《豆腐メンタル! 無敵さん》阿久戸志連宣戦布告⑨
「あはっ。あははははははははは! いいよ! いいだろう! これで“駒”が一つ増えた! きみも晴れて僕の“駒”だ、七谷菜々! 無敵さんと同じくね! あーっはっはっはっはっはっは!」
「“駒”? 無敵さんと同じ? どういう意味だ、阿久戸?」
ぐ、ぐぐっとよろけながら立ち上がった阿久戸が、口元のを腕でぐいっと拭いとる。だが、はあとからあとから流れていた。それでも、阿久戸は笑い続ける。
「全く、さすがは空手の元ジュニアチャンピオンだね。僕の反神経がもうしお末なものだったら、顎の骨が砕けていたかもしれないよ」
阿久戸は俺の問いを無視し、手をやった顎をこきこきと鳴らしている。
「空手のジュニアチャンプ、だって? 七谷が?」
噓だろ。くるくるウェーブヘアでブルーのカラコンれた超ミニスカの空手チャンプなんているのかよ? 空手のイメージを破壊しまくってるじゃんか!
でも、格ゲーのキャラならこんなのいそう。てか、確実にいる。そして、俺なら絶対使ってる。
「砕けりゃ良かったのに。砕くつもりで放った正拳突きだったんだからさ」
七谷は突き出した腕を肘から畳み、自分の顔の前でぐっと拳を掲げた。心なしか、言葉使いがワイルドになっている。あ、あれ? こいつ、なんかカッコ良く見えてきちゃったんだけど?
それにしても、と俺は七谷の拳を観察した。なんてきれいな拳なんだ。これ、本當に空手家の拳なの? これじゃあ空手やってるなんて気付かなくても無理はない。待てよ。つまりは、それだけこいつが“うまい”ってことなのか?
真にきれいで正確な突きを放つ選手には、あのごつごつとしてて見た目しいとは言えない『拳ダコ』が出來ないって聞いたことがある。もし本當にそうなのであれば、こいつが空手チャンプだって話も信憑が高そうだ。
「砕くつもり、か。そうやって、何人も病院送りにしたんだね」
「おかしなこと言わないで。菜々、試合で病院に送った人なんていないもん」
「だから。試合じゃない時だってことさ。そうだろ? 『ハニービー』?」
「な! あんた、なんでその呼び名を!」
七谷の顔がみるみる青くなっていく。『ハニービー』? みつばちってことだろ? それがどうしたっていうんだ?
「知っているとも、ハニービー。本當にさ、ウェブサイトって便利だよね。くすくすくす」
「ウェブサイト? それで調べたっていうのか、阿久戸?」
「そうさ。どこの學校にも“裏サイト”って便利なものがあるからね。僕はね、ホズミくん。ここへの學初日、クラス全員の名前と出校を記録して、帰宅してから全部れなく調べたのさ。クラスのみんなに関係する板、そしてログを、かなり過去まで遡って調べ上げた。七谷さんは、特に調べやすかったよ。中學では、有名人だったみたいだし。くすくす」
「……サイテー。あんた、サイテーの下衆野郎だよ!」
怒鳴る七谷の聲は震えていた。涙聲? なにかを怖れている? どうしたんだ、七谷? お前も、もう普通じゃないぞ!
「あはは。下衆で結構。そんなのとっくに自覚していることだからね。それより、學初日とは似ても似つかぬ姿だよね、七谷さん。二日目からは、とても、とっても素敵になった。それ、頑張っておしゃれしたんでしょ? どうもおしゃれを勘違いしちゃってるみたいだけれど。くすくす」
「うっ……」
かぁっと七谷の顔が赤くなる。照れているなんてかわいいじじゃない。これは、きっと恥だろう。
「中學校の同級生が今の七谷さんを見たら、どう言うかな? きっと、あんまりいいことは言わないだろうと思うけど。僕はそれをホズミくんに是非教えてあげたいんだよ。ククククク。ね、これってどうだろうね、七谷さん?」
「それ、脅し?」
七谷がきっと阿久戸を睨んだ。
「そうとも。僕はね、初日から、みんなの様子を観察してた。どこにホズミくんを陥れる為の“ネタ”が落ちているか分からないからね。で、初日にさ、きみ、ずっとホズミくんを見ていたよね? 自己紹介の時も、かなり意識しちゃってた。でも、ホズミくんはまるで気付いていなかった」
「え?」
俺はきょとんとしてしまった。七谷が、俺を? そういや俺、ずっと窓の外を見ていたっけ。無敵さんの自己紹介からはそれどころじゃなくなったけど。てことは、七谷って無敵さんよりも先に自己紹介していたわけか。なるほどな。俺、完璧に無視してたわ。
「だから、僕は七谷さんがどうするのかなーって興味をもって見ていたよ。そうしたら、二日目には別人だ。どうしてそこまでしてホズミくんに気付いてしいのかは僕も知らないんだけど。なるほど、それだけ派手にすれば、ホズミくんだって興味を示してくれるに違いない。ああ、そうきたのか、とか思ったら、笑いをこらえるのが大変だった」
阿久戸がで汚れた口をかぱっと広げ、「はははははは」と腹を押さえて笑い転げた。
「うるさいっ! うるさいうるさいうるさいぃっ! あんたに、何が分かるんだっ! 菜々だって、こんなかっこうするのって怖かったし、恥ずかしかったんだよ! でも、しょうがなかったんだもん! こうするしか、どうしようもなかったんだもんっ!」
ぎゅっと閉じた目からぽろぽろと涙を落とし、肩をいからせてぶ七谷。
なんだ、それ? 俺に気付いてしくて、そんなに派手になったのか? 本當はしたくもないのに? 俺なんかの為に、頑張って? お前、なんて切ないヤツなんだよ!
