《継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》》功と失敗
師匠の店で魔剣を売り出して約半年が経った。
魔剣の噂は隣の國にまで広がり、客足は今も始めた當初と全く変わらなかった。
整理券制度はやめて、魔剣は予約制になった。
既に、魔剣の予約は二年先まで埋まってしまい、現在は予約をけ付けていない。
整理券をやめて、晝には沢山の人が來るようになってしまったが、エルシーさんが頑張ってくれた。
エルシーさんの仕事は完璧と言っていい程のきだった。
おで、俺が手伝わなくても毎日なんとかなってしまっている。
彼は奴隷になる前、親の店でよくお手伝いをしていたそうで接客には慣れているらしい。
本當に彼が師匠の店に來てくれて良かった。
そして、この半年での店の売り上げが半端ないことになった。
大、店を十倍に大きくしても大丈夫な程の金がった。
まあ、師匠は大事な店だから絶対に改裝はしたくないと言っていたけどね。
それと最近、フェルマーでも魔剣を売り始めたみたいだ。
噂によると、規模の大きさを利用して大量に作ったのはいいが、売れなくて困っているらしい。
師匠の店に來たお客さんが言うには、能が師匠の魔剣と比べて天と地の差があるらしい。
なんでも、火は纏うことは出來るけど、ただの見た目だけ。
切れ味は、そこら辺の剣と変わらないか、し悪い。
そんな噂が広まってしまい、その剣を持っている人は笑われ者にされてしまうほどだった。
逆に、師匠の剣を持っている人は誰からも羨ましがられ、一目置かれるそうだ。
どうやら、師匠の技は俺が思っている以上に凄かったみたいだ。
俺の提案は、師匠だから出來たのだと改めて実した。
SIDE:フェルマー商會
「會長、失禮します」
「おう、最近の売れ行きはどうだ?」
小柄ででっぷりと太った男がソファーにふんぞり返って、目の前の弱々しい細男の報告を求めた。
「は、はい。いつも通りでございます」
細の男は、ビクビクしながら上司に報告をする。
「いつも通り?」
報告を聞いた男はんでいたものと違い、思わず聞き返してしまった。
「は、はい」
細の男はビクビクしながら答えるしかなかった。
「魔剣をうちでも作ったんだろ? しかも、兄貴の店よりも安い値段で」
「は、はい。言われた通りに安くて簡単に買える魔剣を作りました」
「なら、なんで売れないんだよ!」
「そ、それは私にもわかりません……」
噓である……男は理由をわかっていた。
けど、事実を言えば目の前の男に首にされてしまうだろう。
自らの保の為に報告できなかったのだ。
「どうしてだ? あの魔剣を発明するのにお前らは半年もかかったんだぞ? その時間と金を無駄にする気か?」
「い、いえ……」
「ならさっさと原因を見つけるか、魔剣の改善案を考えろ!」
「わ、わかりました!」
慌てて外に出て行った。
「くそ……おい! 酒を持って來い!」
「くそ……魔剣の改善案なんて……そもそも、あの魔剣だって作るのが大変だったんだぞ? 原因を言うにしても……魔剣の能が悪いのが原因ですなんて言えないし……どうしよう……本當はこの店の売り上げも落ちているのに……」
會長に報告を終えた男はドアの前で頭を抱えていた。
魔剣の能が悪いせいで、今まで培ってきたフェルマーの売りである高能、高品質が疑われ始めてしまい、売れ行きがどんどん悪くなっているのだ。
「はあ、昔の會長はもっと頼り甲斐があったのにな……今じゃあ、ただの金の亡者だ……もう會長から離れた方が良さそうだな……そうだ、楽になってしまえばいいんだ」
店に住み込んでいた男はその夜、今まで貯めてきた大金を持って夜逃げした。
SIDE:レオンス
「今日もしっかり儲けたな。こんなに金があっても困ってしまうよ」
そう言いながら、師匠は金貨の枚數を數えていた。
「いいじゃないですか。お金があって困ることはありませんよ」
