《僕はまた、あの鈴の音を聞く》No.0214 バレンタインデー
二月十四日。
世間ではこの日をバレンタインデーという。
なんでも、が男にチョコを渡すというシンプルなもの。
昔は本命チョコというのが一般的だったが、最近では友人同士で渡す友チョコ、日頃のお禮の義理チョコ、自分自信を労うご褒チョコなんてものもあるらしい。
そして今日はそのバレンタインデー。
まさかこんなにも辛く険しいものだとは知る由もないのであった。
二月十三日。
神崎冬夜と僕は、電話を通してある會話もとい、談をしていた。
『信義!明日は何の日か知ってるか?』
『たしか、バレンタインデーとか言ってたっけ。それがどうかしたのか?』
『どうかした......だと』
その後、大まかだがその詳細を僕は教わった。
『なるほどな。でっ、改めて聞くがそれがどうかしたのか?』
『なぁ、信義。お前は記憶がないから知らないんだな......。バレンタインデーは別名、天國と地獄と呼ばれていることに』
『天國と地獄?』
『明日になったら全てわかるさ。じゃあな』
そして神崎は、電話を切った。
二月十四日
今日は珍しく、一人で起きた。
昨日のことが、頭に殘っていたせいかもしれない。
それから僕は支度を済ませ學校へと向かった。
「神崎、お前の言ってたこと。分かる気がする」
「そうだろ。これはまさに地獄としか言えないな」
今日はいつにも増して、クラスが騒がしかった。
ほとんどの子と一部の男子が盛り上がっており、その原因がチョコのけ渡しによるものだった。
そしてそんな様子を白い目で見ていた教室の隅で殘りの男子が、殺意をダダれに黙り混んでいた。
まさに地獄絵図。
しかし、そんな地獄は時間が経つにつれて、終息へと向かって行ったのだった。
先程まで盛り上がっていた者達は、普段よりもし幸せそうな表を浮かべ、先程まで黙り込んでいた殘りの者達は未だ殺意の目を浮かべていた。
「はーい、皆さん席に著いて......って、全員座ってる!?」
すると擔任の東山先生が教室へとってきた。
「流石バレンタイン。しかし皆さん。今日はバレンタインデーとはいえ、あまりはしゃぎ過ぎないように」
(もう、遅いんじゃないか......)
そして、語は放課後へと移る.......
「神崎。これが真の地獄だったのか」
「いや、多分違うと思うぞ。むしろ天國だろ」
放課後。僕の攜帯に一通のメールが屆いた。
相手は伊藤穂波。容は端的に言うと呼び出しだった。
普通の子なら期待できること、喜べることだろう。
神崎も、そう勘違いかんちがいしてるに違いない。
しかしこの時の僕は、一種の恐怖をじていた。
言うなれば、ヤクザや、不良に呼び出されたじ......。
「バレンタインと生じて、毒でも盛られるんじゃ......」
「何言ってんの。しん君」
「.......穂波!?」
「ったく、いつまで待っても來ないから自分から來ちゃったよ。.......は、はい、これ」
そう言って、穂波はカバンの中から取り出したものを僕に手渡した。
「これは.......」
「チョコよ。見れば分かると思うけど、手作り.......言っとくけど、義理だからね」
こんな時、なんて言えばいいんだろうか。
(ありがとうというべきなのか.......。いや、たしかホワイトデーという日に3倍に返さないと駄目なはず......まさか!!)
そして、僕は一つの結論に至る。
ー穂波は、僕にチョコを渡すことでこの前の件について、八つ當たりをしてるのでは......と。
この前の件。それは、僕が穂波としていた約束を忘れているという件だ。
(それならば.......)
「このチョコ.......食べなきゃ駄目なのか?」
そんな事を考えて、言ってしまった。
 
途端、空気が凍りつく。
先程まで僕に殺意を向けていたクラスメイトは、殺意を一切無くし、神崎は唖然、穂波は目に涙を浮かべていた。
「.......いいよ。食べなくて」
そう言って、穂波は教室から立ち去ろうとした。
後悔。
たった數秒が長くじる。
「待ってくれ。そういう意味じゃないんだ」
穂波が、背を向けたまま立ち止まった。
(どうする、どうする、どうする!!)
この狀況を打開する一手はないのか!!
