《豆腐メンタル! 無敵さん》三日目七谷水難事件⑪
「はぁ。まぁいい。どんな者が相手であろうが、私は手加減などしない」
言いながら、黒野はくるりと振り返り、黒板になりやら書き出した。カッカッカッというチョークの音が、靜まり返った教室に、リズミカルに木霊する。
「さて。これが読めるか、ホズミ?」
書き終えて踵を返した黒野は、黒板をばんと叩いて、挑発的に宗像を睨んだ。三つ編みメガネキャラらしからぬ、不遜な態度である。うーん。こういうのって、俺の中の神聖なるイメージが穢されているようで、なんだか背徳がある。
え? 背徳? 俺、委員長キャラをなんだと思ってんの? 自分の変態さを認識した瞬間だった。
それはともかく、黒野が黒板にでかでかと書いた文字は『作麼生』というもので、俺には読めない。
「ふん。読めぬな。だが、それがどうしたという?」
答えたのは宗像だった。広げた右手を顔に當て、妙なポーズで威張る宗像。読めないのに堂々。大変に男らしい格だった。
「では、隣にこう書いたら読めるかな?」
黒野は『作麼生』の隣に『説破』と書いた。
「それはッ! そうか! 『せっぱ』だな! では、最初のものはッ!」
宗像、ここで一呼吸。早く言えよ。もうみんな分かってんだよ。「ゴゴゴゴゴゴ」とか、もういらないから。
「すなわちッ! それは『そもさん』だと言うことかぁッ! ビシィッ!」
みんな、相當イラっときている。宗像を睨みながら貧乏ゆすりしてるやつとか、機をコンコンコンコンと指で叩いている者が大量に発生してるから。
「そうだ。『作麼生そもさん』とは、私が意訳すると『これでも喰らえ』となるのだが、対してそれをける『説破せっぱ』とは、『いいだろう。見事、打ち破ってみせようぞ』という意味になる。古く、門前に巖が置いてある寺では、誰でも住職に問答を挑むことが出來た。その時の掛け聲がこの『そもさん』『せっぱ』なのだ」
宗像の癇に障る話し方や態度も、黒野にはたいしたことではないらしい。冷靜に語る黒野に、みんながなんとも微妙な視線を投げかけていた。
だってさ。これ、「だから何?」って話だもんな。俺の頭の上にも、はてなが浮いてるし。
「問答を挑まれ敗北した住職は、その寺を出なければならない。そして、勝者が跡を継ぐ。その為か、を吐き倒れる住職もいたという。『説破つまる』という言葉は、ここから來ている。本來『問答』とは、これほどに苛烈なものなのだ」
「お、おい。黒野?」
のってきたのか、滔々と語る黒野に危うさを覚えた俺は、つい聲をかけていた。
「む。なんだ、うるさい。まだ話の途中だろう」
「いや、そうかも知れないけど。でも、見ろよ。宗像を」
「なに?」
宗像は、ただ黙って聞いていた。腕を組み、目を閉じたその姿には「語るに及ばず」といった気持ちが汲み取れた。直後、目をかっと見開いた宗像は。
「黒野。お前は、何を語っているつもりだ? 俺はッ! 『そもそも、この號令に意味などあるのか?』と訊いたはずだッ!」
窓ガラスがびりびりと震えるほどの聲量で、そう怒鳴った。
それに対する黒野の答えは、俺からすれば信じられないものだった。もう、アホ過ぎ。黒野は、呆れるくらいに誠実だった。
「知っている。だが、それはホズミへの問いだろう? だから私はホズミの疑問に答えただけだ」
「はぁっ?」
全員が教卓に立つ黒野へ溜め息をハモらせた。いや、確かにさ、さっき俺は『そもさんって誰だよ』とか言ったけど。
「言っただろう? 『しだけ助けてやろう』と。私はホズミの疑問を解消した。……き、貴様なんかを、私が完全に助けるわけなんて、ないんだからねっ」
教室を、重苦しい靜寂が支配した。誰も何も言えず、しわぶき一つ聞こえない。あ、しわぶきって“咳”のことね。古い小説なんか読んでないと、なかなか分からないかもだけど。
「以上だ」
黒野は教卓を降りると、小さくこつこつと上履きを鳴らして自分の席へと戻ってきた。俺の斜め前に立つ黒野は、まったく元のままだった。
「つまり。事態は全く好転していないってことですね、ホズミくん」
隣に立つタオルを巻いた無敵さんがぼそっと呟く。
「……だ、そうだ。答えはまだか、ホズミ?」
「お、おう」
宗像は肩を落としている。多分、すげぇ時間を無駄にしたって思ってんだろうな。でも、俺の方がもっと肩落ちてる。どうしよう。このままじゃ、俺の負けだ!
