《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「俺の家に來ませんか」4
所の扉を背にして後ろ手で閉め切ると、晴久は塞がらない口を右手で覆った。
今まで一緒にいた雪乃とは、まるで別人。
大きな瞳に、小さな、蟲も殺さぬような清廉な彼の顔立ちは、どんな男でも好む造形で整っていた。
それだけではない。黒づくめのオーバーサイズとはまるでイメージの違うフェミニンなパジャマ。
一瞬しか見なかったがそれでもはっきりと分かるらしいつき。全のフォルムからして違っている。
目に焼き付いたそれは晴久の頭から離れず、なぜ彼が別人のように変したのか混していた。
そして、安易に雪乃を家にれたことにも不安をじ始める。
もう一度彼のところへ戻ったら、一どこを見て、なにを話せばいいものか。そもそも上手く話ができるだろうか。
晴久にとって相手が人だから話しにくいということは決してないが、地味な格好でも十分かわいらしく思っていた彼がさらに魅力的な変貌を遂げたことは、家に泊める上では計算外だったのだ。
しばらくして、晴久は風呂を出た。
雪乃はソファのそばに膝を折って座り込み、張気味に大人しく待っていた。
「あ……おかえりなさい」
晴久は振り向いた彼の顔を見て、やはりかわいらしい、しかもかなり自分好みだとじ、目を逸らした。
「ソファに座っていていいですよ。今、お茶をいれますから」
「すみません。ありがとうございます」
立ち上がってソファの端っこに座った雪乃は、またそこでお雛様のように待っている。
コップにった冷たいお茶をテーブルに出され、雪乃はさらに端に寄り、晴久が座る空間を開けた。隣り合って座ると、今まで積極的に彼を手助けしてきた晴久もこの狀況に弱り、頭をかく。
「高杉さんのお顔……初めてちゃんと見ました」
素顔の話題に先にれたのは、雪乃だった。言い出さずにはいられなかったのだ。
彼が先にそう言ってくれたことで、晴久もホッと肩の力が抜ける。彼だってこのままれずに過ごすのは無理だと思っていたところだ。
「そうですね、外では必ず眼鏡とマスクをしていますので。特段目は悪くないのですが。……あの、細川さんもですよね」
「はい、私も。外では眼鏡とマスクがないと落ち著かなくて」
「それは、言い寄られるのを防ぐために?」
ずばり聞かれ、雪乃はうつむく。
「自意識過剰だと思われてしまうかもしれませんが……こうしていれば、男の人から話しかけられることもないので」
晴久はうなずいた。
「いや、過剰ではないと思いますよ。男は細川さんのことを放っておかないでしょう。今まで聲をかけられることも多かったのでは?」
「そうなんです……。あの、高杉さんは、どうして眼鏡とマスクを?」
晴久も理由を言い淀み、首の後ろをかいた。しかし彼は正直に明かしたのだから、と決意して白狀する。
「俺も同じです。自分で言うのもなんですが、素顔でいるとに必要以上に干渉されてしまうので隠しています」
「あ、やっぱり……。高杉さんのお顔、は皆好きだと思います」
「……あ、ありがとうございます」
気恥ずかしく、ふたりして視線を逸らし妙な空気が漂う。
皆というなら、雪乃はどうなのか。晴久はそれが気になったがもちろん聞くことはできない。
遠回しに素顔を譽め合う形となるも、お互い様なのでふたりともこれ以上掘り返すことはしなかった。
話すたびに雪乃の髪からシャンプーの香りが漂ってくる。
このまま隣り合っていては神衛生上あまり良くないと思い始めた晴久は、もう寢ようと決意した。
「寢室ですが、よければベッドを使って下さい。布は新しいものを出します。シーツは週末に洗ってありますが……嫌でなければ」
晴久はリビングの戸の向こうの、八畳の寢室を指差した。
「それはありがたいですが、高杉さんはどこで眠るんですか?」
「俺はソファで」
「そんなのダメです!  私がソファで寢ます!」
想定の言い合いになった。
晴久としてはをソファで寢かせるわけにはいかず「いえ」と反論するが、雪乃にしても、ここに置いてもらってなお寢る場所まで奪うことはできない。
「細川さんは今夜はベッドでよく眠ったほうがいいですよ。々と怖い思いをしたんですから」
「でもっ……」
雪乃はさらに考えた。
そもそも、晴久と別の部屋で眠るとなれば、寢室の電気を點けなければひとりでは眠れない。人の家で電気を點けっぱなしにすることは申し訳なく、できればそうしたくなかった。
し開いた戸から寢室の様子を確認すると、ベッドは広々としたダブルサイズ。そこで彼は別の案が考えついた。
「あの、これは高杉さんが嫌じゃなければ、なんですが……」
「はい。なんでしょう」
「ベッドで一緒に寢るのはどうでしょうか?」
晴久はお茶を吹き出し、むせこんだ。
「大丈夫ですか」と雪乃は彼の背をさするが、晴久は彼を見てさすがに赤い顔をする。
「一緒にって細川さん、それはっ……」
彼の慌てぶりに雪乃も正気に戻り、ブワッと溫が上がった。
「す、すみません! ひとりで寢るのが怖くて、つい変なことを言ってしまいました!  嫌ですよね、一緒になんて。私ったらなに言ってるんだろう……恥ずかしい」
雪乃は両手を頬に當ててプルプルと首を振り、恥心から目には涙を浮かべている。
晴久はゴクリとを鳴らした。
ここまでの出來事のせいで、彼の距離は完全に麻痺していることは分かっている。その案に乗っかって彼と一緒にベッドにることへの好奇心が抑えられなくなった。
「……いいですよ。一緒に寢ますか」
晴久が試しにそうつぶやくと、今度は雪乃の方が慌て出す。
「あのっ……すみません、どうしましょう……」
彼の初心うぶな反応に、晴久はもう別々に眠る案に戻れそうになく、彼に挑発的な視線を向ける。
「俺はかまいませんよ」
ソファで距離を保ったまま、ふたりの駆け引きが行われた。
雪乃は自分で言い出したもののいざそういう雰囲気になって困りだしたのだが、紳士的な晴久のまっすぐな瞳に、疑いを持つのはやめた。
「……じゃあ、お願いします」
痺れる張が漂う中、お互い合意の上で、ふたりは寢室へとっていった。
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