《【コミカライズ】寵紳士 ~今夜、獻的なエリート上司に迫られる~》「ここで抱かせて」6
◇◇◇◇◇◇◇◇
まだ夕方の六時過ぎだというのに、窓の外は真っ暗だった。
雪乃は定時で退社し、たどり著いた自宅に引きこもっている。
先週から晴久の家にり浸っていたせいで、荷造りのためだけに利用していた自宅は荒れていた。
とりあえずそれを片付けると、整った部屋で、まだ黒いカーディガンのままソファに橫になる。
床に置いてある荷に手を突っ込み、スマホを取り出した。
【ごめんなさい。今日は會えません】
晝の晴久のメッセージにそう返信をしたのが、午後五時のこと。
既読が付いているものの、それに対する返事は來なかった。
【ちゃんと話そう】という彼のメッセージに、じわりと涙が滲み、視界が霞んでいく。
(終わっちゃうのかな……)
スマホを抱きしめ、額をつけた。
晴久に知られずに噂が風化してほしいと思っていた。家に行き來していてはまた誰かに見られ、噂になるかもしれない。
過去のストーカー事件でトラウマがある晴久に噂になっていることが知られれば、やはり付き合いはやめよう、と切り出されるはず。
雪乃はそれが怖くてほとぼりが冷めるまでなんとか彼と距離を置き、なにもなかったことにできないかと悪戦苦闘していたのである。
しかしもう知られてしまった。
こうなった以上は晴久と會って意向を聞くべきなのに、別れを切り出されるかと思うと怖くてそれもできない。
晴久から逃げたままこの部屋に帰るしかなかった。
晴久と會わなくなってまだ二日だというのに、ひとりの部屋はひどく寂しく、怖かった。
雪乃はソファの背にかけてあったブランケットにくるまってみるが、それは晴久に抱きしめられる安心には程遠い。
「……晴久さん……」
彼との別れが近いと思うと、涙が止まらなくなった。
電車で停電をしたときのような過呼吸がかすかに甦ってくる。
『大丈夫』
こんなときいつも助けてくれる彼の聲が、頭の中で響いている。
雪乃は、毎晩抱きしめてくれる晴久の腕を思い出し、ギュッと自分のを閉じ込めた。優しくれてくれた晴久の手を忘れることができない。
今まで會った男とは違う、出會ってからずっと誠実でいてくれた彼とのを終わりにしたくなかった。
そのとき。ピロン、という小さな音とともに、メッセージが更新された。
スマホをブランケットの中に引っ張り込み、畫面を確認する。
【雪乃】
二文字のみのメッセージだが、それは雪乃の脳に、晴久の甘い聲で再生される。
(晴久さんっ)
すぐにじわりと瞳が滲み、がバクバクと跳ね出した。いくら雪乃が避けようと、晴久は止まってはくれないのだ。
別れを切り出される。そう覚悟をしていたものの、それが直前まで迫ろうとしているときが取れなくなった。
すぐにメッセージの続きが來た。
【驚かせたくないから今回も先に言うよ。今、雪乃のアパートの前に來てる。話がしたい】
雪乃はブランケットから飛び出して起き上がった。
カーテンは閉まっているが窓を見た後、そちらではなくこっちかと玄関に視線を向けるが、気配はじない。
そもそもエントランスには鍵が掛かっている。
実際は、晴久は雪乃を怯えさせないために、まだアパートのエントランスから十メートルほど離れた場所にいた。電気が點いているため雪乃が部屋にいることは分かっており、既読が付いたことも確認済みである。 
しかし気長に、昨日と同じく立ったままメッセージの返信が來るのを待っていた。
雪乃はカーテンの隙間からそんな晴久の様子を見て、もうこれ以上逃げられないと悟った。
昨日のように立ち話で終わらせても、もう解決しない。
【202號室を呼び出してもらえますか。今開けます】
そう返信をし、既読が付くと、理解した晴久はすぐにエントランスの盤面で作をし、解錠された。
雪乃も、部屋から外へ出て、彼が階段を上がってくるのを待った。
ほんじつのむだぶん
mixi・pixivで無駄文ライターを自稱している私が、 日頃mixiで公開している日記(無駄文と呼んでいます)を 小説家になろうでも掲載してみようと思い実行に移しました。 これは1日1本を目安に続けていこうと思います。 ご笑納くだされば幸いです。
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