高のシチュエーションを作ることができるだろう。
「先輩、この旅行で蒼月との距離をめて、そのまま告白して付き合えるとこまでもってきましょう」
「つ、付き合う?!し気が早くない?!」
「善は急げですよ、先輩。大丈夫です、俺がなるべくカバーしますから。あ、亜実にも手伝ってもらいますか?俺よりあいつの方が頼りになりますよ」
「そうですか……ならそうします」
役者は揃った。
純粋な旅行になると思ったが、簡単にはいかないらしい。まあ先輩のためだ、張り切っていこう。
亜実を校門の前で待つ。今日は先輩も一緒だ。
五分ほどで、亜実が來た。
「ごめーん、待った?って、絢幸先輩?」
「どうも」
ぺこりとする絢幸先輩。なんかかわいいな。
俺は話を切り出すことにした。
「先輩からオーケーは貰えたんだが、亜実に頼みたいことがあってな……」
「先輩のが実るのを手伝ってほしい」
「?」
俺はそれに至った経緯と、先輩の初の話もした。
先輩は手で顔を隠しているが、真っ赤なのがバレバレ。耳まで赤い。
「喜んで!絢幸先輩っ!!」
亜実は先輩の腕を摑んで上下にブンブン振っている。テンションバク上げ狀態だな。
「私が一杯バックアップしますっ!頑張りましょうね!!」
「は、はい」
落ち著け亜実。先輩、お前の勢いにちょっと引いてるぞ。
そして、當日を迎えた。
駅に6時に集合だ。俺は亜実の家に寄ってから行くことになってる。
インターホンを鳴らし、はーい、という返事を聞く。
しして、亜実が出てきた。
「お待たせっ、行こっか」
「お、おう……」
亜実の格好に見惚れてしまった。
まず上著(アウターと言うとカッコいい)は、薄手で七部袖の白のロングサマーニット。
中の服(インナーと言うとカッコいい)は、無地の白シャツ。
ズボン(ボトムスと言う以下略)は、ダメージのったデニムのショートパンツ。
靴はワンポイントに赤のスニーカー。
そして、手にはし小さめのボストンバッグ。
いやー、かわいいなっ!亜実は何著てようがかわいいけど、やっぱりオシャレすると余計かわいいな!
ごほんごほん、ちょっと取りしたな。
まあ気を取り直して。
「似合ってるな、服」
「當たり前でしょ、私なんだから」
「普通そこは、頬を染めながらありがと……って言うもんだろ?」
「どこのアニメの話よそれ……」
「んだよ別にいいだろ、そんな展開を期待してもよ。ほら、貸せよ」
「え、あ、ありがと…」
俺は亜実からボストンバッグをけ取る。
の子にこんな重いもの持たせられないからね!
え?誰かが似たようなこと言ってた?多分勘違いじゃないかな?
俺と亜実はそのまま駅に向かった。
時刻は5時50分。十分前に著いた。
駅にはまだ俺達しかいないらしい。
五分ほどして、蒼月が爽やかな雰囲気を漂わせながら來た。
蒼月のコーデは……言うまでもない。めちゃくちゃオシャレだ。
黒の半袖のブラウスの下に、ストライプのカットソーを著こなし、黒のボトムスに黒のドクターマーティン。
男の俺でもカッコいいと思ってしまう。
ちなみに俺は、この前亜実とららぽに行ったときに買ったコーディネートにしている。
蒼月と靴が被ってしまった。亜実が考えてくれたコーディネートだから、ダサいわけがないのだが、元々の素材がまず違うのだ。蒼月の方がオシャレに見える。
「おっす海七渡っ」
「おっす蒼月」
「坂木もおはよう」
「おはよう、園田くん」
そして集合の6時ちょうど。先輩が來た。
「すみませんっ!遅れました!」
「いや、集合時間ピッタリですよ、先輩」
「あ、そうでしたか」
蒼月は、口が半開きになってる。いつもの蒼月なら、まずしないであろう表だ。
理由は俺にも分かった。
先輩の服裝だ。
アウターは出の多い黒のタンクトップ。
ボトムスはカーキのミニスカート。
先輩の足がとことんわになっている。
そして黒いキャップをかぶっている。
正直、先輩がするとは思えないコーデだ。
こんな出の激しい服を著ようとは思わないだろう。
「亜実ちゃん……やっぱり私には似合わないって……」
「そんなことないですよ!とってもかわいいです!」