「ん? なんだ、ホズミ? 私があれだけ時間を稼いでやったというのに、何も考えていなかったのか? せっかくツンデレしてやったというのに、それについての反応も無いとは。おかしい。私のようなキャラでならば、あれで萌えない男子はいないはずなんだが」
どこ調べだよ、その報? てかあれ、わざとらし過ぎんだよ。あと、そういうのが予測できたり期待出來るようなキャラじゃないと、突然過ぎて読者はついていけないんだよぉ!
結局、黒野に期待した俺は馬鹿だった。
そうだよね。そういえば俺、黒野の第一印象、『人を盾にしそう』だったっけ。実際、今回の副委員長決めでも、無敵さんを盾に使っているわけだし。お。これって無敵の盾ってこと? イージスの盾? そう考えるとかっこいいな、無敵さん。
でも、イージスの盾って、メデューサの顔が嵌ってて、相手を石にしちゃうんだよな。無敵というか不気味な盾だ。もし無敵さんの顔がはまっていたりした場合、効果は石化ではなく“鬱化”だったりするのかも。ぷーくすくす。
なんて考えてしまうくらい、黒野の助け船は黒船どころか泥船だったということだ。
ヤバイ。俺、このままじゃこのクラスでの最下位カースト確定だぁ!
【コミカライズ&書籍化(2巻7月発売)】【WEB版】婚約破棄され家を追われた少女の手を取り、天才魔術師は優雅に跪く(コミカライズ版:義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔術師に溺愛される)
***マンガがうがうコミカライズ原作大賞で銀賞&特別賞を受賞し、コミカライズと書籍化が決定しました! オザイ先生によるコミカライズが、マンガがうがうアプリにて2022年1月20日より配信中、2022年5月10日よりコミック第1巻発売中です。また、雙葉社Mノベルスf様から、1巻目書籍が2022年1月14日より、2巻目書籍が2022年7月8日より発売中です。いずれもイラストはみつなり都先生です!詳細は活動報告にて*** イリスは、生まれた時から落ちこぼれだった。魔術士の家系に生まれれば通常備わるはずの魔法の屬性が、生まれ落ちた時に認められなかったのだ。 王國の5魔術師団のうち1つを束ねていた魔術師団長の長女にもかかわらず、魔法の使えないイリスは、後妻に入った義母から冷たい仕打ちを受けており、その仕打ちは次第にエスカレートして、まるで侍女同然に扱われていた。 そんなイリスに、騎士のケンドールとの婚約話が持ち上がる。騎士団でもぱっとしない一兵に過ぎなかったケンドールからの婚約の申し出に、これ幸いと押し付けるようにイリスを婚約させた義母だったけれど、ケンドールはその後目覚ましい活躍を見せ、異例の速さで副騎士団長まで昇進した。義母の溺愛する、美しい妹のヘレナは、そんなケンドールをイリスから奪おうと彼に近付く。ケンドールは、イリスに向かって冷たく婚約破棄を言い放ち、ヘレナとの婚約を告げるのだった。 家を追われたイリスは、家で身に付けた侍女としてのスキルを活かして、侍女として、とある高名な魔術士の家で働き始める。「魔術士の落ちこぼれの娘として生きるより、普通の侍女として穏やかに生きる方が幸せだわ」そう思って侍女としての生活を満喫し出したイリスだったけれど、その家の主人である超絶美形の天才魔術士に、どうやら気に入られてしまったようで……。 王道のハッピーエンドのラブストーリーです。本編完結済です。後日談を追加しております。 また、恐縮ですが、感想受付を一旦停止させていただいています。 ***2021年6月30日と7月1日の日間総合ランキング/日間異世界戀愛ジャンルランキングで1位に、7月6日の週間総合ランキングで1位に、7月22日–28日の月間異世界戀愛ランキングで3位、7月29日に2位になりました。読んでくださっている皆様、本當にありがとうございます!***
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