《栴檀禮賛》なんでも知ってる彼

自分に似合わず、時代にも似合わない事してしまったなとか考えながら、僕は家に向かった。

その時、アイツの名前すら聞いてなかったなと思い、名前も知らない相手とケンカしたという事が、し面白く思えてきて吹き出してしまった。

「何が面白いの?」

「おわっ! あ、アミ!」

いきなり後ろからアミに聲をかけられ、ビックリしてしまったが、すかさず平靜を裝った。

「今日は夜ご飯食べに行く?」

「いや、今日は良いかな。」

「そっか。」

この発言で、僕はし落ち込んだ。やはりこの前のアレがいけなかったんだろうか。

「ハヤテ、手を出して。」

「ん?」

僕はアミに言われるがまま、手を出した。すると彼は1つの紙袋を手渡してきた。

「これは?」

「ハヤテ言ってたじゃん。スフレ食べたかったんでしょ?」

スフレ......それは僕が先日アザミとアミに気持ちを見かされた歳に「好き」という言葉を誤魔化して生まれた苦し紛れだ。

「う、うん、そうだね。」

僕は微妙な顔をしながらけ取った。そして夕風でスーッと冴えた頭で、よく考えてみた。

なぜ、アミがスフレを渡してきたのか。頭が良くて、そしてイタズラっ子っぽい一面のあるアミが、なぜスフレを渡してきたのか。

「なるほどね。」

僕は得心がいった。しかし、それをドヤ顔でアミに言う勇気が無かった。

「ん? 何がなるほどなの?」

「ん、アミがスフレを渡してきた理由。」

「あ、分かっちゃった?」

「うん、分かっちゃった。」

先ほど言ったように、スフレとは僕の「好き」と直接言えない気持ちから生まれた苦し紛れ。それをアミが僕に渡してきたということ、それはつまり......

「ハヤテがいつまでも変な所で黙ってるからさ、ちょっとは私からも歩み寄っても良いかな〜、なんてね!」

「ふっ......ごめんよ。」

「なに謝ってんの。」

「いや、もっと早くに言うべきだったのかもって、ちょっと思ったり思わなかったり。」

「なんだいなんだい、言ってみそ?」

「......好きだよ。」

僕は無い勇気を無理やり捻り出して、腹の底から言葉を捻り出した。この言葉は突然だけど、この気持ちは突然では無いつもりだ。

アミはこの言葉を聞くと、ニヤニヤしながら何も言わなくなった。僕は一方的に顔を赤くして、ソワソワし始めた。

恐らく5分後、なんでも知ってる彼は「知ってる」とだけ返すのだろう。

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