なるほど。おそらく、亜実が先輩のコーディネートを考えたのだろう。
「そ、そうですか?」
いや、上目遣いでこっちを見ないでください。
反応に困るって。とりあえず本音を言っておく。
「はい。よく似合ってますよ」
「そうですか?よかった……」
そう言って、ふぅ、とに手を當てて息を吐いた。
々不安だったのだろう。
ふと、先輩は蒼月と目が合い、蒼月の存在に気がついた。
「あ、そ、園田くん……ですよね」
「あ、はい、そうです」
「あのときは、どうもありがとうございました」
「いえいえ。その………覚えてたんですね」
「は、はい。園田くんも覚えてくれてたんですね……」
「蒼月でいいですよ。あと、タメ語でいいですよ?」
「あ、蒼月。先輩は友達がないから敬語癖がついてるから最初のうちは気になるかもしれんが、徐々に治っていくと思うから気にしないでくれ」
「荒井くんっ!友達がないは余計でしょ?!」
「事実じゃないですか」
「へ〜」
俺達が話していると、蒼月がそう言った。
「二人とも、仲良いんだね」
「そんなことないぞ?」「そんなことないです!」
「ほら、息ピッタリ」
一見、俺達をからかってるようにも見えたが、俺には、し嫉妬しているようにも見えた。気にし過ぎか。
長い長い電車の旅を終えて、旅館まで著いた。
著くまでの間、先輩が寢てしまって、蒼月の肩に頭を乗せたりだとか、まあ々あった。
電車移のおかげか、蒼月と先輩の距離はだいぶまった。やだ先輩ったら、天然あざといんだから!
うんうん。その調子ですよ先輩!
俺達は部屋に荷を置いて、一息つく。
母さんが予約していた部屋は、結構な広さだ。
母さん、父さんと二人だけの旅行なのにこんな広い部屋取ったのかよ。どう考えても予約ミスだろ。
まあ、結果的にそのミスが功を奏したので、文句は言うまい。
「これからどうする?」
蒼月が提案を促すように言った。
ククク、お前から聞いてくるのを待ってたぜ。
俺と亜実(と一応先輩も)で考えた作戦の一つ。
俺はあくまで平靜な狀態を裝って提案した。
「そうだな……。夕飯は6時頃に用意してほしいって言ってあるから、それまでは観だな。蒼月、どこか回りたいところあるか?」
「いや、皆に合わせるよ」
お前ならそう言うと思ったぜ。俺と亜実は目配せをした。
「俺と亜実は先に行きたいとこがあるんだが、先輩は他の所に行きたいらしくてさ…。よかったら、先輩と二人で観してみたらどうだ?先輩危なっかしいから、迷子になったりするかもしれないし」
「ま、迷子になんかならないよ!でも、園田くんが一緒なら安心するかも……。園田くん、ダメですか?」
「い、いえ、構いませんよ」
よし。これで二人っきりの狀況を作ることに功した。後は、先輩の努力次第だ。
「それじゃあ、6時前には部屋に戻ってこよう。それじゃあ解散」
俺はそう切り上げて、先輩の出方を待つ。
と、先輩が行に移った。
「そ、園田くんっ!」
「はい?」
聲裏返ってるよ〜先輩。もうし落ち著いて。リラックスですよリラックス。
「ここ、行きませんか……?」
先輩は攜帯を蒼月に向けて、寫真を見せた。
森の中のような自然に溢れたその寫真。
寫真に映る看板には、『箱舊街道』と書かれている。どうやら箱舊街道石畳の寫真らしい。
箱舊街道石畳とは、江戸時代初期に作られた石畳道で、當時の旅人がよく通っていた道らしい。
「いいですよ。その後はどうします?」
「え、えーっと……園田くんが行きたいところに……行きたいです……」
をもじもじさせながら先輩はそう言った。
そんな仕草をされたら、斷ることはできない。それは蒼月も例外ではない。
「わ、分かりました。それじゃあ出発しますか」
「は、はい。行きましょう」
「それじゃあお二人さん、俺達は先に行ってるよ」
「はいよ」
「行ってらっしゃ〜い」
俺と亜実は見送りの返事をし、蒼月と先輩は部屋を出ていった。
剎那の靜寂があって。
俺がその靜寂を打ち壊した。
「行ったな」
「そうだね。私たちも行こっか」
「そうだな。どこから行くんだ?」
俺が質問すると、亜実は頬を膨らませて拗ねたような態度をとった。俺何かいけないこと言ったか?
