《小さなヒカリの語》9ページ目
徐々に視界を覆う土煙は薄れてゆき、そのシルエットが浮かび上がってゆく。
なぜかいい予は全くと言っていいほどしない。さっきのテンションはどこへ行ったのやら、急激に気持ちが冷めてきた。ひどい頭痛がする。忘れてたように悪寒が舞い戻ってきた。
そして、それが何か明らかになった時、俺は聲を失ったように口が空回りする結果となった。
「……おぁ……え?」
俺の目が脳に非現実を伝える。
それは、俺より一回りも二回りも大きい濃い紫の球で、地面にさえ著いていなかった。むしろその表現では甘過ぎるほど人間としての本能が、それは不快なものなんだと認識させた。悪意の塊という表現が見合っている。直として俺は逃げるべきと思った。それは良いことを微塵たりとももたらしそうにないからだ。悪意のベクトルは全力で逆方向に振り切れていた。
先に言おう。結果として、その直は正しかった。
は唸り聲を上げ、地を裂きながら、ものすごいスピードで向かってきた。
「わあああああああーーーーーー!!!」
この聲を斷末魔のびと言わずになんと言おう。
押し寄せる恐怖に俺は腰が抜けて、へなへなと力なくもちをついてしまった。
(し、死ぬ)
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬうわあああああああーーー!!
そう確信したとき、俺のを一つの影が覆った。
「はあぁぁぁ!!」
力のこもった聲とともにが俺の頭上をすっと飛び越える。
そしては剣をに向け、そのまま迷わず振り下ろした。
一瞬の出來事だった。
紫のは激しい音をたて、左右に切り裂かれた。
一つは俺のすぐ橫をかすめ、地面の土を削り取り、靜止したところで消滅した。
もう一つは校舎の側壁に當たって、ガラガラという瓦礫音とともに見えなくなった。
前方に立つの長い髪が風でなびき、ひくつく鼻の頭をくすぐった。
額から頬へ汗が一筋流れ落ちる。心臓が脈を打つのがじ取れる。心を大きくされ、呼吸が上手く定まらない。今、何が起こったのかと聞かれても脳の報処理速度が間に合わない。うまく答えられる自信がない。そのため、脳が事実と違う結論をはじき出したとしても、それは仕方のないことかもしれない。現に脳は現実逃避をすることで自己防衛しようと躍起になっている。
というよりも現実なのか? これ。さっきのもその剣も何かの撮影だろ? 映畫同好會主催の。にしてはし懲りすぎのような気もするが。カメラはどこだ? カメラマンも照明さんの姿もねぇぞ。ああ、たぶん俺から見えないだけで、あちらからは俺らがきちんと見えてんだろう。
やべぇ、それならもっといい顔で映らなきゃ。あれ? 上手く笑えない。手の震えが止まらない。
【書籍版4巻7月8日発売】創造錬金術師は自由を謳歌する -故郷を追放されたら、魔王のお膝元で超絶効果のマジックアイテム作り放題になりました-
書籍版4巻は、2022年7月8日発売です! イラストはかぼちゃ先生に擔當していただいております。 活動報告でキャラクターデザインを公開していますので、ぜひ、見てみてください! コミック版は「ヤングエースUP」さまで連載中です! 作畫は姫乃タカ先生が擔當してくださっています。 2021.03.01:書籍化に合わせてタイトルを変更しました。 舊タイトル「弱者と呼ばれて帝國を追放されたら、マジックアイテム作り放題の「創造錬金術師(オーバーアルケミスト)」に覚醒しました -魔王のお抱え錬金術師として、領土を文明大國に進化させます-」 帝國に住む少年トール・リーガスは、公爵である父の手によって魔王領へと追放される。 理由は、彼が使えるのが「錬金術」だけで、戦闘用のスキルを一切持っていないからだった。 彼の住む帝國は軍事大國で、戦闘スキルを持たない者は差別されていた。 だから帝國は彼を、魔王領への人質・いけにえにすることにしたのだ。 しかし魔王領に入った瞬間、トールの「錬金術」スキルは超覚醒する。 「光・闇・地・水・火・風」……あらゆる屬性を操ることができる、究極の「創造錬金術(オーバー・アルケミー)」というスキルになったのだ。 「創造錬金術」は寫真や説明を読んだだけで、そのアイテムをコピーすることができるのだ。 そうしてエルフ少女や魔王の信頼を得て、魔王領のおかかえ錬金術師となったトールだったが── 「あれ? なんだこの本……異世界の勇者が持ち込んだ『通販カタログ』?」 ──異世界の本を手に入れてしまったことで、文明的アイテムも作れるようになる。 さらにそれが思いもよらない超絶性能を発揮して……? これは追放された少年が、帝國と勇者を超えて、魔王領を文明大國に変えていく物語。 ・カクヨムにも投稿しています。
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