《まちがいなく、僕の青春ラブコメは実況されている》第1章 僕は、空気になりたい。1
ガタ――――ン!
気づくと、勢いよく自分の機を蹴り上げていた。
自分がどこにいるのかもわからず、僕は辺りを急いで見回した。
そこは教室で、授業中のようだった。
他の生徒たちの視線が、僕に一気に注がれる。
瞬間、脇に嫌な汗をじ、僕は急いで顔を伏せた。
「乙幡おつはた……だったよな? おいおい、今、お目覚めか? そうか……先生の授業、そんなにつまらなかったか……」
教師の聲がおどけてそう告げると、教室は笑いに包まれた。
つられて、この場を笑い飛ばす……なんてことは僕にはできなかった。
『――どうしよう! 目立ってしまった……』
そんな焦りをかにじ、心臓が早鐘を打った。
うかつに授業中に居眠りした自分が悪いのだが、このタイミングであの悪夢・・・・を見るとは……。
もう6年近く経っているというのに。
僕は、いまだに6年前の小學校のめの夢を、時々見る。
その寢覚めは、決まってひどく憂鬱なものだった。
いわゆる、トラウマなんだと思う。しかも、かなり質の悪い。
振り返れば、あのめこそ、すべてのはじまりだったんだ……。
◇
僕の名前は、乙幡おつはた剛ごう。
今春、高校に進學。まもなく、その最初の一學期を終えようとしている。
この高校生活において、僕はかに三つの誓いを立てていた。
一、 誰とも話さない
二、 友達を作らない
三、 放課後は速やかに帰宅、勉強する
僕は極力、人との関わりを絶ちたいと考えていた。
沸き躍る青春の躍も、時に勵まし合い、時に切磋琢磨する友も、を焦がすようなも、僕には不要だった。そんな幻想は、小説やゲームの中で鑑賞すれば十分だった。
高校生活に、僕がしたこと。それは「心の平安」と「大學の奨學金」のみだった。
なぜ僕がここまで人との関わりを拒み、奨學金目當てで勉強するだけの、ある意味、屈折した學園生活をむに至ったか? それを語るには、小2まで遡る必要がある。
遡ること小2年の夏、僕は母を失った。
元々、心ついた時には父もいなかった。だから、僕はその時點で完全な児となった。
人のをし、無條件に與えられたのは、僕の人生ではこの小2までだった。
以來、文字通り親戚をたらい回しにされた僕は、最終的に小4の頃、母方の叔母の家で育てられることになる。この叔母という人は、親戚の中でもかなり変わり者で通っていた。年中、海外を飛び回っているが、どんな仕事をしているか、また、どう生計を立てているのかまったく謎だった。いまだに、僕にも正確にはわからない。いずれにしろ、年中ほぼ海外で家を留守にしている叔母の家で、ほとんど一人暮らしに近い生活を僕は始めることになったのだった。
他の親戚の家での経験から自分のことは自分ですることに、小4にしてすっかり慣れていた僕には、叔母の家での暮らしはむしろ心地よく、できればこのまま叔母の家にやっかいになりたいといながら考えるようになった。
しかし、叔母の家に暮らすようになったのとちょうど同じ頃、僕の「められ人生」が幕を開けることになる。
最初のめは、ひとつ上の學年の赤坂という地域の悪とその手下によるものだった。この
めが最初にして最悪のもので、僕は何度も命の危機を味わい、心に深いトラウマを刻んだ。これを皮切りに、僕は小4から中3まで、一切の間を空けず常に・・めのターゲットにされてきた。
當然、める側の人間は変わったのだが、僕がめられる側という狀況は変わらなかった。
さすがに命の危機をじるようなことは、最初のめ以來あまりなかったが、およそ想像できるめのバリエーションはすべて、このにけてきたと思う。
悪口。口。無視。暴力。暴言。辱め。嫌がらせ。カツアゲ。SNSでのさらし者。モノを汚される。壊される。盜まれる。おまけに、機に一挿しの花瓶。
僕に唯一才能があるとしたら、それは人にめられる・・・・・められる才能だ。
僕はめられる度、その理由や原因を自分なりに考えた。
これだけめられるからには、むしろ僕自に何か要因があるのではないか?
確かに、める側の立場で想像してみると、悲しいくらい僕は「めたくなる要素」に満ちていた。それこそ、數え上げればキリがない……。
・デブ(80キロ近くある)。
・ブサイク(鏡を見るのも嫌になる)。
・臭い(毎日、風呂にっても、夏場には必ず言われた)
・人の目が見られない(なんだか怖いのだ)。
・人と話す際、極度に張し、よくドモる(だから余計、話せなくなる)。
・基本的に常にキョドっている(いつめをけるかと構えている)。
・髪がむさくるしい(進學費用貯金のため、自分で切っていたから)。
・制服、上履きがボロボロ(度重なるめにより、その生地が傷んだり黃ばんでいた)。
・績が無駄に良い(実際は、友達がおらず勉強くらいしかすることがなかっただけ)。
etc……
そして、僕は中學卒業時にある仮説に至った。
――そもそも、僕の存在自が認識されなければ・・・・・・・・、めの対象にならないのではないか?
つまり、極力、息を殺し、をめ、さながら冬眠中の獣のように學校生活で振る舞うことができれば、めは止むのではないか、と。
この仮説を確かめるべく、高校はなるべく中學の學區から離れた學校を選んだ。そして僕のことを知らない人々に対し、この仮説を実踐してみて、あとはひたすら勉強し、奨學金を得ようと思った(叔母が進學費用を出してくれるとは思えなかった)。そして、嫌な記憶しかないこの街を一日も早く出たいと願った。
仮説から膨らんだ僕の想像は、すぐにそこまで飛躍した。
何の確証もないが、そう思い描いている瞬間だけは自由をじることができた。その妄想は、呪縛のような「められ人生」からし、逃れるための翼にも思えた。そして、その翼は僕の唯一の希となった……。
だから、僕は高校學にあたり、その妄想じみた仮説を実証すべく三つの誓いを立てたのだ。
一、 誰とも話さない
二、 友達を作らない
三、 放課後は速やかに帰宅、勉強する
人との接點そのものを減らし、注目を逃れ、しでも目立つことの一切を避け、できる限り認識されず・・・・・、高校生活をやり過ごす。
僕は本気だった。
本気で、この誓いを実踐するつもりだった。
その決意を端的に言い表すなら、こうだ。
――僕は、空気になりたい。
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