「初デートくらい彼氏としてカッコイイところ見せてほしいんですけど……」
「あ……たしかに…、デートになるよな……」
先輩のことで頭が一杯だったが、亜実と二人きりになるのだ。つまり、デートだ。初めての、ちゃんとしたデート。
亜実は楽しみにしていたのかもしれない。
それなら、彼を心から楽しませるのが彼氏の役目だ。
「悪い。じゃあ、箱神社から行くか」
「うん!」
俺達は、先輩たちよりし遅れて、宿を出た。
箱神社。
箱観ならここは外せないと言われる観スポットとして名を馳せている場所だ。
別名、九頭龍神社。
様々なご利益があると言われていて、年々たくさんの人が訪れる神社である。
また、約四百本の杉並木が並ぶ參道は、神聖なヒーリングスポットであるそうだ。
とまあ、雑談はこのぐらいにして、と。
「思ったより人がいなくてよかったな」
「そうだね。人混みとかだとはぐれそうだし。あ、はぐれないように手繋ごうとか考えてた?」
「いやいや、考えてないから。アニメの見過ぎじゃないか?」
「別に私が考えてるわけじゃないって。海七渡ならそういうアホみたいなこと考えてそうだな〜と思って」
「アホみたいなって……。お前の中での俺はどんな奴なんだか」
亜実の中での俺のキャラが全く読めない。
「そういえば、亜実もアニメとか見るのか?」
「見るよ!グッズとかは買わないけど、原作のライトノベルとかも結構持ってるし」
「意外だな。亜実ってあんましそういうイメージなかったわ」
実際、結構驚いてる。亜実でも見るのか、アニメ。
まあアニメは偉大だからな、亜実もその魅力に取り憑かれたってことだろ。
俺達は、知らず知らずに賽銭箱の前まで歩いていたらしい。
一応、賽銭しておくか。
「お賽銭って初詣のイメージがあるから、なんか違和あるね」
「たしかにな。まあ、お賽銭って別に時期は決まってないしな。ただ、初詣で『今年一年を良い年にしたい』って人が初詣にお賽銭をするから、新年のイメージが強いんだろ」
「なるほど……」
お、亜実が納得してる。なんか優越をじるな。
「え?何で海七渡千円もれてるの?!高いよ!お賽銭って5円とか10円が語呂がいいって言うじゃん!」
「何でもそうだけど、5円なんて安すぎるお金じゃ願いは葉わないぞ?」
「え?どういうこと?」
「お賽銭っていうのは、神様に願いを葉えてもらえるようにって昔からあるんだよ。昔の人にとって、5円なんてのはなけなしの金なんだよ。本來お賽銭ってのは、自分にとって手痛いぐらいのお金をれてお願いをするもんなんだよ。語呂の話は昔からされててな、高いお金で語呂もいいってことで5円とか45円とか払う人が多かったそうだ。それが、時代が進むにつれてお金の価値が下がったせいで、今でも5円を賽銭する人が多いんだよ」
「何でそんなこと知ってるの……。寧ろ知りすぎてるんだけど」
「父さんの知り合いに神主さんがいてな。よく教えてもらってたんだ」
「へぇ〜。知り合いに神主さんがいるなんて凄いね!」
「知り合いがデザイナーの方が凄いと思うんだけど」
こいつモデルもしたことあるって言ってたしな。
本人が凄いから人脈も凄いんだろう。
「亜実は5円でいいぞ、俺が千円出すから」
「いいの?」
「ああ。亜実の分もお願いしてやる」
「お願いって一人一つって決まってないの?」
「さぁな。千円も払ってるんだからそのぐらいは神様も大目に見てくれるだろ、多分」
「多分って……」
俺達はそれぞれお願いをして、賽銭を終えた。
「ねぇ、何お願いしたの?」
しウキウキした表で亜実が聞いてくる。
ここで正直に言ったらなんか恥ずかしい。
「お願いは口に出すと葉わないって言われてるぞ」
「えっ?そうなの?」
「ウソ」
「あ〜!騙したな〜?!」
「騙されるお前が悪いんだよ」
