一見すると優男風の目つきの悪い男の言葉に、思い當たる節でもあったのか、一瞬だけ優太郎のすべてのきが停止した。

けれどすぐにまったくに覚えがないと言った表に切り替えた優太郎の口からは、白々しい言葉が飛び出してくる。

「何のことだ？」

優太郎の言に、事を知らない桜が白々しくじてしまったぐらいだ。

當事者である、ダークスーツの三人の男らにしてみれば、甚だしいことこの上ないことだったに違いない。

案の定、優太郎の出方を窺っていた優男が忌々しげに顔を歪め、より低く鋭い怒聲を炸裂させる。

「しらばっくれんなッ！　堅気のクセに極道使って、散々甘い吸いやがってッ。ネタはあがってんだよッ！」

それでもまだ怒りがおさまらないようで、唾をまき散らしながら優男は優太郎の倉を引っ摑んで、今まさに毆りかからんばかりの勢いだ。

優太郎から襲われそうになったのは回避できたものの、突然の出來事に頭が追いついていかない。

眼前で繰り広げられている、任俠映畫さながらの景を前に、桜は大きな衝撃をけながらも、とても現実世界の出來事とは思えないでいた。

為すなく非現実的な景をただただ固唾を呑んで見守っていることしかできないでいる。

そんな桜のことをやけに整った顔をした長の男が一瞥したかと思えば、優男の元にゆったりとした作で歩み寄ってくる。

目つきは悪いが、落ち著いて見える腰と、顔が恐ろしく整っているせいか、どこか気品が漂っていて、知らず目が惹きつけられる。

桜が長の男の姿にほうっと見惚れていると。

「もうよせ。堅気には手を出すな。話し合えば済むことだ」

落ち著いた腰とは裏腹の、腹の底にずっしりと響くような、鋭い重低音を響かせた。

どうやらこの男は、優男と大柄の男のボス的ポジションであるらしい。

ボスらしき男の指示に従った優男が、あっさりと優太郎から手を引いたところを見計らったように、長の男が優太郎の肩にポンと手を置く。

そうして眼鋭い切れ長の雙眸で冷ややかに見據えつつ、口元に微かな冷笑を湛え、スーツの懐から一枚の名刺らしき白い紙片を取り出し、優太郎の眼前にぴらっと放った剎那。

先刻優男を制したときよりもゆったりとした口吻で重低音を響かせた。

「なあ、佐久間先生」

途端に、辺りには重苦しい張が張り詰めたような気さえしてくる。

優太郎の背後に位置する桜から見ても、長の男から放たれる威圧たるや凄まじいものだった。

ーー凄い迫力。きっと、カリスマっていう言葉は、こういう人のためにあるんだろうなぁ。

長の男の迫力に圧倒されてしまった桜は、この場にそぐわないことを思ってしまっていた。

優太郎はその場でへたり込み、し前までの白々しい態度は何だったのかと思ってしまうほどに、名刺を手にしたまま、の気の引いた蒼白い顔で呆然としてしまっている。