放課後までに僕は、何人かのクラスの子に話しかけられた。

『おっと？　また子であります！　もう何人目でありましょうか？　乙幡剛に、人生最初のモテ期到來かぁ――‼』

伊達さんはおもしろがったが、僕にはこんなこと初めてだったので、常にしどろもどろになってしまい、それどころではなかった。

でも、なぜか話しかけてきた子たちはずっと好意的だった。むしろ、僕のペースに合わせてくれた。それまで、子に話しかけられるといったら、必要最低限の業務連絡ばかりで、それすらも舌打ち混じりだったり、骨に嫌な顔をされたものだった。

が、今日、話しかけてきた子たちは終始笑顔だった。まあ、話の主な容は「どうやって痩せたの？」っていうダイエット法に集約されていたんだけど……。

子に囲まれていると、同時に男子の目が気にもなったが、どういうわけか「調子にのってんな、アイツ」的な冷たい視線はじられなかった。むしろ、僕のことを一學期とはまるで別人と捉えているかのようだった。

僕の奇行による風評も、どうやら夏休みという緩衝期間を経て、だいぶ薄らいだのかもしれない。しまいには、男子の最もイケてるグループのひとりが僕の機の前にわざわざ來て「おっ、痩せて、なんかいいじになったじゃん！」なんて軽い言葉をかけてきた。

なんだろう、このじたことのない生暖かい空気……。

どこか信じられないと思う一方で、もしもこの空気が保たれるのなら、ひょっとしてめられることもないのかもなと漠然とじていた。

――だけど、今の一番の気がかりは別にあった。

當然それは、新垣さんが赤坂とつきあうことになったという朝の話だ。

迎えた、帰りのホームルーム。

僕は、自然と新垣さんの方に視線を投げていた。

なぜか彼は、そわそわして窓の外を見ている。

ん？　なにか窓の外にあるんだろうか？

そんなことを考えていると、まもなくホームルームが終わった。

と、新垣さんは擔任より先に勢いよく教室を飛び出していった。

あんなに急いで……どこへ？

僕は窓際まで歩き、さっきまで彼が眺めていた窓の外に目をやってみた。

――！

校門前に、赤坂が立っていた……。

そうか……だから新垣さんは……。

まもなく、赤坂の前に新垣さんが到著する姿が見えた。ふたりはあの夏休みの初日のようにこちらに背を向けると、並んで校門の外に歩き始めた。

気づくと、僕は爪がめり込むくらい両拳を握りしめていた。

そして次の瞬間、無意識に駆け出していた。