しっしっし、何だか手駒にとってる気分だ。
「次はどこ行くの?」
「そうだな……、亜実はどこか行きたいところあるか?」
あるならそこを優先したいからな。
「それなら、ロープウェイ乗りたい!」
「ロープウェイって、箱ロープウェイか?」
「そう!乗ろうよっ!」
參ったな。まさかのロープウェイか。
「いや、俺高所恐怖癥だからロープウェイはちょっと」
「彼氏なら彼の願いを葉えられなきゃね〜」
「はぁ……わかったよ。んじゃ行くか」
「やった!れっつごー!」
亜実に頼まれてなかったら、絶対に行かない。
だって怖いもん。
「凄いですね……」
「ほんとですね……、ほんとに山の中ですよ」
私は今、園田くんと箱舊街道石畳に來ている。
自然に囲まれていて、空気がおいしい。なんだか心が澄んでいくみたい。
「先輩、ここの辺り木のが出てるんで気を付けてください」
「はい、分かりまし……きゃっ!」
園田くんが教えてくれたそばから大きなにつまづいてしまった。しかも踵がつまづいてしまった。が後ろに倒れていく。荒井くんの言う通り、危なっかしいな……、私。
「危ない!」
「うわぁぁっ!」
園田くんが咄嗟に私を抱き支えてくれた。
近いっ!
園田くんの顔が目の前にあるし、い板もじる。私は驚いて、園田くんから離れた。
「す、すみませんっ!助けてくれてありがとうございます!」
「いえいえ、怪我がなくて何よりです」
やっぱり、園田くんはかっこいいな。もちろん顔もかっこいいんだけど、すごく落ち著いてて大人だし、優しいし……。私なんて釣り合わないよ。
でも、園田くんのにれたとき、の辺りがキュッと締めつけられるような覚に陥った。
すごい苦しかったけど、コレが好きっていう気持ちなんだって気付いたら、もう園田くんのことで頭がいっぱいになっしまう。
そのとき、私はふと、亜実ちゃんが言っていたことを思い出した。
『絢幸先輩、私以外の人は名字で呼ぶじゃないですか、蒼月くんも園田くんって呼んでるし。だから、タイミングを見計らって名前で呼べば、蒼月くんもドキッとすると思いますよっ!』
今だ。私は意を決して、名前を口にした。
「ありがとうございます、あ、蒼月……くん」
「い、いえ。それよりも、先輩……名前……」
「は、はい……嫌……ですか?」
「そ、そんなことないです!それなら、俺も絢幸先輩って呼びますね!」
蒼月くんは、困ったように笑ってそう言った。
し耳が赤くなってる。ちょっと可い。
そんなこと言ってる私も、多分顔が真っ赤だと思う。
「それじゃ、次行きますか」
「そ、そうだね……」
「先輩……敬語……」
「わ、私……頑張って敬語やめるようにな……るよ……」
荒井くんが言ってたけど、敬語は相手に神的距離をじさせるって言ってた。だから、敬語を無理矢理にでもやめる。
だって、蒼月くんにもっと近づきたいから。
「タカクナイタカクナイタカクナイ………」
「まさかここまで重癥とは……」
「た、高いのはほんとに駄目なんだって!足が震えちまうんだよっ!」
俺と亜実は、箱ロープウェイに乗っている。
高所恐怖癥の俺にとっては、ただの地獄でしかない。
「そんな高くないよ!ほらっ、下見てみなよ」
「わ、分かったよ……」
俺は恐る恐るロープウェイの窓から下を覗いてみた。
「ムリっ!!めちゃくちゃ高いっ!!!」
「そうかな?すごい景なのに」
「景ならわざわざ下見なくてもいいじゃんかよ〜……」
もう俺をいじめるのはやめてくれ。力が保たない。
そのとき、亜実が嬉しそうに弾んだ聲でねぇねぇ、と言いながら肩を叩いてきた。
「見てっ!富士山見えるよっ!!」
「ほ、ほんとだ……。そういえば、箱ロープウェイは晴れたら富士山が見えるって言ってたな……」
「すごい綺麗だね……」
「ああ、そうだな……」
