《栴檀禮賛》進退窮まる大きなタカ

僕は電車を降り、駅舎から出ようと階段を登っていると、窓の近くに見覚えのある人が立っていた。

「アキバ先輩!」

「ん、あ、あぁ、ハヤテ君か。」

「どうしたんですか先輩? 今日の補講を誰にも連絡をれずに休むなんて。」

「......歩きながら話そう。」

僕は先輩に促されるがまま、一緒に歩き出した。先輩は最初、し話すのを躊躇するかのように、重い表で口をモゴモゴさせていたが、數分後やっと口を開いた。

「......彼......マキから『私が教えるからアミの補講には行くな』って言われてな、それで休んだんだ。でも、いざマキから勉強を教えてもらおうって時に、ケンジがやって來て俺の事ブン毆ったんだ。それで『一緒に勉強も出來ねぇヤツと野球は出來ねぇ』なんて言われちまってな。」

「なるほど。」

「それで俺は、マキに『アミから教えてもらうのが気に食わないなら、アミに教えてもらわずに周りの野球部のヤツらから教えてもらうよ。』って妥協案出したんだ。そしたら、これまたブチ切れられてな......それで俺はアテもなくフラフラしてて、気づけば帰りの電車に乗ってたってワケよ。」

「そんな事が......」

「俺も中途半端は良くないと思ってる。だけどよ、彼と友達どっちか取れなんて、酷だとは思わないか?」

「そうですね......かなり究極の2択ですね。」

「だからさ、俺は迷ってる。俺の中でずっとケンジから言われた事が巡ってる。俺が取るべきはダチなのかオンナなのか。」

アキバは懐からジッポライターを取り出し、カチャンカチャンと弄り始めた。

「アキバ先輩はどうしたいんですか?」

「そりゃあ皆と勉強やりたいさ......でも、それじゃあマキを傷つけてしまう......と言うかまぁ、もう既に傷つけちまったんだがな。」

アキバ先輩はグッと自分の下を噛み締めた。僕には、彼の心の全てを知る力は無いけど、何となく共できる部分はあった。

2つのものに板挾みにされ、引きちぎれそうな自分。どちらか一方の道に進まなければならなく、選んでない方は永遠に消えてしまうかもしれない。なくとも、今立っている場所も、グラグラしていて長くは持たない......そんなじ。

「當事者でもない僕は、偉そうに言える立場じゃないんですけど、彼さんとの最初の思い出みたいなのを振り返ってみたら如何でしょうか?」

「最初の思い出か......」

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