《小さなヒカリの語》78ページ目

この際全部スーパーポジティブシンキングだ。わざわざ教室まで戻らずに済んだ。

下駄箱の橫に置かれた傘立てから、弓のケースを引っこ抜いてグラウンドに向かう。著いて見上げると、空中には例のが浮かんでいた。前に見たのと比べて黒味が増しているように見える。浮遊しているその狀態にもどこか、なんとなくだが違和がある。ヒカリの姿はグラウンドの左中央にあった。

「我に與えよ我に授けよ全てをちりと焼き盡くす力」

戦いが始まった。ヒカリの手から、青い炎のたまがぼうっ、と飛び出してオウムに直撃した。

ヒカリは直撃に合わせて地面を蹴って加速をつけ、跳躍する。力のこもった聲とともにオウムに大剣を振り下ろす。しかし瞬時に避けられ、オウムの當たりがヒカリの華奢なに直撃した。

「ヒカリ! 大丈夫か!?」

戦いの最中だからかヒカリに聲は屆かない。

ケースのジッパーを引きおろし、弓と矢を取り出す。戦況を見つめながら、弓に矢をセットする。

ヒカリは立ち上がり、追い討ちをかけるように二撃目を狙うオウムを跳んでかわした。抉り取られた地面はオウムによる破壊の印。生の人間がくらったら死んでしまう。

ヒカリは力があるから、とは言っても何度もくらったら流石に危険だ。

そうなる前に俺が撃ち抜いてやる。オウムに照準を合わせ、弓のつかをしならせて放つ。

……おかしい。矢はオウムを貫通したのだが、仕留めたっていうがまるでない。核に當たってないとはまたし違う。狙いは悪くないはずだ。問題なのは……

「あっ、あああああああああああああああ」

とデートする日を一日勘違いして、後ですっぽかしたことに気づく彼氏の焦りに近い、急激に溫が下がってゆくあああ。

最悪だ。矢に力を注いでもらうことを忘れた。昨日かえってすぐにしてもらうべきだったのに。朝は寢坊したから、言う暇なんてなかったし。

ここでヒカリに聲をかけて集中を途切れさせることはしたくない。そんなのは論外だ。どうしよう。俺、ここまで用意して出番なしなのか? いや、もともと俺がヒカリのしていることに介する余地はなかったんだ。俺の助けは要らない。何よりヒカリ本人がそう言っていたじゃないか。

満足しないのは俺だけで、今ヒカリは自分の命をかけて戦っている。そして力の施されていない俺に出來ることは何もない。俺に出來ることは何もないんだ。

不意に首筋にぞくぞくという寒気がはしった。授業中になるのは當然考えていたけど、そうは言っても初めてのことなので、驚いた分普段より強く寒気がした。大事なことは、焦らず、慌てず、やるべきことをやり遂げること。私は手を挙げて、前々から考えていた、こういう時の対処法を実行する。

「すいません、トイレ行ってきます」

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