橫にいる亜実が、俺の手を握ってきた。
俺も反的に亜実の手を握り返す。
溫かい。當たり前だけど、こうやってれ合うと、亜実が生きてるんだって実できる。
今、この時を共に歩んでいる。前までなら信じられないような事だが、それが現実になっている。
「ずっと、このままで良いのに……」
景を見ながら、握る手の力を強めながら、亜実が言った。
俺はそれに応えるように、握られた手を握り返した。
「すごい景だね……」
「ここ、一度來てみたかったんですよ」
今、私と蒼月くんは、蘆ノ湖にいる。
箱駅伝のゴール地點でも有名なここは、絶景が撮れると言われていて、寫真好きなら誰もが訪れる場所だと、蒼月くんが言っていた。
蒼月くんは、寫真が好きらしい。
今も、自前の一眼レフカメラで蘆ノ湖を撮っている。
寫真を撮っている姿も、サマになっていてかっこいい。
「あ、絢幸先輩!海賊船ですよ!」
「あ、ほんとだ!なんか現代じゃないみたい……」
「山と船の調和がいい!海賊船の時代のズレのようなアンバランスさがまたいいアクセントになってて、いい寫真が取れそうですっ!」
いつも落ち著いている蒼月くんが、子供みたいに無邪気にはしゃいでいて、とても可い。
蒼月くんはかっこいいのに、こういう可いところもあるからズルい。
こんなの好きになるに決まってるよ。
午後五時五十分。
俺と亜実は宿に戻った。
予定よりも々遅れてしまったが、ギリギリ夕飯には間に合ったらしい。
自分たちで設定しといて遅れるのは失禮だからな。
蒼月と先輩は、既に宿に戻っていた。
「二人ともおかえり〜」
「おかえりなさい、二人とも」
部屋にると蒼月と先輩が聲をかけてくれた。
二人とも、朝よりも距離が近い。しかも隣に座ってるし。これはもうOKみたいなもんじゃないか?
二人で蒼月のカメラを覗いて寫真を一緒に見てるぐらいのラプラプっぷりだぞ?
二人きりのときに相當進展したんだな。
何はともあれよかった。
先輩があんなに笑ってるのを見るのは初めてかもしれない。
あとは蒼月がどう思ってるか、だな。
既に確かめる手段は用意してある。
とりあえず、その前に腹ごしらえだな。
俺たちは、お互いの観について語っていた。
蒼月が言うに、先輩はやっぱり危なっかしいと言ってた。なんでも、木のに足を躓かせて転びそうになったとか。
先輩はその話をされてるとき、顔を真っ赤にして下を向いてた。
し経って、將さんが部屋へ來た。
「お客様、夕飯をお出ししても宜しいでしょうか?」
「はい、お願いします」
料理は、鯛の姿造りやすき焼きなど、豪華なものばかりだった。
俺達はパクパク平らげて、夕飯は終わった。
夕飯が終わり、しゆったりとした空間になったこの部屋。時刻は7時をちょうど回ったほど。
俺は蒼月に話しかけた。
「蒼月、風呂行かないか?ここ、天風呂で景が凄いらしい」
「天風呂か……。いいね、行こう」
「絢幸先輩っ、私たちも行きましょうよ!天風呂!」
「うん、行こっか」
結局、皆で天風呂に行くことに。
もちろん男は別だよ?混浴なわけないだろ。
「お〜、めっちゃ広いな……」
「ほんとだ……今なら貸し切り狀態だな」
俺がって嘆の聲をらすと、蒼月もそれに反応した。
天風呂が予想以上に大きかったから、し驚いてしまった。
しかもそこから見える景が素晴らしい。
周りには山しかない。自然に囲まれた環境だ。まるで森の中にいるみたいな覚に陥る。
俺は頭とを洗い、湯船に浸かる。
「うぉぉぉ……溫け〜………」
全の力が抜けていく。疲れがとれているのが分かるような、そんなじ。
「お!富士山見えるじゃねーか」
湯船に浸かって景を眺めていると、右側に富士山が見えてきた。
り口の方では気づかない、湯船に浸からないと分からないところに富士山がちょうど位置する。
