《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「ここで抱かせて」2

皆子は雪乃の手を引っ張り、誰もいないフリールームへと駆け込んだ。

長テーブルと椅子がずらりと並ぶ広いスペースは使わず、彼はそそくさとり口近くのコーナーへ雪乃を追いやる。

「ハァ、ハァ」

よほど慌てていたのか息を切らし、珍しく深刻な表の皆子が心配になった。

「皆子さん、どうしたんですか?」

しながら尋ねる雪乃に、皆子は汗だくで「待ってね、今見せるから」とバッグに手をれてかき回す。ブランドのチャームがついたスマホを鷲摑みにし、數回タップした。

はその畫面を思い切り雪乃の目の前へと突きつける。

「これ!」

ピントが合うまで數秒かかるも、その畫面に映し出されているものを目にした途端、雪乃の顔は青く変わっていく。

「えっ……」

「これ、雪乃ちゃんだよね?  高杉課長と腕組んでるの」

畫面にフルサイズで出されていたのは、青いイルミネーションの中で腕を組んで見つめ合う雪乃の晴久のツーショット。

お互い以外は目にはっていない無防備なふたりの、土曜のデートのひとコマだった。

「……皆子さん、どうしてこれ……」

震える聲で尋ねた雪乃を遮り、皆子は食い気味に詰め寄る。

「雪乃ちゃん、高杉課長と付き合ってたの!?」

質問に質問を返され、ビクンと肩が揺れた。

(どうしようっ……)

全く冷靜ではない頭をフルに回転させる。主義の晴久の許可を得ず、付き合っていることを公言するわけにはいかない。

それは真っ先に思い付いたが、素顔を知っている皆子をやり過ごす方法が思い付かず、言葉を詰まらせた。

「ねえ雪乃ちゃん、どうなの!?」

しかしこれ以上、誤魔化すことはできない。そう判斷した雪乃は肩をすぼめ、マスクの中でボソボソと話しだした。

「はい、付き合ってます……」

「マジ!?  は!?  なんで!?」

「で、でも皆子さんが課長のお話をしていたときは本當に知らなかったんです。先週知り合って、すぐにお付き合いすることになったので……」

言葉にしてみると彼との関係がいかにスピーディーだったかを思い知り、自分でもどう説明していいか分からない。

「じゃあこの間言ってた好きな人って、高杉課長のことだったの!?」

「はい……すみません」

謝罪の必要はないはずだが、雪乃はひたすらこまった。

まだ理解できない、といった顔をしている皆子だが、まるで雪乃をいじめている気分になり、とりあえずそれ以上の問い詰めは保留した。

「分かった。寫真のとおり、本當に付き合ってるってことね」

皆子はため息をつき、スマホを引っ込める。なにも話してくれなかった雪乃にむくれつつ、しかしこれを話すとなれば相當な覚悟が必要だろうと心は理解できた。

「でも大変よ。この寫真、社員の間で出回ってるんだから」

「……え?」

皆子はさらに攜帯畫面をいじり、混する雪乃にもう一度、今度は別の畫面を見せた。

この寫真が皆子のもとへ回ってきたときのメッセージ畫面である。

【広報部の子から回ってきたよ!  土曜日、デート中の高杉課長を発見だって!  ていうか彼もめちゃくちゃ人!  誰なんだろ!?】

メッセージを読んだ雪乃は、再びサッとの気が引いていく。

「私は雪乃ちゃんだって分かったけど、ほかは誰も気付いてないと思う。もちろん誰にも言ってないよ。ていうか、言わない方がいい。嫉妬されて大変なことになるから」

皆子は人差し指を立ててアドバイスをしたが、當の雪乃には響いていない。

今の彼にとって、自分に対する嫉妬など問題ではなかった。

それよりも社にプライベートを知られることを極端に避けている晴久にとって、メッセージが出回っている今の狀況の方が最低最悪の事態だと言える。

晴久に迷をかけている、雪乃はそれだけで頭がいっぱいだった。

「皆子さん……これって、どこまで広まっているんですか……?」

スマホごと皆子の手を握ってすがりつく。そんな思い詰めた雪乃の様子に皆子もギョッとした。

「広報部と総務部の若手にはほとんど回ってると思う。繋がってる人が多いし」

「そんな……」

青い顔がさらに白くなり、はカタカタと震え出す。

皆子は「大丈夫だよ」とめるものの、別のところにある雪乃の不安が払拭されることはない。

「雪乃ちゃん?」

「……皆子さん。この寫真を回している人がいたら、止めておいてもらえませんか。噂になっていることを晴久さんが知ったら、お付き合いを続けられなくなるかも……」

「えっ」

皆子は雪乃が〝晴久さん〟と言ったことに度肝を抜かれると同時に、自分たちギャラリーのせいでふたりの関係が終わるほどの大事になってしまうのかと我がを振り返り反省した。

依然として顔の悪さが心配になり、崩れ落ちそうな雪乃の肩に手を置き、ポンポンとかしてめる。

「分かった、止めとく。でも大丈夫だと思うよ、誰も高杉課長に直接聞ける勇気はないから。だけので終わるんじゃないかな」

「そうでしょうか……」

「そうだって!  それより、あとでちゃんと馴れ初め聞かせてよね!」

雪乃は正直それどころではないが、明るく振る舞う皆子に合わせ、げっそりとした笑顔でうなずいた。

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