「レオくんの言う通りですよ。お金は大事にしてください」
「ご、ごめん。そうだな。しっかり貯金しておくよ」
やっぱり、師匠は金儲けに向いてないな。
「そういえば、フェルマー商會がうちの魔剣を真似したらしいんですけど、全く売れていないみたいですよ」
「それはそうだろ。あれを作れるのは俺くらいだ」
やっぱりそうだったんだ。
てか、自信もって言いのけてしまうのか……。
「師匠って俺が思っていた以上に凄かったんですね」
「そうだぞ。もっと敬え」
師匠はそう言って、これでもかとを張りながらドヤ顔をした。
「でも、僕がいなかったらその高い技が意味をなさなかったと思いますけどね」
「そ、それを言われると……」
急に師匠の腰が低くなった。
「冗談ですよ。凄く尊敬してます」
「そうかそうか。それは嬉しい限りだ。それにしても……あいつ……らしくないな……魔法陣を見れば、そう簡単に真似出來るものじゃないことなんてわかるはずなのに」
「弟さんですか?」
「ああ、あいつは、腕はそこそこだが目利きはずば抜けていい。だから、これを半年で真似て売ろうなんて思わないはずなんだが……腕のいい職人がいるのか? それとも、歳をとって目が悪くなったか?」
「そうなんですか……まあ、あそこまで大きな商會ですから、一つの失敗くらい問題ないと思っているのかもしれませんよ」
確かにエルシーさんの言う通り、あそこまで大きな商會だったら一つの失敗くらい気にしなそう。
「そうだな。あいつは商売が上手い。だから、何か考えての行かもしれないな」
「そうですよ。俺たちは俺たちでこの店を潰さないように頑張りましょう!」
「ああ、これからも頑張るぞ」
SIDE:フェルマー商會
「なに!? あいつがいなくなっただと!? ふざけやがって! お前らはどうしていたんだ!」
機嫌が悪く、酒を飲んでいた會長は部下に怒鳴り散らしていた。
「は、はい。探したのですが……どこにも見當たりません。ただ、この手紙が……」
報告に來ていた若い男は、そう言って一枚の紙を見せた。
「それならさっさと読み上げろ!」
「は、はい……會長殿、現在、フェルマー商會の業績は落ちています。それも、魔剣を無理やり売り出してしまった為です。私には、この狀況をどうにも出來そうにありません。ですので、責任を取る形で辭めさせて頂きます。黙って逃げる形になってしまい、申し訳ございません。これからのフェルマー商會のご発展をお祈り申し上げます」
手紙が読み終わると辺りは靜かになっていた。
「くそ……逃げやがったな。しかも、業績が落ちているだと? おい、それは本當か?」
「は、はい。しですが落ちています」
「う、噓だろ……俺がこの店を継いでから業績が落ちるなんて無かったのに……どういうことだ……お前、説明しろ!」
「は、はい。うちの魔剣の能がホラントさんの魔剣の能とかけ離れていて……そのせいで、うちの印象が……」
「噓だろ? 兄貴の魔剣はそこまで凄いのか? その魔剣を今すぐここに持って來い!」
「は、はい!」
男は急いで魔剣を取りに行った。
「こ、これです……」
魔剣を渡された會長は、黙って魔剣を眺めていた。
「うん……流石だな……これは、俺らには真似が出來ない。そうか……おい! 今すぐ魔剣を売るのをやめろ! あんな、恥ずかしくて仕方ないわ!」
「は、はい!」
「それと、魔剣に変わる凄い魔法を発明しろ! そうだな……期限はあと一カ月だ!」
「え、え? む、無理ですよ!」
「それが出來なかったら俺らはおしまいだ。それじゃあ、行きな!」
「は、はい……」
報告に來た男は、何も言えず……部屋から出て行った。
「おい! 酒を持って來い!」
男が出て行くと、會長は酒をまた飲みだした。
「はあ、俺も辭めようかな……」
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