ちょっとしたサプライズみたいだな。
「景、凄いね……」
蒼月が俺の橫に座る。俺は話を切り出してみた。
「どうだった?観は」
「うん、凄く楽しかった。先輩とも仲良くなれたしね。ってもらえて良かったよ」
「そうか」
「海七渡の方はどうだったんだ?」
今度は蒼月が俺に話を振ってきた。
「そうだな…、まあ楽しかったな。亜実とずっと二人っきりってのは初めてだったから、し張もしたけどな」
俺は、ロープウェイのときのことを思い出した。
『ずっと、このままでいいのに……』
何か意味を多分に含んだような言い回し。
しかし、どれだけ考えてもその意味は分からないままで。
亜実は、何かを伝えようとしたのかもしれない。
「大丈夫か?なんか難しい顔してるけど」
「ああ、大丈夫だ。し考え事してた」
「海七渡はいつも何かを考えてるよな、俺とは違う」
「いつも考えてるわけじゃない。寧ろ、俺からしたら蒼月の方が々考えてそうだけどな」
実際、蒼月はよく周りが見えているし、大人な対応もできる。俺が出會ってきた男の中で、一番デキた男なのは言うまでもないのだが、蒼月は自分のことをそうは思っていないらしい。
「俺って、結構直的に行しちゃうタイプなんだ……。普段はなんとか抑えてるんだけどね。だけどたまに、自分でも抑えきれないくらい衝的になっちゃうんだ」
「それって、先輩を助けたときのことか?」
「………」
どうやら當たりらしい。何故俺がこの結論に至っただが、簡単なことだ。
第一に、ウチの高校は學年でフロアが決まっている。別に他の階に行ってはいけないみたいなルールは無いが、ほとんどの生徒は、自分たちの學年のフロアで過ごす。授業の教室も、そのフロアに全てあるからだ。それは蒼月や先輩も例外ではない。
まず、二人の出會いは、先輩が司書に頼まれて本を運んでいたとき。
先輩は、この時點で三年生のフロアにいたと推測できる。なぜなら、図書室は三年生のフロアにあるからだ。
次に、先輩が本を落としてばら撒いてしまう。
そして、そこに蒼月が颯爽と登場して本を運んでくれる……っていう流れだが、おかしいのはここだ。
なぜ、蒼月は三年生のフロアにいたのか。
殘念ながら、理由を知る証拠は存在しない。
ならば、本人に聞くまでだ。
「先輩と初めて會った日、お前はそのとき偶然そこに鉢合わせたのか?」
「初めて會ったとき……って、俺が絢幸先輩の本を代わりに運んだときのことか?」
「ああ」
「何でそんなことを聞くんだ?」
「気になったからだ」
「ふ〜ん。何か知ってるのかな?」
「何も知らないからこうして聞いてるんだよ」
「まあ、確かにそうだな」
そう言って、蒼月は一呼吸置いて………
「海七渡のむ答えで合ってるよ」
「ってことは、意図的にそこにいたってことだな」
「まあ、そうだね。それで間違いない」
「何が目的で?」
「そんなの、絢幸先輩に接するために決まってるだろ?」
んなことは言われなくても分かってんだよ。俺が知りたいのは、何故先輩と接しようとしたってことだ。
「てことは、お前は以前から先輩のことを知ってて、話しかけようとしたってことだな?」
「うん。そうだよ」
「何で接しようとした?」
「…………」
「おい、蒼月」
「……長くなるけど、いいか?」
「はぁ、分かった。話してくれ」
そう言ったら。蒼月は話し始めた。
時は一年以上前に遡る。
蒼月は放課後、學校近くの図書館にいた。
今の高校に學して間もなかったから、誰かと遊ぶより、一人でゆっくり本を読もうと思って、図書館に行ったらしい。
そのとき、蒼月は一人のを見つけた。
読書スペースで、一人際立っているその。
手にはニーチェの本。それを、凜々しい佇まいで読んでいたそうだ。
背は小柄ながらも、本を読む姿からは、大人の落ち著いた雰囲気をじさせ、髪を耳にかける仕草で、艶めかな黒髪がきらりとる。
