《小さなヒカリの語》97ページ目

不幸を呼び寄せる質なのかなこいつは。

先ほどの溫和な空気はどこへ行ったのやら、変な空気が流れ始めていた。そんな空気の流れを誰もが変えたいと思っていて、そんな中、英人が口を開いた。

「ヒカリちゃんは今週の日曜日何か用事があるの?」

「用事っていうか、なんていうか……ね? こーちゃん」

ヒカリが俺にウィンクする。約束のことをこの際言ってしまえばいいと思ったが、事にしたいなら俺もヒカリに合わせよう。言って不都合なことはないけれど、わざわざここで言う必要もないし。

「ヒカリちゃんってさ」

「はい?」

「康介といつもいるけどさ、康介とヒカリちゃんは付き合ってるの? 朝一緒によく登校してるしさ、下校だって一緒だよね? それって付き合ってるのかなって」

俺とヒカリのやり取りを不審に思ったか、けげんそうな表で英人は言う。同棲してることを言ってないからそういう風に見られるのか。いや、同棲してるってのは付き合うより上のことなのか? なんにしろヒカリの対応に耳がおのずと傾いた。

「別になんでもないよ。ただの馴染だから」

「まあ、そっか。ヒカリちゃんがそう言うならそうなんだろうな」

英人はその答えに納得したらしく、弁當のほうに視線を戻す。ヒカリのけ答えは當たり障りのないナイスなものだ。どこにも問題はない。けど、なんだろう。なんか足りないっていうか、なんかこう……ねぇ? まったく俺は何を期待してんだろ。頭の中まで春の気に當てられたのか? いかんいかん、気持ちを引き締めなければ。ヒカリを変に意識しないように努めて箸をすすめる。やばい、味が分からん。「ただの馴染だから」その言葉が頭の中を巡ってる。

「あっ、こーちゃん。それ、私が作ったんだよ」

「へっ?」

ヒカリがを乗り出して、俺を覗き込んでくる。膝立ちなので顔の高さは俺よりも下。図らずも上目遣いになってるじ。わざとじゃないと思うが、そんなことされると余計に食いづらくなる。

「その、今箸でつかんでるから揚げ。朝早起きしてお母さんの弁當作りを手伝ったんだぁ。何個か作ったんだけど、ほとんど焦げちゃったから、こーちゃんの分にしかれてないんだよ。食べて想聞かせて。わくわく」

嫌な汗がのいたるところから吹き出る。額から汗が流れ落ちてきた。え? これ死亡フラグ?

ヒカリはにこにこして、俺が食べるまで待つつもりのようだ。やんわり視線をどこかに向けさせる方法を考えるが、英人も鈴木も俺のほうを見ている。食べるしかないみたいだ。ええい、ままよ!

無駄に腹に力をれ、から揚げを口の中に放り込む。そのままの勢いで咀嚼する。あれ?

「……うまい」

「ほんと? やったー! こーちゃんがおいしいって言ってくれたぁー!」

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