《まちがいなく、僕の青春ラブコメは実況されている》第4章 僕は、強くなりたい。13
驚いて、僕が立ち盡くしていると、大鉄さんが口を開いた。
「――剛! 今日まで俺のしごきによく耐えた‼ ……よく、がんばったな」
最後の一言は、赤鬼とは思えないやさしい響きに満ちていた。
そのギャップに、僕はすでに目頭が熱くなっていた。
「こちらこそ本當に……お世話になりました」
思わず言葉にも詰まってしまった。
「おまえは気づいてなかったかもしれないが、素人ながら必死にがんばるお前の姿が、この選手たちにも刺激を與えていたんだぞ。そうだよな? おまえら!」
大鉄さんが選手たちを振り返ると、みな笑顔でうなずいた。
「ド素人のくせに……よくへこたれなかったな」
「最初は、正直、いつ逃げ出すかって思ってた……」
「でも、おまえのガッツは本だよ」
「それに來た時とは、まるで別人だしな!」
そう誰かが言うと、選手たち全がドッと笑った。
「それだけおまえが、がんばった証だ! もっと自信を持てよな、剛‼」
笑いの中、別の選手がそう告げると、
「「「おう! そうだそうだ‼」」」
他の選手たちも聲を上げた。
その聲が一段落すると、最後に小谷選手が一歩歩み出た。そして、あるものを差し出しつつ言った。
「剛! お前はこの1ヶ月、俺らと共にトレーニングし、同じ釜の飯を食った。だからもう、お前は俺たちの仲間だ。だから、これはお前へのはなむけであり、仲間の証としてのプレゼントだ!」
手渡されたのは、Tシャツだった。選手たちがトレーニングの時にいつも著ていた、あの虎のイラストの描かれた斬日本のものだった……。
今度こそ、視界が完全にボヤけた。
でも、極まるのは前に、僕には伝えるべきことがあった。
僕は、腕で暴に瞳を拭うと、背筋をばし、大鉄さん、選手のみなさんに正対した。
「――今日まで一ヶ月以上、本當にみなさん、ありがとうございました――!」
僕は腹から聲を振り絞り、深々と頭を下げた。
こんな育會系の挨拶も、いつの間にかできるようになっていた。
すると、みなさんが拍手までしてくれ、いっそう視界がボヤケた……。
道場に背を向け歩き始めてもなお、背中には選手たちの聲が聞こえた。
「剛! また遊びに來いよ――!」
「剛! 待ってるぞ――!」
「剛! 元気でな――!」
こんなにやさしい言葉をかけられたことは、人生で初めてかもしれない。
僕は、振り返らなかった。いや、振り返れなかった。
涙で顔がぐしゃぐしゃだったからだ。
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