それだけ。それだけで、蒼月は、その人の虜になってしまった。
一目惚れだった。蒼月はそう言っていた。
その人が自分と同じ高校の制服を著ていることに気付いて、蒼月は心から喜んだそうだ。
そして蒼月は、學校中を捜し回った。
あの人に、もう一度會いたい。
けれど、會うことは葉わなかった。
同學年の生徒に聞いても、上級生に聞いても、皆『そんな人は知らない』と答えた。
一年の時が流れた。
二年生に進級しても、その人に出會うことはなかった。
もしかしたら、もうあの人は卒業してしまったのかもしれない。そう思って、蒼月は、次の人に聞いてみてダメだったら、諦めようと決めた。
「すみません、長がこのぐらいのの子で本が好きな人って知りませんか?」
今思い返すと、凄いざっくりした質問だったな。
これじゃあ誰も分からない。そう蒼月は思っていたらしい。
しかし。
「あ〜、もしかして、當のことか?あいつなら、いつも図書室にいるから行ってみたらどうだ?」
「……え?」
「だから、図書室に行ってみたらどうだ、って言ってんの」
「あ、あ、ありがとうございますっ!!!」
蒼月はとにかく走った。図書室に向かって。
実際、當って人があの人なのかは確証はない。普通に別人かもしれない。
それでも、僅かな可能に賭けて、蒼月は走った。
図書室のフロアまで階段を登って、図書室のある廊下に著いたとき。
見つけた。
あの人を。
その人は、積み上がった重そうな本を必死に運んでいた。
でも、バランスを崩して本を落としてしまった。
蒼月は、知らないうちに本を手にとっていたらしい。
気付いたら、その人の持っていた本を自分で運んでいたらしい。
これが、當 絢幸あたり あやさと園田 蒼月あつきの初めての出會い(再會)だった。
「とりあえず、見つかってよかったな」
「見つけたとき、心臓が跳ね上がったよ。なんてったって、一年だからね。実際諦めかけてたよ」
「だから、海七渡には謝してる。絢幸先輩と二人きりで過ごす時間を俺にくれて……」
「告白はしないのか?」
「ここここここここ告白っ?!」
うわ、なんか凄い既視デジャブ。
「そうだ、そんなに好きなら告白して付き合っちゃえよ」
「む、無理だよ!俺なんかじゃあの人には釣り合わない。先輩にはもっとかっこいい人がお似合いだよ」
いや、お前よりかっこいい人なんて、もうそれはモデルか何かだぞ?
それにしても、まさか両想いだったとは。
蒼月って結構分かりにくいな。
いや、思い返すと、駅のとき……。
先輩の私服姿に固まってたし、俺と先輩が話してるの見て、嫉妬しているように見えた。
気づけば、上手くピースがはまる。
「あのな、蒼月。俺から見ても、お前は十二分にかっこいい。顔はもちろんだが、中もだ。だから、もっと自を持て。それでも困ったら、俺に相談しろ。いつでも力になってやる」
「み、海七渡……。うわぁぁぁぁっ!」
「お、おいっ!抱きついてくんなっ!!」
「ありがとぉぉ!ありがとぉぉぉぉ!!!」
「分かったから離せ!男同士で気持ち悪いだろうがっ!!」
たく、蒼月も完璧じゃないんだな。意外にもハートが弱いとは。
だが、これで大きな一歩を踏んだ。
両想いなら、時間の問題だ。今頃、亜実も仕掛けてることだしな。
今頃、海七渡も仕掛けてるだろうしね。
私もそろそろ仕掛けますか。
「絢幸先輩、どうでした?園田くんとのデートは?」
「た、楽しかったよ!蒼月くんのことも々知れたし……あ」
「絢幸先輩、今、名前で呼んでませんでした?」
「そ、それは……その……」
「ふ〜ん。つまり、進展があったと」
「間違ってはないけど、なんか恥ずかしいよ……」
そう言ってをくねくねさせる絢幸先輩。
の私から見ても凄い可い。抱きしめたい!