「そ、そっか。信義、食べるのが勿ない程嬉しかったんだな、な!」
(ナイスだ!神崎)
「ああ、紛らわしい言い方をして悪かった。チョコはちゃんと食べるよ」
「ほんと......?」
「なんなら今食べる」
そして僕はチョコを頬張った。
香ばしいカカオの香り。
ちょっとだけ苦味が混ざった甘い味。
何気に、チョコの味を知ったのはこれが初めてだった。
「凄え、味いな......!!」
食べ終わると、穂波はしだけ元気を取り戻しているように見えた。
「しん君。」
「なんだ?」
「お返しは、5倍でお願いね」
「......仕方ないか」
家に帰ると、先に帰宅していた茜が、後ろに手を組みながら出迎えてくれた。
そしてすぐに、組んでいた手を僕の方に差し出し......
「はい、しん。ハッピーバレンタイン!」
「茜......!!」
「頑張って作ったからまた後で食べてね」
(これが天國か)
甘くて苦い、一日が終わった。
初めまして、こんにちは、こんばんは!
作者のりんねです!
いつも、こんな突っ込みどころ満載の小説を、読んで頂き謝謝です!
二月十四日から二日過ぎとなってしまいましたが、今回はバレンタインデーの容となっております。
ただ、本編とは関係ない容なので、時系列に矛盾が出てきそうな気もしますが、そこは、スルーということで......(笑)
これからも、暇潰し程度に読んで頂けると幸いです!
6/15発売【書籍化】番外編2本完結「わたしと隣の和菓子さま」(舊「和菓子さま 剣士さま」)
「わたしと隣の和菓子さま」は、アルファポリスさま主催、第三回青春小説大賞の読者賞受賞作品「和菓子さま 剣士さま」を改題した作品です。 2022年6月15日(偶然にも6/16の「和菓子の日」の前日)に、KADOKAWA富士見L文庫さまより刊行されました。書籍版は、戀愛風味を足して大幅に加筆修正を行いました。 書籍発行記念で番外編を2本掲載します。 1本目「青い柿、青い心」(3話完結) 2本目「嵐を呼ぶ水無月」(全7話完結) ♢♢♢ 高三でようやく青春することができた慶子さんと和菓子屋の若旦那(?)との未知との遭遇な物語。 物語は三月から始まり、ひと月ごとの読み切りで進んで行きます。 和菓子に魅せられた女の子の目を通して、季節の和菓子(上生菓子)も出てきます。 また、剣道部での様子や、そこでの仲間とのあれこれも展開していきます。 番外編の主人公は、慶子とその周りの人たちです。 ※2021年4月 「前に進む、鈴木學君の三月」(鈴木學) ※2021年5月 「ハザクラ、ハザクラ、桜餅」(柏木伸二郎 慶子父) ※2021年5月 「餡子嫌いの若鮎」(田中那美 學の実母) ※2021年6月 「青い柿 青い心」(呉田充 學と因縁のある剣道部の先輩) ※2021年6月「嵐を呼ぶ水無月」(慶子の大學生編& 學のミニミニ京都レポート)
8 193【書籍化・コミカライズ】実家、捨てさせていただきます!〜ド田舎の虐げられ令嬢は王都のエリート騎士に溺愛される〜
【DREノベルス様から12/10頃発売予定!】 辺境伯令嬢のクロエは、背中に痣がある事と生まれてから家族や親戚が相次いで不幸に見舞われた事から『災いをもたらす忌み子』として虐げられていた。 日常的に暴力を振るってくる母に、何かと鬱憤を晴らしてくる意地悪な姉。 (私が悪いんだ……忌み子だから仕方がない)とクロエは耐え忍んでいたが、ある日ついに我慢の限界を迎える。 「もうこんな狂った家にいたくない……!!」 クロエは逃げ出した。 野を越え山を越え、ついには王都に辿り著く。 しかしそこでクロエの體力が盡き、弱っていたところを柄の悪い男たちに襲われてしまう。 覚悟を決めたクロエだったが、たまたま通りかかった青年によって助けられた。 「行くところがないなら、しばらく家に來るか? ちょうど家政婦を探していたんだ」 青年──ロイドは王都の平和を守る第一騎士団の若きエリート騎士。 「恩人の役に立ちたい」とクロエは、ロイドの家の家政婦として住み込み始める。 今まで実家の家事を全て引き受けこき使われていたクロエが、ロイドの家でもその能力を発揮するのに時間はかからなかった。 「部屋がこんなに綺麗に……」「こんな美味いもの、今まで食べたことがない」「本當に凄いな、君は」 「こんなに褒められたの……はじめて……」 ロイドは騎士団內で「漆黒の死神」なんて呼ばれる冷酷無慈悲な剣士らしいが、クロエの前では違う一面も見せてくれ、いつのまにか溺愛されるようになる。 一方、クロエが居なくなった実家では、これまでクロエに様々な部分で依存していたため少しずつ崩壊の兆しを見せていて……。 これは、忌み子として虐げらてきた令嬢が、剣一筋で生きてきた真面目で優しい騎士と一緒に、ささやかな幸せを手に入れていく物語。 ※ほっこり度&糖分度高めですが、ざまぁ要素もあります。 ※書籍化・コミカライズ進行中です!