「うるさいのはきみだよ、七谷菜々。で、どうすんの? バラしてしい? しくない? どっちなんだ、七谷ぃっ!」
そんな阿久戸の恫喝に、七谷は。
「……バラせば、いいじゃんか」
それは、俯いている上に小さな聲だった。
「何?」
阿久戸がぴくりと眉をかす。
「バラしたければバラせばいいって言ってんの。菜々は、そんな脅しに屈しないもん」
「あっそ。ホズミくーん。七谷さんってさ、実はヤンキーだったんだよね」
「は?」
速攻だった。阿久戸は七谷が言い終わるか終わらないかのうちに、もう完全にバラしていた。あまりの早さに俺が一瞬呆けてしまうほどだ。
「……あ……」
七谷が力なく振り返って俺を見る。
「ヤンキー? 七谷が?」
七谷のどうしようもなく切ない表に、俺はとにかく何か言わなくちゃと思い。気が付けば、そんな気の利かない、どうしようもない言葉を口にしていた。
「そうさ。中學二年までは、手のつけられない不良だったって話だよ。毎日ケンカに明け暮れて、親が學校に呼び出されるなんてしょっちゅうさ。で、地元でついたあだ名が『ハニービー』。いや、あだ名というよりは隠語かな? 裏サイトでは、みんなそう呼んでいたから。文脈からして、侮蔑的な意味合いが強いとは思ったけどね。ふふふふふ」
阿久戸の不愉快な嘲笑が、保健室に木霊した。七谷は、
「……バレちゃった、か……」
そう呟いて、床にぺたんとをついた。その時。
「思い出した……! 七谷。お前、あの時の……!」
肩を落とした七谷の姿が、俺の脳でフラッシュバックを引き起こした――
【書籍化!】【最強ギフトで領地経営スローライフ】ハズレギフトと実家追放されましたが、『見るだけでどんな魔法でもコピー』できるので辺境開拓していたら…伝説の村が出來ていた~うちの村人、剣聖より強くね?~
舊タイトル:「え? 僕の部下がなにかやっちゃいました?」ハズレギフトだと実家を追放されたので、自由に辺境開拓していたら……伝説の村が出來ていた~父上、あなたが尻尾を巻いて逃げ帰った“剣聖”はただの村人ですよ? 【簡単なあらすじ】『ハズレギフト持ちと追放された少年が、”これは修行なんだ!”と勘違いして、最強ギフトで父の妨害を返り討ちにしながら領地を発展させていくお話』 【丁寧なあらすじ】 「メルキス、お前のようなハズレギフト持ちは我が一族に不要だ!」 15歳になると誰もが”ギフト”を授かる世界。 ロードベルグ伯爵家の長男であるメルキスは、神童と呼ばれていた。 しかし、メルキスが授かったのは【根源魔法】という誰も聞いたことのないギフト。 「よくもハズレギフトを授かりよって! お前は追放だ! 辺境の村の領地をくれてやるから、そこに引きこもっておれ」 こうしてメルキスは辺境の村へと追放された。 そして、そこで國の第4王女が強力なモンスターに襲われている場面に遭遇。 覚悟を決めてモンスターに立ち向かったとき、メルキスは【根源魔法】の真の力に覚醒する。【根源魔法】は、見たことのある魔法を、威力を爆発的に上げつつコピーすることができる最強のギフトだった。 【根源魔法】の力で、メルキスはモンスターを跡形もなく消し飛ばす。 「偉大な父上が、僕の【根源魔法】の力を見抜けなかったのはおかしい……そうか、父上は僕を1人前にするために僕を追放したんだ。これは試練なんだ!」 こうしてメルキスの勘違い領地経営が始まった。 一方、ロードベルグ伯爵家では「伯爵家が王家に気に入られていたのは、第四王女がメルキスに惚れていたから」という衝撃の事実が明らかになる。 「メルキスを連れ戻せなければ取りつぶす」と宣告された伯爵家は、メルキスの村を潰してメルキスを連れ戻そうと、様々な魔法を扱う刺客や超強力なモンスターを送り込む。 だが、「これも父上からの試練なんだな」と勘違いしたメルキスは片っ端から刺客を返り討ちにし、魔法をコピー。そして、その力で村をさらに発展させていくのだった。 こうしてロードベルグ伯爵家は破滅の道を、メルキスは栄光の道を歩んでいく……。 ※この作品は他サイト様でも掲載しております
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