「きゃっ!亜実ちゃん、急に抱きつかないでよ!」
ごめんなさい、もう実行してました。
「すいません、先輩があまりにも可いので。それにしても、先輩、スタイルいいですね」
「そ、そうかな。亜実ちゃんの方が背も全然大きいし、綺麗だと思うけど」
確かに私の方が背は高いけど、それよりもあの二つのお山。
「先輩にはこれがあるじゃないですか〜」
そう言ってその山をモミモミ。先輩はくすぐったそうに聲を上げる。
「あ、亜実ちゃんっ!勝手にらないの!」
「ごめんなさ〜い」
私も大きさは中の上ぐらいなんだけど、先輩の方が斷然デカい。
これが巨かっ!!
「なんて大きくても良いことないよ。肩は凝るし、走ってると男の子たちから凄い見られるし……」
「あ〜、あのときの目線凄いキモいですよね」
「荒井くんとかにも見られたりする?」
「全然見られてますけど、寧ろ嬉しいですよ?」
「な、何で?!」
「だって、私の魅力に気づいてくれてるってことじゃないですか!嬉しくないわけ無いですよ!他の男子の視線はゴミ以下ですけどね」
「そんなじなんだ……」
「そんなじですよ。じゃあ先輩、そのを園田くんに見られたらどうですか?嫌ですか?」
先輩は、う〜んと唸って考えている。かわいい。
やがて顔を真っ赤にして、それを隠すように顔を湯船に沈めて口でブクブクしながら答えた。
「恥ずかしいけど……もっと見てほしいって……思う……かな……」
「か、かわいい……」
何なのこの生っ!!家寶にしたい!もう園田くんとかどうでもいい!私のお姉ちゃんになって!
「な、なんかのぼせちゃった!もう出よっ!!」
「ちょっ、ちょっと先輩!まだ話し足りないですっ!!」
もう先輩が乙過ぎてかわいいよ〜!!!
次の日の朝。
俺達は用意された豪華な朝食を食べ、宿を出発した。
現在、電車の中である。
時間帯のおかげか、四人分の席が取れて、ミナで座る。
「亜実、眠いのか」
「うん……眠い」
か、かわいい!眠気のせいで子供っぽくなってる亜実もいいな。
「著いたら起こすから寢てていいぞ」
「ん……わかった……」
そのまま亜実は、俺の肩に頭を乗せて寢てしまった。
ちなみに座席配置は、俺が窓側、その隣に亜実、俺の向かい側に先輩、その隣に蒼月ってじだ。
「俺も寢ようかな、昨日あんま寢れなくて」
「私が起こすから、著くまで寢てていいよ」
そう言って、自分の肩を蒼月の方に寄せた。
お〜。なんかカップルっぽいね。
しかし殘念ながら、蒼月は頭を固定して寢てしまった。
自分の肩の寂しさにシュンとする先輩。どんまい。
俺は暇なので、窓の外でもみてようかね。
10分ぐらいしたら、先輩も寢てしまっていた。皆疲れているのだろう。
亜実と蒼月は部活もある。先輩は験勉強だ。
ゆっくり休ませてやろう。
気付いたら、もう七月なんだよな。もうすぐ夏休みか。
去年は部活で忙しかったが、今年は特に何もない。
バイトでもするか。
亜実と出かけたりするための資金確保だ。
でも、どこでバイトすりゃいいんだ?いざとなって考えてみたら、わからないな。
そうだ。父さんの所でバイトすればいいのか。
前はバイトというより手伝いだったから金は貰ってないが、父さんにバイトとして雇ってくれって頼めばなんとかなりそうだな。今度帰ってきたとき頼んでみよう。
と、ぼちぼち考えていたら、降りる駅の二つ前ぐらいになっていた。
とりあえず起こすか。
って、知らない間に先輩が蒼月の太ももに頭を乗せていた。
一先ず亜実を起こし、狀況を見せる。
「亜実、起きろ〜」
「んぅ……、もう著いた……?って、うわぁ〜……」
亜実はその景を見て、頬に手を當てて嬉しそうにしていた。そしておもむろに攜帯を取り出して、サイレントモードで超連寫。
いやいや、撮りすぎだろお前。
けど、二人とも、凄く幸せそうだな。
俺もこっそり一枚パシャリっとな。
溫泉旅行編、如何でしたか?
これから、夏休みになります。
夏休みといえば、海、バーベキュー、々ありますが、やっぱり祭ですよね!
というわけで。次回、夏祭り編。お楽しみに!
ウソです。夏祭り編は次回の次に出す予定です。
次回は、謎回になると思います
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