8 173【書籍化】竜王に拾われて魔法を極めた少年、追放を言い渡した家族の前でうっかり無雙してしまう~兄上たちが僕の仲間を攻撃するなら、徹底的にやり返します〜
GA文庫様より書籍化が決定いたしました! 「カル、お前のような魔法の使えない欠陥品は、我が栄光の侯爵家には必要ない。追放だ!」 竜殺しを家業とする名門貴族家に生まれたカルは、魔法の詠唱を封じられる呪いを受けていた。そのため欠陥品とバカにされて育った。 カルは失われた無詠唱魔法を身につけることで、呪いを克服しようと懸命に努力してきた。しかし、14歳になった時、父親に愛想をつかされ、竜が巣くっている無人島に捨てられてしまう。 そこでカルは伝説の冥竜王アルティナに拾われて、その才能が覚醒する。 「聖竜王めが、確か『最強の竜殺しとなるであろう子供に、魔法の詠唱ができなくなる呪いを遺伝させた』などと言っておったが。もしや、おぬしがそうなのか……?」 冥竜王に育てられたカルは竜魔法を極めることで、竜王を超えた史上最強の存在となる。 今さら元の家族から「戻ってこい」と言われても、もう遅い。 カルは冥竜王を殺そうとやってきた父を返り討ちにしてしまうのであった。 こうして実家ヴァルム侯爵家は破滅の道を、カルは栄光の道を歩んでいく… 7/28 日間ハイファン2位 7/23 週間ハイファン3位 8/10 月間ハイファン3位 7/20 カクヨム異世界ファンタジー週間5位 7/28 カクヨム異世界ファンタジー月間7位 7/23 カクヨム総合日間3位 7/24 カクヨム総合週間6位 7/29 カクヨム総合月間10位
8 52Relay:Monsters Evolve ~ポンコツ初心者が始める初見プレイ配信録~
何の根拠もなく「これだ!」と、とあるオフラインのVRゲームの初見プレイを配信する事を決めた能天気な無自覚ドジっ子なサクラ。 いざ人任せにしつつ配信を始めたら、なんでそんな事になるのかと視聴者にツッコまれ、読めない行動を見守られ、時にはアドバイスをもらいつつ、ポンコツ初心者は初見プレイでの珍妙なゲーム実況を進めていく! そんなサクラが選んだゲームは、現実に存在する動植物を元にして、モンスターへと進化を繰り返し、最終的に強大な力を持つ人類種へと至る事を目的としたゲーム『Monsters Evolve』。 そのオンライン対応版のVRMMO『Monsters Evolve Online』がサービスを開始して少し経った頃に、VR機器そのものに大幅アップデートが行われ、タイトルに制限はあるがリアルタイムでの配信が解禁されたものである。 これはオフライン版の『Monsters Evolve』を描く、もう1つの進化の物語。 カクヨムでも連載中! pixivFANBOXで先行公開も実施中です! また、本作は『Monsters Evolve Online 〜生存の鍵は進化にあり〜』の関連作となります。 関連作ではありますがオンライン版とオフライン版という事で話としては獨立はしていますので、未読でも問題はありません。 もしよろしければオンライン版の話もどうぞ。 https://ncode.syosetu.com/n7423er/
8 116オバケYouTuber
會社をクビになった晴太郎が、生活の為に家賃の安い物件を探していると、1年間タダ!それ以降は2萬と言う、格安賃貸物件をネットで見つける。その物件には告知事項があり、若い女性が変死した訳あり物件だった。幽霊を信じていないし、怖いと思わない晴太郎は、訳あり物件に引っ越しするのだか、信じられない様な心霊現象が次々と起きて、、、
8 96現代知識で異世界無雙したかったよ……
神様の間違いで殺された主人公が女に転生して異世界で暮らしていくほのぼのファンタジー たまに戦闘あり、百合ありでやっていきます! ちょっとだけシリアスもあるよ 第1部:1章〜8章 第2部:9章〜15章 第3部:16章〜最新話まで
8 171